さとうきびの魅力を伝えるために〜雑誌「さとうきび」を通じて〜
最終更新日:2014年8月11日
さとうきびの魅力を伝えるために〜雑誌「さとうきび」を通じて〜
2014年8月
1. 雑誌「さとうきび」とは
2012年12月、子供から大人まで、研究者、生産者、企業人、消費者、学生へさとうきびの魅力を伝える人文自然科学総合雑誌として、雑誌「さとうきび」は創刊した。さとうきび情報はもとより、さとうきびのように伸びやかな文藝作品までジャンルを問わない。最新号では、巻頭言は作家・写真家の島尾伸三さんのエッセイ「うぎがっぱい」、特集では「旅するさとうきび」と題して、さとうきびも旅をしたイスラーム・ネットワークについて取り上げた。黍(きび)文藝コーナーでは、左官の挾土(はさど)秀平さんの詩「師からの手紙」、漫画家のしまおまほさんのエッセイ「号外さとうきび」などを掲載している。この他、さとうきび料理、奄美黒糖焼酎、さとうきび染め、ラム酒の話題などさとうきびの種々の情報を掲載している。
そもそも雑誌創刊の発端は、「さとうきび利用加工研究会」だった。この研究会は、さとうきび由来製品の開発者や成分研究者を中心に語り合う会だが、研究者だけでなく、ただ単に「きび好き」な人も参加できる。そして参加者の誰もがさとうきびの魅力に取り憑かれている。われわれはこうした人を敬愛の念を込めて「きび仲間」と呼ぶ。その「きび仲間」で創ったのが雑誌「さとうきび」だ。
2. さとうきびの魅力
「きび仲間」たちがなぜこれほどにさとうきびに魅了されるのか。それは食と深く関わりながら、経済、環境、健康にも有用な植物だからではないだろうか。さとうきびは長い歴史の中で、その搾り汁が砂糖、酒、酢、調味料となって食生活や文化と深く関わっている。
経済面は言うまでもないが、環境面では条件の悪い土地でも育ち、搾りかすや葉を還して土地を豊かにする。さらには二酸化炭素を効率良く吸収し、それを利用しやすいエネルギーへと変える。
そして、さとうきびの学名「サッカラム オフィシナルム」が「薬になるさとうきび」という意味である通り、健康にも寄与してきた。古くから中国医学、インド医学、そしてイスラームのユナニ医学でも薬であった。例えば、中薬大辞典には、さとうきびの搾り汁、黒糖、砂糖、搾りかすのバガス、皮、節から出る芽「蔗(しょ)鶏(けい)」までもが薬であったと記載されている。インドではさとうきびジュースが黄疸や感染症に良いと言われる。
このようなことから、「きび仲間」は魅了され、これを利用し、伝えたいと思うのであろう。
3. 日本のさとうきび産業の厳しさ
しかし、一方で、日本のさとうきび産業は厳しい状況にある。さとうきび畑の広さも製糖工場の規模も世界と比べると非常に小規模であり、面積当たりの収量も株出回数も世界と比べると低い。さらには海外のさとうきび生産国と比べると人件費が高く、さとうきびと砂糖の値段はどうしても高価になる。さらには台風被害や干ばつも多く、さとうきびの栽培には厳しい環境である
(杉本明;砂糖類・でん粉情報2013年9月号)。その一方で、さとうきびが生産される沖縄・鹿児島の離島経済は国防的な意義を持っている。そのために台風被害に遭っても、また立ち上がって糖を作り、なんとか経済を支えてくれるさとうきび産業が基幹産業として必要だ。他の作物では代えられない。そうなると、限られた土地でこのさとうきび産業を発展させていくしかない。面積当たりの収量を高めるか、さとうきび自体の価値を高めるしかないのである。
4. さとうきびの価値を伝える
単位収量の向上や成分の高度利用でさとうきびの価値を高めることは重要であり、優秀な専門家や企業が取り組んでいる。しかし、一方で既知のさとうきびの魅力を伝え、さとうきび由来の高付加価値商品の普及活動も必要だ。雑誌「さとうきび」の役割はここにあると考えている。
既存の主な高付加価値商品には、黒糖、きび酢、ラム酒、黒糖焼酎、さとうきびジュースなどがある。その他には、まだ一部にしか見られないが、さとうきび染めやさとうきび釉薬(ゆうやく)(陶磁器の表面を覆うガラス質の薄い膜)などがあり、さとうきびの葉やバガス灰といった未利用資源を活用できる可能性を持っている。
黒糖の主な工場は、平成22年には沖縄に7工場(現在8工場)、鹿児島県南西諸島に57工場ある(消費者庁食品表示課;黒糖等の流通状況、平成22年7月)。製法も千差万別で、さとうきびの品種にも拘る作り手もあり個性豊かだ。1キログラム当たり1000円以上で取引される黒糖もある。
きび酢は種子島、奄美地方、沖縄本島で作られており、独特の風味と味をまとめる力がある。750ミリリットルのボトルが2000円以上で販売されている。
日本のラム酒の蔵元は7カ所ほどある。原料は糖蜜、搾り汁、黒糖、粗糖などいろいろで価格もまちまちだが、海外のラムフェスタで受賞したラム酒は、700ミリリットルのボトルが4000円以上で販売されている。
黒糖焼酎は芋焼酎や麦焼酎と比べるとはるかに消費量は少ないが、原料である黒糖使用量は1200トンという(松岡ら;日本地理学会発表要旨集63, 195, 2003)。沖縄産黒糖が多いが、値段の高い奄美産黒糖を使う蔵元もあり、自家製黒糖を使う蔵元もある。
こうした製品は砂糖原料と比べると付加価値が高いと思われ、より広く普及することでさとうきび産業に寄与できるのではないだろうか。
そして、さとうきびジュースは、中国では漢の時代から宿酔(しゅくすい)(二日酔い)の薬(林巳奈夫;漢代の飮食、1975)で、インドでも黄疸の薬(U.S.Kadam; Food Chemistry 106,2008,1154−1160)として使われてきた。さとうきび抽出物に肝障害抑制効果(永井幸枝;月刊フードケミカル2000年9月号)があるという報告もある。この効果が一般に認知されれば、ジュースの価値は高まる。1キログラムのさとうきびから500ミリリットルのジュースが取れるとして、1杯100ミリリットルを100円で販売したら、さとうきび1トン当たり50万円の価値を生む。
もし、このようなさとうきびの良さが伝わったら、多くの人が夜は黒糖をつまみながら、ラム酒や黒糖焼酎を楽しみ、朝にはさとうきびジュースをぐいっと飲んで仕事に向かう光景が見られるのではないか、と妄想を描いている。そんな世界があれば、さとうきびの価値は上がっていくに違いない。
5. 雑誌「さとうきび」の目指す姿
そんな妄想が現実化するには、とてつもなく高いハードルがある。今ある魅力を伝えることも必要だが、より魅力ある製品に高めることも欠かせない。
例えば、黒糖、黒糖焼酎、ラム酒、ジュースに適した品種を使って、より旨く消費者に長く支持される製品の開発が期待される。
そのためには、幅広い分野の研究者、生産者、販売者などがそれぞれのアイデアを出し合う場が必要であろう。そのためには、まずはできるだけ広い領域の人が、さとうきびを自分と関係あることとして関心を持って欲しい。だからこそ、雑誌「さとうきび」では、一見さとうきびと関係の無いような記事も扱っている。さとうきびとその情報交換の場やきっかけのひとつがこの雑誌であったらと思う。
とはいえ、雑誌編集部は単なる「きび好き」でもある。さとうきびの立ち姿やさとうきびのある風景を眺めているだけで楽しいのである。そんな「きび仲間」の作る雑誌だからこそ、その魅力を伝えられるではないかと思う。
日本のさとうきび産業は厳しい。しかし、まだやれることはたくさんあるのではないだろうか。国家を守っているさとうきび産業が、より豊かで永続的な形に進展していくために雑誌「さとうきび」がほんの一助となれば幸いである。
雑誌「さとうきび」
年2回発行(12月・6月)
sugarcane.magazine@gmail.com
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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