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近年におけるてん菜低糖分の要因と対策

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最終更新日:2013年8月9日

近年におけるてん菜低糖分の要因と対策

2013年8月

北海道農政部生産振興局農産振興課畑作グループ

【要約】

 てん菜は、平成22年から24年まで3年連続で低糖分が続いている。いずれの年も夏から秋に著しい高温であったため、根中糖分が大きく低下した。特に22年は、病害虫の発生が著しかったため、根重も平年を大きく下回り、糖量が著しく低下した。

 今後、糖分向上とともにてん菜の安定生産を図るためには、一つ一つの基本技術の積み重ねとともに、病害対策、土壌管理対策、施肥管理対策、各種病害の抵抗性品種の利用など、総合的な対策が必要である。

1.はじめに

 てん菜は、輪作体系を維持する上で、北海道畑作農業における重要な基幹的作物であるばかりでなく、製糖工場や原料てん菜の運搬業者などの事業活動を通じ、道内地域経済を支える重要な役割を担っている。しかしながら、てん菜については、一戸当たりの面積の拡大や高齢化などによる労働力不足、更には近年の天候不順による収量減少や低糖分などを背景に、その作付面積は減少傾向にある。

 特に平成24年産は、糖分取引が開始された昭和61年以降で最低の糖分となり、今後の作付けへの影響が懸念されている。このため、北海道では、平成25年1月、(地独)北海道立総合研究機構北見農業試験場研究部長監修の下、近年のてん菜の低糖分の「要因の分析」と「必要とされる技術対策」を取りまとめたパンフレット『近年におけるてん菜低糖分の要因と対策』(写真)を製作し、道内のてん菜生産者や関係機関・団体などに配布した。
 

2.近年における低糖分の要因

 てん菜は、平成22年〜24年まで3年連続で低糖分が続いている。全道平均の根中糖分は22年が15.3パーセントで、糖分取引制度に移行した昭和61年以降2番目に低く、23年が16.1パーセントで5番目に低く、24年は15.2パーセントと最低となった(図1)。また、根重は22年が平年比87パーセントと3番目に軽くなったが、23年は平年比104パーセント、24年は平年比112パーセントと平年より重くなった。
 
 この3カ年の気象状況と病害虫の発生状況をみてみる。

 22年は、6月中旬〜9月中旬まで著しく高温となり、降水量は、7月〜8月に多めに経過した。このため、褐斑病および根腐れ症状の被害面積が拡大し、褐斑病の初発期も早かったため(表1)、根重と根中糖分の著しい減少の一因となった。また、夏期の著しい高温のためヨトウガの発生が多くなったことも影響した。

 23年は、7月〜9月に高温となり、降水量は、9月を除き平年並であったが、7月中旬と8月中旬に短期間のまとまった降雨があった。このため、褐斑病および根腐れ症状が多めに発生したが、最終的な被害面積は22年より大幅に減少した。

 24年は、8月下旬から著しい高温となり、10月上旬まで影響が残った。降水量は、5月と10月を除き平年並であったが、8月上旬に短期間のまとまった降雨があった。夏期の気温および降水量が平年並だったため、根腐れ症状の発生は前2年より減少し、被害面積も前年より減少した。夏場はほとんど発生していなかった褐斑病は、8月下旬以降の著しい高温でまん延し、最終的な被害面積は23年並となったが、初発期が前2年よりかなり遅かったため、根中糖分低下に及ぼす影響は前2年より小さかったと推測される。

 また、この3年間は高温傾向であったため、西部萎黄病や葉腐病の発生もみられ、これらも、ある程度、糖分低下などに影響を及ぼしたと推測される。
 
 根中糖分は、夏から秋の最低気温が高いほど、低くなる傾向がある(図2)。22年から24年は、この間の最低気温が高く推移したことが、低糖分の大きな原因と考えられている。特に22年と24年は、積算最低気温が糖分取引制度移行後で最も高い水準にあり、根中糖分の大幅な低下につながったと推測される。

 また、根重は、春から初夏にかけての最高気温が高いほど、重くなる傾向がある(図3)。23年と24年は、ほぼこの傾向に沿っており、根重がやや重いのは、秋の高温などによるものと推測される。22年はこの傾向から外れて著しく根重が軽くなっているが、これは褐斑病や根腐れ症状の多発が原因と推測される。

 なお、全道平均でみた場合、降水量と根中糖分との関係は判然としないが、一般的には多雨により、湿害による葉の黄化や立ち枯れ、さらに褐斑病・黒根病などの病害が発生し、低収・低糖分となる危険性が高まる。22年〜24年はいずれも生育期間の積算降水量が平年を上回っており、また、22年は高温に加えて7月〜8月の降水量が多く、褐斑病や根腐れ症状などの病害虫の多発や湿害につながった。

 また、粘質土壌が主体の透水性が劣る地帯については、秋の降水量が多いほど、根中糖分が低くなる傾向がある(図4)。23年は9月に平年の2倍を上回る降水があり、透水性が劣る圃場では根中糖分への影響が推測される。

 今後、糖分向上とともにてん菜の安定生産を図るためには、褐斑病や黒根病、西部萎黄病などの病害対策、土壌管理対策、施肥管理対策、各種病害の抵抗性品種の利用など、総合的な対策が必要である。
 

3.病害対策

 褐斑病の被害は、根重より根中糖分に対する影響が大きく、病斑が散見される程度の発病では糖分は若干低下するが、成葉が枯死し新葉が再生するような激しい発病の場合には、糖分低下が著しくなる(図5)。

 褐斑病の防除は、その開始時期を失しないことと、薬剤の残効に応じて防除間隔を空けずに薬剤散布を行うことがポイントであり(図6)、ジフェノコナゾール乳剤やテトラコナゾール乳剤などのステロール生合成阻害(DMI)剤は、感受性低下菌が確認されているため連用を避ける必要がある。また、抵抗性品種(やや強以上)では、感受性品種に比べて褐斑病の初発が遅くなり、糖量の低下程度も小さくなるが、これも適期防除を基本としている。
 
 黒根病の被害は根重への影響が大きいが、発病指数3以上(内部腐敗を生じる)では、根中糖分も明らかに低下する。黒根病は排水不良畑で多発しやすいので(図7)、圃場の透排水性を改善することが基本技術であり、「かちまる」「リボルタ」「きたさやか」「クリスター」「ラテール」「北海101号」の黒根病抵抗性品種の導入により被害を軽減できる(図8)。また、多発しやすい圃場では、殺菌剤の育苗ポットかん注処理の防除効果が認められる(図9)。
 
 西部萎黄病は、アブラムシ(主としてモモアカアブラムシ)によって媒介されるウイルス病で、本病が発生すると根重・根中糖分が低下し、多発した場合には、健全株に対して糖量が約30パーセント減少する。病徴は感染から約20日で現れ、感染時期が早いほど被害が大きくなる。移植栽培では、移植直前の殺虫剤育苗ポットかん注が有効で防除の基本になり、茎葉散布による追加防除により発病が抑えられた事例がある(表2、図10)。
 

4.土壌管理対策

 てん菜は湿害に弱い作物であり、糖分向上には排水対策(表3)をしっかり行う必要がある。基盤整備による明渠や暗渠などは高い効果が見込まれ、また、生産者が営農の中で実施できる下層の透排水性改善や表土の管理も重要である。
 

5.施肥管理対策

 適正な施肥管理は糖分向上の基本である。土壌診断値と有機物投入量が分かれば、「北海道施肥ガイド」(図11)を活用することによって適正施肥量が分かるため、これらを活用した適切な施肥設計を行うことができる。適正施肥はコスト削減にも有効である。
 

6.北海道優良品種の紹介

 てん菜品種の潜在的な生産量(糖量)は、品種改良によって糖分を維持しつつ根重をあげていくことで、この20年間で約15パーセント向上した。しかし、近年、夏場の著しい高温による病害の多発などで、十分に能力が発揮されない年もあるので、品種は糖業者などと相談の上、地域にあったものを計画的に導入することが重要である。
 

7.安定多収(高糖分・高収量)栽培に向けて

 安定多収栽培に向けて、栽培管理では、春の圃場乾燥と地温上昇を図るための融雪促進、生育の良好な苗の適期移植、除草剤の適正な使用、圃場観察と適切な防除、そして土壌病害虫の発生を抑え、健全で持続可能なてん菜栽培を行うために欠かせない適正な輪作体系の維持・確立に努めることがポイントとなる。

 また、土づくりと施肥管理では、圃場の排水性の改善はもちろん、中耕やサブソイラの施行により湿害防止に万全を期するとともに、堆きゅう肥の投入や麦稈・緑肥鋤込みなどによる土づくりの励行、圃場pHの適正保持、土壌診断による適正施肥が大切である。更に、適切な品種の選択は、糖分や収量の向上につながるため、圃場の排水性や病害の発生履歴から、高糖分型品種、耐病性品種など適切な品種を選択することも重要である。

 このような一つ一つの基本技術を積み重ねていくことが、高糖分・高収量栽培に向けて何より大切である。

参考
「近年におけるてん菜低糖分の要因と対策」のPDF版は北海道のホームページに掲載 http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/nsk/grp/teitoubun.pdf
「北海道施肥ガイド」は(地独)北海道立総合研究機構中央農業試験場のホームページに掲載 http://www.agri.hro.or.jp/chuo/fukyu/sehiguide2010_index.html
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713