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チョコレートと砂糖のおはなし

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最終更新日:2016年2月10日

チョコレートと砂糖のおはなし

2016年2月

日本チョコレート・ココア協会 専務理事 原田 英明

1. チョコレートの歴史と砂糖との出会い

 チョコレートの歴史は約4000年にも及び、コーヒーや紅茶が登場するはるか昔から人間の生活と密接な関わりを持っていた。

 チョコレートの主原料である「カカオ」のルーツはメソアメリカ(現在のメキシコおよび中央アメリカ北西部)であり、紀元前2000年ごろからのマヤ文明やアステカ文明などの時代にカカオは食用以外にもさまざまな役割を担っていて、通貨や万能薬としても利用され、生活の中心的存在であった。

 最初、食用としてのカカオの役割は「飲むチョコレート」であった。すりつぶしたカカオ豆に水を加え、さらにトウモロコシの粉やトウガラシ、数種のバニラを混ぜて泡立てたもので、ドロドロしたスパイシーな飲み物であり、当時は「カカワトル」と呼ばれていた。

 このカカワトルは16世紀にスペイン人のコルテスによってアステカ(現在のメキシコ中央部で栄えた国家)からスペインに持ち帰られ、その後ヨーロッパ各地に広がっていった。

 スペインでは飲み方がいろいろ工夫され、お湯で溶かして砂糖を加える「甘くて温かい飲み物」に変わっていった。こうしてチョコレートと砂糖のお付き合いが始まったのである。

 17世紀に入ると、徐々にスペインから国外にその製法が伝わり始め、英国やフランスにも伝わり、英国では王侯貴族だけではなく、「チョコレートハウス」という専門のお店で一般庶民も飲むことができるようになった。

 その後19世紀に入ると、オランダ人のバンホーテンによる低脂肪のココアパウダーなどの発明により一層おいしく飲めるココアが登場する。

 そして19世紀半ば、英国の会社がカカオのペーストに砂糖を混ぜ、さらにココアバターを加えるなど配合を工夫することによって「食べるチョコレート」が誕生することとなった。

 一方、日本にチョコレートが伝わった時期は定かでないが、18世紀終わりごろではないかと言われている。長崎の著名な遊女町であった丸山町・寄合町の記録によると、長崎で遊女がオランダ人よりもらい受け届け出た中に「しょくらあと 六つ」との記載がある。

 明治時代になると、海外からチョコレートが輸入されるようになるが、高価なぜいたく品であり、庶民には高嶺の花であったようである。

 日本で初めてチョコレートを加工、製造、販売したのは、東京両国の風月堂と言われており、明治11年のことである。当時チョコレートは「猪口令糖」「貯古齢糖」などと漢字で表記されていた。

 その後チョコレートの一貫製造は、大正7年に森永製菓で開始され、次いで大正15年、明治製菓でも行われるようになった。

2. 日本ならびに世界におけるチョコレート事情

 チョコレートは、お菓子の分野にとどまらず多くの食品分野で活用されており、大変裾野が広いジャンルである。世界のチョコレートの需要を主原料のカカオ豆の磨砕量という形で見てみると、年々伸びてきている(図1)。

 ヨーロッパを中心とした本来の需要国に加え、新興国と言われる国においても需要が伸びてきており、これに対するカカオ豆の供給は少しずつ厳しくなってきている。
 
 一方、日本におけるチョコレートの需要を見てみると、国民一人当たりの消費量は年間2.2キログラムであり、最大消費国である欧州と比べると大きな差がある(図2)。
 
 ドイツ、スイスの消費量は国民一人当たり年間10キログラムを超え、その他の欧州各国もかなり多い量である。日本が少ない理由はいろいろあると思うが、一つは日本の食文化にあると思われる。

 日本では昔から和菓子、米菓など伝統的な菓子が多くあり、欧米に比べて西洋菓子の消費は少ないと推察される。

 また欧米では食後のデザートとしてチョコレートケーキなど甘いものがよく食べられており、それも欧米の消費量が多い理由かと思われる。

 だが日本でもここ数年、チョコレートの生産金額は右肩上がりである(図3)。
 
 好調な要因は、カカオの健康効果が、広く浸透してきたことが大きいと思われる。

 カカオに含まれるカカオポリフェノールは、抗酸化作用による心臓病のリスク低減、動脈硬化の抑制作用や、肥満すなわち脂肪蓄積を抑える生活習慣病の予防効果、脳機能の改善効果などがあることが研究成果として報告されている。また、抗菌、ストレス抑制、冷え症改善、便性改善などにも効果があるという研究も進められている。

 日本チョコレート・ココア協会でも、チョコレートやココア、また原料のカカオの持つ栄養や機能についての学術的な研究発表の場として、1995年から「チョコレート・ココア国際栄養シンポジウム」を毎年開催し、カカオポリフェノールの持つ医学的な効果や、チョコレート・ココアの持つ心地よい味や香りの機能などについて、大学や研究機関の方に研究発表をいただいている。

3. チョコレートにおける砂糖とは

 砂糖の用途別消費動向を見てみると、菓子の割合が一番高く、全体の28%にも及ぶ。そうした中でチョコレートと砂糖の関係も非常に深く、ほとんどのチョコレート製品では、原材料の中で砂糖が一番大きなウェイトを占めている。また多種多様な甘味料の中で、砂糖は非常にチョコレートにマッチした甘味料であると言われている。

 チョコレートに使われる砂糖は、メーカーの方針などによりさまざまであり、甘しゃ(サトウキビ)糖を主に使っているケースやてん菜糖と甘しゃ糖の両方を使っているケースなどいろいろあるようである。いずれにしても自社のチョコレートの味に最適な砂糖を選択していると言える。

 上記シンポジウムの中では、砂糖の機能についても併せて研究発表が行われており、英国ウェールズ・スウォンジー大学のデビッド・ベントン教授の発表によると、「脳では糖がエネルギー源となり、数々の実験を通して糖が記憶力、認識能力、思考力などの維持・活性化に大きな役割を担っている」と指摘している。

 また「チョコレートを食べると太る?」といった誤解を解く発表も行われている。

 東北大学の木村修一名誉教授の発表によると、摂取するトータルカロリーを同じにした条件下では、一部の食品成分をチョコレート成分に置き換えても体重増加や体脂肪の蓄積にほとんど影響しないことが確認された。すなわち、チョコレートの成分の中に特に肥満を起こす物質があるとは言えないと結論付け、「肥満の要因は消費エネルギーより摂取エネルギーが高いというエネルギーバランスの問題が大きい」と指摘している。

 優れた栄養素を持つカカオのパートナーとして、砂糖は不可欠なものである。

 今後もこうした活動によって、チョコレートや砂糖の正しい知識が普及し、誤解が払拭(ふっしょく)されていくことを期待したい。
 
【参考文献】
「チョコレートの事典」成美堂出版
「日本都市生活史料集成 第七巻 港町編U」学習研究社
「精糖工業会資料」
「チョコレート・ココア国際栄養シンポジウム講演集」日本チョコレート・ココア協会
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