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〜北海道河東郡音更町 三浦農場の事例〜

てん菜栽培の省力化に向けた取り組み
〜北海道河東郡音更町 三浦農場の事例〜

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最終更新日:2015年11月10日

てん菜栽培の省力化に向けた取り組み
〜北海道河東郡音更町 三浦農場の事例〜

2015年11月

札幌事務所  石井  稔
調査情報部 坂西 裕介

【要約】

 北海道河東郡音更町の三浦農場は、GPSガイダンスシステムの導入やカメラの設置などにより、トラクターの操作に苦手意識を持つ従業員でも簡単に操作を行えるようにし、整地作業と中耕・除草作業の省力化を実現している。

はじめに

 北海道の畑作農業を取り巻く情勢を概観すると、農家戸数は、平成2年の1万9837戸から22年には9431戸と、20年間で半減している(図1)。また、農業従事者の高齢化も進んでおり、60歳以上の生産者が全体の4割以上を占め(図2)、今後、さらなる農家数の減少が懸念される。一方で、一戸当たりの経営耕地面積は、2年の5.0ヘクタールから、26年には12.0ヘクタールと、大幅に拡大している。

 こうした傾向にある畑作農業は、農作業の適期が限られている中でいかに作業を省力的・効率的に行うかが課題であり、 1)後継者や優秀なオペレータの確保、 2)先代が培ってきた優れた技術の次世代への継承、 3)担い手への農地の集積・集約化が求められていると推察される。

 農林水産省は平成25年11月、ロボット技術やICT(情報通信技術)などの先端技術を活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業(スマート農業)の実現に向けて、研究機関、学識経験者、先進農業者などで構成する「スマート農業の実現に向けた研究会」を立ち上げ、スマート農業の将来像と実現に向けた課題とその対応などについて検討を開始した。同研究会が26年3月28日に公表した検討結果の中間とりまとめによると、スマート農業の将来像として、 1)超省力・大規模生産を実現、 2)作物の能力を最大限に発揮、 3)きつい作業、危険な作業から解放、 4)誰もが取り組みやすい農業を実現、 5)消費者・実需者に安心と信頼を提供の5項目が示されている。

 同研究会の委員を務める北海道河東郡音更町の三浦尚史氏(三浦農場代表)は、GPSを利用した自動操舵装置の導入などにより、整地作業などの省力化を実現している。本稿では、三浦農場におけるてん菜栽培の省力化に向けた取り組みを紹介する。
 

1. 三浦農場の経営概況

 三浦農場は北海道の東部、十勝平野のほぼ中央に位置する音更町に所在し、三代目の三浦尚史氏、両親、従業員3名の計6名で畑作経営を営んでいる。三浦氏は大学卒業後、農機メーカーで5年間勤務した後、平成13年に就農し今年で15年目を迎える。三浦農場は、音更町の一戸当たりの平均経営耕地面積(30.6ヘクタール)の3倍以上の99ヘクタールを有し、大規模な畑作経営を展開している。

 作物別の作付面積は、てん菜14.5ヘクタール、小麦10ヘクタール、ばれいしょ(生食用)10ヘクタール、大豆11ヘクタール、小豆10ヘクタールであり(平成26年産実績)、この他長いもやスイートコーンなどを栽培している。畑作四品目は、小麦→てん菜→豆類(大豆・小豆)→ばれいしょの順で輪作に努めている。
 

2. てん菜栽培の省力化に向けた取り組み

(1)GPSによる整地作業の省力化
 てん菜の栽培上、整地作業は重要な作業に位置付けられており、直播栽培では発芽、移植栽培では苗の活着を早めるために丁寧な作業が求められる。また、てん菜は深根性の作物で、根部にショ糖を蓄積することから、根部が十分に成長できるよう深耕が必要である。三浦農場ではGPSを積極的に導入し、作業の質を低下させることなく、作業の省力化・効率化を実現している。

ア. GPSとは
 GPSとは、「Global Positioning System」の略で、人工衛星から受信した電波により、正確な位置情報を得られるシステムである。農業分野ではトラクターの位置を測位し、走行経路を表示するGPSガイダンスシステム(経路誘導装置)、さらにGPSガイダンスシステムにより表示された走行経路に沿ってトラクターを自動で運転する自動操舵装置が実用化されている。

 北海道農政部技術普及課の調査によると、北海道におけるGPSガイダンスシステムおよび自動操舵装置の出荷台数は増加傾向で推移しており、特に、自動操舵装置の出荷台数がここ2年間で大幅に増加している(図3)。平成26年度におけるGPSガイダンスシステムの全国出荷台数1080台のうち北海道向けが980台、自動操舵装置の全国出荷台数510台のうち北海道向けが480台と、いずれも北海道が90%以上の高いシェアを占めている。これは北海道の畑作経営が都府県に比べ、規模が大きいことから導入による省力化のメリットが大きいためであると考えられる。北海道において、GPSは作業の効率化、省力化を図る上で、有用な技術であると推察される。
 
イ. GPSを利用した作業体系
 三浦農場は5年前、近隣の離農者から農地を購入し、規模拡大を図った。従来、整地作業は三浦氏と父親の2名ですべて行っていたが、規模拡大により2名で行うことが困難となった。他の従業員でも整地作業を行える方法がないか検討し、平成23年に旋回動作を除くトラクター操作の自動化が可能である自動操舵装置を導入した。

 三浦農場は自動操舵装置に加え、VRSシステム(以下これらを総称して「高精度GPSガイダンスシステム」という)を導入している。VRSとは「Virtual Reference Station」の略で、日本語では「仮想基準点」という。仮想基準点を取り囲む複数の電子基準点を基に、GPSの位置情報の補正データを生成するシステムで、スマートフォンにより補正データを受信することができ、スマートフォンとGPSを接続し、受信したデータを取り込む。VRSシステムにより、従来、誤差が±30センチメートルだったものを、±3センチメートルにまで精度を高めることができる。平成22年ごろから普及が進み、このシステムの普及によりGPSの精度が急速に高まった。

 従来、三浦農場が行っていた整地作業は、北海道の畑作農家では一般的である、スタブルカルチをかけた後、パワーハロー(作業幅3.5メートル)を2回かけるというものであった。高精度GPSガイダンスシステムの導入により、パワーハローの作業において、ほ場の枕地での旋回動作を除くトラクター操作を自動運転で行えるようになった。これにより作業時間を1割程度削減できるとともに、全くトラクターを操作したことがない従業員でもシステムの操作方法と旋回動作について、2時間程度の個別指導を受けるだけで、トラクターを操作することが可能となった。

 これにより三浦氏は、整地作業以外の作業を行う余裕が得られ、さらなる規模拡大を視野に入れて農業経営を行えるようになった。
 
ウ. ロボットトラクターの実証試験
 三浦農場では、北海道大学農学部の野口伸教授および国内のトラクターメーカーと共同で、ロボットトラクターと有人トラクターによる協調作業システムの実用化に向けた、実証試験に取り組んでいる。完全自動運転のロボットトラクターが心土破砕と整地作業を同時に行い、手動運転のトラクターが追従走行し、播種作業を行ういわゆるコンビネーション作業を行う。現在、大豆の播種作業で実証試験を行っており、慣行作業では2.5ヘクタールのほ場で6時間29分を費やしていたものが、ロボットトラクター作業では4時間11分と、約2時間の労働時間が削減された(図4)。

 この作業体系をてん菜の播種作業に導入した場合、労働時間の大幅な削減が可能となり、家族経営における作付面積の底上げが期待され、さらなる規模拡大が実現すると推察される。
 
(2)中耕・除草作業の省力化
 てん菜の栽培管理において、中耕・除草作業は、雑草の成長を抑制するとともに、土壌の塊を砕き、空気と水分の透通を良好にし、根部の生育を高める効果がある。また、一般的に生育初期は浅耕2〜3センチメートルとし、生育が進むにつれて深耕し、後期の中耕は10センチメートル程度とすることが一般的である。

 中耕・除草作業用機械のカルチベーター(以下「カルチ」という)の運転には高度な技術が求められることから、トラクターの操作に慣れた作業者が運転し、カルチにより除去しきれなかった雑草を、別の作業員がホー除草をするというのが一般的である。三浦農場では、カメラを装着するなどの工夫により、誰でもカルチの操作を行える作業体系を実現している。

 三浦農場では、カルチに2台のカメラを設置している。1台は、トラクターの天井部に設置し、4畝の作物列全体を映し、カルチが作物を引っ掛けることがないよう監視している(写真6)。もう1台はカルチの牽引部に設置し、除草機械と作物をアップで映し、トラクターが正確に畝に沿って走行していることを監視している(写真7)。これらのカメラにより、作業の精度が向上し作物を引っ掛けるなどのトラブルを回避することができる。

 また、トラクターには、前輪付近にマーカーを装着している(写真8)。マーカーの横位置は、カルチをかける作物の畝幅に応じて自在に調整できる。運転者は、このマーカーと作物畝が一致するようにハンドルを操作することで、正確にカルチ作業が行える。この他、作業をしやすくするため、キャビン内のディスプレーを目線の先に配置したり(写真9)、カルチの要所に蛍光テープを貼る(写真10)などの確認しやすくする工夫を行っている。これらの工夫により誰でもカルチ作業が行えるようになるという。

 三浦農場では、このように農業機械にさまざまな工夫を行うことで、カルチ作業を誰でも迅速かつ正確に行うことを可能としており、さらにはホー除草にかかる作業時間の大幅な削減も実現している。また、カルチ作業を繰り返し行うことにより、てん菜のほ場では除草剤の散布をやめることができ、7.5ヘクタールで約20万円の除草剤の購入経費の削減にも成功している。
 

3. GPSの普及に向けた課題

 GPSガイダンスシステムと自動操舵装置などの活用は大きなメリットを有し今後の普及が期待されるが、普及に向けた課題として以下の3点が挙げられる。

 1点目はコストである。自動操舵装置は約200万円と比較的高価であり、さらにVRSシステムを利用する場合、年間15万円程度の経費が発生することから、導入に当たっては、費用対効果を十分検証する必要がある。大規模な生産者であれば費用対効果も高く導入が可能であるが、小規模の生産者では導入の効果は検証が必要である。

 2点目はインフラの整備である。衛星からの位置情報の受信には基地局が必要となるが、地域によっては基地局の整備が遅れている。三浦氏は「今後、広範に普及するためには補助事業などによる基地局の増設などが必要である」と指摘している。

 3点目は、普及・指導体制の構築である。GPSガイダンスシステムと自動操舵装置などを有効に活用するためには、利用方法や効果などについて生産者に対して指導をしたり、生産者間で情報共有することが重要であり、そのための体制を構築することが必要である。

おわりに

 平成24年度の北海道における食料自給率は、カロリーベースで200%、生産額ベースで202%と、ともに200%を超えており、北海道はまさに日本の食料基地と言っても過言ではない。一方で農家戸数の減少が続き、近年、担い手の高齢化も進んでいる。農家戸数の減少に伴い規模拡大が進んでいるものの、今後さらなる規模拡大を図るためには、いかに作業を省力化し、労働時間を削減できるかが焦点となっている。

 てん菜の栽培は、育苗から収穫まで7カ月程度と長期間に及ぶ。育苗・定植が全体の労働時間の約4割以上を占めるなど、依然として移植栽培の比率が高いことが麦、大豆などの他作物に比べて投下労働時間が長い要因となっている。また、育苗・定植作業は4月のばれいしょのほ場準備などの作業と時期が重なっていることも、規模拡大の制約の要因となっており、特にてん菜については、他作物との作業競合を軽減することが重要であると思考される。

 今回の三浦農場の取材を通じて、北海道の畑作農業が一層飛躍するためには、いかに作業の省力化が必要であるかを痛切に感じた。特に、本稿で紹介したGPSや今後実用化されるであろうロボットトラクターと有人トラクターによる協調作業は、省力化を図る上で、生産者にとって有益な手段であると推察されることから、今後普及により労働時間が削減されることを期待したい。

 最後にお忙しい中、本取材にご協力いただいた三浦氏に厚く御礼申し上げます。
参考文献
三浦尚史(2015)「高精度GPS技術を用いた、新しい作業体系とロボットトラクター農業」『農家の友』(平成27年4月号)pp70-72. 公益社団法人北海道農業改良普及協会
三浦尚史(2015)「より多くの人が操作できればホー除草はかなり減らせる」『ニューカントリー』(2015年6月号)pp17-18. 北海道協同組合通信社
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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