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最終更新日:2017年7月10日
(2)生産動向
加糖調製品の生産に関する公式な統計データはないが、AVAに登録されている製造施設および現地でのインタビューの結果によると、加糖調製品製造企業は6社存在する(表5)。6社の施設は全てAVAからAグレードを付与されており、3社は日本企業の子会社で、残り3社はシンガポールの国内企業である。
なお、過去にシンガポールで加糖調製品を製造し日本向けに輸出していたMalaysia Dairy Industries社は、現在は生産を行っていない。
(3)生産方法
ア 原料調達
加糖調製品製造企業は、地の利を生かし、国際価格で複数の国から原料を調達している。砂糖を直接輸入する企業もあれば、Woodlands Sunny Foods社のように、国内砂糖大手企業のSIS社から調達する場合もある。ココア調製品に使われるココアは、シンガポールに拠点を置く国際的な穀物メジャーのOLAM社、カーギル社およびBarry Callebaut社などから調達している。
砂糖は国際価格で調達可能なため、価格の変動により原産国が変更される。豪州産を使用する場合もあれば、タイ産またはマレーシア産を使用する場合もある。ココアも同様であり、各社の製品に適した原料をマレーシアなどから調達している。粉乳は、豪州およびニュージーランドが主な輸入先となっている。脱脂粉乳および全脂粉乳については、主に豪州とニュージーランドから調達されているが、価格によっては、EUまたは米国から輸入されることもある。穀粉調製品に使われる小麦粉の原料は、米国および豪州から輸入されている。小麦粉には多くの種類があり、日本から求められる配合が難しいため、専門性の高い製粉業者の果たす役割が大きく、Prima Flour社などが穀粉調製品を生産している。
原料の調達は、菓子メーカーなど日本の企業が生産する製品に対応している。砂糖は、特に、最終製品の色や形態に影響が出ないように、日本で流通する規格と同水準のものが求められる。このため、ICUMSAによる色価や粒度に関する条件を満たす精製度の高い砂糖が主に使用されている。
イ 生産コスト
加糖調製品の生産は、各企業のシンガポール国内工場で行われる。日本の菓子メーカーなどは、自ら原材料を別々に調達して日本国内で混合するよりもコストを抑えられるため、シンガポールから加糖調製品を輸入している。このため、日本よりも低賃金、かつ安価に製造する必要があり、ふるい器やブレンド用機械など製造ラインの多くは自動化されている。梱包やパレットへの荷積みなどの作業もロボット化している工場もある。自動化が進んでいる背景には、シンガポール政府が推進している食品加工業の生産性向上促進策がある。同政府は、外国人労働者の受け入れ規制を強化しており、製造ラインの自動化により、外国人労働者の受け入れ枠を削減した企業に対して、製造ラインの自動化システム導入経費の助成や、税制優遇などの支援策を講じている。
生産コストに関する公式な統計データはないが、原料は国際価格で調達されている一方、人件費およびリース料など賃料は増加傾向にあるため、多くの企業にとって同国で加糖調製品を生産する経済的メリットが少なくなっている。自動化の進展によっても、人件費の上昇による生産コストの上昇は避けられない状況にあるとされる。1トン当たりの利益幅は120〜150米ドル(1万3440円〜1万6800円)とされており、シンガポール最大の加糖調製品製造企業であるSMC Food 21 Pte.(SMC)社のように生産拠点をコストの低い国に移転する企業がある一方で、Woodlands Sunny Foods社のように生産規模を縮小し、自社向けのみの生産を行う企業もある。他方、国際価格で原料を安定的に調達できるため、同国で生産を続ける企業もあり、SMC社のミルク調製品およびPrima Flour社の穀粉調製品はその一例である。
コラム1 SMC社の加糖調製品生産状況SMC社は周囲に多くの食品関連企業が立地する西部のジュロン・ウェストに位置している。従業員は2016年11月時点で55人であり、生産工程の多くの部分を自動化しており、HACCPやISO 9001などを取得している。同社をはじめ、シンガポールの加糖調製品製造企業の加糖調製品はほぼ全て対日輸出向けに生産されている。原料は倉庫に保管し、ブレンドを行う室内では温度および湿度を低く設定している。また、施設内の機材はほとんど日本製である。砂糖の含有量が日本の輸入関税区分に収まるよう、ブレンディングの配合を細かく管理し、施設内のラボで確認している。また、2012〜13年ごろからの賃金上昇などにより生産コストが高騰したことを受け、タイやマレーシアなど他国へ製造拠点を移す、生産シフトが進んでいる。 生産工程は図の通りである。なお、袋詰めには25〜30キログラムの紙袋の他にフレキシブルコンテナバッグ(容量500〜1000キログラム)も使われる。受注後1週間で製造と検査を行い、その後2週間かけて日本に輸送する。生産能力は年間5万トンだが、ココア調製品の生産をタイやマレーシアにシフトしているため、今後はミルク調製品を中心に3万5000トン程度になる予定である。2015年の生産量は、4万2994トン、内訳は、92.1%がミルク調製品、5.5%がココア調製品、残りはその他の製品であった。 |
コラム2 シンガポールの健康増進政策シンガポール保健省傘下の健康促進局(HPB)は、砂糖などの過剰な摂取による健康への影響を防ぐため、1998年から「Healthier Choice」のロゴを商品に付与する制度を導入している(写真)。通常の食品より脂肪分、飽和脂肪酸、塩分または糖分が低い食品に同ロゴを付与したり、「糖分が少ない」、「無糖」といった表記を行うことができる。一例として、シンガポールで人気の高い「3−in−1」インスタントコーヒーの小袋の場合、砂糖の含有量が100グラム当たり5グラム以下であればロゴの付与と「糖分が少ない」といった表記が可能である。学校のカフェテリアなどではロゴ付きの飲食品のみ販売可能となっている。 同ロゴに対する認知度は高く、世界的な糖分摂取抑制の流れによる消費者の健康志向の高まりからメーカー側も砂糖の使用減に傾いている。ロゴが導入された当初、炭酸飲料(注)へのロゴの付与条件は100グラム当たり上限8グラムとされたが、その後、段階的に上限が引き下げられ、2016年11月時点で同7グラムとなっている。2017年には同6グラムになるといわれている。 また、政府は2016年4月に「糖尿病との戦い」を宣言した。国内に40万人以上の糖尿病患者がおり、同省は同年6月に「糖尿病予防および治療タスクフォース」を発足させている。具体的な対策について策定中であるが、国内の砂糖消費に影響を与える可能性が高い。 (注)ロゴ導入前の一般的な炭酸飲料には100グラム当たり12グラムの糖分が含まれていた。
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