ホーム > 砂糖 > 各国の糖業事情報告 > タイ王国のサトウキビ作機械化と導入が進む中型収穫機
最終更新日:2016年11月10日
(注)TRM社は、タイのサトウキビ産業において主要な企業グループであるThai Roong Ruang Sugar Group(TRRグループ)の中でサトウキビの機械化を担っている企業である。Toft7000のメンテナンスを通して得た技術を基にToft7000に匹敵する大型機種M8や中型機種のM6/Sを製造・販売するようになった。TRRグループは傘下に7社の製糖企業を有し、最近は日本の国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の支援を受けエタノールの製造にも取り組んでいる。
基本部分はToft7000と同様のコンセプトで設計・製造されており、メーカー資料によると、100〜110センチメートルの狭い畦幅にも対応(150センチメートルまで適応)でき、軽量化による機動性の向上と収穫ロスの軽減や株出し収量の増大につながることをセールスポイントにしている。7000シリーズとの部品の共通化によりコスト低減を図っているほか、レバーやボタンなどの操作系やメーターなどの表示機器類は操作、視認しやすいように効率的にまとめられている。メーカーでは、1時間当たり15〜20トンの作業能率が可能としている。
(2)TRM M6/S
本機はタイの国産中型収穫機であり、CASE IH A4000をモデルにして開発され2011年から販売されている(写真15)。A4000よりも大型のエンジンを搭載、動力を伝達する油圧ポンプの容量を増やし輪距を拡大するなど、安定性を高める工夫が施されている。また、さい断直後のエキストラクタファンに加え、エレベーター最上部にも小型のファンを装備しトラッシュ除去機能を強化している。操作系はシンプルでレバーの配置などはA4000に近い。メーカーではA4000や後述のCH330同様に100〜150センチメートルの畦幅に適応でき、条間30〜50cmで2条植えのサトウキビでも収穫可能としている。また、作業能率は1時間当たり12〜15トンで、圃場のコンディションによるが1日当たり140〜150トンを収穫できるとしている。中国、インド、ベトナムなど周辺国から視察や引き合いがあるが輸出までには至っていない。隣国のカンボジアやミャンマーに農場を持つタイの大規模農家が現地へ導入し使っている事例がある。本機については、販売開始からまだ数年経っただけであり、その耐久性などについては今後の経過を見ていく必要がある。
(3)John Deere CH330
John Deere社の収穫機は、米国ルイジアナ州でサトウキビの作業機を製造・販売してきたCAMECO社を2006年に吸収合併したところから始まる。Toft7000に相当するCAMECO社の大型収穫機CHW2500やCHW3500を発展させたCH3520が現在の主力製品である。その、John Deere社が南米やアジア地域を主なターゲットとして開発した中型機がCH330である(写真16)。
本機の大きな特徴は、さい断式サトウキビ収穫機では世界初となる「Articulated Steering System(前折れ式操舵システム)」と「フルタイム4WD駆動方式」である。前者は操舵時にトッパ、クロップディバイダ、ノックダウンローラと前輪が一体的に左右に45度折れ曲がる構造になっており、いわゆるスリーポイントターンなしでの畦替えを可能にするほか、狭い畦幅(メーカー資料では100〜150センチメートルの畦幅に適応)の圃場への進入に効果を発揮する。また、駆動方式がフルタイム4WDとなっていることも機動性の向上につながると考えられる。
キャビン内の操作系や制御・表示機器類は、運転席の右側に集中的に配置されており、オペレーターの前方は操舵用のハンドルのみとなっている。タッチパネルディスプレイやコーナーポストディスプレイにより作業内容を的確に制御したり、各部の機器類に作動状況などについて種々のインフォメーションが表示されるなど多くのICT技術も取り入れられている(図3)。なお、今回調査したCH330は2015年度で生産を終了し、2016年からは後述するCH530へモデルチェンジをしている。
(4)John Deere CH530(参考)
CH530は、2016 年からCH330の後継機として製造・販売が始まった機種である。メーカーとしては、大型機CH3520に匹敵する作業性能と中型機CH330の機動性を併せ持った機種を目指してモデルチェンジを行っている。CH330からの大きな変更点は、クロップディバイダや掻き込み口の作用幅を拡大し、高単収や2条植え(寄せ植え)のサトウキビへの適応性を高めたところである。このため、エンジンの出力を148キロワットから152キロワットへアップし、輪距を10センチメートル拡大するとともにタイヤ幅(後輪)を52センチメートルから60センチメートルと大きくして作業の安定性を向上させている。基本的な設計はCH330同様、CH3520の設計コンセプトを踏襲し、多くの部品を共通化して、導入やメンテナンスのコスト低減を図っている。前折れ式操舵システム(写真17)、フルタイム4WDをはじめ、大部分の操作を運転席右側のマルチファンクションレバーに集約していることや、コーナーポストディスプレイ、タッチパネルディスプレイによる風量、刈り高さなどの作業コントロールやインフォメーション表示機能などはCH330と同じである。