前述の通り糖尿病の増加は世界的に問題になっている。そして砂糖摂取と糖尿病の関係を疑う意見も多く出されている。われわれは中高年男性と若年男性に蔗糖、ブドウ糖を投与し、さまざまな血液の変化を調べた。
グリセミック・インデックス(GI)はJenkinsら
2)によって提唱されたもので、食べ物の血糖値上昇能の指標とされる。しかし、Woelver,T.M.S and Bolognesi,C.ら
3)が示したように血糖値は食品により異なる。つまり含まれるブドウ糖の量だけでなく、どのような食品であるかによりGIは異なるのである。
われわれは、構造のはっきりしている蔗糖とブドウ糖を投与し、GIが年齢により異なることを示した(
図3、
4)。また蔗糖はブドウ糖の半分しかブドウ糖を含まないのに血糖値の上昇は、ブドウ糖の50%以上である。つまり、同じ量のブドウ糖を含む食品でもその種類により血糖値上昇能は異なるのである。
特に若年男性の場合、ブドウ糖投与による血糖値の上昇はインスリン分泌の上昇で抑えられるのに、蔗糖投与の場合にはブドウ糖投与と同じくらい(82.8%)血糖値が上昇した。このことはGIの測定に関して、年齢や食品の種類に注意を払う必要があることを示している。
さらに重要なことは、糖尿病になりやすい中高年男性において、蔗糖摂取がブドウ糖に比べ血糖値の上昇が低いことである。一般に砂糖、つまり蔗糖を摂取すると血糖値が急上昇し、それが糖尿病の一因になると言われる。しかし、今回の研究は蔗糖摂取が血糖値を異常に高めないことをはっきりと示している。
蔗糖摂取は肥満をもたらし、血糖値を上げ、糖尿病の一つの特徴とされる脂質異常をもたらすのだろうか。
図9、
10、
11に示すように、中高年男性、若年男性の蔗糖や甘味飲料水の摂取はBMIにも血糖値にも、中性脂肪の量にも影響を与えなかった。
特に重要なことは空腹時血糖値である。甘いもの、つまり蔗糖を多く摂取する人が、それだけで常に血糖値が高くなるとは言えな い。糖尿病の高血糖には別の因子があることを示している。これらのことは蔗糖などの摂取が糖尿病を引き起こす重要な因子であることを否定するものと思われる。
しかし、なぜ蔗糖が若年者で血糖値を高めるのだろうか。
最近Suez,J.ら
4)は、人工甘味料が腸内細菌に作用して、血糖値を高めることを示した。つまり、甘さが血糖値を高めるのである。彼らはマウスに5週間、サッカリンを投与し、血糖値を測定した。すると
図12左図に示すようにサッカリン投与の場合の方がブドウ糖投与の場合よりも血糖値が高くなったのである。これが腸内細菌によるものである可能性を調べるために、抗生物質を投与しサッカリンを与えた。すると
図12右図に示すように抗生物質を投与した後にサッカリンを与えても血糖値はブ ドウ糖投与以上に高くならなかった。さらに彼らはサッカリン投与後のマウスの糞便を採取し、これを正常マウスの腸内に与えたところ、サッカリン投与で血糖値は高まったのである。
つまり、サッカリンのような甘味そのものが血糖値を高める可能性があるのである。このことは蔗糖の代わりにサッカリン、その他の人工甘味料を摂取すると腸内細菌に変化を与え、ブドウ糖を腸内で大量に作り出し、これが腸管から吸収され血糖値を高めることを意味する(
図13)。血糖値の上昇を防ぐために人工甘味料を摂取することは逆効果であることが示されるのである。
一方、若年者で蔗糖投与がインスリン分泌を増加させることについて、Just,T.ら
5)は甘味の刺激が脳を介してインスリン分泌を増加させることを示している。これらの研究は血糖値の上昇には今まで考えられていた因子以外の多くの因子が関与していることを示していて、今後の解明が待たれる。