最近のアイスクリーム産業の動向
最終更新日:2014年7月10日
最近のアイスクリーム産業の動向
2014年7月
一般社団法人日本アイスクリーム協会
前専務理事 和氣 孝
今や、アイスクリームは成長産業である。10年前なら誰も言えなかったことが、今は業界だけでなく、周囲からも当たり前のように聞かれる。1994年に4300億円近い売り上げを達成したにもかかわらず、その10年後、2003年には3322億円と、“どん底”を見た(図1)。その業界が、その後の10年で1000億円以上を上乗せし、2013年は史上最高の売り上げを達成することを誰が想像したであろうか。
少子化、人口減少、デフレ経済といった厳しい環境下でもその成長を止めることなく躍進し、2014年は新しいステージを迎えることになる。成長著しいアイスクリーム産業、その商品の魅力と今後の業界動向について、述べてみたい。
アイスクリームのおいしさ
甘く、冷たくて、そして芳醇なミルクの風味やチョコレートの香りなど、これらが口の中でとろけ、いっぱいに広がる。中でもアイスクリームのおいしさのポイントは滑らかな口どけととろける口当たりだろうか。その中で重要な役割を果たしているのが乳成分と砂糖、そして空気である。
乳成分はアイスクリームのコクのある風味や滑らかな組織をつくる。凍っているのに柔らかく、滑らかな口当たりは中に含まれる空気によるもので、混ぜられた空気の泡や脂肪の粒子が冷たさを伝えにくくし、独特のソフトな口当たりを作っている。
アイスクリームと砂糖の関係
砂糖の役割の一つは、アイスクリームに甘さを付与すること。一般にすっきりした甘さを求めるには、グラニュー糖が使われ、濃厚な甘さを求めるには黒糖などが使われる場合もある。また、砂糖はバニラなどの香りを増強する役割も知られている。もう一つの役割は、適度な柔らかさ、食感の滑らかさを付与し、口どけを良くすることであり、これは砂糖の持つ重要な機能による。
砂糖は水に溶けて凍結点を下げる性質を持つ。この性質により、アイスクリーム中の水分は完全に凍っているわけではなく、未凍結の部分が存在する。そのため、低温でも柔らかく、また、口に含むと温度が上がり、微細な氷が溶け、滑らかな口どけが生まれる。
アイスクリーム市場の変遷
低迷の時代
アイスクリーム市場は1994年以降、10年にわたる低迷を経験した。
当時の業界は急伸する量販店市場に対応するため、安売りするのは当たり前、3割〜4割引き、半額セールがまかり通る非常に乱れた業界であった。 その結果、商品にひずみが生まれ、“安かろう、悪かろう”の果てにアイスクリームから消費者が離れていった。
一方、ケーキやゼリーなどのチルドデザートの成長も消費者のアイスクリーム離れに大きく影響した。
平成に入ると、コンビニエンスストアは一般小売店に変わる新しい小売業として大きな成長を遂げるが、同時にそれまでの物流体制も大きく変えてしまう。日配物流である。毎日商品が店頭に届くようになり、商品形態もどんどん進化し、商品数も増えていった。消費者はアイスクリームからチルドデザートに目を奪われるようになり、アイスクリームは大きく後退することになる。
復活の転機
業界に大きな転機が訪れたのは2008年である。売り上げは2003年に底を打ち、順調に回復を果たしてきた矢先に、米国のサブプライムショックの影響による原材料高騰が市場を覆った。メーカー各社はここで勇気ある決断を行う。主力の100円商品などの価格を20%程度引き上げたのだ。
業界の心配とは裏腹に、2008年の売り上げは3845億円と、前年から約150億円の増加となり、結果的に価格改定は成功であった。では、なぜこの時点での価格改定が成功したのか、それは、一つ一つの商品に「高い品質」と「食べてみたい魅力」があったということではないか。どん底から這い上がるために、利益の出ない商品を縮小し、コストを主力商品に投入、売れればさらに品質をアップさせた。このようなプラスのスパイラルの中で、製品の品質は最高点に達していたに違いない。その結果、2年後、2010年には大台の4000億円を達成し、その後、震災のあった2011年でさえ市場はマイナスすることはなく、アイスクリームは成長産業の道を走ることになる。
アイスクリーム業界の今後
2020年のアイスクリーム市場は、どのような変化を遂げているだろうか。
人口推計によると、2013年10月時点での65歳以上の人口は3189万人であり、前年より110万人増加している。いわゆる「団塊の世代」の高齢化である。この層の特徴は、戦後の新しいライフスタイルの先鞭をつけてきたということで、それまでの高齢者層とは違う価値観を持った新しい高齢者、「アクティブシニア」とも表現される。そうしたシニア層は消費の構造も大きく変えてきている。すでに指摘されているように、個食型の冷凍食品がコンビニエンスストアで売れ筋となっているのもこの層の購買が大きいからだ。
アイスクリーム業界にもすでに変化の兆しは見えている。売れ筋には「モナカ」や「あずき」、また小容量化した商品の詰め合わせなど、シニア層が好む形態やフレーバーが増加し、高くても質の良いものであれば売れるという新しい消費形態も生まれつつある。
これらの層は、“子供の時から食べていた”ということで、アイスクリームに対して非常に肯定的であり、今でも気楽にアイスクリームを楽しんでいるのではないか。人口減少、少子・高齢化が進行する中で、4000億円の市場規模を4年連続で維持しているのも、これらの新しい消費層が生まれていなければ難しいことである。
近年、10代、20代のアイスクリーム消費が減っているのでは、と懸念される調査もある。シニア層をもっと重視した新しい商品作り、売り場作りが必要であるが、単にシニア層向け、若者向けといった商品を開発するのではなく、アイスクリームがもっと自由に食べられる雰囲気や環境、そして食文化を作ることが重要なのかもしれない。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713