(1)低い生産性
表1は、フィリピンのサトウキビ生産に関する基礎データを示したものである。日本と比べ1ヘクタール当たり施肥量および単収は、同国の平均で見ると日本とほぼ同水準となっている。しかし、施肥量については、日本の施肥基準では、1ヘクタール当たり510キログラムが必要とされているのに対して、フィリピンの小規模農家では、同381キログラムと少なく、日本に比べ平均単収は、低くなっている。また、同国の大規模農家は、日本と比べて、施肥量も単収も日本を上回っているものの、苗の植え付け本数が2.5倍も必要とされている。これは、採苗・調苗方法や植え付け後のほ場の管理に対する理解が深まっていないことから、発芽不良による欠株が多く、補植を多く行っているためと推察される。さらに、農家の規模を問わず、収穫は手刈りが一般的であるため、労働時間は日本を大きく上回っている。
このように、フィリピンのサトウキビ生産の生産性は低く、安定的にサトウキビの単収を向上させるためには、機械化による労働時間の削減に加え、小規模農家にあっては施肥量の増加が、また大規模農家にあっては適切な栽培管理が特に重要であると考えられる。
(2)低い収益性
農家に支払われるサトウキビ代金については、「砂糖産業に従事する者間の調整法(1952年6月22日施行)」に基づき、砂糖およびその副産物の販売代金を農家と製糖工場に配分する収入分配方式が採られている(表2)。フィリピンの製糖工場の生産実績は3万〜5万トンが最も多いことから、農家の収入分配率はおおむね65%となる。同じ収入分配方式を採用している日本(農家が48%、製糖工場が52%)に比べ、農家の分配比率が高くなっている。農家が受け取る金額は、サトウキビの出荷重量と、一番搾りの糖汁の質(糖汁の純度と糖度)によって決まるため、単収と糖度の高い農家ほど収入が多くなる仕組みとなっている(表3)。
小規模農家と大規模農家の収益構造を見ると、フィリピンの平均世帯所得は年間23万5000ペソ(61万1000円)程度とされているが、小規模農家の平均収穫面積が2ヘクタールであることを考えると、年間3万1856ペソ(8万2826円)の収益しかない(表3)。一方で、100ヘクタールの収穫面積を持つ大規模農家は収益400万ペソ(1040万円)と平均世帯の17倍もの収益を上げている。
表3からも分かるように、大規模農家は、肥料の投入で高収量を確保し、資金を財源に再生産のための資材を購入するという持続的な生産サイクルとなっている。一方、小規模農家は、大規模農家と違い苗床を所有していないため、苗を購入しなければならない上、手元の資金が少ないことから、肥料などの生産資材を十分に手当てすることができず、低収量、低収益のサイクルに陥りやすい構造となっている。
(2)消費量の増加と小規模農家の衰退の懸念
フィリピンは、おおむね砂糖を自給しており、わずかながら輸出も恒常的に行われている(図8)。
しかし、最近の経済発展に伴い、1人当たりの砂糖の消費量は増加傾向で推移していることから、生産量が横ばいで推移した場合は、将来的に輸入国に転じる素地がある(図9)。
フィリピンでは、国内産業を保護するため、砂糖の輸入は供給管理政策により管理されているが、2015年以降ASEAN経済共同体(AEC)による貿易円滑化が進展すると、この政策は廃止される可能性もある。その場合、世界有数の生産・輸出大国であるタイ産砂糖との競合は必至となる。
ASEAN自由貿易協定(AFTA)により、精製糖は2010年から段階的に関税が引き下げられ、2015年には5%になることから、国内産より価格が3〜5割も安いタイ産には勝てる見込みはない(表4、図10)。