サブテーマである「持続可能な砂糖生産に向けて」として、「てん菜生産の効率性」や「持続可能性」について、各国・企業の取り組みが紹介された。英国、フランスなどのEU加盟国からは、2017年9月末の砂糖政策の変更に伴う砂糖の生産割当廃止を見据えた砂糖の安定生産について、また、実需者である食品メーカーからは、製糖企業へ持続可能な砂糖生産を求める報告があった。
(1) てん菜糖生産者
ア. 英国、ドイツ(報告:英国農業者連盟、ドイツゲッティンゲン大学)
英国では、2007/08年度から2014/15年度の間に、てん菜生産者数が約5000人から約3500人に減少した一方で、てん菜生産量は約700万トンから約930万トンに増加しており、1戸当たりの生産規模が拡大している。毎年2%程度のてん菜の増産を達成しており、その要因として、 1)品種改良(病害虫抵抗性品種など)の進展、 2)播種管理技術の向上、 3)栽培密度の観測などを行う英国てん菜調査機関の活動を挙げた。今後の増産に向けて、生産者が再生産可能なてん菜価格の設定の他、運搬作業などサプライチェーンの効率性向上など、生産者と製糖企業の相互自立と発展が重要とした。
ドイツでは、農業政策にかかる指導指針として、「持続可能な生産体制の強化」が提唱されている。量、質ともに食品生産を発展させるとともに、資源の保護に最大限努めることが重要な目標とされている。大学などの研究機関も含めた産学連携のバイオテクノロジーの発展によりEU域内のてん菜の生産性を向上させることで、世界の砂糖需要増加に適応することができるとしている。
イ. 米国(報告:米国てん菜生産者連盟(ASA))
米国で生産されるてん菜は、現在、その大部分が遺伝子組換え(GM)品種である。米国てん菜生産者連盟(ASA)によれば、年度ごとの生産性向上は、従来品種が1ヘクタール当たり約0.8トンだったのに対し、GM品種は、同約1.3トンであるという。
また、GM品種の利用により環境保護に資する利点として、除草剤使用量の低減による土壌や水質の保護、病害虫対策の薬剤使用量の低減などがあるとしている。また、生産性向上に資する利点として、安定的な収量の確保に加え、除草作業回数の低減による生産コストの削減を挙げている。
ASAによる報告の一方で、米国国内では、食品原料のGM化に反対する消費者運動が高まっている。現在、米国では、GM表示は義務化されていないが、2014年には、全米で初めて、バーモント州でGM表示の義務化法案が州議会を通過し、2016年7月に施行される予定である。これを受けて、連邦法の栄養表示ラベル法との整合性や製造コストの上昇に伴う価格転嫁への懸念などが議論されている
(注1)。なお、スープブランドで有名な米国最大手食品メーカーのキャンベル社は、2016年1月、政府の決定を待たず、自社製品へのGM表示を実施することを発表した。
また、現地報道によれば、国内最大手の菓子メーカーであるハーシー社は最近、ミルクチョコレートなどの製品に使用する砂糖について、全て甘しゃ糖に切り替える方針を示した。同社は、多くがGMトウモロコシを原料とする国産異性化糖とともに、現在ほぼ100%がGM種子由来である国産てん菜糖の使用を停止することにより、消費者からの要請に応えた形をとった。
GM種子を導入した2008年以来、てん菜生産量を飛躍的に増加させてきた生産者にとって、非GM種子への切り替えは容易ではないとみられている。ハーシー社の動きに他の食品メーカーが追随するかどうか、食品業界の動向が米国のてん菜生産や関連事業者に与える影響が注視される。
ウ. フランス(報告:製糖グループCrystal Union社)
フランスの大手製糖グループであるCrystal Union社は、合計14万ヘクタールでてん菜を生産する約1万人の生産者と契約し、国内12カ所の砂糖・エタノール工場で150万トンの砂糖と65万キロリットルのエタノールを生産している。
同社は、欧州てん菜糖持続可能性パートナーシップ(EU BSSP)
(注2)に参画し、持続可能な砂糖生産に向けた取り組みを実践している(
表4)。新品種の開発や病害虫対策、収穫後の貯蔵技術などの調査・研究などにより生産者を支援し、真に持続可能な生産体制の構築に向けた技術を高めている。この他、一部の製品パッケージにサトウキビ由来のバイオプラスチックを利用するなどの試みも行っている。
(注1)2015年7月には、国内で統一した食品表示を求める法案(これにより各州のGM表示義務化法を無効とすることもできる)が予算案の付加条項として下院を通過したものの、同年12月、上院議会の予算案から削除され、実質上の廃案となった。現地報道によれば、2016年1月現在、農務省がGM表示に関して利害関係者との意見交換を行っている。
(注2)2013年に、欧州てん菜生産者連盟(CIBE)、欧州砂糖製造者協会(CEFS)および欧州食品・農業・旅行労働組合連合(EFFAT)が組織した。コラム1で詳述する。