ISSCTアグロノミーワークショップ 南アフリカ大会参加報告
最終更新日:2016年4月11日
ISSCTアグロノミーワークショップ
南アフリカ大会参加報告
2016年4月
クムパワピーシュガー(現・三井製糖株式会社) 谷田部 治
クムパワピーシュガー 神谷 朝博
【要約】
南アフリカで行われた国際甘蔗糖技術者会議(ISSCT)の農業技術・農学・拡張ワークショップに2015年8月24日から28日に参加した。ワークショップでは主にアフリカ地域を中心として世界各地からサトウキビに関する技術者が集まり、「サトウキビ資源の持続的な利用」をテーマとして4日間にわたりディスカッションとエクスカーションが行われた。
はじめに
サトウキビに関する会議としては世界最大級となる1924年から続く国際甘蔗糖技術者会議(ISSCT:International Society of Sugar Cane Technologists)の農業技術・農学・拡張ワークショップに2015年8月24日から28日に参加した。
本ワークショップは3年に1回行われるISSCT本大会の間に分野ごとに開かれるもので、今回は南アフリカのサトウキビ主産地であるクワズール・ナタール州のダーバン近郊のソルトロックで開催され、「サトウキビ資源の持続的な利用」をテーマとした意見交換がなされた。大規模な本大会とは違いこぢんまりしたものかと思いきや、参加者は南アフリカをはじめとして、セネガル、ザンビア、ジンバブエなどアフリカ大陸からと、ドイツ、米国、フランス、豪州、ブラジル、タイなど合計26カ国から総勢131名が参加し、この分野に対する各国の注目度の高さが表れるものであった。タイからはわれわれクムパワピーシュガーの2名とタイ甘蔗糖技術者会議(TSSCT:Thai Society of Sugar Cane Technologists)Kitti会長の合計3名が参加した。日本からの参加者はなかった。
1.南アフリカの製糖事情
南アフリカのサトウキビ生産は、主に4月から12月に行われており、8月は製糖真っただ中であった。生産量については1990年代半ばに数量割当制度が段階的に廃止され、生産に関する規制が緩和された後、拡大傾向で推移したが、2000年ごろから 1)サトウキビ生産の収益性低下、 2)農地取得に対する投資不足、 3)宅地への転用に伴う都市化、などにより2010年ごろまで縮小傾向にあった。現在では粗糖価格の値上がりを主な要因として、各工場の拡大政策により再び増加傾向が見られる。
作付面積は2004/05年度(4月〜翌3月)の43万5000ヘクタールをピークに減少傾向が続き、2009/10年度は39万1000ヘクタール(2004/05年度比10%減)まで減少したが、2014/15年度には43万ヘクタールまで回復した。また、生産量についても、一時は作付面積の増加と単収の向上により増加し、2000/01年度は2390万トンにまで達したが、作付面積の減少に伴い、2009/10年度は1870万トン(2000/01年度比22%減)まで落ち込んだ。現在では前述のように生産量が回復し2013/14年度には2003万トンとなっている。
南アフリカのサトウキビ生産の制約要因として、 1)水の制約からサトウキビ栽培面積の拡大余地が少ないこと、 2)主産地であるクワズール・ナタール州は天水に頼る上、特に傾斜地が多いこと、 3)雇用確保という政治的な観点から収穫作業の機械化を行いにくい環境にあるため、収穫の効率化を通じた規模拡大やコスト削減は難しいこと、 4)主要な砂糖輸入国から地理的に離れているため、海上運賃の上昇による不利益を被りやすいこと、などが挙げられる。
2.エクスカーション
エクスカーションは8月25日と27日に行われ、1日目はソルトロックから北東に100キロメートルほど離れたリチャーズベイ地域にある機械メーカーのBELL Equipment社と大規模農場を経営するUmhlatuzi Valley Sugar社、2日目はソルトロックから50キロメートルほど西にあるノーズバーグ地域の小規模農家地域および試験農場、大規模農家であるHillermann Brothers Farmを訪問した。
(1)BELL Equipment社
BELL Equipment社(以下「BELL社」という)はIrvine Bellと共同創設者であるEuniceが第二次世界大戦終戦から数年後に南アフリカのズールーランドで創立した機械メーカーである。戦時中、陸軍のエンジニア隊に所属していたBellは、戦時中に身に付けた自身のスキルを生かし、Willys Jeepのエンジンを使った家庭の井戸用のボーリング機を開発した。
それから2年後、農業機械の修理サービスをクワズール・ナタール北部のサトウキビ栽培地域で開始した。機械の修理業務は軌道に乗り、1958年にBellは子会社として新しい修理工場を設立し、事業を拡大した。その後、Bellは地元農家のために、ローディングトレーラーや輸送クレーンなどさまざまな機械を発明し、その製造、販売、アフターサービスを行った。
1960年にはサトウキビの収穫作業の効率性を改善するために、3輪のケーンローダーを開発した。この3輪のケーンローダーは、前方の左右2つの車輪が個別に駆動できるため、簡単な操作でほ場内の旋回を可能にした。この3輪のケーンローダーはBELL社の代表的な製品となり、現在でも生産され、世界中で使用されている。現在、タイでも3輪タイプのケーンローダーは広く使用されている。
今回のエクスカーションではリチャーズベイ地域にあるBELL社の工場を見学した。もともとは農機メーカーとして始まったBELL社だが、現在、主力商品は採鉱・採掘現場で使用されるダンプトラックやバックホーなどの重機となっている。工場の製造ラインでは、材料から製品までの流れに沿ってセクションが設けられており、それぞれの細かい工程ごとに専門の担当者を配置することで、熟練した作業による効率化とミスの防止を図っていた。作業員の7〜8割は地元出身者で、BELL社では地域の雇用確保のため、技術指導などの援助も積極的に行っているとのことであった。
(2)Umhlatuzi Valley Sugar社
Umhlatuzi Valley Sugar社(以下「UVS社」という)は1910年に創立した115年の歴史を持つサトウキビ生産会社である。最初の60年は11カ所の農場を併合した、16万〜18万トンの収穫能力があるサトウキビ農場を経営していた。今日ではUVS社は45万トンの収穫能力がある5210ヘクタールのサトウキビ農場と、725ヘクタールの材木林、290ヘクタールのマカデミアナッツ農場を経営している。UVS社の農場は徹底した栽培管理によって安定した収量を得ることに成功しており、今回のエクスカーションではUVS社が行っているさまざまなオペレーションを見学した。
複数の地域に存在するUVS社の農場だが、今回訪れたのはダーバンの町から海岸沿いを約170キロメートル北に行ったところにあるリチャーズベイ近くの総面積2508ヘクタールの農場である。近くにはFelixton製糖工場があり、そこにサトウキビを供給している。
ア.主要栽培品種
この地域は、乾燥地域で砂質土壌のため、それらの条件に適した下記の品種が用いられている。N39という品種がこの農場では主要品種として最も栽培されており、シェアは20〜30%を占めている。その他、N19やN41といった早熟性品種を組み合わせ、4〜12月の長い収穫期をカバーしている。
- N39 砂質土壌で乾燥地域に適している。収穫時期は7〜12月。
- N19 かんがい地域や乾燥地域に適している。早熟性品種で収穫時期は4〜8月。
- N41 幅広い環境に適応。早熟性品種で収穫時期は4〜10月。
- N35 乾燥地域に適している。収穫時期は8〜12月。
- N36 かんがい地域や乾燥地域に適している。収穫時期は5〜11月。
イ.UVS社の最新栽培体系 Better Management Practices(BMPs)
UVS社の農場では、広大な土地と豊富な資金力を生かし、南アフリカで最も革新的な栽培管理を実施している。UVS社は2007年にほ場内における車両の交通管理を始め、車両の規格に合わせるため、畦幅はすべてのほ場で1.8メートルに統一している。
かんがい設備はセンターピボット式かんがいが881ヘクタール、点滴かんがいが173ヘクタールあり、それらはすべて土壌水分観測システムによって管理され、過剰なかんがいによる水分のロスを減らしている。
窒素の添加は、かんがい地ではセンターピボット式かんがいや点滴かんがいで1シーズン3〜5回、非かんがい地域は1シーズン3回行われている。施肥に関しては、各ほ場ごとに土壌分析を行い、それぞれの組成に合った施肥を計画的に行っている。
ウ.ローディング現場の見学
フィールドツアーでは最初に収穫後のほ場におけるローディング作業の見学を行った。収穫時期は4〜12月で、すべて焼けキビの手刈りによる収穫が行われているとのことであった。収穫後のサトウキビは畦に沿って並べられSlew loaderと呼ばれるアーム回転式の4輪ケーンローダーによって併走するトラックに積み込まれる。タイで一般的に使用されている3輪のケーンローダーよりも、ほ場内での移動面積が格段に少ないため、踏圧による株へのダメージを最小限にすることができる。
エ.CMSによるカリウムの添加
次にCMS(Condensed Molasses Solids)の添加作業現場を見学した。CMSとは、エタノール工場で発生するVinasseと呼ばれる蒸留残さを濃縮したものである。このVinasseは塩化カリウム(KCl)の代用品として、優れていることが研究によって明らかになっているが、低いカリウム濃度と高い輸送コストが原因で、当初は工場に近いほ場での使用に限定されていた。
しかし、南アフリカではステンレススチールの濃縮技術を利用することで、Vinasseの固形分濃度を8〜12%から45〜55%にまで増加させることが可能となった。この最終生産物はCondensed Molasses Solids(CMS)と呼ばれ、カリウムが4.0〜5.5%含まれており、農場にとって最も有益なエタノール製造残さとなっている。このCMSはクワズール・ナタール州の肥料調製業者に渡り、さらにNPK(窒素、リン酸、カリウム)を添加され、新植・株出しそれぞれに合わせた成分組成に調整される。この強化されたCMSは肥料として現在、南アフリカ、スワジランド、モーリシャスなど広範囲で使用されている。施肥は散布機によって畦沿いに散布され、使用量は一般的に1ヘクタール当たり2〜3トンとなっている。
このCMSを使用することで、肥料コストを30%以上削減することができると報告されている。また、有害な成分が含まれていないため、何回も使用することができる。最も重要なこととして、CMSの使用は持続的な施肥のモデルである。作物中の窒素分はほ場へ還元され、その他の成分は土壌肥沃度を維持する。経済的な観点から見てもCMSの使用はカリウム肥料の高コストを軽減する優れた方法である。
(3)ノーズバーグ地域の小規模農家地域および試験農場
クワズール・ナタール州の中部に位置するニューズペーパー地域、グミーサ地域ではノーズバーグ工場の原料供給エリアとして、長年サトウキビ栽培が行われてきた。しかし、1980〜1994年の大規模な政治的混乱によって、サトウキビ栽培・管理をやめてしまう農家が増加した。
2001年に政府の農業・農村開発局(DARD:Department of Agriculture and Rural Development)によって基金が設立され、農家のトレーニングを目的としたデモンストレーションほ場が作られた。さらにサトウキビ栽培に適した土地がどれくらいあるのかを評価する自然資源評価調査を実施し、調査の結果、ニューズペーパー地域で8065ヘクタール、グミーサ地域で1万2503ヘクタールあることが分かった。
南アフリカサトウキビ研究所(SASRI:The South African Sugarcane Research Institute)はDARDとのジョイントベンチャーに参加し、SASRIとDARDからサトウキビ栽培に関するさまざまな専門家を派遣し、ニューズペーパー地域、グミーサ地域の小規模農家への指導を行った。
デモンストレーションほ場はグミーサ地域に15カ所、ニューズペーパー地域に17カ所あり、種苗の栽培・提供や、農家へのトレーニングを行っている。デモンストレーションほ場の大きさは1〜4ヘクタールで、合計で41.2ヘクタールある。
デモンストレーションほ場では、地元農家に向けて栽培作業、肥培管理作業の実演や基本的な栽培知識についての講習会、各地域に適した品種の奨励などを行い、地道に農家のサトウキビ栽培に対する意識や知識を向上させていった。各デモンストレーションほ場の運営は政府の農業部門だけでなく、地元農家の自主的な協力の下行われており、農家が主体となって地域のサトウキビ栽培の発展のため取り組んでいる。
これらの活動によって、2004〜2014年の10年間で、小規模農家の収量平均は1ヘクタール当たり62トンから同77トンへと増収し、同時にデモンストレーションほ場の収量も同114トンから同170トンと、ノースバーグ地域の大規模農家と同等、もしくは上回るほどの収量となった。農家の数も488戸から771戸へと増加し、面積は590ヘクタールから961ヘクタール、総生産量では1万6456トンから3万5738トンに増加した。
植え付けは9月、10月に行われ、収穫は翌々年の4〜12月に行われる。在ほ期間は18〜24カ月で、株出しは5回可能とのことで、一度植えると約10年間は栽培し続けることができる。この地域で奨励している品種は乾燥に強いN12と、C.C.Sの高いN37で、その他にN48やN52などがある。
エクスカーション中に見た農家ほ場は、畦幅が80〜100センチメートルと狭く、密植しているところが多かった。また、同地域は地形の起伏が激しく、通常では栽培を行わないような、急な斜面でもサトウキビ栽培を行っているほ場が多いのが印象的で、栽培作業や収穫作業、ローディング作業はかなり過酷な環境であることがうかがえた。随所で、南アフリカの安い労働力に頼っている部分が見られ、タイなどのようにこれから労働賃金が上昇し、機械化へのシフトが必要となった際に、いろいろな問題が生じる可能性があると感じた。
今回は、基礎的な栽培技術の改良・知識の普及を行い、限られた土地で地道に収量を改善してきた小規模農家と、広大な土地、潤沢な資産を使ってCMSやコンポストを使用した土壌改良や最新の機械・システムを使用した理想的な農場運営を行っている大規模農家という両極端な2つのケースを見学し、南アフリカが抱える格差問題の大きさを感じた、印象的なエクスカーションとなった。
3.報告討論会
ワークショップでは「サトウキビ資源の持続的な利用」というテーマに基づいて5つの分野( 1)単収・栄養素・かんがい・土壌、 2)サトウキビを利用したエネルギー、 3)ほ場内における交通管理、 4)農家に技術などを採用してもらう方法、5)『拡大』について)にわたる合計17課題の報告とその内容について4回のグループセッションが行われた。そのいくつかを紹介したい。
(1)ほ場内における交通管理の重要性
ア.南アフリカにおける踏圧調査およびブラジルにおける新型植え付け方法および新型収穫機
収穫の機械化は機械重量から引き起こされる踏圧により、ほ場に土壌圧縮などの重大な問題を引き起こし、結果的に収量を低下させる大きな原因になる。そこでSASRIではよく使われている3輪や4輪の収穫機械ごとに踏圧のほ場への影響について比較試験を行った。
その結果、畦に設定された交通路を無視してローディングを行う3輪ケーンローダーは、畦を走行した時間は、ほ場での運搬作業時間のうちわずか3.9%であり、ほとんどの作業中、直接サトウキビの株を踏みつけるため、最も踏圧の影響が大きいと結論付けている。タイのほ場でも同じ3輪ケーンローダーを使用した収穫を行っているため、ほ場への踏圧の影響の大きさに衝撃を受けた。なおこの調査ではハーベスタでの調査がないが、畦に沿って走行するため、3輪ケーンローダーよりは良好な結果が予想される。
こうした機械収穫による踏圧の問題が深刻化しているブラジルでは、踏圧を抑える全く新しいコンセプトの新型収穫機が研究されている。収穫機の幅が約9メートルあり、収穫機のヘッド部分が横にスライドしながら収穫を行い、上部のコンベアで裁断された原料が併走するバケットに投入される仕組みとなっている。重い収穫機が畦を走行する回数を少なくし、踏圧の影響をできるだけ少なくするというものであった。
畦幅が9メートルとなるこの収穫機に対応する50センチメートル間隔の植え付け方法も考案されており、従来のハーベスタで収穫した種苗を使った植え付けに比べて投入量は約4分の1、収量は2倍近くと非常に良好な結果が出ている。収穫機専用のほ場設計が必要になることや全く新しい形の収穫機であるため、導入は時期尚早だが、期待が持てる研究内容であると絶賛されていた。
イ.ハーベスタ運用試験
サトウキビ収穫の機械化における重要な要素であるハーベスタについて、その成り立ちと各国での利用率を紹介し、ベースカッターの破損枚数などでどの程度のケーンロスが発生するか、最も適した速度はどの程度か、火を付けず葉を残したまま収穫する生キビと火入れを行って葉を焼き払った焼けキビでの品質の違いはどの程度あるのかなど、ハーベスタをほ場で使用した場合の試験各種が豊富に紹介されていた。
それによるとサトウキビとトラッシュを分離するファンの回転数が700rpmから1000rpmになっただけでケーンロスが約5倍に増えることや、生キビよりも焼けキビ収穫の方がトラッシュが多くなるが糖度は高くなることなど、大変参考になる研究が発表された。普段思っていても試験する機会がなく、通常の運用では判明し得ない情報が紹介されたため、各国の参加者からも問い合わせが殺到していた。
(2)南アフリカにおける農家拡大方法の再確立
南アフリカ北部のパンゴラ地区においてはサトウキビの収穫量低下が問題となっていたため、2009年から拡大プロジェクトが製糖工場と農業技術サービス会社のNETAFIM社によって行われている。
まずは地域の問題点(病気のモニタリング、種苗選択、ほ場管理、調査試験など)を一つずつ点数化し、低い点数の部分に対応する手法が用いられた。
改善策(BMP)では毎日5農家に対してプレゼンを行うことを継続し、8つのニュースレターやフィードバックメモ、雑誌の作成、登熟促進剤のデモ、土壌分析と肥料の適正化などを中心に改善プログラムを実施した。
その結果、急速にサトウキビの収穫量を回復させることに成功した。この事例の地域はかんがいされているものの、農家の状況はタイの事例と非常によく似ており、改善策を立案して実施していく上で、非常に参考になる研究と感じた。
4.グループディスカッション
前述の報告会の他に、5つの議題( 1)単収・栄養素・かんがい・土壌、 2)サトウキビを利用したエネルギー、 3)ほ場内における交通管理、 4)農家に技術などを採用してもらう方法、 5)『拡大』)について10程度のグループに分かれて4回のディスカッションを行った。主に10年前と現在の技術や状況の違い、10年後の理想の状況についてディスカッションが行われたため、各国の状況がよく分かったが、この時タイと欧米の製糖業の意識の差を感じざるを得なかった。特にほ場内の交通管理に関するディスカッションの中ではGPSを利用した管理方法などが一般化しており、技術的に大きな差が生まれていることを認識させられた。
このディスカッションは毎回参加メンバーを替えていたため130名を超える参加者の中で多くの参加者と各国の状況などを情報共有することができ、製糖業に関係する人達のネットワーク作りには最適と感じた。ただ議題が主に大規模農家にフィーチャーしたものとなっており、TSSCT会長からは、次回からは小規模と大規模で分かれるべきという意見が出ていた。
5.総括
南アフリカは手刈り率がいまだに98%と、低賃金の労働力を必要とする古いタイプの収穫方法が続いており、決して最先端の砂糖産業とは言い難い状況である。しかし農務研究面では欧州の研究者、経営者を中心として非常に力強いR&D体制が敷かれている。そうした中で植え付けから収穫までに関する人的なコストの最適化が行われた結果、現在の状況を維持しているとも言える。また今回のほ場エクスカーションでは、人力収穫の現場など肉体労働が行われている部分については一切見ることができなかったことからも、南アフリカの製糖業の抱えている問題が一様ではないように感じた。 2015年3月以降、1日当たり約120ランド(約950円)に上昇した農場労働者の最低賃金はタイとそれほど変わらず、賃金ベースの労働生産性は低いままであり、このままであれば機械化が進行していくことは避けられないだろう。
報告会では主に南アフリカ、ブラジル、豪州の発表が目立った。これらはサトウキビの収量という一面のみならず、目標とする収量をクリアしながらも環境に及ぼす影響を栽培技術でコントロールする曲面に入っており、タイと比較すると考え方や実践内容について年月にして10年以上の差を感じた。
なおタイの製糖業は生産量こそ急拡大したが、R&D部門の発達の遅れから人的にも技術的にも欧米の製糖業とは力の差を感じる。それだけに可能性が大きくあり、日本の製糖企業と連携して研究開発を強く進めることで日本の強みを生かせる可能性がまだ残されているように感じた。
今後タイだけではなく、伸びしろのある東南アジアや東アジアでの製糖業の発展に備えて、日本国内でもこうした国々で応用可能な栽培技術の蓄積と情報収集を進めることが将来的に大きな可能性を秘めているのではないかと考えさせられた。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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