(ア)多回株出し多糖性サトウキビと高温期登熟型サトウキビ
多回株出し多糖性サトウキビには新用途向け試作用に登録されたKY01−2044のような多回株出し多糖性品種がある。単収は5年5作、年平均で10アール当たり10トンを目標としたい。高温期登熟型サトウキビには、黒海道など、10月でも甘蔗糖度13%近くに達する極早期型高糖性を備える品種・系統がある。肥培管理技術の開発と加工側の技術開発に期待し、当面9月上旬を収穫開始の目標とし、収穫、操業の終わりは、台風被害の最小化に向けた措置に期待して5月末日としたい。
(イ)省力的栽培技術
繰り返すが、現在は担い手が不足する時代である。適切な管理を可能にするには作業分散と省力的栽培が必要である。植え付け、株出しなどの作業を周年化するには、冬季、低温下での発芽、萌芽、初期生育の確保が必要である。特に種子島は温帯にあり、冬には霜の降りるほ場も多い。低温萌芽性、成長性に優れる品種の開発とともに、現在主流のマルチ栽培に代わる省力・省資源を前提とした肥培管理技術の開発が求められる。極低温期・地域などではマルチに代表される保温技術が必要であるが、大部分の時期・地域をマルチ設置、撤収の労役から解放したい。NiTn18(農林18号)のように、無マルチでもNiF8(農林8号)のマルチ栽培より多収が得られる品種も開発されている。育苗施設を用いた移植苗栽培技術もほ場利用の高度化に通ずる有用な技術である。
また、全茎苗を利用した機械植え付け、作溝機能を向上させたプランタの利用を進めたいと思う。5年5作、4年4作でも同様であるが、連年で継続する株出し栽培で多収を続けるには、高い株再生(萌芽と茎伸長の維持;株上がりの抑制)が必要である。深溝浅覆土(植え溝を深くV字型とし覆土を浅くする)、それを省力的に実施するのが今日から明日の栽培技術である。そのような機械を世界中が求めていると思う。
(ウ)砂糖の効果的・効率的な製造技術、システム
前述の多収で再生力が高いサトウキビ原料、そのようなサトウキビは繊維分と還元糖分が高く、ショ糖含有率(純糖率)が低いことが多い。現在の製糖用品種でも、収穫期間を拡張する場合、時として十分な登熟を遂げられない場合がある。台風による生葉の損傷、曇天による日照不足などの場合も同様なことが起こる。このようなサトウキビは、現在の「圧搾―清浄化―濃縮―結晶化」と進む一連の工程では十分な量の砂糖製造が困難であるとされる。高い繊維分が搾糖を、高濃度の還元糖がショ糖の結晶化を阻害するからである。現在の砂糖製造法に固執していたのでは、収穫、操業期間の拡張も台風被害の軽減も、新しい省力的多糖栽培も、その実現は覚束ない。
そこに登場するのがアサヒグループホールディングス株式会社によって開発された、選択的エタノール発酵を取り入れた砂糖生産技術「逆転生産プロセスの導入による砂糖・エタノール・電力・有機質資源複合生産技術・システム」である(
図3)。逆転生産プロセスとはサトウキビに含まれ、サトウキビの生長には有用であるが製糖過程では結晶化の阻害物質である還元糖のみを、結晶化工程の前にエタノールに変換すること、すなわち、結晶阻害物質でもある還元糖をエタノール発酵によって蔗汁から除去し、結晶化材料としての品質(純糖率)を向上させ、低純糖率原料からのショ糖回収を可能に、あるいは効率化しようとするものである。従来の方法とは、結晶化工程と発酵工程の順序が逆になっていることから逆転生産プロセスと呼ばれている。エタノールを生産することによって砂糖の生産性を向上する、すなわち、エネルギーを生産することによって食料生産の効率を上げるという、思考の転換により生み出された技術であり、未来を切り拓く技術として世界のサトウキビ、製糖産業から注目を集めている。
そもそも、多回株出し多糖性サトウキビの開発自体が、ショ糖以外の炭化水素としての繊維分の多収生産、還元糖の多収生産によって面積当たりの砂糖生産力を高めようとする、これも転換された思考の産物である。ほ場における思考転換、工場における思考転換、この出会いと持続的な連携によってサトウキビ、砂糖生産がサトウキビ・砂糖・エタノール・電力・有機質資源複合生産として生まれ変わろうとしている。