ホーム > 砂糖 > 各国の糖業事情報告 > 台湾のサトウキビ品種育成の現状ならびにサトウキビ野生種の自生状況
最終更新日:2017年2月10日
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
作物開発利用研究領域 主任研究員 境垣内 岳雄
主席研究員 樽本 祐助
技術支援センター業務第1科 科員 羽生 道明
FAOSTATによると、2014年期の生産量は54万トンであり、生産量は日本の約半分である。また、収穫面積は約8000ヘクタールであり、このうち約8割は台湾糖業公司の自社圃場である。製糖工場は中部の虎尾工場(雲林県)と南部の善化工場(台南市)の2カ所にある(図2)。1日当たり圧搾量は各工場とも約2500トンであり、操業は例年、12月から翌年3月までの4カ月にわたり行われている。
作型は、ほぼ全てが夏植え−株出し体系であり、新植は18カ月、株出しは12カ月の栽培期間となる。株出し回数は1〜2回と少ない。なお、日本と同じく、近年、ハーベスタの普及が急速に進んでいる。主要な病害は黒穂病、わい化病、さび病などであり、日本での病害と類似していた。なお、黒穂病について、台湾では過去に三つのレース(TW1、TW2、TW3)の存在が報告されるが4)、現在、圃場で発病が認められるレースはこのうちTW3である。
サトウキビ交配は屏東県の萬丹育種場で行われており(写真1)、年間の交配数は300〜400穂である。1990年代後半までは約20倍の育種規模を誇っていたが、生産量の減少に伴い、現在の交配数となっている。育種目標は収量、糖度に重きを置き、その次に耐病性を重視していた。このため、特に、多収性を示す「ROC10」や「ROC22」が重点的に利用されていた。
台湾は世界各国で育種に利用されてきた野生種「Tainan」の自生地であり、また、Lo and Sunの報告3)などでは、台湾全土に自生地が存在することが知られる。また、Changらの報告6)では、台湾の野生種には草丈や茎径に変異があり、太茎で1.3センチメートルの茎径を有する野生種の存在も示されている。わが国には耐病性のほか、越冬性7)や高Brix8)など特徴的な野生種が存在するものの、細茎のものが大半であり、収量性を向上させるためには大型の野生種を導入することが非常に重要となる。
今回の訪問では、屏東県里港郷から北上して、台南市楠西区まで車で野生種の自生地を訪問した(図4)。道中で多くの野生種を発見したが、特に、印象の深かった2カ所を紹介したい。
また、写真3は台南市楠西区のサトウキビ野生種の群落である。こちらについては川の中州に自生していること、また、台湾最大の曽文ダムのすぐ近くにあり、海岸から40キロメートル以上離れた内陸にも大きな群落があることに驚いた。
参考文献
1.FAOSTAT http://www.fao.org/faostat/en/#data/QC
2.Panje, R. R. and Babu, C. N. (1960) 「Studies in Saccharum spontaneum distribution and geographical association of chromosome numbers」『Cytologia』 25pp. 152-172.
3.Lo, C.C. and Sun, S. (1968)「Collecting wild cane in Taiwan」『Proceedings of International Society of Sugar Cane Technologists』13pp.1047-1055.
4.Lee, C. S., Yuan, C. H. and Liang, Y. G. (1999)「Occurrence of a new pathogenic race of culmicolous smut of sugarcane in Taiwan」『Proceedings of International Society of Sugar Cane Technologists』23pp. 406-407.
5.Daniels, J. and Roach, B. T.(1987)「Taxonomy and evolution」In D. J. Heinz (Ed.)『Sugarcane improvement through breeding』pp.7-84. Amsterdam: Elsevier.
6.Chang, Y. S., Hsiao Y. C. and Huang W. L. (2013)「Germplasm collection and agronomic traits analysis of Saccharum spontaneum L. in Taiwan」『Crop, Environment and Bioinformatics 』10pp. 98-110.
7.Ando, S., Sugiura, M., Yamada, T., Matsuta, M., Ishikawa, S., Terajima, Y. Sugimoto, A., and Matsuoka, M.(2011)「Overwintering Ability and Dry Matter Production of Sugarcane Hybrids and Relatives in the Kanto Region of Japan」『Japan Agricultural Research Quarterly』45pp. 259-267.
8.Sakaigaichi, T., Terajima, Y., Matsuoka, M., Terauchi, T., Hattori, T. and Ishikawa, S. (2016) 「Evaluation of the juice brix of wild sugarcanes (Saccharum spontaneum) indigenous to Japan」 『Plant Production Science』19pp. 323-329.