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砂糖とスポーツ

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最終更新日:2012年12月10日

砂糖とスポーツ

2012年12月

大阪体育大学大学院 スポーツ科学研究科 運動栄養学 教授 岡村 浩嗣
 


【要約】

 運動時に主要なエネルギー源として使われる砂糖などの糖質の摂取には、運動前の筋肉グリコーゲンの蓄積、運動中の血糖維持、運動後の筋肉グリコーゲン回復といった効果がある。また、体タンパク合成も促進し、体づくりにも効果的である。

はじめに

 スポーツの健康増進効果には適切な栄養補給が欠かせない。この栄養補給の鍵になる成分が糖質である。本稿では、スポーツの健康増進に糖質がどのように関わっているのかを述べる。

スポーツの前の食事の基本は糖質を摂ること

 運動時には糖質と脂肪がエネルギー源として使われる。トレーニングを毎日おこなうと、筋肉に蓄えられている糖質のグリコーゲンは図1のように変化する。

 1日目のトレーニングでグリコーゲンは半分に減少する。その後、糖質の多い食事をすると翌日の練習前にはグリコーゲンは回復する。これに対して、糖質の少ない食事をした場合はグリコーゲンはほとんど回復しない。3日目のトレーニング前までの回復も同様である。糖質の少ない食事をした場合には、3日目のトレーニング前のグリコーゲンは1日目のトレーニング後よりも少なく、このグループのほとんどの人は3日目のトレーニングを終わりまでおこなうことが出来なかった。
 
 
 図2は、運動前の筋肉グリコーゲンが多かった時ほど、疲労困憊(ひろうこんぱい)するまでの時間が長かったことを示している。筋肉グリコーゲンは糖質の多い食事をした時に多く、タンパクと脂肪の多い食事、すなわち糖質の少ない食事をした時に少ない。

 これらの研究結果は、運動前には糖質を十分に摂って筋肉のグリコーゲンを増やしておくことが大切なことを示している。

 マラソン選手はグリコーゲンローディングという糖質を多く摂る食事法によって、レース前にグリコーゲン貯蔵量を増やす。
 
 

運動中は糖質を補給してエネルギーが不足しないようにする

 グリコーゲンとともにエネルギー源として大切なものに血中ブドウ糖(血糖)がある。通常、脳は血糖を唯一のエネルギー源としている。このため、血糖が低下すると運動出来なくなってしまう。図3のように糖質飲料を飲みながら運動すると血糖が維持されるのに対して、糖質を含まない飲料(偽薬)を飲みながら運動すると血糖が低下して早く疲労困憊する。

 スポーツドリンクは甘すぎて、水のほうが飲みやすいといわれることがある、しかし、砂糖を含む飲料と水を運動中に好きなだけ飲んでもらうと、図4のように砂糖飲料のほうをたくさん飲む。

 また、スポーツドリンクは薄めたほうがよいといわれることがある。しかし、スポーツドリンクに5〜6%の糖質が含まれているのは、運動中に血糖が低下しないように必要な糖質を補給できるようにするためである。図5のように、運動中に糖濃度の低い溶液を飲用したラットでは血糖が低下する。

 図6は、サッカーの試合を再現した実験結果を示している。実験中に繰り返し15mを全力で走った時のタイムは、6.4%の糖質を含んだ飲料を飲みながら運動した時の2.50±0.13秒が、糖質を含まない飲料(偽薬)を飲んだ時の2.53±0.13秒よりも、統計学的に有意に速かった。このように運動中に糖質を補給することは運動能力を維持するのに役立つ。

 スポーツドリンクに5〜6%の糖質が含まれているのには意味があり、薄めて飲んだほうが良いというわけではない。
 
 
 
 
 
 
 
 

スポーツの後には糖質でグリコーゲンを回復

 運動後は消費したグリコーゲンを回復する必要がある。グリコーゲンの合成はインスリンによって促進される。このため、糖質の中でも砂糖のようにインスリン分泌を強く刺激するものが望ましい。また、筋肉のインスリンに対する感受性が高まっている運動後早目に摂ると、グリコーゲンは回復しやすい。

砂糖は体づくりも促進

 糖質は体タンパク合成も促進する。タンパク質は窒素を含んでいるので、表の窒素の摂取量・吸収量はそれぞれ、タンパク質の摂取量・吸収量を示し、窒素貯留量は合成された体タンパク量、窒素利用効率は摂取したタンパク質の体タンパク合成への利用効率を示す。表から分かるように、タンパク質と砂糖をいっしょに摂ると、タンパク質だけ摂った時やタンパク質と脂肪をいっしょに摂った時よりも、体タンパク合成の効率が高い。

 砂糖が体タンパク合成を促進するのは、砂糖がインスリン分泌を刺激するためと考えられる。前述したように運動後は筋肉のインスリンに対する感受性が高まっているので、体づくりにも運動後早目に糖質とタンパク質を摂ることが望ましいといえる。
 
 

おわりに

 体を動かして疲れると甘いものが欲しくなる。運動で消費した糖質を回復しようとしているのだといえよう。また、体づくりというとタンパク質に意識が集中しがちだが、糖質には体づくりを促進する効果もある。スポーツをする時の糖質補給には生理的な意味がある。
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