ここでは、これらの作型の変化やハーベスタ収穫の利点を生かし、さらなる生産量拡大のために、機械化作業の分業化による適期管理を推進している、宮古島市島尻地区の集落営農の取り組みを紹介する。
(1)島尻地区のさとうきび生産
島尻地区は、宮古本島の北部に位置し、世帯数約145戸、人口約340名の集落であり、さとうきび生産農家は現在約70戸である。湿地帯であった同地区は、かつて稲作も盛んであったが、環境的に恵まれず、旧平良市の産業共進会でも最下位が続く地域であった。しかし、約30年前に宮古島で最初に土地改良を実施したことをきっかけに、稲作から畑作へと大きく生産体系が変わった。
今回は、島尻地区でさとうきび生産の中心的な役割を担っている農事生産組合豊農産(以下「豊農産」という)の辺土名忠志さんを取材した。
豊農産は、平成13年に忠志さんの父である豊一さんを中心に5名の農家を構成員に結成され、さとうきびの農作業受託を行ってきた。
豊一さんは、島尻地区の土地改良の必要性を訴えた一人であり、当時から機械化による一貫作業の重要性を見越し、いち早くハーベスタなどの機械の導入を進めてきた。豊農産のモットーは、「小作をしない」ということであり、農家から土地を借りるのではなく、「一緒にさとうきびを生産する」という信念を持っている。高齢となった農家から土地を借り上げて、農家の仕事を無くしてしまうのではなく、自分でできる作業は自分で行ってもらい、さとうきび生産に携わることで生活の中に生きがいを見いだして欲しいという思いからである。そのため、豊農産では、さとうきびの植え付けから収穫までのさまざまな作業の受託メニューを用意し、農家の実情に合わせて作業を受託している。豊農産が早い段階から機械化を進めたのも、島尻地区で集落営農を実現するという強い気持ちの表れである。
忠志さんは、豊一さんの意思を引き継ぎ、共に豊農産の経営を行うことはもちろん、土地改良による優位性を生かし、高収益が得られるマンゴーの栽培にも力を入れている。また、島尻さとうきび生産組合を立ち上げ、集落営農を根付かせるための仕組み作りや、10a当たりの収量15トンを目指し勉強会を行うなどの活動を行っている。
(2)島尻地区における分業化の取り組み
収穫期間中に行う受託作業は、ハーベスタによる収穫、手刈りで収穫されたさとうきびを道路脇まで運ぶ搬出、収穫後の株出し管理、春植えのための深耕、ロータリー、苗の準備、植え付けなど多岐にわたる。豊農産では、年々受託面積が増えており、現在約20haの受託を行っている。以前は、受託した作業の全てを行っていたが、これだけ多岐にわたる作業を受託すると、時間もかかり、適切な時期に作業を実施できない場面が増えてきた。
そこで、作業を委託する農家が望んでいる時期を逃すことなく作業を行うため、豊農産では機械作業の分業化による適期管理を推進することにした。島尻地区には、さとうきびの農作業を受託している者が豊農産をはじめ13名おり、それぞれが担当を決めて分業して作業を行っている。現在は、生産者から委託を受けた者が、該当する作業担当者へ連絡し、それぞれの作業を行う仕組みであるが、将来的には受託窓口を一本化し、より効率的な仕組み作りを目指している(図9)。
分業化により、一人の受託者に作業が集中することなく、作業が分散され、適期管理が可能になり、収穫直後に株出し管理が行える。また、機械のアタッチメントの交換などが不要となり、作業の効率化が図られる。
株出し管理を適期に実施することにより、株出しの萌芽が良好になることに加え、十分な生育期間が確保されるため、株出しの収量の増加が期待できる。