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黒糖に対する消費者ニーズと消費拡大の方向性

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最終更新日:2017年8月10日

黒糖に対する消費者ニーズと消費拡大の方向性

2017年8月

沖縄県農業研究センター(現 沖縄県農政経済課)栄野比 美徳
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構食農ビジネス推進センター 後藤  一寿
沖縄県衛生環境研究所 恵比寿 則明

【要約】

 黒糖は、サトウキビを原料として沖縄県の離島を中心に製造されており、サトウキビ生産も含めて離島経済を支えている。しかし、その供給先は業務用途が中心で、比較的高単価である直消用(消費者が直接食べたり料理で使用したりする用途向け)としての需要は大きくはない。そこで、沖縄県および首都圏の消費者を対象に、属性別に見た黒糖に対する消費者ニーズの違いについて分析を試みた。その結果、女性の方が黒糖に対するニーズが高いことが明らかとなった。さらに、因子分析の結果、「安心・品質ニーズ」「日常消費ニーズ」「機能性ニーズ」といった潜在的なニーズが抽出された。

はじめに

 黒糖は沖縄県の特産物であり、離島を中心に生産されており、離島経済の中心的な役割を担っている。しかし、近年ではサトウキビ生産農家の高齢化や担い手不足などの課題に直面している。

 平成21年度の含みつ糖の産糖量は気象条件に恵まれたことより、9717トン1)と豊作となり、過剰在庫を抱える事態となった。その結果、製糖工場は資金の回収が進まず生産農家へのサトウキビ原料代、工場操業資金の確保の問題が生じた。また、各製糖工場の荷姿別実績においては、ほとんどが加工原料などを中心とした業務用途となり、家庭用途は1割にも満たない2)。このため、今後離島でのサトウキビ生産を維持するためには、新たな消費者ニーズの掘り起こしによる需要の拡大が課題となっている。

 そこで、本研究では、沖縄県と首都圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の消費者を対象に、インターネットを通じて20歳代から60歳代以上の男女それぞれに対し各30人以上、計620人に黒糖の消費に関するアンケート調査を行い、その結果を基に、黒糖の消費者ニーズについて考察することを目的とする。

1.沖縄県産黒糖の消費者ニーズについて

 沖縄県産黒糖のニーズについて、16の評価項目を設定し、5段階評価(思う:5、やや思う:4、どちらともいえない:3、あまり思わない:2、思わない:1)を評価してもらい、平均評価得点によるランキング評価を行った(表1)。

 その結果、両地域ともに高い項目は、「黒糖が持つ健康効果を示してほしい」や「栄養面で他の砂糖との違いを示してほしい」の評価が高いことから、消費者は黒糖に対する健康効果について高い関心を示していることが分かる。続いて、沖縄県において評価の高い項目は、「外国産が安くても沖縄産がほしい(4.21)」「沖縄県産黒糖をもっとPRしてほしい(4.12)」と続き、沖縄県において沖縄県産黒糖の満足度の高さがうかがえる。一方、評価の低い項目は、「味や食感に基準を作ってほしい (3.52)」「黒糖の製造方法を見てみたい(3.34)」「贈答できるような高級な包装もあるといい (3.49)」となっている。次に、首都圏について評価の高い項目は、「どのような時に黒糖を食べるとよいか教えてほしい(3.89)」「黒糖を今より安い価格で買いたい(3.87)」「近所のスーパーやコンビニで気軽に買いたい(3.85)」となり、一方、評価の低い項目は、「贈答できるような高級な包装もあるといい (3.07)」となり、これらのことから首都圏は黒糖を日常生活で使用したいニーズがあると考える。
表1 ニーズ別人数割合と平均得点・分散
 続いて、このような評価が属性グループ間でどのように異なるか分析を行い、属性グループの平均得点の差を比較した(表2)。性別において両地域ともに、有意差が生じた全ての項目は女性が男性より高く、未婚・既婚別においても、有意差が生じた全ての項目について、既婚者が未婚者より高く評価していることから、女性および既婚者は黒糖に対して強いニーズを持っていることが明らかとなった。

 沖縄県では40歳代以上の層で「成分表示をわかりやすく伝えてほしい」「減農薬・減化学肥料で作られたサトウキビの黒糖が欲しい」「生産者の顔や製造方法がわかる黒糖が欲しい」「味や食感に基準を作ってほしい」で有意差が認められ、品質を重視していることが考えられる。首都圏では、50歳代以上の層に「沖縄県産黒糖をもっとPRしてほしい」「どのような時に黒糖を食べるとよいか教えてほしい」「黒糖に合う料理について教えてほしい」に有意差が認められ、黒糖に関心を持っていることが分かる。しかしながら、首都圏40歳代以下の年齢層については、全ての項目に有意差が認められず、これらの年齢層にはまずもって黒糖に関心を持ってもらうためのPR対策が必要と考える。
表2 属性区分別におけるニーズ平均得点の差の検定
 さらに、各評価項目間での関連を調べるために、平均得点の相関行列を求めた(表3表4)。まず、「黒糖が持つ健康効果を示してほしい」は両地域ともに他の項目と高い相関を示しており、黒糖は健康に良いイメージを持っていることを示している。次に、沖縄県で相関係数が高い項目では、「贈答できるような高級な包装もあるといい」と「味や風味、食感など高品質な黒糖が欲しい」(相関係数0.50、以下同様)、「贈答できるような高級な包装もあるといい」と「味や食感に基準を作ってほしい」(0.42)といった贈答用に関連する項目で相関係数が高く推移しており、沖縄県における贈答用として新たなジャンルの可能性が考えられる。
表3 評価項目の平均得点の相関行列(沖縄県)
表4 評価項目の平均得点の相関行列(首都圏)
 さらに、「沖縄県産黒糖をもっとPRしてほしい」は、「黒糖が持つ健康効果を示してほしい」(0.53)、「栄養面で他の砂糖との違いを示してほしい」(0.49)、「どのような時に黒糖を食べるとよいか教えてほしい」(0.45)、「黒糖に合う料理について教えてほしい」(0.54)で相関が高く、沖縄県においても、黒糖の効果や使い方について情報が不足していることが明らかとなった。続いて、首都圏で相関係数が高い項目は、「近所のスーパーやコンビニで気軽に買いたい」と「黒糖を今より安い価格で買いたい」(0.56)で高い相関を示しており、首都圏では比較的高級品として認識され、日常生活で気軽に購入したいニーズを持っていると考えられる。また、「黒糖に合う料理について教えてほしい」と「どのような時に黒糖を食べるとよいか教えてほしい」(0.52)の相関も高く、購入してもらうためには、黒糖を使った料理方法や食べ方といった情報発信を強化していく必要があると考える。

 このように、16項目でさまざまな相関を示していることから、さらに潜在的な意識を発見するために、因子分析を用いて分析した。第1因子で因子負荷量の高い項目は、「生産者の顔や製造方法がわかる黒糖が欲しい」「減農薬・減化学肥料で作られたサトウキビの黒糖が欲しい」「外国産黒糖が安くても沖縄県産黒糖が欲しい」「味や風味、食感など高品質な黒糖が欲しい」「味や食感に基準を作ってほしい」「贈答できるような高級な包装もあるといい」「沖縄県産黒糖をもっとPRしてほしい」「黒糖の製造方法を見てみたい」であり、安心・安全や品質の良さを求めていることから、「安心・品質ニーズ」とした。

 第2因子で因子負荷量の高い項目は、「どのような時に黒糖を食べるとよいか教えてほしい」「黒糖に合う料理について教えてほしい」「使い勝手のよい形状や形態にしてほしい」「黒糖を今より安い価格で買いたい」「近所のスーパーやコンビニで気軽に買いたい」ということから、日常生活での使いやすさや購入しやすさに関連する項目が高いため、「日常消費ニーズ」とした。

 第3因子で因子負荷量の高い項目は、「栄養面で他の砂糖との違いを示してほしい」「黒糖が持つ健康効果を示してほしい」「成分表示をわかりやすく伝えてほしい」から、「機能性ニーズ」とした。
 さらに、属性別の意識の違いを把握するため、各属性別に因子分析の平均得点を算出した()。
図 属性別因子得点の平均値(性別、年齢、未婚・既婚、地域)
 性別については、全てのニーズで女性が男性より高いことが分かる。これは、表2の結果と同様に、女性が男性より強いニーズを持っていることを示しており、今後の消費拡大には女性を意識した商品開発が重要であることを示唆している。

 年齢では、「30歳代まで」と「40歳代以上」に分けると、安全・品質ニーズと機能性ニーズは40歳代以上の回答者が重視しているが、日常消費ニーズは30歳代までの回答者が重視している。地域別でも同様に、首都圏でも日常消費ニーズが沖縄県より高い。このことから、首都圏や30歳代までの消費者をターゲットとして黒糖の販売促進をするには、黒糖を生活の身近な存在にしていくことが必要であると考える。さらに、40歳代以上や沖縄県出身者および既婚者に黒糖の消費拡大を促すためには、安心・安全や品質面および機能性成分を追求した新たな商品展開が必要であると考える。このように、属性の違いによってさまざまな対応が必要であることを示している。

2.まとめ

 本報告では、沖縄県および首都圏の消費者にインターネットによるアンケート調査を実施し、黒糖における沖縄県と首都圏の消費者ニーズの違いを明らかにすることを試みた。その結果、以下の3点が明らかとなった。

 まず第1に、女性の方が黒糖に対するニーズが高いことが明らかとなった。本調査の結果から、沖縄県産黒糖の消費者ニーズの因子得点においても女性の得点が総じて高い。この結果から、新たな商品開発に向けた女性の視点が今後重要となると考える。

 第2に、黒糖に対する満足度は高いものの、属性の違いによって黒糖に対する認識の違いが明らかとなった。特に首都圏や30歳代までの年代では、因子得点の結果から日常消費ニーズが高く、黒糖は身近な存在ではないことが分かる。今後、黒糖消費拡大には定番化になりうる場面の提案や、低価格帯の商品展開および料理用レシピの提案などのPR活動が必要であると考える。また、沖縄県出身者や40歳代以上の年代については、安心・品質ニーズが高いことから、「健康に良い」、「沖縄県産としての安心感」などを中心とした商品展開が必要であると考える。以上のことから、属性の違いによってさまざまな商品開発の展開やPR対策が必要であることを示している。

 第3に、消費者は「健康効果を示す」や「栄養面で砂糖との違い」を知りたいと言ったニーズが高いことが明らかとなった。黒糖は「健康に良い」という事が世間一般に知られているが、どのような健康効果を消費者に示すのかこれからの課題となると考える。
参考文献
1)株式会社アドスタッフ博報堂、凸版印刷株式会社、NPO EAST(2012)『第2章安定供給の仕組みと供給施設.平成23年度沖縄黒糖多用途化緊急開拓支援事業』p.77
2)特定非営利活動法人経済活動支援チーム(2009)『W.沖縄黒糖の流通実態.平成20年度沖縄黒糖安定供給(流通・利用実態等)調査事業』p.14
3)栄野比美徳、後藤一寿、恵比須則明(2016)「黒糖に対する消費者ニーズと消費拡大の方向性」『食農と環境』(17)pp.43-52
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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