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サトウキビを用いた学習のすすめ−小学校の実践から−

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最終更新日:2013年5月10日

サトウキビを用いた学習のすすめ−小学校の実践から−

2013年5月

愛知教育大学 非常勤講師 岡田 正三


【要約】

 筆者は、平成8年度以降、自らも実践しつつ、サトウキビを教材としている愛知県内はじめ沖縄県、鹿児島県、徳島県内の各小学校の取り組みを参観し、教材性の研究を行ってきた。それらを踏まえ、南西諸島だけでなく、九州、四国、本州南部などにおいても、サトウキビを用いた学習は十分可能で指導効果の高い学習教材であることを提示する。

はじめに

 筆者は、授業で児童が勉強したくなるような教材の一つとしてサトウキビを紹介している。

 見せただけで、「これは何だろう」、「竹みたい」などの反応を示し、それがサトウキビと分かると、「本当に甘い?」、「食べてみたい」、「砂糖ができる?」などと様々な疑問や問題意識をもつようになる。古くは、デュ―イが実験学校(1896−1904)で、サトウキビの搾汁液を煮て結晶過程を見せた(1)(2)というが、砂糖のできる瞬間は子どもに限らず大人でも感動する場面である。

 サトウキビといえば南西諸島(沖縄県、鹿児島県)をイメージするが、和三盆で知られる香川県や徳島県の他、熊本県、福岡県、宮崎県、高知県、静岡県などでもサトウキビ栽培と砂糖づくりが行われている。また、最近では千葉県でも栽培され、砂糖づくりが行われている。そもそも、昭和30年代までは本州の太平洋沿岸部、四国、九州で栽培されていた。筆者の在住する愛知県東南部では、昭和20年代には集落単位でサトウキビの栽培と砂糖づくりが行われていた。農村で幼少期を過ごした70歳以上の世代は砂糖づくりを見た人もおり、60歳以上はおやつ代わりにサトウキビを食べた経験をもつ人もあり、高齢者にはサトウキビを懐かしく感ずる人が少なくない。

 しかし、現在では幼少期にこのような経験をもつ現職の教師は少なく、社会科で「あたたかい地方のくらし」の学習時に教科書等に掲載されているサトウキビの写真、あるいはテレビで紹介される映像などで、サトウキビは南西諸島の作物と思われがちである。筆者は、サトウキビに深く興味を持ち、その教材としての有効性を探るために、平成8年度以降、愛知県はじめ沖縄県、鹿児島県、徳島県において教材としている各小学校の取り組みを参観してきた。これらを踏まえ、南西諸島だけでなく、九州、四国、本州南部においてもサトウキビを教材とした学習が十分可能であることを紹介する。

1 サトウキビを教材にした実践例

 沖縄県、鹿児島県内でも実践されているが、ここでは愛知県内の小学校の実践を紹介する。

(1)大雨河小学校

 大雨河小学校3、4年生の総合学習は、自分たちの手でつくったケーキを低学年の後輩にあげようというもので、小麦を製粉し、学校で飼育している鶏の卵を使い、砂糖はサトウキビを植えてつくる構想の実践であった。

 担任の山口敏恵教諭は、1)子どもが願い求めているものを教材化し、総合学習として単元構想する、2)諸感覚を使った体験的活動を単元構想の中に位置づける、3)いろいろな人から教えていただく場を設定し、人とのかかわりを大切にした授業を創る、 4)問題解決的な学習過程を設定し、個性的な追求ができる時間と場を保障する、に留意し、子どもたちの「手づくりケーキをつくりたい」、「材料もすべて自分たちで手づくりにしたい」という願いを生かし、サトウキビ、イチゴの栽培、小麦から小麦粉にするまでの麦刈り、はざかけ、脱穀、製粉という一連の活動、サトウキビから黒砂糖をつくる体験的な活動が学習の大きな柱になると考えて、図1に示す単元構想を実践している(3)。

 実践では、唐箕(とうみ)(注)にかける活動などで地域の方に教えていただいたり、サトウキビの搾り方を工夫したり、砂糖のつくり方を教えていただいたりするなど、多くの体験や人とのかかわりを通して、息の長い追究を実践してきた。筆者は、単元の授業のうち3時間しか授業観察をしていないが、学習は着実で子どもたちは問題意識をもって活動に臨んでいた。この学級にして、この担任にしてこのような成果のある実践が可能になったともいえる。単元構想上は112時間となり、「そんな時間をかけてとんでもない」という声も聞こえそうであるが、関連づけの最大時間であり、見直しをして一部を課外にするなどにより、単元の構想をコンパクトにすることは可能である。

(注)唐箕は、収穫した穀物を脱穀した後、籾殻や藁屑を風によって選別する農具。
 
(2)小坂井西小学校

 小坂井西小学校では、 筆者が着任した平成15年度以降、 例年4年生がサトウキビ栽培に取り組んできた。取り組みの初めから全ての構想が構築されていたわけではないが、教師自身が教材研究を深めていく中で、同校区で昭和30年代までは栽培されていたこと、砂糖はもとより、燃料、紙、肥料、薬品、エタノールなどに活用でき、サトウキビの有用性を理解することによって、教材として取り上げ得る多様な価値を認識し、それを生かしたいと考えるようになった。年度、担当教師(学級)によって多少の違いがみられるが、 環境学習として社会科や理科と多くの体験活動を関連づけた総合的な学習として、多くの価値ある体験活動を含む構成は概ね同じである。

 中河伸弥教諭(学級)の単元「サトウキビをさぐろう」(4)では、サトウキビの栽培、観察、調べ学習、砂糖(いわゆる黒砂糖)づくりや紙づくりなどの体験活動を通し、自分を取り巻く環境を大切にしていこうとする子どもたちの意識を高めることをねらいとしていた。二酸化炭素(CO2)の吸収率が高く、循環型作物であるサトウキビを使って「環境」について意識させるだけでなく、収穫後にサトウキビのすべてを使い切る活動を実体験することを通して、「捨てるところがない」ことを理解させ、物を大切にする気持ちや「もったいない」と思う気持ちを育てている。

 苗を植えた後、収穫するまでのおよそ半年間は、観察日記を書いたり調べ学習をしたりする。子どもたちは毎日のように「水やり」をしながら、定期的に葉の枚数や茎の高さ(仮茎長)、茎の太さなどの成長の様子を丹念に観察し、スケッチを交えて記録する。観察日記は、その都度、テーマを決め、調べたことや分かったこと、やってみたいことのほか、その日一番の発見や次回調べたいことなどを記録していく。調べ学習は、文献やインターネットを使う、生産者や『サトウキビの絵本』(杉本 明編)などの著者に尋ねるなどして、どのような品種があるか、どのような国で栽培されているかに加え、砂糖だけでなく、バイオ燃料などに使用されていることを調べる。それらを全員が各自のファイルにとじて学習成果の発表に備える。

 10月になれば、サトウキビは子どもたちの背丈をしのぐ草丈3.5m(仮茎長2m)ほどになる。サトウキビの圧搾汁を煮詰めて黒糖づくりにチャレンジする。また、葉を使った草木染め、バガス(搾りカス)を使った紙すきや炭焼きにも取り組み、サトウキビのすべてを使い切る。

 4年生の取り組みが3年も続くと、特に9月から11月にかけて、草丈3m以上に生長したサトウキビを全校児童が毎日目にするだけに、5、6年生は「自分たちも世話をし、砂糖や紙などをつくったぞ」と思い返したり4年生にアドバイスしたりする。また、3年生以下の下級生は「ぼくたちも4年生になったら、やらせてくれますよね」と言うようになる。地域の人も、学校に来た折に「昔はつくったもんだ」とひとしきり話題にする。継続した学習活動になってくると、校庭にサトウキビがある風景が特段気にならないほどに定着し、全教室の南窓から視界に入るだけに、有って当たり前の雰囲気になる。

 子どもにとっては、4年生になればサトウキビのひみつを学習する機会があると楽しみにしている様子で、愛知県内の学校ながら身近な存在となっていて、ひとつの文化になっていると言える。

 なお、愛知県内では岡崎、豊川などの5校で実践されている。豊田市立豊松小学校では、磯谷敦子教諭が平成23年度に1年生(生活科)で実践し、学習だけでなく、三世代交流としても成果を上げている。

 対象学年によって指導のねらいは異なるが、観察しやすい教室近くに自分たちで苗を新植し、栽培・管理、観察を継続し、収穫後にサトウキビの味見をする、つまり諸感覚を使った価値ある体験的活動や表現活動を含む学習内容は共通している。
 

2 サトウキビのもつ教材性

 筆者が調査してきた各小学校の取り組みから、 サトウキビのもつ教材性として次が考えられる。

(1)一般的な学習からみたサトウキビの教材性

・サトウキビは砂糖の原料であり、それだけで子どもには関心の高い植物である

・(愛知県の場合)4月末に植えて半年間で、仮茎長1.8〜2m、草丈3〜3.6mに生長する。8月〜9月は、1カ月に50cm以上伸びるので、生長の様子を観察しやすい

・社会科「あたたかい地方のくらし」の学習や沖縄の基幹産業としてのサトウキビにふれる体験的活動となる。また、「むかしのくらし」として自給自足の体験活動となる

・算数として、観察、記録等のまとめ、図表、統計処理

・理科の植物の学習。管理、観察の仕方などの学習

・図画工作における画材、紙漉きの原料、草木染めの原料

・総合的学習のいわゆる栽培、砂糖づくり、菓子づくり、 炭づくりの原料として

・かつては庶民の大切な甘味食品として九州、四国、中国、近畿、東海地方の他、東京都、千葉県などでも栽培されていたという歴史を実感する

・サトウキビの栽培地、黒糖生産地においては、 地域理解、地域との交流などの意義がある

(2)環境学習からみたサトウキビの教材性

 人が生きていくうえで、日々の糧となる農業の大切さ、また、農業が住みやすい生活環境をつくりだす機能をもっていることを理解させることを基盤に、 環境学習からみたサトウキビの教材性として次が考えられる。

・栽培活動は「環境」を学習するうえで役立つ

・サトウキビがC4植物で空気中のCO2を多く吸収する植物である

・サトウキビは循環型作物として全てを有効活用することが可能である

・砂糖の他、紙、肥料、炭など多くのものに活用できることの実体験を通して、『もったいない』意識の高揚を図る

・CO2の排出を抑制することにより地球温暖化防止ができることを理解する(きっかけとする)

 この他、取り上げ方次第で、栽培、観察、体験活動を通して多くの能力を身につけることができる。サトウキビを教材にすることは一般の学校でも充分に可能であり、教育効果は大きい。

3 提言−サトウキビを教材にして「もったいない」意識の高揚を図る−

 地域における自然体験活動とともに栽培活動はぜひとも体験させたい活動である。嶋野道弘は「実行のある生活科教育の実現に向かって」(5)の中で、「栽培とは、自ら植物に積極的にかかわることであり、植物との良好な付き合いを継続することである。自分とのかかわりを深めながら植物を育てることは、植物の生長を楽しむとともに、自分自身の生活を心地よい緊張感のあるものにする。興味・関心が高まり、観察力が鋭敏になり、植物の生長や生命のあることなどに気付く。」と述べているが、強く共感する。

 サトウキビを教材とする取り組みは、総合的な学習の時間の目標を構成する5要素(6)を含むもので、横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して、

(1)自ら課題を見つけ、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成すること

(2)学び方やものの考え方を身に付けること

(3)問題の解決や探究活動に主体的、創造的、協同的に取り組む態度を育てること

(4)活動全体を通して、自己の生き方を考えることができるようにすること

が可能である。

 無論、サトウキビでなければ環境学習ができないというわけでもない。しかし、指導者が教材をよく研究し、適切な支援をしていけば、多くの子どもに意義のある学習をさせることができる。また、その過程で、サトウキビは一切捨てるところがないという実体験を通して、子どもたちの「もったいない」意識を高揚させることができ、自己の生き方を考える機会を得ることになる。なお、循環型作物にふれることは、サトウキビでなくても、5年生の稲作でも経験できるが、生長が速い、砂糖のできる瞬間が感動的である、多くのものに活用できるなど、サトウキビは他の植物にない特徴をもっている。何よりも子どもが強い興味を示す点で卓抜している。これらを踏まえ、小学校で実践可能で、指導効果の高い学習教材として推奨したい。
 
参考文献

(1)中野真志「デューイ実験学校(1896−1904年)におけるワークと遊び」愛知教育大学研究報告、2001
(2)高浦勝義『デューイの実験学校カリキュラムの研究』 黎明書房、 2009
(3)石川英志・大雨河小学校 『学ぶ喜びが生まれる総合学習』 農村漁村文化協会、1999 
(4)小坂井西小学校『平成18年度研究紀要』2007
(5)嶋野道弘 愛知教育大学集中講座資料2011.1.22
(6)文部科学省『小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編』2008
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