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〜西表島・農業生産法人有限会社サザンファーム〜

さとうきびの単収向上に向けた取り組み
〜西表島・農業生産法人有限会社サザンファーム〜

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最終更新日:2015年10月9日

さとうきびの単収向上に向けた取り組み
〜西表島・農業生産法人有限会社サザンファーム〜

2015年10月

那覇事務所  青木 敬太
(現 経理部)井 悠輔

【要約】

 公益社団法人沖縄県糖業振興協会主催の「第37回沖縄県さとうきび競作会」において、多量生産の部(さとうきび生産法人の部)第1位となり、独立行政法人農畜産業振興機構理事長賞を受賞した農業生産法人有限会社サザンファームは、良質な苗の育成や欠株の防止、雑草防除の徹底などによってさとうきびの多量生産を実現しているとともに、さとうきびと稲、カボチャとの複合経営により経営の安定化を図っている。

はじめに

 さとうきび栽培において、生産者の高齢化や担い手不足などによる生産量の減少傾向は、沖縄県全体としての問題であり、そのような状況の中で安定した生産量を確保するためには、いかにして収穫面積を確保し、単収や品質を向上させていくかが重要である。

 こうした中、西表島の農業生産法人有限会社サザンファーム(以下「サザンファーム」という)は、適期に作業を行うことに重点を置き、計画的な運営を行うことにより単収の向上に取り組み、多量生産を実現して、「第37回沖縄県さとうきび競作会(注)」において、多量生産の部のさとうきび生産法人の部で第1位となり、当機構理事長賞を受賞した。

 本稿では、サザンファームの単収向上に向けた取り組みを紹介する。

(注)公益社団法人沖縄県糖業振興協会は、毎年度、生産技術および経営改善において創意工夫し、高単収、高品質な生産をあげたさとうきび農家を表彰することにより、生産者の生産意欲を喚起して沖縄県の糖業発展につなげることを目的として、「沖縄県さとうきび競作会」を開催している。

1. 西表島の概況

 西表島は、沖縄本島から南西450キロメートルに浮かぶ島であり、竹富町に属する。竹富町は、石垣島の南西に点在する16の大小の島(有人島9つ、無人島7つ)から構成される(図1)。西表島は竹富町の中で最も大きな島(2万8900ヘクタール)であり、沖縄県の中でも、沖縄本島に次ぐ面積である。

 西表島と聞くと、多くの方が国の特別天然記念物のイリオモテヤマネコを思い浮かべるのではないだろうか。図2に示す通り、島の83%は林野であり、そのうち85%が国有林となっている。そのため、イリオモテヤマネコをはじめ、貴重な野生動植物が数多く生息・生育しており、自然豊かな島の環境から、「東洋のガラパゴス」とも呼ばれる。これらの生態系を維持するため、国有林のうち多くの部分が森林生態系保護地域という保護林に指定されており、禁伐など厳格な管理が行われている。

 農地は島全体の7%であり、その内訳は牧草地55%、さとうきび18%、稲5%となっており、さとうきびは島の基幹作物の一つである。林野の多くが保護林となっていることから、新たに農地を増やすことは困難であるため、さとうきび生産においては、限られた農地の中で、いかにして収穫面積を確保し、単収や品質を向上させるかが課題となっている。
 

2. 西表島のさとうきび生産の概況

 さとうきび農家は81戸(注)であり、農家の平均年齢は56歳である。畜産との複合経営を行う農家の中には、畜産に専念するため、さとうきび生産をやめる農家も見られたが、島外からの移住者の就農もあり、近年は戸数を維持している。

 さとうきびの収穫面積は、ピーク時である平成14/15年期の170ヘクタールから減少しているものの、近年は150ヘクタール前後で推移している(図3)。また、さとうきびの生産量は、14/15年期には1万3971トンを記録したが、その後は収穫面積の減少に加え、大型台風の襲来、干ばつといった自然災害や病虫害などの影響を受け、近年は8000トン前後で推移している。

(注)沖縄県農林水産部「平成26/27年期さとうきび及び甘しゃ糖生産実績について」
 
 平成25/26年期のさとうきびの作型別収穫面積比率は、夏植えが60%、春植えが6%、株出しが34%である(図4)。病害虫や台風被害を受けにくい夏植えが多かったが、近年では、ベイト剤などの利用による病害虫の防除ができるようになり、株が立つようになった。その結果、台風に強い株づくりが可能となったことから、株出しの比率が上昇している。
 
 西表島では夏植えの早期植え付けが推進されている。これは、夏の暑い時期を過ぎてから植え付けをしたいと考える生産者もいるが、単収の向上を考慮すると、より早い時期に植え付けをした方が良いという考えによるものである。推進の一環として、西表糖業株式会社では昨年8月初めから9月半ばまで、工場職員総出で延べ200人を動員し、20ヘクタールの植え付け支援を行った。「数年間はこの支援を続けて、農家とともに一丸となってさとうきび生産1万トンの目標を達成したい」と工場職員は話す。

3. サザンファームの概要

(1)法人の設立
 サザンファームは、平成8年に設立された。法人設立以前は現代表取締役の西大舛旬(にしおおますこうじゅん)氏と先代の2人で営農していたが、三代目である均(こうきん)氏が就農する際に法人を設立した。現在は、旬氏と均氏の2人で、さとうきび、稲、カボチャの複合経営を行っている。さとうきびと稲との複合経営は、先代が西表島に移住した当初に開始した。もともと米を自給自足したいという気持ちから稲作ができる土地を探し求め、西表島に移住を決めた。

 また、カボチャの栽培を始めたのは法人設立後の12年ごろであり、さとうきびと収穫の時期がずれている作物で、土壌に合うものを探し、カボチャを選択した。現在の収益の構成割合はさとうきび6割、稲2割、カボチャ2割である。
 
(2)経営の概況
 サザンファーム全体の作付面積は37ヘクタール(自作地20ヘクタール、借地17ヘクタール:平成25/26年期実績)であり、その内訳は、以下の通りである。

 さとうきびの作付面積は25ヘクタールで、作型は、春植え1割、夏植え6割、株出し3割である。

 稲の作付面積は10ヘクタールであり、年2回作付けしている。1期目は2月に田植え、5月に稲刈りを行い、「日本一早いひとめぼれ」と言われている。2期目は7、8月に田植え、10月ごろに稲刈りを行っている(図5)。苗には特に注意を払っており、岩手県から害虫のない良質な種もみを入手し、自家育苗している。

 カボチャの作付面積は2ヘクタールであり、11、12月に植え付け、4月に収穫している。カボチャは鹿児島県からの出荷が少ない4、5月ごろに出荷するよう工夫している。カボチャはアルカリ性の土壌が適していると考え、カボチャに適した場所を選んで栽培するようにしている。
 
 営農活動は年間を通じて旬氏と均氏の2人で行っているが、繁忙期には臨時で作業員を雇用している。さとうきびの収穫と春植え・株出し管理作業時に5人、収穫後のほ場管理や夏植え作業時に3人、田植え時に2人、稲刈り時に1人、カボチャの植え付けと収穫時期に1人をそれぞれ雇用している。一年のうち最も忙しくなるさとうきびの収穫時期には、各作目合計で約8人を雇用し、旬氏と均氏を合わせて約10人体制でそれぞれの作業を行っている。作業員を別々に募集すると時間もかかり、タイミング良く集まらないこともあるため、9月ごろのさとうきびの植え付け期から、翌5月の稲刈り期までの期間については、同一の作業員を2〜3人継続雇用している。

 作業員については、高齢化のため作業支援が必要な農家もあるが、気候条件などにより収穫量に増減があることから、毎年募集できる農家は多くない。また、手助けが必要な年だけ募集しようとしても、すぐには見つからない。一方、サザンファームは、複合経営を行って年間を通じ安定した作業量があることから、毎年継続した雇用が可能である。安定した雇用ができるからこそ計画的な生産を可能にしている。

 また、サザンファームは担い手育成にも一役買っている。これまで同社の作業員であった男女2組が西表島で就農しており、さとうきびとカボチャ、畜産などの複合経営を行っている。「担い手育成事業ではないが、担い手を育成し、よりいっそう西表島の農業を繁栄させたい」と旬氏は話す。

 稲やカボチャとの複合経営は、それぞれの作目から収入があるため、経営の安定化をもたらしている。例えば、稲の二期目の収入は、肥料施肥、防除や除草作業など、さとうきびのほ場管理作業の費用に充てることができている。
 
(3)さとうきび生産
 サザンファームでは、台風などにより近年の単収は減少傾向にあるものの、平成25/26年期のさとうきび収穫面積は10.7ヘクタール、生産量は639.0トン、単収は10アール当たり6.0トン(全作型平均)と、地域平均よりも高くなっている(図6)。
 
 栽培している品種は、農林27号が8割、農林8号が1割、その他は農林21号などである。サザンファームでは、含みつ糖用に主に手刈りによる収穫を行っていることから、多収品種で脱葉性が優れ、収穫作業がしやすい農林27号を主に栽培している。農林27号は出穂しない品種であるため、収穫期に入っても茎を伸ばし続け、収穫量を増加させることから、出穂する農林8号から収穫し、農林27号を後に回すといった工夫をしている。

 さらに、新品種の導入にも積極的に取り組んでおり、試験的に栽培し、生育が良かった品種については栽培面積を拡大したいと考えている。ほ場の周辺の環境や土壌の微妙な違いによって品種を選ぶようにしている。
 

4. さとうきびの単収向上に向けた取り組み

 さとうきびの増産のためには単収向上が課題となるが、サザンファームでは、適期に作業を行うことに重点を置き、計画的な運営を行うことにより単収向上に取り組んでいる。サザンファームの単収向上に向けた取り組みは以下の通りである。

(1)適期作業
 サザンファームでは適期の作業を行うために、毎日ほ場を巡回し、常に作業工程の調整を行っている。さとうきびは、比較的手のかからない作物と言われているが、サザンファームでは、きめ細かな管理を行っている。これは、稲作やカボチャ生産での経験が生かされていると感じられた。

(2)良質な苗の育成
 稲作には昔から「苗半作」という言葉があり、「良い苗を育てれば稲作の半分は成功したもの」という意味である。サザンファームでは、さとうきびについても同様の考え方を持って育苗に取り組んでおり、「健全で良質な苗を育てていきたい」と均氏は話す。
 サザンファームは、限られたほ場面積で効率的な育苗を行っている。夏植えの場合、約10ヘクタール分の苗を準備する必要があるため、8月に採苗ほ10アールに苗を植え付け、翌3〜4月に刈り取った後、刈り取った苗を別の採苗ほに植え付け、9月に刈り取りを行っている。こうした工夫により、サザンファームは良質な自家苗の確保に努めている。

(3)早期植え付け
 西表島では、環境保護の観点から土木工事が規制され、かんがい施設が不足している。サザンファームのさとうきびほ場の半分は水はけが良く、干ばつの影響を受けにくい中洲にあるが、春植えの植え付けは干ばつの被害を受けやすいほ場から始め、梅雨時の降雨により地面が固まる前の4月下旬ごろまでに済ませるようにしている。また、台風に備えるためにも、早めの植え付けを心掛けている。

(4)欠株の防止
 欠株への補植は、茎長が短いうちに行うことが重要である。補植が遅れると、隣の苗に影を作ってしまい、株が揃わなくなり、せっかくの補植も効果が半減してしまう。そのため、十分な注意を払って欠株を見つけ、迅速に補植を行っている。

(5)きめ細かな除草
 気温の高い地域では雑草の成長が速く、草がよく茂るので、さとうきび栽培は雑草との戦いとも言える。適期の除草剤の散布、ロータリーなどによる除草作業により雑草の発生を抑えることで、害虫の発生予防につなげている。
 除草作業は年3回行っている。雑草が種を付けて発芽してしまう前に作業を行い、その雑草をすき込むことで、緑肥としてほ場に還元している。

おわりに

 西表島はほとんどの土地が保護林であるため、農業従事者は自然環境と共存している意識が高い。サザンファームでは限りある農地の特性に合わせた栽培を行うとともに、丹念な農地管理による単収向上の努力が見られた。「作物には芽(目)だけでなく、耳もある。常に作物と対話することが欠かせない」と旬氏は話す。このようなきめ細かな意識こそが単収向上の原動力であるといえよう。

 近年、西表島では、刈り倒し機の導入が進んでいることから、サザンファームでは、刈り倒し機の利用を増やしたいと考えている。「効率的に収穫作業を行うことによって、早期株出し管理を行い、生産量1000トンを達成したい」と高均氏は目標を語った。

 サザンファームは西表島の農業に対し熱い思いを持っており、また若い作業員の方々もそれに応えるよう一丸となって組織を盛り上げていく姿がすがすがしく、印象的であった。今回取材させていただいたサザンファームのような活気のあるさとうきび生産者が増え、さとうきびがより増産に向かうことを期待したい。

 最後にお忙しい中、本取材に当たりご協力いただいた関係者の皆さまに感謝申し上げます。
コラム 刈り倒し機について
 含みつ糖の製造に当たって極めて重要なことは、さとうきびの鮮度である。ハーベスタによって収穫されたさとうきびは、細かく裁断されており、外気との接触面積が増加することから、手刈りに比べて劣化が早く進んでしまう。このため、含みつ糖の生産地域においては、ハーベスタによる収穫はほとんど行われておらず、手刈りが主流となっている。
 しかし、近年、高齢化が進み、手刈りだけでは1日当たりの工場へのさとうきびの搬入量を十分に確保することが困難となってきている。そのため、西表島では、さとうきびを細かく裁断せずに根元だけを裁断する刈り倒し機の導入が増えてきている。刈り倒し機は、コラム-写真1を見て分かるように、裁断部からブロワー部までがない機械をイメージすれば分かりやすい。


 倒されたさとうきびは、畦の中央部に残り(コラム-写真2)、作業員が脱葉を行い、束を作っていく。おのでさとうきびを倒すために腰を曲げる必要もなく、作業員は負担が少なく効率的に収穫作業を行うことができる。また、刈り倒し機は、ブロワー部などがないことからハーベスタよりも軽く、多少の雨であっても作業ができるメリットがある。
 分みつ糖地域では、現在のところ利用されている地域はほとんどないが、この刈り倒し機を使用することによって、収穫の形態が多様化することは、生産者の状況に合わせた収穫が可能となり、メリットがあるのではないだろうか。例えば、手刈りが体力的に厳しい小規模農家においては、脱葉だけを行うことによって、ハーベスタ収穫と比較してトラッシュ率を下げることができることから、手取りの金額が増えることにつながる。
 今後、地域の実情に応じて刈り倒し機という選択が増えてくると思われる。

 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-8713