日々の食事について、ほとんどの人はその日の気分で「食べたいもの」を選んでいると思います。栄養学的に正しい食事とは、体を作ったり動かしたりする少なくとも三つの要素を満たす必要があります。現実的にはハードルが高く実行は容易ではありません。それでもこの機会に少し理詰めで食事の内容を考えたいと思います。一つは、臓器や筋肉などを構成している生体部品を新しいものに取り換えるためのタンパク質や脂質、カルシウムなどを供給する食材です。あとの二つは異なるエネルギーの供給です。寝ているときも脳や心臓や肺や肝臓などの臓器は働いています。これらの臓器を動かすのに必要なエネルギーを基礎代謝エネルギーと呼び、歩いたり走ったりして体を動かすのに必要なエネルギーを運動エネルギーと呼びます。筋肉や臓器などを再構成する食材と、基礎代謝と運動にそれぞれ約1000キロカロリーを供給する食材を合わせて約2500キロカロリーに相当する食材をおいしく調理したものが一日の食事となります。そのため食材構成は、でん粉などの糖質が60%程度、筋肉などをリニューアルするタンパク質が15%程度、神経などをリニューアルする脂質が20%程度、骨などをリニューアルするミネラルが5%程度となります。スポーツ選手は、運動エネルギーだけで3000 〜 6000キロカロリー消費しますので、それに合わせてでん粉の量を増やさなければなりません。一方、高血圧や糖尿病患者に対しては塩分やカロリーの制限が必要となります。
忍者食を試作してみると、忍びの活動に適切な大きさは見当がついてきます。兵糧丸も飢渇丸も一個は大体20 〜 30グラムが持ち運びやすく、おおむね一つが50 〜 150キロカロリーぐらいです。キャラメル一箱やおにぎり一個やバナナ一本に相当するカロリーです。これらを総合して考えると、兵糧丸や飢渇丸はお弁当ではなく、必要な時に少しずつ食べる携帯食であったと考えられます。
ストレスの科学も必要となってきます。緊張や恐怖などに襲われると、脳はこのような事態を避ける運動系を中心としたシステムを活性化し、瞳孔が大きくなったり心拍数を上げたりする一方で、このような事態の回避にならない感染症などから身を守る免疫系の防御システムは活性化されないため免疫力は落ちます。この一連の反応は自律神経を介したストレスホルモン(アドレナリン)によって交感神経が活性化されて起こるものです。この反応に対して、ブレーキ役を担う副交感神経の反応も少し遅れて働きだし、そのうちに興奮は収まります。また自律神経系のほかに内分泌系のストレス反応も起こり、各臓器や器官に影響を与え、胃が痛くなったり、下痢気味になったり、喉が荒れたり、口が渇いたりします。このようなストレスが長く続いた場合は、早めに気分を切り替え、読書や映画鑑賞や旅行などをしてリラックスすることが今流のストレス対策です。
命懸けで任務を遂行する忍びには非常に強いストレスがかかります。そのため忍者は、気合を入れたり、
九字護身法などの呪文を唱えたりします。緊張すると心臓や筋肉などの組織にエネルギーとなるグルコースが優先的に送り込まれます。逆に、運動系でない脳へのグルコース供給は減少するため脳の働きは低下することから、冷静な判断や複雑な情報を正確に記憶することが難しくなると考えられます。忍者はこのような時に、砂糖ベースの兵糧丸を少しずつ口に入れ、疲れた脳と体を回復させたに違いありません。また、身を隠し戻るチャンスを伺うときにはでん粉ベースの飢渇丸で疲れた体を回復させたと思います。これに対し水渇丸は、口が渇いたり、喉の痛みを癒やすことに特化したものでした。忍者の携帯食の特長と利用法を
表3のようにまとめてみました。