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最終更新日:2017年4月10日
てん菜は、3〜4月ごろに圃場に直接播種、10月〜翌1月ごろに収穫が行われる。収穫作業は、ハーベスタを自ら所有して、あるいは、複数の生産者で共同利用して行う者もあれば、業者へ委託する者もいる。
EUの砂糖政策の2006年改革(注)(以下「2006年改革」という)に伴う生産割当数量の削減により、てん菜生産段階でも集約化が進み、生産者数は2005年の2万9900戸から2013年の2万3920戸へ約2割減少した(表3)。一方、1戸当たりの栽培面積は増加し、100ヘクタール以上の栽培面積を有する生産者の割合は、同期間に51.5%から62.0%に増加した。
(注)2005年のWTOの裁定により、輸出量を137万4000トンに制限されたことなどから、EU域内の砂糖の生産割当を2009/10年度までに600万トン削減することを目標に行われた改革。この改革以降、生産割当数量を超過した砂糖については、一定の要件を満たさないと余剰課徴金が課せられることとなったほか、生産割当を放棄する製糖企業に対し再構築助成金が支払われたこともあり、てん菜糖生産の集約化が進んだ。砂糖の生産割当は、2017年9月末に廃止されることとなっている。詳細は、丸吉裕子、根岸淑恵「英国の砂糖産業の動向〜EUの砂糖生産割当廃止の影響を中心に〜」『砂糖類・でん粉情報』(2017年3月号)を参照されたい。
輸出量は、加盟国の増加によるEU市場の拡大などにより、近年は200万トン程度で推移している。白糖輸出先は、EU域外では北アフリカや中東などであり、EU域内では、イタリアや英国などである。砂糖を含む主な加工食品の輸出動向は表6の通りで、その7〜9割がEU域内に輸出されており、砂糖のみならず砂糖を含む加工食品についても、域内での競争力が高いと言える。
播種は6条仕様の播種機での直播が一般的であるが、区画整備された大規模な圃場では、12条仕様も導入されている。4〜5割程度の生産者が播種機を所有し自ら作業するが、残りは受託組織が作業している。播種時期や圃場条件などにもよるが、畝幅50センチメートル程度、株間18〜23センチメートルで、1ヘクタール当たり7万〜9万株を基本とした播種が推奨されている。
なお、オランダの農用地の1割が風害を受けており、てん菜生産地では、特に南東部と北東部の泥炭地域と砂地地域が被害を受けやすく、砂地地域では、凹型の加圧ローラーやV字型になった二つの加圧ローラーが付いた播種機の利用が推奨されている。一般的な風害対策としては、播種床の表面を粗い塊状にして十分な有機物を上層部にとどめる方法や、耕起後の速やかな播種を指導している。このほかの風害対策として、(1)てん菜と並列に大麦を播種する方法(注1)(2)牛ふん堆肥の散布(注2)(3)裁断したセルロース紙による被覆(注3)−などを推奨している。
収穫は、地区ごとの受託業者や共同利用組織が自走式6条仕様ハーベスタを用いて行うのが一般的である(写真1)。一部では、9条または12条仕様も導入されている。
(注1)1ヘクタール当たり60〜80キログラムの大麦の種子を、てん菜を播種した列から2.5センチメートルに離して播種し、大麦の高さが15センチメートル程度に成長したら、除草剤で大麦を除草する方法が一般的。この対策に要する経費は、1ヘクタール当たり46〜65ユーロ(5520〜7800円)。
(注2)1ヘクタール当たり10〜15トンの牛ふん堆肥をてん菜の播種直後に散布。てん菜の発芽を阻害しないよう、均等な散布と圃場の水分量への注意が求められる。北東部およびテッセル島で特例的に許可されている。
(注3)セルロース紙は、堆肥として用いることができる素材として国内で流通しており、てん菜の播種直後と発芽後に、1ヘクタール当たりおよそ12.5トンを投与する。この対策に要する経費は、1トン当たり15ユーロ(1800円)。
(ウ)輸出拡大と物流の合理化
2016年12月の聞き取りによると、同社は輸出先国の中でも、恒常的に消費量が生産量を上回り需要が見込まれる英国とイタリアへの輸出をさらに拡大したいとしていたが、英国については、EU離脱の動きが注目される。また、今後はEU域外への輸出も、需要の見込まれる北アフリカや中近東を中心に、拡大したいとしている。英国の輸出企業であるED&F Man社とのジョイントベンチャー企業であるlimako社に数百万ユーロを投じ、北部のエムスハーゲンに所在するシュガーターミナルを中核として、生産割当廃止後に増産が見込まれる砂糖の輸出体制の強化を進めている。
なお、国内向け小売製品の物流についても、運送業者と提携し、コンピュータ管理による新たな倉庫・配送センターをDinteloord工場の近隣に整備し、合理化を図っている。
(エ)持続可能な砂糖生産に向けた取り組み
同社は、てん菜の茎葉部や根端部およびビートパルプなどを発酵してバイオガスを発生させ、工場内に循環して利用できる体制を整え、エネルギー消費量の削減や二酸化炭素排出量の抑制に取り組んでいる。同社は国内最大のバイオガス生産企業であり、一般家庭向けの供給も行っている。また、工場内の電力はバイオガスを主力燃料とした自家発電で賄っている。
同社は、このような循環型生産の取り組みなどが評価され、コカ・コーラ社により、同社へ砂糖を供給する全世界の企業の中から、2年連続で最優秀企業として表彰されている。また、ネスレ社、ユニリーバ社、ダノン社が共同設立したthe Sustainable Agriculture Initiative(SAI)にも、持続可能な農業と食品製造のサプライチェーンを構築する最高水準の食品製造企業として格付けされている。
コラム 合理的製糖研究所(IRS)の取り組みオランダの合理的製糖研究所(IRS)は、1930年の設立以降、持続的なてん菜生産の実現と生産者の収益性向上を目的に、主に生産者組合Royal Cosanの出資を基に運営され、てん菜の栽培方法の研究や普及などを行っている。圃場の土壌分析、天候条件を基にした出芽日予測システムの提供や機械部品の検査など、生産者の栽培技術向上のための多岐にわたる取り組みを実施している。Suiker Unie社などと共同で、「ビートアフタヌーン」と呼ばれる生産者向けの研究成果発表会や機械を操縦するオペレーター向けの研修なども行っている。このうち、優良品種の選抜と持続可能なてん菜生産に向けた病害虫対策を紹介する。1.優良品種の選抜 IRSは、国内で近年発生している主な病害(そう根病、根腐病、葉腐病、黒根病、褐斑病、テンサイシストセンチュウなど)への抵抗性を有する品種の普及を第一目標としている。なお、オランダで普及する全てのてん菜品種は、そう根病に対する一定の抵抗性を有している。また、ほぼ全ての生産地域でテンサイシストセンチュウの発生があるが、抵抗性品種の普及を進めることで、常態化している南部の海岸沿いなどの粘土質土壌の地域や西海岸中央部の干拓地も含めててん菜栽培が可能となっている。 IRSは、少なくとも3年間の試験を行い、既存品種の上位四つの品種と比べ、収量、糖分、耐病性が総合的に優れていることを条件に、毎年12月、品種リストとともに生育調査結果を公表している。生産者は、これに基づき次年度用の種子について適切な品種を選ぶことができる。なお、2016年12月現在の品種リストで推奨されている品種の原種メーカーは、ドイツのKWS Saat A.G.社、Strube GmbH & Co. KG社、ベルギーのSESVanderHave N.V./S.A.社、米国のBetaseed GmbH社であり、製糖企業のSuiker Unie社が一元的に種子を生産者へ配布している。 種子の主な流れは、(1)原々種メーカー→(2)原種メーカー→(3)採種メーカー→(4)コーティング加工メーカー(発芽促進剤や病害虫防止剤でコーティングを行い、種子の大きさを均一にする〈写真〉)→(5)Suiker Unie社(生産用種子の配布)→(6)生産者となっている。
2.持続可能なてん菜生産に向けた病害虫対策 |