砂糖 砂糖分野の各種業務の情報、情報誌「砂糖類情報」の記事、統計資料など

ホーム > 砂糖 > 調査報告 > さとうきび > サトウキビ生産をめぐるリスク−南大東島を中心に−

サトウキビ生産をめぐるリスク−南大東島を中心に−

印刷ページ

最終更新日:2014年2月10日

サトウキビ生産をめぐるリスク−南大東島を中心に−

2014年2月

東京大学大学院農学生命科学研究科 教授 中嶋 康博
博士課程 今井 麻子

【要約】

 ここ数年、干ばつや台風襲来のためにサトウキビ作で深刻な不作が続いている。サトウキビ生産においてどのようなリスクがあるのか、南大東島の事例を中心に、ほ場データも利用しながら、単収や糖度などの変動状況を取りまとめた。これら単収や糖度の低下によって農家収入や製糖メーカーの操業度などがどの程度悪化するかも確認した。干ばつによるリスクへの対策にかん水は有効であるが、水源の不足などで十分な対策をとれない場合がある。総合的な取り組みが求められている。

はじめに

 平成25年夏、南西諸島は厳しい降雨不足に見舞われた。写真1は25年8月に筆者が南大東島で撮影したものである。写真の奥の方では、雨が少ないためにサトウキビが枯れかかっている状況が見られる。その手前はかん水をしているほ場のサトウキビで、通常の生育状況であることが分かる。さらにその手前にあるのが、マリンタンクと呼ばれる貯水プールで、そこからかん水している。
 
 写真2は、トラックに積んだタンクから貯水プールに注水している様子である。この貯水プールの場合、水の補給はこのような手段でしかできない。給水場から何度もトラックで水を運ばなければならず、干ばつが厳しい時は朝から深夜まで、給水場とほ場をトラックで往復することもある。
 
 写真3は、トラックのタンクに注水している様子である。島には何カ所もこのような給水場が設置されている。この給水場では、島の中心にある池からポンプで水をくみ上げている。雨が少ないとこの池の水の塩分濃度が高くなりすぎるので、濃度が一定の基準を超えると取水制限がかかることがある。

 平成24年には大型の台風が襲来し、潮風害が発生して、収量に深刻な影響を与えた。平成23年にも干ばつと台風被害があり、3年連続の不作となることが懸念される。沖縄、鹿児島の離島におけるサトウキビ生産は、さまざまなリスクに脅かされている。本稿ではその影響の程度を南大東島の事例をもとに紹介することとする。
 

1.単収

 図1は、昭和50/51(1975/1976)年期以降の南大東島における平均単収の推移である。年によって相当の変動があり、約40年間で最大8.6トン(昭和50/51年期)、最小2.5トン(平成17/18年期)となっている。

 本稿では、最も単収の低かった平成17/18年期、近年で最も単収の高かった平成20/21年期、そして最新の数値となる平成24/25年期のデータを観察対象として比較することにする。
 
 単収の変化は降雨不足が主因であるが、それ以外にも台風による潮風害、病虫害などにも影響を受ける。また降雨不足であってもかん水が可能ならば、水不足をある程度回避することができる。したがってほ場別に観察すると、収量はさまざまである。

 図2は、ほ場別単収の分布を観察対象3カ年(平成17/18年期、平成20/21年期、平成24/25年期。以下同じ)について確認したものである。大東糖業株式会社へのサトウキビの搬入成果をもとに作成している。

 成績の良かった平成20/21年期は、平均値が10アール当たり7.7トン、中央値が同7.5トンと、いずれも高い数値となっている。単収の裾野が広かったことが分かる。一方、成績の悪かった平成17/18年期は、やや偏った分布型となっている。平成24/25年期の分布は、比較する他2年の中間に位置している。
 
 単収はその時の環境によって大きく変動している。図3は、平成20/21年期と平成24/25年期のそれぞれの単収を、ほ場ごとに確認して散布図として図示したものである。比較してみると、平成20/21年期に単収の高かった(低かった)ほ場が、平成24/25年期で高く(低く)なる訳ではないことが観察された。その変動の様子はランダムであることが分かる。
 
 単収の地理的分布を図4で確認しよう。いわゆる幕内と言われるエリア内[海岸線から少し内側で島を一周する防風林(図4では白い筋で表されている)の内側]において、3カ所ほど両年ともに単収が高めになっている地区があるのだが、それはごく限られている。平成24/25年期は、特に度重なる台風の襲来による潮害によって、単収は低くなった。幕上(防風林の外の海岸沿いの)エリアは、単収の低いほ場が虫食い状に観察される。
 

2.気象条件

 このように気象条件などの影響は、島内の環境の違いに大きく左右される訳だが、異なった島の比較をすると、同じ年であっても収量にさらに大きな差のあることが明らかになる。

 図5は、球陽製糖と翔南製糖(沖縄本島)、大東糖業(南大東島)、沖縄製糖と宮古製糖城辺工場(宮古島)、宮古製糖伊良部工場(伊良部島)、石垣島製糖(石垣島)の集荷エリアの単収を、観察対象3カ年について比較したものである。確かに平成20/21年期はどこも単収が高かったが、平成17/18年期および平成24/25年期との関係は、地域によって異なる。平成17/18年期の単収が著しく低いのは南大東島だけなのである。沖縄本島では、かえって平成24/25年期の方が大きく単収を下げている。
 
 島の間でこのような差をもたらす要因の一つは、降水量や台風の影響の違いであろう。南西諸島は東西700キロメートル以上に広がっている。降水量を大きく左右する台風はすべての島に雨をもたらす訳ではない。図6は、昭和25年以降の年平均降雨量の変化を、沖縄本島(那覇)、石垣島、宮古島、南大東島について確認したものである。石垣島と宮古島は比較的同期していて、那覇の数値も同じ動きをしている年も観察される。南大東島はこの中で明らかに独自の動きをしているのである。
 
 南大東島と石垣島に注目して気象条件の違いを確認しよう。図7は、平成11年以降の台風接近回数である。大東諸島と八重山列島では台風の異なったルートとなる。平成17年は石垣島に5個も台風が接近したが、南大東島は1つも接近していない。これが水不足の一つの要因である。一方で平成24年は南大東島には8個の台風が接近したが、石垣島は4個にとどまっている。
 
 図8は、昭和25年〜平成24年のデータを利用して、月別の平均降水量(ヒゲグラフは標準誤差)を両島について比べたものである。図から明らかなように、年間を通して南大東島は降水量が少ない。特に8月、9月は極端な差のあることが分かる。
 
 図9は、平成25年以降の南大東島の降水量について、5月から11月(サトウキビ生育期に相当)および12月から翌年4月(サトウキビ収穫期に相当)の2期間で集計して、推移を確認している。年間に降る雨の多くは、5月から11月に記録されている。そしてその数値は通年のパターンと同様に大きく変動している。ただし、年によっては収穫期である12月から翌年4月に多く降雨する場合もある。その時期に雨が降っても、かえって収穫の妨げになる。
 

3.糖度

 気象条件などの変動は、単収だけではなく、糖度にも影響する。単収が低い時は糖度も低くなることがあるが、そうでない場合もある。図10は、南大東島でほ場別の糖度の分布を観察対象3カ年について確認したものである。興味深いことに、豊作である平成20/21年期と不作であった平成24/25年期との糖度分布はほとんど重なっている。一方、大不作であった平成17/18年期は、単収の場合と同様に糖度の分布も低位側に大きくシフトしている。
 
 平成20/21年期と24/25年期の分布が同じだと言っても、ほ場ごとの糖度は両年で違っている。図11は両年の糖度を散布図に表している。45度線を対称に点が円状に分布していて、決して相関している訳ではないことが分かる。
 
 糖度の高低は、農家にとってサトウキビの買い取り価格を左右する。品質取引制度により、買い取り価格が決まるからである。農家の収入は、糖度(買い取り価格)と単収によって大きく異なることになる。そこで年によってどのくらいの違いが現れるのか、面積当たり収入をほ場ごとに計算して、上記と同じく分布を調べたのが、図12である。観察対象3カ年について検討するが、条件を揃えるため、買い取り価格の計算では、交付金単価については、平成22年産の1万6320円/トン(基準糖度帯は13.1度〜14.3度)を統一的に利用した。

 同図に示されているように、単収の差が大きく影響して、収入の分布は左から平成17/18年期、24/25年期、20/21年期となり、20/21年期の分布の裾野はやや広めになっていた。このように農家は、収入変動のリスクに直面することになる。
 

4.製糖メーカーへの影響

 生産現場での単収や糖度の変動は、製糖メーカーにとって、砂糖製造量の変動リスクを引き起こすことになる。単収と糖度を掛け合わせた単位産糖量は一つの生産指標であるが、収穫物を集荷するほ場別に単位産糖量の分布を図13に示した。製糖メーカーは、ほ場をベースに収穫計画を立てることになるが、その対象の状況はこのように年によって大きく異なるのである。
 
 収量の変動は、製糖メーカーの工場の操業度と生産コストを左右することになる。図14は、球陽製糖と翔南製糖(沖縄本島)、大東糖業(南大東島)、沖縄製糖と宮古製糖城辺工場(宮古島)、宮古製糖伊良部工場(伊良部島)、石垣島製糖(石垣島)について、平成11/12年期から24/25年期での、それぞれの操業日数と原料搬入量との関係を示したものである。

 同図から明らかなように、原料搬入量が多いからといって、比例的に操業日数が増える訳ではない。その関係を左右するのは、まず原料搬入量と正味量との差となるトラッシュの比率である。図には示さないが、不作の年はトラッシュ率が高く、ほ場別にみると、そのバラツキは大きくなる傾向がある。

 それよりも大きな影響となるのは、収穫期の降雨状態である。雨が降った場合、特にハーベスターによる機械収穫では、作業を中止しなければならず、そのために搬入が遅れて、製糖作業が延びることになる。

 同図で工場ごとに引いた線は、原料搬入量を操業日数で割った時の比率が最も大きくなる点を通るものであり、それは最も効率的な状態での操業比率となっている。その線から実際の操業点が大きく離れているケースは、効率的な収穫物の搬入が行えなかったことを意味する。沖縄本島の2工場は線の傾きが大きく処理能力が高いのだけれども、点と線とが比較的乖離してしまっている。石垣島も比較的乖離度が高く、南大東島も乖離の大きい年がある。両島の処理能力は比較的低い上、このような非効率となるリスクを抱えている。
 

おわりに

 リスクの原因となる単収や糖度の変動を、最小限に抑える手段がかん水である。しかしはじめに述べたように厳しい雨不足の時は水源不足で効果が限定的なこともある。またかん水施設(貯水プール)を持たないほ場も多いのだが、すべてのほ場が貯水プールを持とうとすると、水源が足りなくなる恐れがある。かん水可能量を把握しながら施設の増強を図り、また既存施設の利用の調整をしなければならないだろう。総合的な取り組みが求められている。

【謝辞】
 大東糖業(株)、南大東村役場、JAおきなわ南大東支店には、ほ場別データの提供および現地調査において、多大なる協力をいただいた。記して謝意を表したい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713