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甘味資源作物生産の安定化に向けた取り組み

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最終更新日:2015年12月10日

甘味資源作物生産の安定化に向けた取り組み

2015年12月

札幌事務所 鹿児島事務所 那覇事務所

わが国の甘味資源作物生産の状況

 わが国における甘味資源作物の生産状況を見ると、てん菜は栽培農家戸数が減少を続ける中、1戸当たりの作付面積は拡大しており(図1)、経営規模の拡大が進んでいるが、他の作物に比べ投下労働時間が長いことがてん菜生産の安定化に向けて解決すべき課題となっている。近年、育苗・移植作業を必要としない直播栽培の作付面積が増加しているものの、全体の17.7%にとどまっていることから、投下労働時間の約4割を占める育苗・移植作業についても省力化などによる効率的な生産体制の確立が求められている。

 こうした中、北海道河西郡中札内村の有限会社真野(しんの)農場は、コンビネーション作業による整地やGPSの利用などにより作業の効率化を図るとともに、有機質肥料による土づくりや健苗育成・早期移植などにより、収量の安定化を実現している。
 
 一方、さとうきびは、栽培農家戸数の減少と農業従事者の高齢化が進行し、1戸当たりの収穫面積は微増傾向にあるものの、依然として1ヘクタール未満の小規模な生産者が大部分を占めている(図2)。さとうきびの安定生産に向けては、機械化一貫体系の確立・普及など、収穫作業の効率化による生産コストの縮減や地域の条件などに応じた作型の選択・組み合わせなどによる自然災害などに強い生産体制の構築などが求められている。

 こうした中、鹿児島県熊毛郡中種子町のきりしまさとうきび生産組合は、ハーベスタを共同で導入し収穫作業の効率化を図るとともに、収穫作業の受託により地域のさとうきび生産の安定化に貢献している。また、堆肥センターを運営することにより良質な堆肥を十分確保し、多量の肥料を必要とする株出し多収で早期高糖性の農林22号を栽培し、収量の安定化を図っている。

 また、沖縄県石垣市の當銘(とうめ)悟氏は、機械化一貫体系の確立と夏植えから春植え・株出し体系への転換により効率的な生産体制を構築し、夏期の作業受託やパイナップルの栽培により経営の安定化を図っている。

 本稿では、甘味資源作物生産の安定化に向けた意欲的な取り組みについて、北海道、鹿児島県、沖縄県の各生産地の事例を紹介する。
 

T. 健苗育成やコンビネーション作業により生産の安定化を実現
− 北海道河西郡中札内村 有限会社真野農場 −

1. 中札内村の概況

 中札内村は十勝平野の南西部に位置し、帯広市から約28キロメートルの位置にあり(図3)、村の西部は日高山脈襟裳国定公園となっている。総面積は2万9269ヘクタールで、そのうち1万6594ヘクタールが林野、7140ヘクタールが耕地である。平均気温は夏季の20度前後に対し、冬季がマイナス10度前後と寒暖差が大きいのが特徴である。北海道の中でも乾燥地帯であり、冬季には降雨、降雪が少なく「十勝晴れ」と呼ばれる晴天の日が続く地域である。

 中札内村の農業は寒冷型の畑作と酪農、養豚、養鶏などの畜産が主体である。耕地はすべて畑で、主要作物の小麦、ばれいしょ、てん菜、豆類に加え、近年はダイコンや枝豆などの野菜の作付けも増え、安定した輪作体系が展開されている。平成26年産におけるてん菜の生産状況は作付面積1107ヘクタール、生産量7万8763トン、10アール当たり収量7.1トン、平均糖分16.6%である。

2. 有限会社真野農場の概要

 有限会社真野農場(以下「真野農場」という)は現在の代表取締役である真野保氏の父によって昭和54年に法人化された。真野氏、妻、両親の家族4人で、てん菜、小麦、小豆、ばれいしょ(加工用、でん粉原料用)の畑作4品目と中札内村の特産である、枝豆とサヤインゲンをバランス良く取り入れた畑作経営を展開している。

 設立当初30ヘクタールであった経営耕地面積は、現在では約1.7倍の50.4ヘクタールと積極的に規模拡大を図っている。平成26年産の作物別作付面積は、てん菜12.7ヘクタール、秋小麦13.0ヘクタール、小豆6.7ヘクタール、ばれいしょ12.7ヘクタール(加工用4.5ヘクタール、でん粉原料用8.2ヘクタール)、枝豆4.0ヘクタール、サヤインゲン1.3ヘクタールである。畑作4品目と野菜による4年輪作を、小豆・でん粉原料用ばれいしょ→加工用ばれいしょ・枝豆・サヤインゲン→秋小麦→てん菜の順で実践している。

 てん菜は移植栽培を行っており、平成26年産の生産実績は、10アール当たり収量8.7トン、平均糖分17.9%、10アール当たり糖量1.6トンと中札内村や北海道の平均を超える高い成績を上げ(表1)、北海道と一般社団法人北海道てん菜協会が主催する「第4回(平成26年度)高品質てん菜生産出荷共励会」で最優秀賞を受賞した。

3. てん菜生産の安定化に向けた取り組み

(1)ほ場作業の効率化に向けた取り組み
ア. コンビネーション作業による整地

 整地作業は直播栽培では発芽を、移植栽培では苗の活着を早め、高収量につなげる上で効果的な作業の一つではあるものの、サブソイラ、スタブルカルチ、パワーハローといった大型機械を利用することから、最近では、これらの機械によるほ場への踏圧が課題となっている。真野農場はほ場の踏圧を防止するため、コンビネーション作業を4年前から導入している。大型トラクタのフロント部にスタブルカルチを、リア部にパワーハローをそれぞれ装着し、2工程の作業を同時に行っている。これにより2回トラクタ作業を行っていたものが1回に減少し、ほ場の踏圧の軽減のみならず、作業時間の短縮やトラクタ燃料費の節約など、整地作業の省力化が実現された。
 
イ. GPSを利用した畦切り、移植、防除
 近年、北海道ではGPSガイダンスシステムを利用したトラクタの自動操舵装置の導入が急速に進んでおり、課題となっていたGPSの電波を受信するための基地局の整備をJAが進めたことなどにより、中札内村においても導入が進んでいる。真野農場は、平成25年に自動操舵装置を導入し、畦切り、移植、防除作業などで利用しており、トラクタの操縦で必要な操作は、ほ場の枕地での旋回のみとなる。

ウ. 収穫時のセット作業
 真野農場は収穫作業を効率的に行うため、ハーベスタとトレーラーダンプによるセット作業を行っている。ハーベスタの横にトレーラーダンプが並走し、ハーベスタ後部の収穫かごから移し替えられたてん菜をトレーラーダンプが集積場まで運搬する。これによりハーベスタはてん菜の運搬のために収穫作業を中断することなく継続して行うことができるため、作業時間が短縮される。
 
(2)収量の安定化に向けた取り組み
ア. 有機質肥料による土づくり

 中札内村は平成19年、村内のバイオマス資源を活用した資源循環型農業を推進するため、「中札内村堆肥化センター」を整備し、村内のでん粉工場や酪農家から排出されるばれいしょの搾りかすや牛ふんの他、伊達市の養鶏場から排出される鶏ふんなどを利用した有機質肥料を製造し、地域の畑作農家に提供している。

 真野農場も平成20年より、同センターの有機質肥料を利用する他、小麦の収穫後に緑肥としてエン麦を栽培する際に、豚スラリー(液状肥料)を1トン施用するなど化学肥料に極力頼らない土づくりに取り組んでいる。この結果、てん菜栽培における窒素施肥量は、10アール当たり10キログラムと移植作業直前に同センターの有機質肥料を同2トンを施用するのみである。追肥については、葉色が多少薄くなることはあるが、生育が良好であるため行っていない。

 北海道農政部発行の「北海道施肥ガイド2010」によると、真野農場のほ場は「台地土」であるため、てん菜を栽培する場合の窒素施肥標準量は、10アール当たり17キログラムである。このことからすれば、真野農場がいかに化学肥料に頼らないてん菜生産を実現しているかが理解できる。また、化学肥料の削減は、濃度障害を回避する有効な手段にもなっている。
 
イ. 健苗育成と早期移植
 てん菜の収量や糖分を向上させるためには健苗育成が重要である。真野農場は、移植栽培において、健苗育成に向けてさまざまな工夫を行っている。

 1点目が播種作業の共同化である。真野農場は播種作業を近隣農家1戸と共同で行い、労働力を十分確保することができており、播種を短期間に集中して行うことが可能となっている。播種を短期間で行うことにより苗の生育進度が統一され、育苗期間中の管理を効率的に行うことができる。

 2点目が十分な育苗期間の確保である。一般的な育苗期間は45日程度とされているが、真野農場では、十分な生育期間を確保するために移植予定日から逆算して50日間を確保して、強い苗に仕上げている。

 3点目がきめ細かい管理である。徒長防止のため根切りを3〜4回実施するとともに、生育調節剤の使用や徹底した温度管理により、葉きり・剪葉を行わず斑点細菌病にかかりにくい苗を生産している。また、育苗期間中は1日に何度も育苗ハウスに出向き、製糖会社が作成する「健苗育成こよみ」に基づくかん水や温度調節を行っている。

 真野農場ではこのような工夫をして毎年2月末に播種、50日間の育苗の後、移植作業を北海道平均の4月30日よりも10日程度早い4月20日ごろに行っている。平成26年産の移植は4月22日、23日の2日間に行った。十勝地方では、同年4月下旬に強風・凍霜害が発生し、てん菜の被害は300ヘクタールと甚大であった。補植や直播への切り替えなどの対策が必要になったほ場も多く、中には他作物への転換を余儀なくされた事例も散見された。しかし、真野農場は早期に移植作業を行っていたことにより、移植された苗の活着が良好であったため、被害を回避することができ順調な生育となった。

 なお、栽植株数(株立本数)については、一般的な10アール当たり7000株としている。
 
ウ. 基本栽培技術の励行
 てん菜の生育において土壌の排水対策を適切に行うことが重要である。真野農場の周辺地域は村内でも排水性が悪いことから、平成12年から計画的に暗渠を施工しており、現在、経営耕地面積の約70%の35ヘクタールで完了している。また、毎年、サブソイラーにより心土破砕を行い、排水性の改善に努めている。

 この他、ほ場を2〜3日毎に巡回し生育状況などの確認を行っており、病害虫の初発を確認した際にはその都度防除を実施している。また毎年、土壌診断を実施しており診断結果に基づき、土壌改良剤を施用しpH調整を行うなど基本栽培技術を着実に励行している。

おわりに

 真野農場はてん菜生産の維持・拡大のために4年輪作を堅持しながら、有機質肥料による土づくり、健苗育成・早期移植、基本栽培技術の励行、ほ場作業の効率化に取り組んでいる。有機質肥料の施用による資源循環型農業の実践は地域の発展にもつながっている。

 真野氏は今後の経営方針について、「将来的には、経営耕地面積をさらに10〜15ヘクタール程度増やしたい。そのためには徹底した作業の省力化が必要である」と話す。畑作農業が盛んな中札内村では、後継者を確保している生産者が多いため、新たな農地の確保は難しい状況にある。真野氏は「積極的に農地の情報を収集するなど、可能な限り規模拡大を進めていきたい」と話す。また、作業の省力化に向けては、自動操舵装置を使用する作業範囲を広げていきたいと考えている。真野農場は北海道において、てん菜の省力化栽培を実現している優良事例であり、今後の経営展開が期待できる経営であると言えよう。

 昨今、てん菜は投下労働時間が長く手間がかかるという理由から、麦などの他作物に転換する生産者が増加する傾向にある中、真野農場のように効率的なほ場作業を行うことに加えて適切な健苗育成を行い、肥沃なほ場を作ることによって、移植栽培で安定的な収量を確保していくことが肝要であることが再認識される。直播栽培は育苗作業にかかる作業時間を削減でき、生産者が高齢化する中でメリットは大きいものの、春先の凍霜や強風により発芽率の低下を招くなど、移植栽培に比べ収量が14%程度低いと言われている。生産者は収量を安定させて、かつ労働時間を削減していくため、自らの地域や生産の条件に合った直播・移植の栽培方法の選択や技術体系の創意工夫が求められている。

 真野氏は「てん菜は収入が安定しているので今後も生産を続けたい。単収が高い移植栽培を続ける」と話しており、てん菜生産に対する意欲も高く年齢も36歳と若いことから、今後、地域の核として活躍されることを期待したい。

(札幌事務所 石井 稔、調査情報部 坂西 裕介)

U. 効率的な機械の利用と地域資源の有効活用により生産の安定化を実現
−鹿児島県熊毛郡中種子町 きりしまさとうきび生産組合−

1. 種子島の概況

 種子島は、奄美群島や沖縄へと続く南西諸島の最北部、鹿児島県本土から南に約115キロメートルに位置する(図4)。島の周囲は186キロメートルで西之表市、中種子町、南種子町の1市2町からなる。丘陵性の山地が連なる比較的平たんな地形から畑地が多く、温暖な気候を生かしてさとうきび、青果用・でん粉原料用かんしょなどの野菜、米、畜産など、さまざまな品目が複合的に栽培されている。

 特に青果用かんしょ「安納いも」は、全国的に知名度が高い作物であり、平成25年には「かごしまの農林水産物認証制度」(注)による認証を受けている。

(注)安心・安全な農林水産物を生産する生産者の取り組みを消費者に正確に伝え、鹿児島県産農林水産物に対する消費者の安心と信頼を確保するため、県が策定した安心と安全に関する一定の基準に基づいて、公益社団法人鹿児島県農業・農村振興協会が審査・認証する鹿児島県独自の認証制度。
 

2. 種子島におけるさとうきび生産

 種子島は、さとうきびが栽培されている鹿児島県の島々の中で、徳之島に次いで2番目に大きな栽培面積(平成26年産:2732ヘクタール)を有しており、県全体のさとうきび生産量の約30%を占めている。25年産における生産量は18万9485トン、生産額は40億3217万円となっており、生産量、生産額ともに島内最大の栽培作物となっている。栽培農家戸数についても、島内の農家数の約52%(注)を占めており、多くの農家にとって、さとうきびが経営の基盤になっていることがうかがえる。

 しかし、生産量は天候などにより増減を繰り返してきたが、平成22年産以降、度重なる台風の襲来、春先の低温、日照不足や多雨により、25年産を除いて平年に比べ大幅な減少が続いている(図5)。特に26年産は、平成に入り2番目に低い水準となる14万1641トンで、非常に厳しいものになっている。

 種子島におけるさとうきび生産の特徴は、春植えの割合が約28%と、県平均の22%と比べて高いことである。これは、島内のさとうきび生産者の間では、新植春植え→株出し(2〜3回)→でん粉原料用かんしょ、という輪作が一般的であり、でん粉原料用かんしょの収穫を秋に終え、冬にほ場の整備をした後、翌年の2〜3月に春植えの植え付けを行うことが体系として浸透しているためと考えられる。

(注)島内の農家数4688戸(2010農林業センサス)に占めるさとうきび栽培農家数2440戸(平成22年産)の割合


 

3. きりしまさとうきび生産組合の取り組み

(1)概要
 中種子町の竹屋野集落のきりしまさとうきび生産組合(以下「組合」という)は、機械化による規模拡大を目的として、さとうきび生産者5人により平成16年に設立された。現在の構成員は、後継者に道を譲った一人を除き、設立当初と変わっていない。

 構成員は、おのおのが手刈り収穫が規模拡大の障害になっていると早くから考えており、ハーベスタを共同で導入するために生産組合を立ち上げ、島内でも比較的早期の平成16年に1台を導入した。組合代表の鎌田保幸氏は、「手刈りではワンシーズンにどんなに頑張っても1ヘクタールしか収穫できない。しかし、ハーベスタなら30ヘクタールも収穫できる。ハーベスタなくしては、規模の拡大は難しい」と、ハーベスタの重要性を語る。

 構成員5人はいずれも専業農家で、さとうきびのみを栽培する一人を除き、畜産、でん粉原料用かんしょ、青果用かんしょなどとの複合経営を行っている。さとうきびは、組合全体で20.6ヘクタール(平成26年産)を栽培している。種子島の1戸当たりの平均収穫面積は約1.2ヘクタールであることから、栽培面積と収穫面積の違いはあるものの、構成員一人当たりでは島平均の3倍以上の面積を確保していることになる。



(2)さとうきび生産の安定化に向けた取り組み
ア. 効率的な機械の利用

 組合は、ハーベスタを利用して構成員のほ場の収穫作業(例年約20ヘクタール)の他、集落内の生産者を中心に、例年約5ヘクタールの収穫作業を受託しており、ハーベスタ1台で約25ヘクタールの収穫を行っている。構成員以外の生産者の収穫作業を受託することによって、ハーベスタの利用率を上げるとともに、これらの生産者の作業負担を軽減し、地域のさとうきび栽培の効率化に貢献している。

 一般的に、作業の受託を行う場合、受託者は依頼された作業を優先し、自身のほ場の管理作業や収穫作業が遅れてしまうことが多い。しかし、組合では、各構成員が平均以上の収穫面積を有する中、作業の受託を行っているにもかかわらず、構成員のほ場の収穫作業が遅れて支障を来すようなことはないという。構成員一人一人が効率良く組合の作業を行えるよう常に考えているだけでなく、定期的に収穫作業のスケジュール調整を行うことなどを通じて活発にコミュニケーションを取り合うことが、スムーズな運営の秘訣だと考えているとのことだ。

 また、構成員が平成15年に導入した株揃え機を、構成員全員で活用して収穫作業と併せて株揃え作業を実施している。株揃え作業を行うようになってから、機械導入以前と比較して萌芽数が2倍以上になることが判明したため、現在は収穫作業を受託するほぼ全ての生産者から株揃え作業も受託している。

イ. 地域資源の有効活用
 組合は種子島がさとうきびと並んで肉用牛の繁殖が盛んな地域であることを生かし、平成21年に堆肥センターを整備し、牛ふんと製糖工場から出るバガスを原料とした堆肥を生産している。

 もともと平成21年以前から、肉用牛農家でもある構成員3人は、化学肥料に加えて、土づくりのために堆肥をほ場に投入しており、その増収効果を実感していた。そこで、その効果を組合全体に波及させるために、堆肥センターの設立に踏み切った。

 堆肥センターは現在、肉用牛農家でもある構成員3人から入手した牛ふんと製糖工場から入手したバガス(いずれも無償)を原料に堆肥を生産し、構成員のさとうきびほ場のうち、新植春植えほ場などに約150トンを散布している。平成21年に組合内で散布を開始して以降、構成員全員が増収効果を実感していることはもちろん、JAが運営する堆肥センターから堆肥を購入する場合(定価:1トン当たり1万2500円)と異なり、実質労働力のみで生産、散布できるため、費用の負担を感じることなく、継続的に実施できることも大きな利点となっている。

 また、堆肥を使って育てられたさとうきびの梢頭部は、収穫後、牛の飼料として肉用牛農家に還元されており、組合の取り組みは耕畜連携による理想的な資源循環型農業を実現している。

 堆肥の利用は、さとうきび品種の選定にも影響を与えている。種子島で栽培されるさとうきびの約8割を占める農林8号は、構成員の栽培面積全体の5割程度で、残りは農林22号を栽培している。

 農林22号は、農林8号と比べて早期高糖性を備えており、12月に収穫することも十分可能な品種であるため、収穫期の初期からより高糖度のさとうきびを出荷することができる。一方、茎数が多くなることから、さとうきび全体に栄養を行き渡らせるために、多くの肥料を使う必要があり、肥料代がかさむ品種でもある。しかし、組合は、堆肥を用いた土づくりを行うことによって、肥料代を抑制しつつ農林22号を導入することに成功している。

 こうした取り組みを推進したこともあり、組合は、中種子町内の営農集団のリーダー的な存在としての活躍や、栽培面積の拡大、地域への貢献などが評価され、公益社団法人鹿児島県糖業振興協会が主催する「平成25年度さとうきび生産改善共励会」において、独立行政法人農畜産業振興機構理事長賞を受賞した。
 

おわりに

 今後の展望について、構成員は「規模拡大したいが、そのための土地が確保できない」と声をそろえる。種子島に限らず、鹿児島県の離島では、空いている農地が少ないことが規模拡大を行う上での課題になっている。農地の流動化は、農地中間管理事業などを通じて推進されているものの、土地の所有者が複数存在するなどの理由から、親族間での土地の貸借などが中心になっているのが現状である。

 組合では、活発なコミュニケーションによる効率的な機械の利用、堆肥センターの運営による土づくりの強化、農林22号の普及など、常に生産の安定化を目指し、生産プロセスのさまざまな部分で活発な活動を行っている。また、その他にも、作業受託農家に対する株揃え作業の実施など、周辺の地域や種子島全体のさとうきび生産の安定化に向けた活動も積極的に行っている。

 組合は、今後、さとうきび生産者の高齢化と減少が進む中でも、構成員の経営の安定化のみならず、ひいては種子島地域全体のさとうきび生産の安定化を目指し、地域のリーダー的存在として活躍していくことが期待される。

(鹿児島事務所 青木 和志)

V. 機械化一貫作業と作型の転換により生産の安定化を実現
− 沖縄県石垣市 當銘悟さん一家 −

1. 石垣島の概況

 石垣島は、沖縄本島から南西約410キロメートルに位置する、石垣市に属する島である。その石垣市は有人島の石垣島の他、13の無人島から構成されている(図6)。

 沖縄県第3位の面積(約222平方キロメートル)を有し、北部から中部にかけては標高525.5メートルの於茂登(おもと)岳をはじめ、標高200メートルから400メートルの山地からなり、比較的平たんな南部が行政機関や商業施設が多く立地する地域である。主な産業は、農業、漁業、畜産業、観光業であるが、近年は新石垣空港の開港で利便性が向上し、観光業をはじめ、卸売業、小売業、サービス業も盛んになっている。

 年平均気温は24.6度で、1月でも月平均気温が18.5度と非常に温暖である。また、島の大部分には強酸性土壌の国頭マージが分布しており、さとうきびやパイナップルといった作物の栽培が盛んである。
 

2. 石垣島の農業とさとうきび栽培

 耕地面積約5400ヘクタールのうち、水田が325ヘクタールで全体の6%、畑が5070ヘクタールで全体の94%を占めている。また、農業産出額のうち最も多いのは、肉用牛で全体の57.0%、次いでさとうきびが15.7%、パイナップルが4.6%と続いており、石垣島の農業は肉用牛とさとうきびに大きく支えられている(図7)。



 また、さとうきびの生産量は、平成23年産の全県的な不作により落ち込んだものの、24年産以降は回復し、26年産は8万163トン、10アール当たりの収量(以下「単収」という)は6トンとなっている(図8)。



 さとうきびの作型別収穫面積の割合は、平成26年産では夏植えが全体の51.0%を占め、次いで株出しが33.2%、春植えが15.8%と、毎年、収穫が可能な株出しと春植えが県平均と比べて少ないことが特徴である(図9)。
 

3. 當銘家のさとうきび栽培

 當銘家のさとうきび栽培は、現在経営の中心を担っている悟氏の父親である幸榮(こうえい)氏が昭和32年に沖縄本島から入植したことに始まる。悟氏は、高校卒業後に就職した地元の農業協同組合初のハーベスタオペレータとなり、さとうきび栽培の基礎を身に付けた。その後、平成11年、25歳のときにさとうきびとの兼業を始め、20年に、さとうきびの規模拡大を契機に農業協同組合を退職して専業農家となった。

 現在は家族4人に通年雇用の臨時職員1人を加えた計5人で経営を行っており、父の幸榮氏が堆肥製造などの土壌管理を、母の千鶴子氏がパイナップル栽培と経理などの事務を、次男の悟氏がさとうきび栽培全般と機械管理を、勤め先を辞め4年ほど前に就農した長男の幸洋氏と臨時職員が悟氏の補助をそれぞれ担当している。繁忙期の1月から4月の間は、臨時職員をさらに3人雇用して収穫作業に当たっている。



 當銘家が栽培するさとうきびの品種は、やや太茎で脱葉性の良い高糖多収品種の農林27号、早期高糖品種で株出し多収性のある農林22号、伸長性に優れた多収品種の農林25号の3品種で平成26年産の収穫面積全体の95.3%を占めている(図10)。



 當銘家のほ場は島の南西部に位置し、現在、16.6ヘクタールの自家所有農地の他、15.0ヘクタールの農地を借り受けている。収穫面積は年々拡大しており、さとうきび生産量も順調に増加している。単収も、平成23年産以降は石垣島全体の平均単収をおおむね上回る形で推移している(表2)。
 

4. さとうきび生産の安定化に向けた取り組み

(1)機械化一貫作業による適期管理
 當銘家は、悟氏がさとうきび栽培の中心的な役割を担い始めた頃から農地を借り受け規模拡大を図ってきたが、基幹作業のほとんどを手作業によって行っていたため作業効率が悪く、作業を委託する場合も、委託先が作業を請け負う他のさとうきび農家との日程調整などの兼ね合いもあり、自分が希望する時期に作業を行ってもらうことが難しかった。

 このことから適期栽培管理を行うため、平成17年の中型ハーベスタの導入を皮切りに、自己資金や農業協同組合の融資を活用して中古機械を導入し、悟氏が考える栽培スケジュールに沿った管理が行えるようになった(表3)。

 特に、中型ハーベスタの導入による効果は大きく、それまで支出していた1トン当たり4000円の委託料が節減できたことに加えて、登熟度に合わせた計画的かつ柔軟な収穫が可能となった。機械の自己所有では、機械の購入経費に加えて維持管理経費や手間が発生するが、「コストよりも、自分が計画したスケジュールに基づいて適期に効率良く作業ができる方が重要だ」と悟氏は作業上のメリットを強調している。

 収穫面積は、機械による基幹作業が軌道に乗った平成24年産以降、耕作放棄地となっていた農地を借り受けて、自ら重機を操作して耕起・整地し、規模を順調に拡大してきている。



(2)作型の転換による農地の有効利用
 かつて、當銘家のさとうきび栽培は夏植えが中心であったが、2年1作の夏植え中心では収入が不安定であったことから、悟氏は、利益率を上げていくためには農地の利用効率を上げることが不可欠であると考え、平成19年ごろから1年1作の春植えと株出しへの転換を徐々に始めた。当時、石垣島製糖株式会社(以下「石垣島製糖」という)が株出し栽培の管理や土壌害虫の防除技術などの普及を推進していたことも悟氏の作型転換の決断を後押しした。

 平成26年産では、春植えが51.4%、株出し35.7%、夏植えが12.9%と、石垣島の平均と比較すると、當銘家は春植えと夏植えの比率が逆転していることが分かる(表4)。

 悟氏は、作型の転換に当たって、栽培技術の見直しも行った。収量向上のためには苗の品質が重要な条件だと考え、それまで外部委託していた苗の栽培を始め、良質な苗を自分で選抜するようにした。また、発芽不良のほ場には補植を必ず行ったり、一般的には深さ50〜60センチメートルとされる心土破砕を2メートルまで掘り下げるなど、必要な手間は惜しまないことで単収の向上に努めてきた。また、幸榮氏が中心となって土づくりにも力を入れた。幸榮氏が就農した当初から化成肥料を利用してきたが、化成肥料の価格が高騰し始めたことをきっかけに、平成元年以降は鶏ふんなどの有機肥料を利用し始め、現在は、島内の畜産農家から牛ふんを、石垣島製糖から収穫後のさとうきびの葉がらを無償提供してもらい、それらを混ぜ合わせて堆肥を製造し、肥料代を節減している。



(3)副収入源の確保による経営の安定化
 上記の取り組みは、夏期の作業時間の節減につながり、さらにその成果が當銘家に二つの副収入源をもたらした。

 一つ目は、作業受託による収入である。機械の自己所有や作型転換の取り組みが軌道に乗ったことで、平成24年ごろから近隣のさとうきび農家の耕起、整地、夏植えの植え付け、株出し管理などの基幹作業を本格的に受託し始めた。現在は、當銘家の作業の丁寧さが口コミで広まり、近隣の兼業農家や高齢農家を中心に、約20ヘクタールを受託している。作業受託を始めたことで年間を通じて一定の収入が得られ、それまでは繁忙期のみだった臨時職員を通年で雇用できるようになり、雇用の都度かかっていた人材育成のコストも削減することができた。さらに、作業受託を通じて他の農家の農地の様子や肥培管理の方法などを観察したり、栽培技術などの情報を交換したりすることで、参考になる手法を積極的に取り入れて自身の栽培技術を磨くことができている、と悟氏は実感している。

 二つ目は、石垣島の酸性土壌を生かした特産品のパイナップルの栽培による収入である。パイナップルは5月から8月ごろにかけて植え付け、3年後の5月から9月ごろに収穫される。當銘家では、幸榮氏が就農した当初、干ばつに強い作物としてパイナップルを栽培していた経験を持つ。しかし、さとうきびの規模拡大によりパイナップル栽培にかける時間の確保が難しくなったことからパイナップル栽培をしなくなっていた。

 現在では、パイナップルの繁忙期である夏期に時間の余裕が生まれたこと、島内で生食用パイナップルの販路が確立されてきたことから、千鶴子氏が中心となって約1ヘクタールの農地で栽培を再開し、26年度は生食用として約8トンを沖縄県農業協同組合に出荷している。また、パイナップルの栽培は、さとうきびと交互に植え付けることで、さとうきびの連作障害による収量低下の抑制にも役立っている。

おわりに

 當銘家では、夏植えから春植えと株出しへの作型の転換だけでなく、作業機械の導入もほぼ同時期に並行して行ったことで、省力化によって生まれた時間の余裕と生産資源をより有効活用できる環境が整備され、コスト削減と規模拡大、副収入源の確保につなげることができたと考えられる。

 悟氏は、「今後も家族それぞれが得意分野を生かしながら力を合わせて効率良く作業を分担し、さとうきび栽培、さとうきびの作業受託、パイナップル栽培にバランスよく取り組み、主力のさとうきびの基盤をより安定したものにしていきたい」と意欲を語ってくれた。

 本稿で紹介した當銘家の取り組みが、家族経営での規模拡大や副収入源の確保によって経営安定を目指す生産者の参考となり、さとうきびの増産につながっていくことを期待したい。

(那覇事務所 和田 綾子、石丸 雄一郎)

 

 最後にお忙しい中、取材にご協力いただいた真野保氏、鎌田組合長をはじめ、きりしまさとうきび生産組合の皆さま、當銘家の皆さま、関係者の皆さまに厚く御礼申し上げます。

【参考資料】
・独立行政法人農畜産業振興機構「日本のさとうきび品種」 (2015/10/7アクセス)

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