甘味資源作物の生産性向上に向けた研究動向
最終更新日:2014年12月10日
甘味資源作物の生産性向上に向けた研究動向
2014年12月
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター
研究支援センター 業務第1科長 寺内 方克
はじめに
国内の甘味資源作物は、近年の天候不良などによって、収量と品質の低下が続き、生産が低迷している。一方で貿易の自由化交渉も進展しており、生産力の強化とコスト削減による生産性の向上が求められている。
てん菜では、夏季の高温多雨に起因する病害発生で品質低下が著しく、また、規模拡大の中で、てん菜の作業負担が経営の制限要因となりつつあり、その栽培面積が縮小している。
さとうきびでは、高齢化、機械化の遅れ、粗放化などによって生産量が大きく低下し、近年は未曽有の不作が続き、さとうきび産業の存続すら危惧される状況となっている。
本稿では、厳しい情勢の中、状況の打開に向けて行われている研究開発と、今後必要となる研究の方向を紹介する。
1. 甘味資源作物の生産動向
わが国の分みつ糖生産は、甘しゃ糖生産量が停滞する中、てん菜糖の増加によって1990年ごろまで増加してきた(
図1)。この間、てん菜では、紙筒移植栽培を基軸とする単収の飛躍的向上(
図2)、品種改良による根中糖分の向上と、これに伴う製糖歩留まりの上昇が起こった(
図3)。品種と栽培技術の両面での改善によって生産性が大きく向上し、これを背景とした生産意欲の増進を反映して栽培面積の拡大が起こった(
図4)。その後、支援対象数量や作付指標面積の設定により、栽培面積は一定程度にとどまってきたが、2008年以降は、てん菜糖の生産量が減少傾向に転じた。
北海道では、高齢化を背景に農家戸数が減少、一戸当たりの経営面積が拡大したが、個々の経営の中で多大な労力を必要とするてん菜移植栽培の拡大が困難になってきている。このため、てん菜の栽培面積は縮小傾向にある。また、近年の高温多雨の傾向によって褐斑病、黒根病、そう根病、根腐病がまん延しやすい状況となってきている。帯広を例に1985年から2014年までの30年間と、約百年前の1900年からの30年間の観測データを比べると、最近30年間の7〜8月2カ月間の平均気温は0.8℃高く、降水量は8.3mm、率にして3.6%多い(図5)。このため、新たな優良品種の生産能力は着実に向上しているにもかかわらず、単収はおおむね横ばい、製糖歩留まりが低下傾向となっている。
これに対し、さとうきびでは、沖縄県を中心に栽培面積が減少してきており(
図4)、品種の能力は改善されているが、単収は横ばいからやや低下傾向(
図2)、品質も横ばいが続いている(
図3)。高齢化などによって農家数は減少、一戸当たりの栽培面積は拡大してきており、労働力不足を背景に、ケーンハーベスタの急速な普及など、機械化が急速に進んでおり、ハーベスタ収穫によるロスおよびトラッシュの混入、踏圧や栽培の粗放化は単収の低下および糖度停滞の要因にもなっている。大きな減収要因である台風については、沖縄地方への接近数だけをみると、台風被害が顕著に増加しているとは考え難い(図6)。一方、干ばつについては、例えば、7月の那覇の月間降水量が減少傾向にあり、また、平均気温が上昇傾向にあることを踏まえると、干ばつは厳しくなる傾向にあると考えられる(図7)。しかし、他方で地下ダムなどの整備が急速に進んでおり、かんがい設備が整った中での減収は、栽培管理に問題があると考えざるを得ない。既存技術の活用への生産者の理解促進と、栽培技術を再構築することにより品種の能力を発揮させることが必要とされている。
2. てん菜における研究開発の動向
(1)品種開発
わが国のてん菜栽培地帯は、欧米と比べて降雨が多く、病害の発生しやすい環境にある。その対策として、輪作と薬剤防除が実施されているが、薬剤防除は生産コストの増大につながり、度重なる防除作業は生産者の大きな負担となっている。さらには、降雨によってほ場がぬかるみ、長期間ほ場作業ができない事例が多発している。その結果、防除の適期を逸してしまい、病害がまん延して収量の激減や品質の大幅低下を招き、経営の安定性に大きな影響を及ぼしている(写真1)。病害抵抗性に優れた品種を利用することで、病害の発生や被害拡大のリスクを低減することが必要とされている。
そこで、北海道農業研究センターでは、世界に先駆けて黒根病抵抗性品種「北海90号」を開発し、さらに、褐斑病、黒根病、そう根病の三病害に対して抵抗性を併せ持つ「北海みつぼし」(2011年)を育成した。三病害抵抗性品種として、地下水位が高く、病害の発生しやすいほ場などにおいて、有望な品種として期待されている。しかし、てん菜の栽培環境は、ますます悪化する懸念もあることから、収量性に優れ、より高度でさらに多くの病害抵抗性を有する品種の開発が求められている。
てん菜の品種開発に当たっては、病害抵抗性を付与するためにマーカー選抜という手法を駆使して育種が行われている。マーカーとは、有用あるいは有害な遺伝子の有無を調べることのできる標識のことで、マーカーを使うことで、品種開発途上にある雑多な集団から、簡便かつ客観的に目的とする特性を持った個体を選抜することができる。DNAの特定の塩基配列などを利用したものはDNAマーカーと呼ばれ、植物体の小片があれば解析できる。従来の病害抵抗性育種では、栽培中の雑多な集団に病気を感染させて抵抗性個体を選抜してきたが、多大な労力を要する上、栽培環境の影響を受けて結果が不安定となり、また、時に選抜した個体が何らかの原因で枯死してしまうことがあるなど、コストと安定性の両面で効率が悪かった。しかし、DNAマーカーを利用すると、省力かつ個体にダメージを与えることなく選抜可能で、有用な個体・系統の選抜が格段に進めやすくなる。北海道大学や地方独立行政法人北海道立総合研究機構との研究協力のもと、てん菜育種の基礎となる細胞質雄性不稔や稔性回復遺伝子に関するDNAマーカー、病害抵抗性育種の柱である黒根病抵抗性を識別するDNAマーカーなどが開発されている。
育種の基盤となるのは病害抵抗性などを有する育種素材で、わが国には、北海道の風土に合致した有用素材が長年蓄積されてきており、その活用が世界に先駆ける抵抗性品種の開発に結び付いている。しかし、一方では、限られた素材に依存する品種開発はいずれ停滞を余儀なくされる。広く育種素材を求める必要があることから、海外との積極的な研究協力を通じて育種基盤の拡充が図られており、新たな病害抵抗性素材として注目される米国農務省(USDA)開発の材料を導入することなどが課題となっている。
現在、これらマーカー技術と育種素材を活用することで、より高度に病害抵抗性を示す母本や、主要4病害抵抗性母本など、より優れた品種の開発が進められている。一方で、病害抵抗性品種の情報提供や相乗的な管理技術の普及を通じて、生産者が自発的・積極的に品種選定できる環境の整備も必要とされている。
(2)栽培技術開発研究
紙筒移植栽培は、単収と品質、栽培の安定性を大きく引き上げ、投入コストに対してより多くの利益をもたらす極めて有用な栽培技術である。しかし、作物間の均等なほ場配分や作業機械の共用化、年間を通じた作業量の均等な配分が必要な輪作体系では、経営規模が拡大する中、多忙な融雪直後の労力配分について見直しを迫られている。
経営規模が小さく、作業労力に余裕がある場合には、ほ場面積当たりの収益が経営を左右する。作業量が増大しても限られたほ場からの収入を増やすことが経営の改善につながる。これに対し、家族経営そのままに経営規模が拡大した場合は、作業労力の確保が重要となり、農繁期に追加の労働力を確保するか、農繁期の作業量を削減するかの選択を迫られることになる。現在まさに選択を迫られる経営規模に達しつつあり、高齢化によって作業者の確保が困難となる中、もはや直播栽培への移行が不可欠な状況となっている。
自然環境の中で播(は)種する直播では、湿害、風害、霜害、苗立枯れ病の発生、低 pHによる生育遅延などさまざまな問題を抱えている。中でも直播の最大のデメリットは収量の低下である。土壌凍結や積雪のためほ場作業の開始が遅い北海道では、移植に向けて積雪期から育苗して生育量を確保することで、海外主要産地と同程度の多収を実現してきた。これに対し、直播では、ほ場が乾燥する時期を待って、種子からスタートするため、生育量の確保が難しく低収となる。
この対策として、個々の生育量は変わらないものの、生育する個体数を増やすことでほ場全体でより早く生育量を確保する密植栽培法がある。その一つである狭畦密植栽培によって増収が期待できることは広く知られており、すでに欧米では50cm程度かそれ以下の設定で栽培されている。十勝においても畦幅を60cmから50cmにした場合で、収量が5%以上改善するというデータが得られており、単収を向上させる手段となっている。
しかし、課題も多い。播種密度の上昇に伴い種子代金の負担が増える。播種や収穫などの作業に際して、畦数が増えることで一定面積内での作業機の往復回数が増え、作業量が増大する。中でも最も大きな課題は、作業機械を適応させることである。そもそも狭畦に対応した機械となっていない場合は、作業機械を更新する必要があり、他作物を含めて、機械作業体系全般を大幅に組み替える必要が生じる。
こうした問題を解決するため、現在、新たな直播による狭畦密植栽培に対応した、機械化収穫体系を確立するための実証的な研究開発が行われている。狭畦によって増大する作業量を大幅に軽減するため、一度により多くの畦の収穫を行う多畦収穫機の導入が試みられており、搬出方法など、収穫システム全体の最適化が検討されている。また、湿害を回避するために、「カッテイングソイラ」によるほ場の排水性の改善や、簡便な暗渠(きょ)の設置方法である「カットドレーン」の施工の効果を検証する試験が行われている。これらの技術が検証されて普及に移ることで、てん菜直播のデメリットが軽減され、北海道畑作の規模拡大、省力・低コスト化が図られ、経営の安定化につながることが期待されている。
3. さとうきびにおける研究開発の動向
(1)革新的な製糖プロセスと次世代型品種開発
さとうきびでは、革新的な製糖技術である「逆転生産プロセス
(注)」の実用化が検討されており、これに伴い、原料生産も変革を迎えることが期待されている。逆転生産プロセスは、原料搾汁液にショ糖を分解利用しない特殊な酵母を用いてエタノール発酵を行うことで、低品質原料に多く含まれるブドウ糖などの還元糖類をエタノールに変換して取り除き、砂糖の回収率を飛躍的に高める技術である(図8)。現在、世界の先駆けとなる実用化に向け、種子島の製糖工場で残された課題解決のための試験が行われている。この技術が導入されると、製糖歩留まりが原料品質に依存しなくなるため、品質面での製糖原料の幅が大きく広がり、 1)従来は低品質なために利用されなかった超多収品種が利用できる、 2)原料の品質が低いために製糖が困難であった時期に製糖が可能になる、 3)気象災害などによって低品質となった場合も砂糖を回収できる、といったことが可能になると想定される。
(注)「砂糖類・でん粉情報」2013.6月号を参照
このうち、超多収品種については、試験用の高バイオマス量モデル品種KY01−2044が開発されている(写真2)。KY01−2044は、従来品種に比べて、生育旺盛で茎数が多く多収となる。株萌芽に優れ、その能力は従来品種を凌駕して多年にわたる多回株出しを可能とし、耐干性も高い。一方で、品質は従来品種に劣るため、既存の製糖プロセスでの利用には向かない。また、耐病性にやや難があり、新たな製糖プロセスに向けて、基本的な実用特性を有する高バイオマス量タイプの次世代型品種の開発が急がれている。製糖用の次世代型品種は、新たな製糖プロセスにおける歩留まりおよびコスト計算に基づく開発設計と、十分な病害抵抗性付与がなされる必要がある。
そのための品種開発は九州沖縄農業研究センターと県の研究機関が連携して進めており、製糖工場においても有望系統の試験栽培が行われている。また、新たなプロセスにおける原料品質と製糖歩留まりとの関係、繊維の質が製糖工程に及ぼす影響など、解明されるべき基礎的な課題も山積しており、これらの解決に向けた研究も平行して進められている。
次世代型品種によって多回株出しが実現すると、新植面積が減少、植え付け面積の10%程度必要となる苗畑が大きく縮小する。その分のほ場は原料生産に回る。夏植えでは、半年間の生産に寄与しない期間が生じるが、多回株出しによって、生産に寄与しない期間の比率は相対的に縮小する。収量性だけでなく、このような副次的効果によって、製糖原料は大きく増大すると想定されている。
製糖原料の増大に対し、工場では製糖能力を増強して製糖期間を一定範囲に収め、品質の高い原料を確保することが選択されてきた。しかし、逆転生産プロセスを導入した製糖工場では、未熟で低品質な原料からも砂糖を回収できることから、原料の増大に対して、操業期間の前後への拡張で対応可能と考えられている。この製糖工場の操業期間の拡張は、さとうきび生産にさまざまな影響を及ぼす。
さとうきび栽培では、植え付けおよび収穫が作業時間の大半を占めている。このうち、収穫作業は、機械化が進んだとはいえ、定められた期間に全ての面積の収穫を終える必要があるため、しばしば経営面積を制限する要因となっている。収穫期間が拡張した場合には、収穫期の作業強度が低下し、経営面積を拡大する余地が拡大する。
また、植え付けや株出し管理の時期は収穫期と重なることから、作業過密となり、植え付けや株出し管理の遅れの原因になっている。春の栽培管理作業が遅れた場合の影響は深刻で、生育期間の短縮による減収に加えて、台風が襲来するまでに十分な大きさに達しないために風折を生じやすく、また、干ばつに対して極めて脆弱な状態で梅雨明けを迎えることになる。このことは、現在の沖縄方面での低収の大きな一因ともなっているが、収穫期間が長くなることで、植え付け期の作業強度は大きく低減されることになり、適期作業が実現できるようになる。これによっても原料の生産量は大きく増大することになる。
10月や11月の台風は原料品質を大きく引き下げる。原料品質が低下した場合、その回復を待つためにしばしば収穫期・製糖期間を大きく繰り下げる措置がとられる場合がある。収穫を遅らせると、収穫後の株出し管理と植え付けの遅れにつながり、新植・株出しともに翌年度収量の低下や不安定化の原因になっている。品質の落ちた原料でも製糖を行えれば、台風のダメージを翌年まで持ち越さずに翌年の安定生産の実現が期待できる。
(2)栽培技術開発研究
てん菜では、高度に完成された技術の修正を求められているが、さとうきびでは、少なくない生産者に劣悪な種苗の利用、劣悪な土壌環境、合理性を欠く肥培管理、雑草管理の不備、かんがいの不徹底が見受けられ、栽培技術と生産者の意識の両面での変革が必要とされている。
苗については、わい化病やモザイク病などによる減収を防ぐ観点から、種苗管理センターから配布される優良種苗を用いた専用の苗畑を設けるのが原則であるが、実際には、生産ほ場から採苗されている場合が多く、中には生産ほ場の最も収量の低いほ場を苗用に転用するといった絶対に避けるべき事案も見受けられる。たとえ病気に感染していなくても、栄養不良のほ場や強い干ばつを受けたほ場から採取した苗は、発芽とその後の生長が不良となる。劣悪な苗による減収の程度を明確化することで、生産者に対して適切な指導を行うことが必要とされている。
植え付けに当たっては、堆肥などの有機物と石灰などの土壌改良資材の投入、プラウ耕とロータリー耕、作溝という工程が推奨されている。しかし、実際には資材投入なし、あるいは、プラウ耕なしといった事例が多く見られる。カルシウム(石灰)やマグネシウム(苦土)は、さとうきびが必要とする肥料成分であるが、南西諸島のような高温多雨の地域では流亡しやすく、一方で、さとうきびによって吸収されてしまうことから、ほ場からの収奪が進み、慢性的な欠乏状態が生じている恐れがある。特に、株出し栽培では、石灰投入は推奨されておらず、これらの成分不足が株出し収量を制限する要因になっていることが想定される。
また、沖縄県では、有機物の分解も本州での分解に倍する速さで進行する。こうした環境で堆肥や石灰を投入しても、さとうきびが利用するまでに失われる部分が大きい。その改良した土壌は植え溝ではなく、畦山部分にあって、さとうきびの初期生育に貢献しないことは大きな問題である。かつてのさとうきび栽培で行われていたように、植え溝の底を栽培に適した土壌に改善することこそ栽培の重要なポイントといえる。特に、収量に大きな影響を及ぼす茎数は、植え付け直後の栄養状態に強く依存していることから、今後の安定多収に向けた最重要課題と考えるべきである。これらの点を修正すべく、深溝とした植え溝に堆肥を投入して、資材を節減する実証試験が鹿児島県で行われており、今後の成果に期待したい。
さとうきび栽培では深耕が推奨されているが、全層のプラウ、ロータリー耕は作業量や投入エネルギーなどの点において効率的とはいえない。作溝を行ってから植え溝に有機物や土壌改良資材を投入し、局所的にロータリー耕を行う部分耕起が、作業量、資材投入量、土壌環境保全の点で有利である。併せて雑草種子の多い表土を畦山に積み上げ、露出した雑草種子の少ない土に植え付けることで、問題となる株元の雑草発生を抑えることも期待できる。また、耕起に伴う土壌の酸化を抑制し、有機物の分解を遅延させる効果も期待できる。これらの課題については、今後の研究展開に期待したい。
また、1)生育後半で必要となるカリウムが基肥で施用されていること、2)1さとうきびの根は、苗から発生する蔗苗根から植物体本体から発生する節根へと生育途中で世代交代すること、 3)植え付けの遅れたほ場では、最終施肥が梅雨明け前後の場合があること、などを踏まえると、施肥の時期や配分についても再検討の余地がある。干ばつ期の施肥は効果がないばかりか、干ばつを助長しかねない問題がある。今後、さとうきびの発達段階に応じた追肥の時期や成分の設定、梅雨明けからの逆算による施肥時期の設定など、次世代型品種の栽培技術の確立の中で、改めて詳細な検討がなされることを期待する。
干ばつ対策としてかんがい設備が拡充されつつあるが、かんがい水にも限度があることから、少ないかんがい水量でもって着実に増収させることが重要となる。その基本となるのは干ばつ期に臨むに当たり、さとうきびを十分な大きさに育て上げ、干ばつに対する耐性を高めておくことである。そのための基本は適期の植え付け・株出し管理と初期生育の促進である。現在、その効果の程度を検証するための実証試験が鹿児島県で行われている。一方、沖縄県では、干ばつ期に効果的にかんがい水を利用するため、土壌水分センサーによりかんがいを制御するシステムの開発が進められている。新たな地下かんがいシステムなども開発されており、かんがい方法も選択肢が広がりつつある。
一方、かんがい設備が整備されていないほ場では、多くの場合干ばつにより葉が黄化し、回復しないまま収穫期を迎えている。葉の黄化は干害に付随する窒素の喪失によるもので、光合成能力を低下させる。その状態が続く中で、収穫まで栽培を継続することで、収量と品質の両面で大きな損失を被っている。干ばつ後に窒素を補給することが重要な課題の一つといえる。
生育後半の窒素施用は、登熟期〜収穫期の栄養生長を助長して品質を低下させることが知られている。しかし、この常識は、「NCo310」などの古い品種の試験で確立されてきたもので、近年開発された早期高糖性品種では恐れる必要がない可能性が高い。古い品種では、栄養生長と糖蓄積が競合する関係にあったが、最近の早期高糖性品種は栄養生長と糖蓄積を同時並行して進める能力を備えている。その同時進行を可能としている一つの要因は、高い光合成能力だと考えられている。生育後半であっても、不足する窒素の補給は、光合成能力を高め、収量・糖度とも向上させる効果を期待できる。
とはいえ、大きく生長したさとうきびほ場に追肥を行うことは容易でない。ましてや猛毒のハブが生息する中へ足を踏み入れることははばかられる。そこで考えられる方策は、最終施肥の段階で干ばつ後に効くよう窒素を仕込んでおくことである。一定期間後に溶け出すような時限式の肥料、あるいは、水のない干ばつ期には溶出せず、秋雨とともに溶け出すような緩効性肥料といったものを最終施肥に混用することで解決できる可能性がある。今後の研究展開を期待する。
食害により欠株発生などの甚大な被害をもたらしているイネヨトウの対策については、害虫の密度を下げる効果が期待されているフェロモンチューブによる交信かく乱剤が普及に移り、防除事業が開始されている。今後、他の薬剤との併用によって、被害の発生が大きく減少することが期待されている。しかしながら、交信かく乱剤をより有効に活用するには、購入費用や設置作業労力の面での課題が残されている。低コスト化に向けた研究が課題となっている。
おわりに
甘味資源作物は、地域を支える重要な農作物であるとともに、食料安全保障上重要な作物である。国際的な競争環境が強化される中、生産を拡大するには、規模拡大や機械化による低コスト化と安定多収を実現することが不可欠となっている。
しかしながら、コスト削減の追究は時に地域の労働人口を減少させ、ひいては地域の衰退をもたらす原因となる。甘味資源作物振興の第一の目的は農業経営の改善と農家所得の安定にあり、農業を基盤とせざるを得ない地域の下支えにある。一部の生産者は生き残ったものの、地域が衰退してしまっては、本末転倒と言わざるを得ない。
農業を主たる産業とする地域では、生産物から得られた利益を地域内で分配することで地域経済が成立しており、地域活性化には、得られる利益を増大させる必要がある。甘味資源作物においても、一次産物である原料の増産・高品質化を通じて主たる販売産品である砂糖の生産量を増やし、得られる収入を増やすこと、一方で、地域外から購入する資材、機械などを低減して利益を増すこと、の双方が求められる。
特に、海岸線に囲まれた島でさとうきびを栽培する場合には、耕地面積が限られており、この中でいかに生産高を確保するかが重要となる。そうした中にあって、さとうきび栽培では機械化と規模拡大が大きく進展しつつあり、個別の農家単位で見ると、面積拡大で生産量が増加し、低コスト化で利益が増大している。しかし、地域で見れば、平均単収が下がって生産量が低下し、島の人口が減少するという望ましくない状態に直面することになる。
地域活性化はわが国の喫緊の課題となっているが、対策の根幹は地方に仕事をつくり、安心して働ける就業の機会をつくることにある。このような中、労働力不足が規模拡大した生産者の経営を制約する要因となっており、労働力に合致する形で作業を低減して単収を下げてしまうことが経営的に選択されている。地域経済を考えるならば、そこに雇用の場を創出して単収を維持する一方で、得られる利益を適正に分配することこそ真に求められるべきものと考えられる。しかし、繁忙期の農作業のみで雇用を維持することは困難である。農産物の加工や販売、畜産などの農林水産分野はもとより、建設、運輸、観光、エネルギー産業など、広く複合的な事業を行いつつ、生産者の作業量の季節変化を補完する人材活用のシステムこそが地域に求められている。甘味資源作物の振興に向けた研究開発が、そうした業種横断的な産業育成につながっていくことを期待したい。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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