沖縄県におけるバガスの食品利用に向けた取り組み
最終更新日:2014年9月10日
沖縄県におけるバガスの食品利用に向けた取り組み
2014年9月
那覇事務所(現 調査情報部) 中島 祥雄
調査情報部 坂西 裕介
【要約】
沖縄県では、食物繊維を豊富に含むバガス(さとうきび搾汁後の残渣)を原料とした機能性食品素材「醗酵バガッセ」が開発され、同素材を原料とした「さとうきびごはんの素」の普及が進むなど、これまで困難であったバガスの食品利用に新たな動きが見られる。
はじめに
バガスは、さとうきびを圧搾した際に発生する繊維質の搾りかすである。沖縄県では、年間19万トン(注)のバガスが発生しており、発生量の89%が製糖工場のボイラー燃料として利用されており、その他は、堆肥や飼料原料として生産者などに提供されている。バガスは食物繊維を豊富に含んでいるが、繊維構造が強固であることや食感が悪いことなどから、食品としての利用はほとんどされていないのが実情である。
このような中、県内の民間企業が、バガスの付加価値の向上を目指し、研究機関と共同でバガスを原料とした機能性食物繊維「醗酵バガッセ」を開発した。さらに、現在、沖縄県では、炭化処理したバガスの食品利用に向けて、民間企業と琉球大学により共同研究も進められているところであり、産学官が一体となった取り組みが行われている。
本稿では、醗酵バガッセを原料とした「さとうきびごはんの素」を中心に、沖縄県におけるバガスの食品利用に向けた取り組みを紹介する。
(注)平成24/25年期さとうきび及び甘しゃ糖生産実績(沖縄県農林水産部)から抜粋
1. 機能性食物繊維「醗酵バガッセ」の開発
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所と独立行政法人森林総合研究所は、バガスを原料とした機能性食物繊維を製造する技術を開発した。この技術は、バガスを爆砕処理することにより強固な繊維構造を破壊した後、発酵処理を経てキシロオリゴ糖を効率よく生成・蓄積させることにより、オリゴ糖を豊富に含む食物繊維を製造するものである。
株式会社琉球バイオリソースは、平成16年1月から翌年12月にかけて独立行政法人科学技術振興機構から委託を受けて、この技術の企業化開発を進め、1カ月当たり2トンの製造が可能な量産体制を確立し、特許を取得した。製造工程は、図1に示すように原料の洗浄、乾燥、粗粉砕、爆砕、発酵、乾燥、微粉砕、品質検査からなる。
同社はその後、商品化に向けた安全性試験と、腸内環境改善効果や抗酸化活性などの機能性試験を行った。安全性試験では、「急性毒性試験」「亜急性毒性試験」「変異原性試験」を、ラットを対象に実施した。
このうち、急性毒性試験では、雌雄30匹のラットに単回投与を行い、14日間の経過観察を行った結果、全てに異常が見られなかった。また、亜急性毒性試験では、雌雄60匹のラットによる90日間の連続投与を行った結果、血液検査、生化学検査、臓器重量、病理所見において異常は認められなかった。さらに、変異原性試験においても、突然変異誘発能を有さないと判断され、食品としての安全性が確認された。
腸内改善効果については、ヒトを対象に試験を実施し、便中の腸内細菌およびアンモニア量を測定した結果、摂取量として1日当たり10グラムが有効でビフィズス菌数が増加することが確認された。抗酸化活性については、熱水抽出物および80%エタノール抽出物について、抗酸化活性指標であるポリフェノール量が、生のバガスに比べて約7倍増加していることが確認された。
また、医療機関が行った63名のボランティア試験の結果報告では、副作用と考えられるものはなく、便秘や便の性状改善のほか、血糖値と中性脂肪の低下が見られた。
こうしたさまざまな試験を経て、バガスを原料とした機能性食物繊維「醗酵バガッセ」が誕生した。
2. 醗酵バガッセを利用した商品化の取り組み
醗酵バガッセの量産化を受けて、複数の企業から醗酵バガッセを使ったクッキーや、顆粒タイプのサプリメントなどの製品が販売された。これらの製品は、健康雑誌でダイエット効果や血糖値を下げる効果が紹介されるなど、注目を集めた。
一方、株式会社沖縄ウコン堂(以下「ウコン堂」という)は、「サプリメントや健康食品では摂取することを忘れてしまいがちで長く続かない。食事の一部として摂取する方法がないか」と考え、醗酵バガッセを米と混ぜて炊き込むタイプの「さとうきびごはん」を考案した。さとうきびごはんとして摂取する場合、サプリメントに比べて摂取量が減ってしまうことから、醗酵バガッセの機能性が十分に発揮されない恐れがあったが、一定の機能性を維持できることが分かったため、さとうきびごはんにより醗酵バガッセの普及を図ることを決めた。
まず、さとうきびごはんの知名度を高めるために、平成19年から那覇市内の飲食店1店舗でさとうきびごはんの提供を開始した。モチモチした食感や味が好評であったことから、家庭向けに「さとうきびごはんの素」の製造を開始し、同店での店頭販売を開始した。
3. さとうきびごはんの素の本格的な普及の開始
(1)補助事業の活用
ウコン堂では、前述のとおりさとうきびごはんの素の販売を始めたが、販路が限られていたことなどもあり、なかなか普及が進まなかった。
そこで、平成25年度の沖縄県の補助事業「健康食品産業元気復活支援事業」を活用し、本格的にさとうきびごはんの素の普及を開始することとした。
(2)「すこやかせんい堂」の立ち上げ
平成25年、ウコン堂は、さとうきびごはんの素の販売などを行うための任意組織「すこやかせんい堂」を立ち上げた。すこやかせんい堂は、さとうきびごはんの提供を行う飲食店などにより構成され、さとうきびごはんの素の製造を行うウコン堂が運営する。
また、ウコン堂では、すこやかせんい堂のホームページを立ち上げ、さとうきびごはんの素の効用やレシピなどを紹介したり、さとうきびごはんの素のパッケージデザインを一新するなどして、すこやかせんい堂ブランドとして、本格的な普及を開始した。
(3)飲食店を活用した普及
ウコン堂では、さとうきびごはんの素の本格的な普及を開始するに当たって、検討を行った結果、観光地である沖縄県の条件を生かし、観光客をターゲットに普及を図ることとした。その手法は、観光客に人気の高い県内のカフェやレストランなどの飲食店において、さとうきびごはんの素を使った食事を提供し、さとうきびごはんの知名度を高めようとするものである。これは、「良さを知ってもらえなければ使ってもらえない。まずは食べてほしい」との考えによるものである。平成25年度は、那覇市内やうるま市内などにあるカフェやレストラン10店舗において、さとうきびごはんの提供を開始した。
飲食店の選定に当たっては、来店者にさとうきびごはんの効用などについて説明することを条件にしている。これらの店舗では、店員がさとうきびごはんの効用などを来店者に説明した上で、サンプルを配布しており、店員がセールスマンの役目を果たしていると言える。来店者に対面で説明することにより、その良さを知ってもらうとともに、自宅でサンプルを使用してもらうことで、さとうきびごはんの効用を実感してもらい、通信販売により購入してもらおうという狙いである。ウコン堂では、飲食店の店員に対して、さとうきびごはんの素の機能性などを知ってもらうために研修会を開催しており、人材の育成にも積極的に取り組んでいる。また、「さとうきびごはん勧め隊」と称した支援体制を整備しており、飲食店から要請があれば、ウコン堂から各飲食店に説明者を派遣している。
サンプルの配布は本年1月から開始し、4月までの間に10店舗で5000セットを配布した。サンプルの利用者からの注文数は徐々に増えており、リピーターもいるという。観光客が最も多い夏季を迎えるのは今年の夏が初めてであり、繁忙期に店員がどれだけ来店者にさとうきびごはんを説明する時間を確保できるのか、という課題はあるものの、多くの観光客にさとうきびごはんを広く普及するチャンスでもあり、今後の売り上げ増加が期待される。
(4)通信販売の仕組み
現在、さとうきびごはんの素の主な販路は通信販売であるが、その仕組みが特徴的であるので紹介する。
通信販売の注文は、ウコン堂としてではなく、各飲食店として受け付けており、購入者は実際にさとうきびごはんを食べた飲食店から購入する仕組みをとっている(図4)。具体的な仕組みを説明すると次のとおりである。
ウコン堂は、飲食店ごとに通信販売の受注用の電話番号を振り分けており、各飲食店は、自店に振り分けられた電話番号を記載した通信販売の案内をサンプルと一緒に配布する。来店者がさとうきびごはんの素を購入しようとする場合、この電話番号に注文することとなる。ウコン堂は、注文を受けた電話番号ごとに対応するため、来店者は、さとうきびごはんを実際に食べた飲食店を通じて購入することとなる。この仕組みは、来店者と飲食店のつながりを大切にしたいとの考えによるもので、観光地ならではの発想であると言える。
また、ウコン堂において飲食店ごとの注文数を把握することが可能となる。受注状況は飲食店にフィードバックしており、飲食店側もさらなる販売増加に向けて取り組んでいる。
(5)今後の展開
ウコン堂によると、さとうきびごはんの素の普及は、今後も飲食店を活用して行っていくという。さとうきびごはんを提供する飲食店数をさらに増やし、平成26年度中には20店舗にする計画であり、新たに首都圏での展開を検討している。ウコン堂では、今後もさとうきびごはんを提供する飲食店を増やしていく意向を持っており、将来的には、全国に100店舗まで増やすことを目標としている。この手法により、さとうきびごはんの素の知名度を高め、いずれは雑穀米や五穀米のように、スーパーなどの量販店での販売も目指していきたいとのことである。
また、今年度中には、東京の百貨店などに展開する専門店において、販売を開始する予定もあるという。
4. 炭化処理バガスの食品利用
ウコン堂は、さとうきびごはんの素の他にも、バガスの食品利用を模索している。同社は、琉球大学が行っていたバガスの炭化処理技術を食品に利用することにより、体内の脂質などを吸着する効果が期待できると考えた。
このため、同社は琉球大学と共同で、「ライフスタイルイノベーション創出推進事業」を利用し、バガス炭化技術による新たな食物繊維「バガス炭」の開発に乗り出し、安全性を確認するに至った。現在は、炭化装置メーカーを含め製造プラントの開発を行っており、量産体制の確立段階にある。
同社は本年3月、東京で開催された食品素材の見本市にバガス炭を出展したところ、食品製造メーカーなどのバイヤーから引き合いがあるなど反響が大きかったという。同社では、現在、バガス炭を含んだ機能性おやつの開発を進めている。機能性おやつとは、通常の食事では不足しがちな栄養素を「おやつ」から摂取しようというものである。同社では「ちんすこう」にバガス炭を混ぜて販売することを考えており、県内製菓メーカーと試作を重ねているところである。バガス炭入りの真っ黒のちんすこうが那覇空港などのお土産店で販売される日も近いかもしれない。
おわりに
バガスは製糖工場のボイラー燃料としてその大半が使用されていることから、今後、食品利用を大幅に増やすことは原料確保の面で難しいかもしれない。しかし、今までほとんどなかった食品利用が増え、バガスが食品として定着すれば、バガスの価値、ひいてはさとうきびの価値が高まるのではないだろうか。ウコン堂の今後の取り組みに注目していきたい。
最後にお忙しい中、取材にご協力いただいた株式会社沖縄ウコン堂の皆さまに感謝申し上げます。
参考文献
「バガス(サトウキビかす)を利用した多機能性食物繊維の製品化に成功」(2014/6/10 アクセス)
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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