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最終更新日:2016年7月11日
コラム 生産者組合パンコビルリクの取り組みパンコビルリクは、64県に31の協同組合(2012年)を傘下に持つトルコ最大の生産者組合であり、1951年に設立された。1994年には自ら製糖工場の操業を開始し、現在は、国内生産量の約24%を生産する国内最大の工場を含む5つの製糖工場を所有し、国内生産量の約40%を生産している(写真1、2)。 パンコビルリクは、契約生産者に対して、種子、資材、輸送などに掛かる資金を無利子で貸し付けている。また、アルコール精製工場、会員向け金融機関、保険会社、かんがい整備会社、乳製品製造会社、チョコレート製造会社および家畜飼料製造会社なども経営している。特に、砂糖を使用したチョコレートなどの食品の製造販売に力を入れており、中東および中央アジアを中心に48カ国に輸出している。 |
(3)国内価格
砂糖の国内価格に対する政府の介入はなく、トルコ砂糖公社が公表している卸売価格が参考とされている。卸売価格には付加価値税(VAT)として8%が上乗せされる。工場出荷形態は通常50キログラムのビニール袋であり、卸売企業が自社ブランドの小袋に詰めて販売するが、あらかじめ小売用の袋に梱包して工場から出荷される場合もある。
砂糖(てん菜糖)と異性化糖の平均卸売価格の推移は、表6の通りである。異性化糖の価格は、砂糖よりも3割ほど安い。
(2)販売割当制度
砂糖委員会は、国内需要を鑑み、関係者と協議の上で、新たな砂糖年度の初めに砂糖の販売割当枠を設定する。販売割当枠は製糖企業別に設定され、砂糖委員会は、製糖企業から提出される販売伝票を基に、販売状況を監督している。なお、製糖工場の新増設についても、あらかじめ砂糖委員会の許可が必要である。
販売割当枠は、A枠と呼ばれる国内向け、B枠と呼ばれる各社の義務的在庫向け、これ以外の余剰生産分であるC枠と呼ばれる輸出用または輸出用加工食品向けから成る(表8)。各製糖企業は、A枠の割当量に基づき、生産者ごとにてん菜生産量を割り当てて契約を締結し、その年の栽培計画を作成する。なお、豊作などで割当生産量を超えた分は、C枠の輸出向け砂糖の生産に充てる。C枠の砂糖は、そのまま輸出されるほか、輸出用中間原料として国内の食品加工企業に販売される。
異性化糖については、このA枠およびB枠の合計量の10%に相当する量が販売割当枠として設けられている。販売割当枠の比率は砂糖および異性化糖ともに砂糖法で規定されているものの、異性化糖の販売割当枠については閣議決定により5%の範囲内で増減できることとなっている。
異性化糖製造企業の業界団体であるでん粉・糖類製造企業協会は、需要があるにもかかわらず販売量を増やせないとして、異性化糖の販売割当枠の拡大を訴えており、縮小を求める製糖企業側と対立している。
(3)東部アナトリア地方の開発
東部アナトリア地方は、経済発展の進む西部の地中海およびエーゲ海沿岸地方に比べ産業基盤が弱いため、一人当たりの所得が低く、人口流出が続いている上、クルド人問題やテロの多発などの課題を抱えている。このため政府は、同地方での大規模な農業開発を実施するとともに、政府の存在感を強めるため、東部アナトリア開発機構による開発を推進している(注)。
砂糖について見ると、東部アナトリア地方にある8カ所の製糖工場は全てトルコ砂糖公社が運営している。同地方は生産性の低い零細農家が多く、燃料や肥料などを輸入に頼っており、生産コストも高い。このため、てん菜生産量と砂糖生産量ともに低水準にある。既に、操業停止中の工場もあるが、同地方からの労働力の流出を防ぐとともに、政府の存在感を示すため、稼働率が低い工場も稼働が続けられている。
(注)政府は、1980年からの南東部アナトリア地方の開発計画(GAP)に加え、東部黒海沿岸地方開発計画(DOKAP)を実施。DOKAPは、ダムや水力発電所の建設、かんがい施設の整備などのインフラ整備から地方行政組織の強化まで多岐にわたっており、日本やEUなどから資金援助を受けて実施されている。
(4)トルコ砂糖公社の民営化
1990年代に経済危機に陥ったトルコは、2000年から国際通貨基金(IMF)の支援の下で国営企業の民営化を進めた。このうち、トルコ砂糖公社についても、2000年12月に民営化計画が策定されたが、不採算工場の取り扱いが課題となって計画の進捗は遅れている。
同公社の民営化は、民営化局が所掌しており、これまで、2004年と2005年に2工場の株式の一部が国内の穀物企業および生産者組合に売却された。同局は、残りの23工場については、地域別の6つのグループごとの売却を提案している。2016年末までに民営化を完了する計画となっているが、同公社の労働組合からの度重なる訴訟や入札の中止などから、売却は遅々として進んでいない。
このほか、民営化を阻害する要因として、民営化条件が挙げられる。同公社の工場の多くは市街地に立地しているため、その不動産価値が高いにもかかわらず、民営化後に最低5年間は操業を継続しなければならないという条件であるため、買い手が現れにくい状況となっている。
一方、国内第2の製糖企業であるパンコビルリクは、事業拡大の一環として、同公社の工場払い下げに関心を示している。そのため、民営化局が推進するグループごとではなく、各地域の生産者組合へ売却し、工場ごとの技術革新や地方の生産性向上を推進すべきであると主張している。
なお、トルコ砂糖公社によれば、2016年末までに同公社の民営化が完了しない場合、その完了期限は2年間延期される可能性がある。
(5)内部加工制度(IPR)
政府は、後述するEUとの関税同盟が発効した1996年、輸出振興の目的で内部加工制度(IPR:Inward Processing Regime)を導入している。IPRの下では、食品加工企業は、輸出用中間原料であれば砂糖や小麦などの輸入関税やVATが免除される。国産糖については、販売割当枠のC枠で国際価格相当にて購入することができる。なお、IPRの適用を受けるためには、経済省の許可が必要となる。
菓子類については、トルコでは伝統的な行事などによく用いられており、産業の歴史は古い。2000年代には、キャドバリー社(本社:英国)やハリボー社(本社:ドイツ)など外資系企業の進出も相次いだ。チューイングガムやグミなどの菓子類は、近隣諸国のほか、米国やEUへも盛んに輸出されており、輸出量は増加傾向にある(表9)。