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砂糖の筋肉増強作用について

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最終更新日:2016年10月11日

砂糖の筋肉増強作用について

2016年10月

NPO法人「食と健康プロジェクト」 理事長 高田 明和

昭和女子大学生活科学部 高尾 哲也、小川 睦美、石井 幸江、清水 史子

はじめに

 今夏リオデジャネイロで開催されたオリンピック・パラリンピックでの日本人選手のメダルラッシュも記憶に新しいところであり、4年後に東京オリンピック・パラリンピックを控えた今、これまで以上にスポーツを楽しもうとする意識・気運が高まっている。


 そこで本稿では、砂糖の摂取がスポーツや日常生活を送るために欠かせない筋肉づくりとどのような関係があるのか明らかにしたい。

1.筋肉づくりに必要な栄養素

 筋肉の主要成分は、タンパク質である。私たちの体は、食物から摂取したタンパク質をそのまま吸収しているわけではなく、消化酵素により分解されて生成されたアミノ酸を栄養源に筋肉、骨、内臓などを構成する新たなタンパク質を合成している。


 体内で合成されたタンパク質は、再びアミノ酸に分解され、タンパク質を合成するというサイクルを日々繰り返しているが、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸のうち、9種類は体内で合成することができない、または、必要量を合成することができない。これを必須アミノ酸と呼び、筋肉の低下を防ぐことのほか、体の機能を維持するためには、この必須アミノ酸を必ず食物から摂取しなければならない。


 また、必須アミノ酸は、1つでも不足するとタンパク質を効率的に合成できなくなり、加えて、食物の種類によってアミノ酸の組成が大きく異なることから、効果的に筋肉を維持、増加させるためには、普段の食事の中で、タンパク質を多く含む食品(肉、魚、卵、乳・乳製品など)を組み合わせてアミノ酸をバランスよく摂取することが必要である。必須アミノ酸の種類とそれを多く含む食物を表1に示す。

表1 必須アミノ酸の種類とそれを多く含む食べ物

 最近では、アミノ酸が含まれているスポーツドリンクやサプリメントなどが多く出回るようになってきたことから、食事で摂りきれなかった場合などにアミノ酸を補給する方法として、これらの商品を利用することも有効であると考える。
 

 アミノ酸が含まれているスポーツドリンクに注目すると、砂糖やブドウ糖などの糖類が主原料として用いられている場合が多い(表2)。その理由としては、飲みやすくすることや運動時または運動後のエネルギー補給という観点に加え、甘いものは舌を介して脳の意欲の中枢である側坐核を活性化し、そこから放出されるドーパミンによってやる気、集中力を向上させる効果も期待していると思われる。


 そこで今回は、筋肉づくりという視点から、砂糖やブドウ糖の摂取が、タンパク質の摂取や筋肉の分解により血中に供給されたアミノ酸にどのような影響をもたらすのか見ていきたい。

表2 スポーツドリンクとその成分の比較

2.研究の概要

 われわれは、被験者を中高年男性と若年男性の2つのグループに分け、ブドウ糖、蔗糖を摂取させ、血中の脂質とアミノ酸の変動を調べた。被験者の性状は表3の通りである。

表3 被験者の性状

 中高年男性グループと若年男性グループに50グラムのブドウ糖、蔗糖を摂取させ、血液中の脂質、アミノ酸の変化を見た。アミノ酸分析はSRL株式会社により行われた。血漿を除タンパクし、二回遠心分離の後、上清を分取、液体クロマトグラフィー・質量分析計であるUF-Aminostation®を用いて測定した。


 ブドウ糖、蔗糖を摂取する前の血漿中のLDLコレステロール、中性脂肪および総コレステロールの値は、中高年男性グループの方が若年男性グループよりも有意に高かった(表4表5)。また、ωアミノ酸であるアラキドン酸、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)の値も中高年男性グループの方が若年男性グループより高かった。

表4 中高年男性グループの血中脂質量の変化

表5 若年男性グループの血中脂質の変化

 そして、ブドウ糖、蔗糖の摂取120分後における各グループの変化を測定した結果、血漿中のLDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪および総コレステロールの値について、ブドウ糖、蔗糖の摂取による変化は見られなかった。


 続いて、総アミノ酸量は、ブドウ糖や蔗糖の摂取120分後に低下したが、その程度はブドウ糖の摂取後の方が蔗糖の摂取後よりも大きかった(表6表7)。特に、必須アミノ酸であるバリン、イソロイシン、ロイシン(以下「分岐鎖アミノ酸」という)の量はブドウ糖、蔗糖の摂取後に中高年男性グループ、若年男性グループの双方で有意に低下した。すべての非必須アミノ酸の量も低下したが、有意に低下したのは若年男性グループのブドウ糖の摂取後のみであった。

表6 中高年男性グループにブドウ糖、蔗糖を摂取した際の血中アミノ酸の変化(μM)

表7 若年男性グループにブドウ糖、蔗糖を摂取した際の血中アミノ酸の変化(μM)

 また、若年男性グループでは、ブドウ糖、蔗糖の摂取後に多くのアミノ酸の濃度が低下しており、それは必須アミノ酸および分岐鎖アミノ酸において顕著であることを示している。


 これらの結果は、ブドウ糖、蔗糖の摂取後にインスリンの増加によりアミノ酸、特に必須アミノ酸が血液から他の組織、おそらく筋肉に取り込まれたことを示していると思われる。


 米国MIT(マサチューセッツ工科大学)のWurtman博士らの研究によると、トリプトファンの投与と同時にインスリンを投与あるいは炭水化物を摂取させることで、ラットの脳内のセロトニン(注)が増えることを見出した1)。この結果は、炭水化物の摂取によって生成・増加したインスリンが血中のトリプトファンの脳内への輸送を助ける働きがあることを示している。


 また、図1に示すように、アミノ酸液を摂取させる場合、チロシン、バリン、ロイシン、イソロイシンなどの必須アミノ酸を抜いた場合の方が脳内のトリプトファン、セロトニンの濃度が多いことが示される。
 

(注)セロトニンは、必須アミノ酸であるトリプトファンから作られる神経伝達物質で、うつ病の患者の脳内では減少しているとされている。

図1 トリプトファン、セロトニンの脳内への移行量

 この際に、インスリンの存在下でトリプトファン以外の中性アミノ酸(チロシン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン)が筋肉などに取り込まれ、血中濃度が低くなるので、相対的に濃度が増したトリプトファンが脳に移行することが示された2)。さらに彼らはブドウ糖摂取のラットの血中の中性アミノ酸が減少することを示している3)

 これを図で示すと以下のようになる(図2)。

図2 トリプトファンの脳内への移行と必須アミノ酸の筋肉への取り込み(イメージ)

 つまり、砂糖などを摂取すると中性アミノ酸が筋肉などに取り込まれるので、残ったトリプトファンが脳内に移行することになる。しかし、実際にヒトでこのようなことを調べた例もなく、このような効果をブドウ糖と蔗糖で比較した例もない。


 われわれは、砂糖の摂取の効果が年齢の影響を受けることも示した4)。ここではブドウ糖、蔗糖を中高年男性グループ、若年男性グループに摂取した際の血液中の脂質とアミノ酸の変化を示す。

 今回の研究方法、被験者の性状、測定の方法などの詳細は本誌
2013年10月号「健康な中高齢者へのスクロース負荷と血糖値の変化について」2014年11月号「健康な中高年男性と若年男性への糖負荷時の血糖値の変化について」2016年4月号「砂糖摂取と糖尿病との関係」を参照されたい。

 ブドウ糖、蔗糖の摂取後の総アミノ酸量などの低下率を計算して、摂取前と比較した。結果、ブドウ糖、蔗糖の摂取後、中高年男性グループでも若年男性グループでも総アミノ酸量は低下の傾向があったが、特にブドウ糖の摂取後に有意に低下した図3)。

図3 ブドウ糖、蔗糖を50グラム摂取した際の総アミノ酸量の減少

 図4はブドウ糖、蔗糖を摂取後に中高年男性グループでも若年男性グループでも必須アミノ酸が有意に低下したことを示している。

図4 ブドウ糖、蔗糖を50グラム摂取した際の必須アミノ酸の減少

 ブドウ糖を摂取した際に若年男性グループでは、非必須アミノ酸量が有意に低下したが蔗糖の摂取後にはあまり変化が見られなかった(図5)。

図5 ブドウ糖、蔗糖を50グラム摂取後の非必須アミノ酸の減少

 次に、ブドウ糖を摂取した場合と異なり、日常生活の中で砂糖・甘味料入り飲料水を摂取する場合は、血中のアミノ酸値にどのような影響を与えるだろうかという点から、砂糖・甘味料入り飲料水の摂取と血中アミノ酸の相関を求めた(表8)。

表8 砂糖・甘味料入り飲料水摂取と血中アミノ酸量の相関

 表8に示すように、若年男性グループにおいてのみ砂糖・甘味料入り飲料水の摂取は有意に血中の総アミノ酸、非必須アミノ酸、必須アミノ酸、分岐鎖アミノ酸の減少をもたらした。

3.考察

 脳内のセロトニンの濃度は、血中のトリプトファンの濃度に比例していることが示されている5)。しかし、タンパク質を多く摂取すれば脳内のトリプトファンが増えるというものではない。Wurtmanらの研究によると、血中のアミノ酸の量を増やすと脳内のトリプトファンの量はむしろ減少するということを示した1,2由は、トリプトファンは、その他の分岐鎖アミノ酸と同じ輸送体を用いているため、血中のアミノ酸の量が増えると、競合するアミノ酸も増加することにより、トリプトファン以外のアミノ酸が脳内へ移行してしまうためである。このような場合には、炭水化物を同時に摂取すると図1に示すように競合するアミノ酸が筋肉などに取り込まれるため、競合が少なくなってトリプトファンが脳内に移行されやすくなるということが示されている。


 われわれは、中高年男性、若年男性にブドウ糖と蔗糖を摂取させ、血中のブドウ糖、インスリン量を測定した4。その結果、中高年男性では蔗糖を摂取した際のインスリンの量はブドウ糖を摂取した際の34.2%であったが、若年男性では76.2%であった。つまり若年男性は蔗糖に対するインスリン分泌の反応が亢進しているのである。


 また、血中の脂質、アミノ酸の変化についても測定した結果、前述の通り、まず、脂質には変化がなかった6取前の値を調べるとLDLコレステロール、総コレステロール、中性脂肪は中高年男性の方が若年男性より多かった。血中脂質量への年齢の影響はあまり調べられていないものの、Parkらの同様の研究では、年齢とともに血中脂質の量が増加することを示している7


 一方、アミノ酸であるが、われわれが測定した結果では、ブドウ糖、蔗糖の摂取で多くのアミノ酸量が減少した。特に必須アミノ酸は中高年男性、若年男性ともに有意に低下した(図4)。一方、総アミノ酸量も低下しているが、ブドウ糖の摂取後にのみ有意に低下している(図3)。このことは若年男性においては、蔗糖の摂取がインスリン量をブドウ糖の摂取と同じくらい増加させることと関係している。つまり、若年男性では蔗糖の摂取は血中の必須アミノ酸量を大きく減少させるのである。非必須アミノ酸であるが、この低下は必須アミノ酸の低下ほどでなく、若年男性のブドウ糖の摂取の場合のみ有意に低下した(図4)。


 これらのことは、蔗糖の摂取の場合にトリプトファンと競合する必須アミノ酸、つまりフェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンが末梢の筋肉などに移行し、トリプトファンが脳内に移行することがヒトでも起こっていることを示している。


 では、日常生活において砂糖・甘味料入り飲料水を摂取する場合、これらの量が多いと血中のアミノ酸にどのような影響を与えるだろうか。表8に示すように日常生活において砂糖を摂取すると若年男性においてはアミノ酸が筋肉などに取り込まれることを示している。これを図で示すと以下のようになる図6)。

図6 トリプトファンの脳内への移行とセロトニンの産生、その他のアミノ酸の筋肉への取り込み(イメージ)

おわりに

 砂糖の摂取は、血中のトリプトファンを脳内に移行させ、セロトニンが分泌されやすくなる。セロトニンは、精神の安定、喜びをもたらすことから、適度に砂糖を摂取することにより、気持ちを落ち着かせて、集中力を高めることにつながると言える。

 
他方、その他の必須アミノ酸は、砂糖の摂取により増加したインスリンの働きによってより多く筋肉に取り込まれ、筋肉を構成するタンパク質の合成が促される結果、筋力増強をもたらすのである。さらに、暗所においてセロトニンが変化したメラトニンは、緊張を和らげ、眠りを促す働きがあることから、夕食など寝る前の食事にタンパク質を多く含む食品と砂糖を使った食品を一緒に摂取すると、運動後の筋肉の回復・強化といった側面からも効果的であると言える。

 
このように運動と組み合わせた砂糖の摂取は、単にエネルギー補給という要素だけでなく、スポーツ競技におけるパフォーマンス向上に重要な役割を担っているのである。

 
なお、この研究は、伊藤記念財団とNPO「食と健康プロジェクト」の助成を受けて行われたものである。


文献
1)Fernstrom JD, Wurtman RJ. Science. 1971 Dec 3;174(4013):1023-5.Brain serotonin content: increase following ingestion of carbohydrate diet.
2)Fernstrom JD, Wurtman RJ. Brain serotonin content: physiological regulation by plasma neutral amino acids. Science. 1972 Oct 27;178(4059):414-6.
3)Pan RM, Mauron C, Glaeser B, Wurtman RJ. Effect of various oral glucose doses on plasma neutral amino acid levels. Metabolism. 1982 Sep;31(9):937-43.
4)Takao T, Ogawa,M.,Ishii,Y., Shimizu,F., Takada,A. 2016 Different glycemic resposes to sucrose and glucose in old and young male adults.J Nutr Food Sci 6:460 http://dx.doi.org/10.4172/2155-9600.1000460
5)Fadda F.Tryptophan-Free Diets: A Physiological Tool to Study Brain Serotonin Function. News Physiol Sci. 2000 Oct;15:260-264.
6)Changes in plasma amino acid and lipid levels after the administration of glucose or sucrose to healthy young and aged males Ogawa,M., Takao, T. Ishii, Y., Shimizu,F., and Takada,T Submitted
7)Park JH, Lee MH, Shim JS, Choi DP, Song BM, Lee SW, Choi H, Kim HC. Effects of age, sex, and menopausal status on blood cholesterol profile in the korean population.2015, Korean Circ J. 45:141-8
8)Sands SA, Reid KJ, Windsor SL, Harris WS.2005,The impact of age, body mass index, and fish intake on the EPA and DHA content of human erythrocytes.,Lipids. 40:343-7

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