手刈り隊で目指す久米島のさとうきび生産の安定化
最終更新日:2016年5月6日
手刈り隊で目指す久米島のさとうきび生産の安定化
2016年5月
【要約】
有限会社球美(きゅうび)開発は、久米島町内の関係機関と連携して手刈り収穫を行う作業員を確保し、生産者からの依頼に応じて作業員を派遣している。また、自社においてもさとうきび生産を行い耕作放棄地の解消を図るなど、さとうきび生産の安定化に取り組んでいる。
はじめに
近年、沖縄県ではハーベスタの普及により収穫作業の機械化が急速に進み、平成26年産の機械収穫率は62%と、17年産の35%から大幅に上昇している。一方で、ハーベスタが入れない小規模なほ場などでは、依然として手刈り収穫が必要であるが、生産者の高齢化などにより手刈り収穫の作業員の確保が難しい状況にある。
久米島町は、小規模なほ場が多いことなどから手刈り収穫が多く、平成26年産の機械収穫率は32%と、県平均を大きく下回っている。こうした中、久米島製糖株式会社(以下「久米島製糖」という)の関連会社である有限会社球美開発(以下「球美開発」という)は、町内の関係機関と連携して手刈り収穫を行う作業員を確保して、「手刈り隊」と呼ばれる2〜4人のグループを編成し、生産者からの依頼に応じて作業員の派遣を行っている。
本稿では、球美開発における手刈り隊の取り組みを中心に、同社におけるさとうきび生産の安定化に向けた取り組みを紹介する。
1.久米島町の概要
久米島町は、沖縄本島那覇市の西方約100キロメートルに位置し、周囲約48キロメートル、面積6365ヘクタールで、久米島本島、奥武島の有人島および硫黄鳥島などの無人島の計5つの島で構成されている(図1)。気候は、亜熱帯性気候に属し、年平均気温23.0度、年間平均最高気温29.2度と、年間を通し温暖な気候であるが、夏季には台風や干ばつの影響を受けやすい土地柄にある。
久米島町の主要な産業は農業である。就業人口全体のうち23.2%が農業に携わっている。さとうきび作を中心に、肉用牛、電照菊などの花き類、さやいんげんやにがうりなどの野菜が生産され、経営の複合化が進んでいる。耕地面積約1500ヘクタールのうち、さとうきび畑が1140ヘクタールで全体の76%、草地が280ヘクタールで全体の19%を占めている。また、作物別販売実績のうち最も多いのは、さとうきびで全体の46%、次いで肉用牛が28%、花きが21%と続いている(図2)。
2.久米島のさとうきび生産
(1)概要
久米島町のさとうきび農家戸数は、平成17年度には1031戸であったが26年度には852戸と、高齢化などの影響により減少傾向で推移している。このことも背景として、栽培面積が17年産の1286ヘクタールから26年産の1140ヘクタールと減少している。これに台風被害や干ばつ、害虫などの気象要因も影響してここ数年収穫量が低位にある(図3)。
(2)農地中間管理事業による農地集約化の取り組み
わが国の耕作放棄地は、この20年間で約40万ヘクタールに倍増し、担い手の農地利用は全農地の5割ほどになっている。そこで、担い手への農地の集積・集約化を目的とした農地中間管理事業が、平成26年度から開始されたところである。 久米島町は、さとうきび生産法人の設置が沖縄県内でも早く、町、JA、製糖企業など関係機関との連携も期待できるとして、“生産法人への農地集積及び農作業受委託を推進するモデル市町村”に選定されている
(注)。
事業が開始されて間もないこともあり、久米島町の平成26年度における借受および転貸(貸付)農地の面積はともに4.1ヘクタールであるが、今後の拡大が期待されるところである。
(注)沖縄県における農地中間管理事業の取り組みの詳細については、島尻勝広「
沖縄県における農地中間管理事業の取り組み〜久米島町仲里地区の先行モデル事例より〜」『砂糖類・でん粉情報』(2015年6月号)を参照。
3. 球美開発の概要
球美開発は、さとうきび収穫などの受託を通じたさとうきび生産の安定化や町内の機械収穫率を60%以上にすることを目的として平成22年に設立された。従業員は10人(常時雇用6人、臨時雇用4人)の体制である。
主な業務内容は、さとうきびの収穫作業(手刈り収穫および機械収穫)をはじめ、整地作業、植え付け作業、株出し管理作業の受託であり、平成27年産の収穫作業は、合計約66ヘクタールを受託している。なお、機械収穫の受託を開始した理由は、久米島町の機械収穫率が上昇している中で、受託組織などが所有するハーベスタの不足を懸念したためである。機械収穫は、約50戸から委託を受けて、約48ヘクタール行っており、臨時でオペレータを2名雇用して対応している。
また、平成24年からは、離農した農家などから土地を借りてさとうきびの生産を行っており、24年の栽培面積は2.5ヘクタールであったが、28年には24.7ヘクタールと、約10倍に増加している。このように島内の耕作放棄地の解消や生産の維持に努めている。
4. 手刈り隊による収穫作業の受託
(1)経緯
前述の通り、ハーベスタが入れない小規模なほ場などでは依然として手刈り収穫が必要である。久米島町も例外ではなく手刈り収穫が必要であるため、球美開発では、平成24年から手刈り収穫を行う作業員を確保して、「手刈り隊」と呼ばれる2〜4人のグループを編成し、生産者からの依頼に応じて作業員の派遣を行っている。
球美開発が作業受託を開始するに当たっては、事前に関係機関との連携を図り、町が一体となって進めてきた。例えば、チラシなどによる農家への周知については久米島さとうきび振興協議会が、作業請負料金の支払いに必要な受託ほ場のさとうきび搬入実績の管理は、久米島製糖が主に行っている。
平成27年産は、6グループ15名が手刈り隊として活動し、18.2ヘクタールを収穫しているが、今後さらに作業員が増えれば、受託面積も増加することが見込まれる。
(2)作業員の募集
球美開発は、作業員の募集について、募集チラシの配布や久米島町ホームページへの掲載などにより、毎年10月下旬ごろから開始しており、希望者は、2〜4人ほどのグループで申込みを行う。
各グループの作業ほ場の割り当ては、グループの希望、刈り取り能力や進捗状況などを考慮した上で行っている。
募集内容の概要は次の通りである。
ア.募集の条件
・車などで直接農家のほ場に行けること。
・作業に使用する斧や鎌は自分で準備すること。
イ.作業内容
さとうきびの梢頭部を切り落とし、刈り倒し後、ワイヤーを敷き、さとうきびを400キログラムから500キログラム積み上げる。
ウ.作業期間
エ.請負料金
作業請負料金は出来高払いで、1トン当たり7300円〜8300円を10日単位で支払う。
(3)手刈り隊の活動
手刈り隊のメンバーとして活躍する饒平名(よへな)智弘氏(57歳)は、今期で3期目となる現職の町議会議員であるが、自身でさとうきび栽培も行っている。経営面積は約3.5ヘクタールであるが、小規模なほ場が多いという久米島の特徴もあり、10カ所ほどに点在している。
饒平名氏は、町議会議員のため多忙な中、手刈り隊が開始された平成24年からメンバーとして活動している。饒平名氏を中心とするグループは「饒平名隊」と呼ばれており、集まるメンバーはさとうきび生産者、ガス会社や車エビ養殖場の従業員、介護士など、さまざまな業種である。務めている会社の休日など、都合がつく日に参加するため、日によって入れ替わるが、一日に4〜5人が集まる。
饒平名隊の一日は、朝8時に作業するほ場へ集合することから始まる。メンバーが集まると早速作業に取り掛かるが、饒平名隊では梢頭部の切り落とし作業、刈り倒し・積み上げ作業を同日ではなく、日を分けて行う。理由は、作業によって使用する道具が異なるため、その都度道具を交換するのではなく、一日中同じ道具を使用し作業する方が効率的であるためだという。作業は、冬場といっても天気が良い日には24度くらいまで気温が上昇するため、2時間に一度は水分補給などの休憩をはさみながら、8時から12時、13時から17時まで行われる。作業に慣れたメンバーであれば4人で1時間当たり1.5〜2.0トンの刈り倒し・積み上げ作業を行う。
饒平名隊の一人は「子供の頃からさとうきび収穫を手伝っており、自分たちにとってさとうきびは昔から身近な存在であった」と話す。また、饒平名氏は手刈り隊での活動について「お金のために参加しているわけではない。手刈り隊を通して、久米島町の基幹作物であるさとうきびを守りたい」と熱く語る。
おわりに
生産者の高齢化が進む中、一つ一つのほ場面積が狭く、機械収穫に頼ることが難しい状況にある久米島町では、手刈り収穫作業の受託により生産の安定化を担う球美開発のような組織への期待は大きいと思われる。
その一方、手刈り収穫作業員は年々増えてきているものの、現在でも十分な人員を確保できているとはいえず、生産者の高齢化が進む中で今後はさらに委託の希望が増えることが予想されるため、人員の確保が課題だという。
今回紹介した饒平名隊には、ガス会社やエビ養殖場の従業員、介護士などさまざまな業種の者が所属する。働き手が限られる離島においては、このようにさとうきび生産者以外の者が手を取り合って収穫作業を担うことが、島の基幹産業であるさとうきび生産を維持していくためには必要だと思う。
最後にお忙しい中、取材にご協力いただいた球美開発の吉永代表取締役、饒平名智弘氏と饒平名隊の皆さまに厚く御礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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