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最終更新日:2016年11月10日
札幌事務所 平石 康久
鹿児島事務所 山領 弥奈
那覇事務所 岡 久季
調査情報部
(3)省力化および作業効率改善の取り組み
このような生産実績を実現している西野氏の省力化および作業効率改善の取り組みの特徴として、直播栽培とICT技術の導入が挙げられる。
ア.直播栽培による省力化
西野氏は、就農してから一貫して直播栽培を行っている。
7〜8ヘクタールのてん菜の栽培に必要な作業について、移植栽培が2月から4月まで続く育苗作業に加え、春先に他作物と作業が競合することにより移植作業におおむね4日間を要するのに対し、直播栽培では、おおむね2日間で播種作業を終わらせることができることから、省力化につながっている。
また、播種機を他作物と汎用的に利用でき、育苗に係る費用がかからないことなどから、10アール当たりの生産費に換算すると、1トン分に相当する金額が削減できると試算している。
他方、直播栽培は、移植栽培に比べ10アール当たりの収量が1トン近く減少するといわれているが、西野氏は10アール当たり0.5トン程度に抑えている。
その秘訣は、生育初期に発芽したてん菜の苗に霜が当たらないよう播種時期を見極めるとともに、作付け前の圃場の準備と精密な播種作業による初期生育の斉一性の確保と堆肥散布による地力の増進である。
なお、品種改良の結果、発芽率が向上し、間引き作業がなくなったことも直播栽培を継続する上で後押しとなったと言う。さらに「温暖化が原因であるかは定かでないが、近年、霜害の発生リスクはかつてほど高くない」と語る。
(イ)堆肥の散布による地力の増進
土づくりにおいて極めて重要な堆肥については、近隣の酪農家から麦稈と交換で引き取った牛ふんを用いて、自ら生産し、10アール当たり2トン程度を散布している。牛ふんは、ダンプ60〜70台の量になるが、1年に1度業者に頼んで一気に引き取っている。未熟堆肥は病害の発生につながることから、 10カ月間発酵させ、てん菜の前作である小麦の収穫後に散布している。堆肥の切り返しはタイヤショベル(ホイールローダー)を利用して自分で行う。タイヤショベルは冬の除雪作業を請け負っていることから、その機械を有効活用している。
十分な量の堆肥の施肥は、土壌の改善や、高温・多雨の気象条件下でもてん菜が根腐病などにかかりにくくなるなどの効果につながるほか、化学肥料の散布量を抑えることができるため、生産コストの削減にもつながっている。
なお、自ら堆肥を生産する理由は、ジャガイモシストセンチュウの侵入や雑草の種の混入などのリスクを低減できることのほか、何か問題が発生したとき、堆肥が原因であるのか、他に原因があるのか、問題の切り分けが容易になるからとしている。
イ.作業効率の改善
(ア)ICT技術の導入
トラクターについてはGPS機能を付加して作業精度の向上を実現している。GPS機能の活用により、肥料や農薬の散布の際に散布範囲が重ならないよう作業することができ、肥料や農薬コストの低減につながっている。なお、自動操舵システムについては、GPS機能単独の導入に比べ数倍の導入費用がかかる上、システムの一部が故障しただけで使用できなくなる恐れがあり、適期作業に支障を来す可能性があることから、導入を見送っている。
平成27年からは、ドローンによる圃場の観察を行っている。ドローンは、息子に勧められて導入したと言う。ドローンは、操縦や持ち運びが容易で、機体にカメラを装着させて飛行させれば、簡単に圃場上空の映像を撮影することが可能である。
西野氏は、10日置きに上空から圃場の様子を撮影しており、地上では見つけることが難しい作物の色むら、倒伏、欠株、雑草の繁茂などの状況が上空からの映像を見ると一目瞭然であり、管理が必要な場所をピンポイントで特定することができるため、作業の効率化に役立っている。
また、ドローンで撮影した画像を栽培履歴や作業履歴などを記録・管理しているソフトウエアと連動させることにより、生産管理の情報を視覚的に把握できるようになった。これにより、毎年の作業の振り返りがより容易になるとともに、二重散布や散布漏れなどのミスを一層確実に防ぐことができると期待している。
(イ)機械の共同所有および作業受託
西野氏は、マニュアスプレッダ(堆肥散布機)、てん菜のシュレッダー(除葉機)とハーベスタ、小麦のハーベスタを共同所有している。これらは補助事業により導入したものであり、利用組合をつくり、面積当たりの利用料金を設定して、借入償還に充てている。これらの機械の導入により、作業効率が向上している。
また、近隣の生産者の依頼や、出荷先である北海道糖業株式会社の作業依頼に応じて、農作業を受託している。てん菜生産に不慣れな生産者や生産に必要な機械を所有していない生産者などから作業を受託することも多いという。西野氏は、作業受託組織の役割は重要であるとしつつ、オペレーターは、しっかりとした技能を身に付ける必要性があり、作業受託組織や地域がオペレーターを育てる環境を整える必要があると指摘する。
宮古島市の平成25年度農業産出額は140億2900万円で、品目別ではさとうきびが66億8200万円と最も多く、次いで肉用牛が25億4000万円、葉タバコが22億8900万円となっている。収穫面積もさとうきびの4550ヘクタールが最大で、次いで葉タバコ563ヘクタールとなっており、さとうきびが地域の基幹作物となっていることが分かる。また、さとうきび農家戸数は、過去10年ほど漸増傾向にあり、27/28年期は前年と比べて150戸増の5279戸となった。農業機械の導入による省力化が、農家戸数の維持や新規就農へつながっているとみられる。
平成27/28年期の宮古島市内のさとうきび生産量は、生育旺盛期に降水量が少なかったことや複数の台風の影響があったものの、生育後期には気象条件に恵まれたことから、32万4389トン(前年産比7.7%増)と、前年産から2万トン以上の増産となった。近年のさとうきび生産量は約30万トン程度で推移し、県全体の約4割を占めている。なお、宮古島市では株出し栽培の収穫面積が5年ほど前から拡大している。この背景には、効果的なフィプロニル粒剤が普及したことでハリガネムシによる食害が減り、株出し栽培をしやすくなったことや、株出し管理機の導入が進んだことが挙げられる。
宮古島の降水量は平年値で2000ミリメートルを超えるものの、大きな河川や湖沼がなく、地表に水源が乏しいため、かつては大規模な干ばつの被害を受けることもあった。そこで地下水を農業用水として活用するため、地下ダムの建設が行われた。地下ダムとは、水が浸透しやすい琉球石灰岩の地層を地中壁で縦に区切ることで、それまで海に流出していた地下水を地層中に蓄えられるようにしたものである。平成10年に福里ダム、砂川ダムが完成し、井戸からポンプで地下水をくみ上げることで、受益面積8160ヘクタール(宮古島の耕地面積の約9割)に及ぶ大規模なかんがいが可能となった。
(2)上里氏の経営概況
上里豊一氏(73歳)の圃場は宮古島市の平良地区に位置する。同地区は宮古島市内でもさとうきび栽培が盛んな農業地帯となっている。宮古島の土壌は、島尻マージと呼ばれる琉球石灰岩土壌が広く分布しており、保水力に乏しいため干ばつの影響を受けやすいが、近年はかんがい施設の設置や圃場整備も進展しており、営農環境が向上している。
上里氏は3.5ヘクタールの農地を保有し、栽培面積の内訳は、さとうきび3.2ヘクタール、ドラゴンフルーツ0.3ヘクタールとなっている。
ア.就農のきっかけ
上里氏はもともと地元で公務員として働いていたが、定年退職を機に、平成15年から家業の農業を始めた。当初は父親がさとうきびを栽培し、上里氏本人はドラゴンフルーツ栽培のみに携わっていたが、翌年からさとうきびの栽培も始め、20年からは父親の後を全面的に引き継ぎ、さとうきび主体の経営に切り替えた。就農当初から父親の営農方法を見て、栽培の工夫の必要性を感じただけではなく、そのためのアイデアも持っていたという。
イ.さとうきび生産実績と競作会での受賞
平成27/28年期さとうきび生産量は284.4トン、収穫面積は2.7ヘクタール、単収は10アール当たり10.4トン(全作型平均)と、平良地区平均の同6.7トンや宮古島市(注)平均の同6.8トン、県平均の同5.7トンよりも高い(図8)。さらに競作会用の圃場では、春植えで同16.3トンと非常に高い単収を実現し、平成27/28年期沖縄県さとうきび競作会で農家の部第1位となり、農林水産大臣賞を受賞した。
(注)宮古島市は、伊良部島を除く。
ウ.複合経営を行う理由
上里氏がドラゴンフルーツとの複合経営を行っている理由は、第一に、植え付けや管理、収穫といった作業が、さとうきびの収穫時期から外れるため、年間の労働力配分を考慮した際に都合が良いことが挙げられる。また、露地栽培が可能なため、施設に係る費用や手間がほぼ無いことも利点である。その他、5月から10月にわたって数回開花・結実するので、仮に一度台風の被害にあっても、しばらく待てばまた収穫出来るようになることも、台風が多いという地域性に適しているからである。
エ.労働力の確保
農作業は基本的に上里氏がほぼ1人で行っている。奥さんが手伝うこともあるが、雇用はせずに家族経営で成り立つよう配分を行っている。作業機械については、必要に応じて購入や買い替えを行い、動力噴霧機、耕運機、株揃え機、ミニバックホウなどを自己資金で調達した。最近では平成27年12月に50馬力の大型トラクターも購入している(写真12)。