ホーム > 砂糖 > 海外現地調査報告 > AEC発足後のタイの砂糖産業をめぐる動向
最終更新日:2016年8月10日
コラム1 サトウキビ生産の生産性向上の取り組み(生産者)タイ中部に属するカンチャナブリー県では、サトウキビは、一般的に、毎年4月に植え付けされ12月に収穫、圧搾が行われる。1戸当たりのサトウキビ栽培面積が小規模であることから、同県の収穫作業に係る機械普及率は30%程度と、多くを人手に頼っており、人手を要する収穫の繁忙期は、東北部からの出稼ぎ労働者を雇用し対応している。 また、かんがいはあまり普及しておらず、天水に頼る生産が一般的である。 同県農業事務所によれば、2014年に植え付けされた面積は、約11万5000ヘクタールであったが、収穫できたのはそのうち約10万ヘクタールと、主に干ばつの影響による生育不良で、約1割が収穫できなかったという。天水に頼った農地でのサトウキビの単収は、通常の天候条件であれば1ヘクタール当たり38〜44トンであるが、2015/16年度は同31トン以下まで低下した。 かんがいを用いた農地では、単収は1ヘクタール当たり94トンと天水に依存する農地に比べ大幅に向上する。しかし、かんがい用の地下水は、数年前であれば地下16メートルからのくみ上げで充分であったが、現在は20メートル必要となっており、地下水の枯渇も懸念されている。 そこで現在は、政府が推進している点滴方式でのかんがいシステム(点滴かんがい)が県内で普及しつつある。今回訪問した同県サトウキビ生産者を例に、点滴かんがいの導入による単収向上の取り組みを紹介する(コラム1−写真1)。
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コラム2 サトウキビ生産の生産性向上の取り組み(製糖企業)2015年、砂糖法が改正され、製糖工場の立地間隔がそれまでの半径80キロメートル以上から同50キロメートル以上に緩和された。これにより、製糖工場の新設や増設を申請する企業が増えており、すでにいくつかの製糖工場の新設が決定している。 そのため、各製糖企業では、サトウキビの安定的な確保のため、契約生産者の獲得やサトウキビの生産性向上に向けた取り組みに力を入れている。 その1例として、調査で訪問したコンブリシュガー社の取り組みを紹介する。 1. コンブリシュガー社の概要 コンブリシュガー社は、タイ東北部ナコーンラーチャシーマー県に1製糖工場を所有する。同社の契約生産者数は約4300戸、サトウキビ圧搾量は年間約260万トン(2015/16年度)で、同国第15位の製糖企業である。2015年に、生産ラインの増設により、1日当たりサトウキビ処理能力を2万3000トンから3万5000トンへ拡大させたところであり、さらに現在は工場の新設が予定されている。 2. 生産性向上の取り組み (1)サトウキビ最低取引価格の設定 サトウキビのCCS(可製糖率)(注1)が収穫初期に基準値(10%)を下回った場合にあっても、基準値(10%)により算出した最低取引価格を支払っている。 (2)各種サービスの提供 耕うんや収穫を行う際、余力のある別の生産者から農業機械の貸し付けや作業補助を受けられるよう仲介するサポートを行っている。また、干ばつが発生しやすいほ場にはかんがい設備の提供を、水はけの悪いほ場には農地改良を行うなどのサービスを行っている。 (3)サトウキビ生産者の教育 月に2回、1回につき30〜40人のサトウキビ生産者を集めて、生産指導や指導者の育成を行っている。 (4)その他 契約生産者の中から育成した指導者の下に、生産者をグループ化して機械や労働力を共同化させることで、生産効率の向上とコスト削減を図り、モダンファーム(注2)へつなげる働き掛けを行っている。さらに、独創的な取り組みとして、サトウキビ生産者の生産意欲を高めるような生産者の歌を自社制作している。 (注1)さとうきびの繊維含有率および搾汁液の純度から算出される回収可能な糖分の割合。 (注2)コンブリシュガー社独自の取り組み。小規模農地の集約化のこと。 |
(3)ASEAN経済共同体(AEC)発足による影響
2003年より計画されていたAECが、2015年12月に発足し、物品、サービス、投資の自由化による域内全体としてのさらなる経済発展が図られることとなった。
現地の聞き取りにおいて、AECにより、海外からだけでなく同域内間での投資の動きが活発になり、今後、加盟国にタイ資本の製糖工場が増えれば、それに伴い生産能力の高い同国のサトウキビ生産者が現地に誘致され加盟国で生産を始める可能性を挙げる業界関係者の声もあった。
また、タイ製糖協会は、AEC発足を契機に、インドネシアやベトナム、フィリピンなどASEAN加盟国の一部の国の業界団体とASEAN砂糖連盟(ASEAN sugar alliance)を立ち上げた。ASEAN砂糖連盟は、サトウキビ栽培技術向上の取り組みに関する情報交換のほか、相互の技術協力を行っている。具体的には、ASEAN加盟国内においてサトウキビ生産技術先進国であるタイの生産現場への視察の受け入れなどである。
(2)AEC発足に伴う政策変更の検討状況
政府機関や業界関係者らは、AEC発足前に現行の砂糖政策を一部見直し、次の通り、流通を部分的に自由化する方向で検討していた。
(1)国際砂糖価格との連動性を持たせるため、国内価格を変動制にする。また、近隣国との価格差がないよう価格水準を調整し、違法な流出や流入を防止する。
(2)販売割当を廃止し、現在義務付けられている毎週5トンの国内市場放出時期を各企業に委ねるなど流通を自由化する。
しかし、今回の調査において、OCSBによると、国内政策の変更は当面行われず、今後も現行の砂糖政策を継続していく方針とのことであった。業界関係者の見解として、国内の砂糖価格を国際価格と連動させ、販売割当を廃止すれば、国内供給量の確保が難しくなるとの懸念があるからではないかとのことであった。
(3)サトウキビ搾汁液からのバイオエタノールなどの生産
今回の調査においては、製糖業界関係者から政府への要望として、サトウキビ搾汁液からバイオエタノールやバイオプラスチックを直接生産したいという声があった。
タイでは、現在、カドミウム汚染土壌地域で栽培されたサトウキビ搾汁液、もしくは、一般土壌で栽培された場合にあっては、「サトウキビ搾汁液からの実験的かつ直接的なエタノール生産」という名目でOCSBに事前に承認された企業のみ、サトウキビ搾汁液からのエタノール生産が認められている。もし、上述の要望が認められれば、OCSBの事前承認が不要となることから、製糖企業のサトウキビの活用の可能性が広がることとなる。
一方で、サトウキビのエタノールへの仕向け割合が高まれば、国内外の需要に対応できるだけの安定的な砂糖生産が難しくなるのではと懸念する業界関係者の声もあった。製糖期の生産の柔軟性が高まる一方で、ブラジルのようにエタノールの需給動向が砂糖の需給動向に影響する可能性を指摘している。
2016年3月、エネルギー省は2015年から2035年までの新たな代替エネルギー開発計画の草案を発表した。2027年までにエタノール混合率の低いE10オクタン価91(エタノール混合率10%のレギュラーガソリン)、E10オクタン価95(同10%のハイオクガソリン)を段階的に廃止し、エタノール混合率の高いE20(同20%のハイオクガソリン)やE85(同85%のハイオクガソリン)の消費拡大を目標としていることから、今後エタノール需要の増加が予想される。
また、別の業界関係者からは、サトウキビ搾汁液の直接的なバイオエタノールなどの生産を承認する上で、政府が、エタノール生産割当を設けるなどの明確な対応策を講じることが必要であるとの意見が聞かれた。