(1)低温
世界のサトウキビ生産国のおおよそ25%で、サトウキビへの低温害が報告されている。気温の低下に伴い芽子が壊死したり、茎に亀裂が生じたりするが、このように各器官が損傷を受けると微生物の侵入を受けやすくなる。被害の程度は、温度と低温にさらされた期間に影響されるだけでなく、その後の気候が温暖かつ湿潤であると微生物の増殖に適した条件であることからより甚大となる。
Eggleston博士の居住するルイジアナ州(米国)でも冬季には低温害が起こるため、サトウキビの栽培期間は7カ月、圧搾期間は3カ月に限られるという。低温害がひどく、原料の劣化が激しいときには、最悪の場合、工場の操業が停止することもある。
日本の主産地の中では、種子島においてサトウキビの品質劣化が深刻な問題となっている。種子島では、降霜前の収穫が推奨されていたり、劣化原料は正常原料と合わせて出荷したりといった対策が行われている。また、品質取引でサンプルを細裂する際に異臭や変色のある原料は正常原料と異なる方法で糖度の測定が行われる。
(2)開花
収穫が遅れると、開花により糖度が低下することがあるため、適期に収穫を行うことが重要である。また、開花に伴う糖度の低下程度は品種によって大きく異なることから、状況に応じて適切な品種を選択する。
一般的に開花は品質劣化を招く負の要因とされているが、開花は茎の熟度とも密接に関係し糖の蓄積した熟茎に生じるため、開花茎の方が高糖度であるといったデータも示されている。長期的な観察が必要になることからも、実験的にそれを証明するのは容易ではない。また、開花によって糖度は低下しても収量が増加する場合もあるので開花による品質の劣化が必ずしも産糖量の低下を指すわけではない。
(3)収穫前の火入れ
南北大東島を中心に初めて導入されたハーベスタは、バーンハーベスト(梢頭部や葉身などのトラッシュをあらかじめ焼却してから収穫する方法)に対応したタイプであったため、当時は収穫前に火入れを行っていたが現在日本では見られない。しかしながら、世界では依然として主流な収穫方法であり、タイでも直近10年の平均では60%以上の原料がバーンハーベストによって収穫されている。
前述したように劣化の主要因であるLeuconostoc属乳酸菌は、主にサトウキビの枯葉に存在するため、バーンハーベストは劣化を抑える効率的な収穫方法だと思われるかもしれないが、焼却された茎は細菌、菌の侵入を受けやすくなるため、結果としてグリーンハーベスト(火入れを行わない収穫方法)原料より劣化は早く進行する。
(4)収穫茎の長さ
手刈りによる全茎原料と比較し、ハーベスタによって細かく切断された原料は、切り口が多いため微生物の侵入を受けやすく、劣化の進行が早まる。近年、国内でも機械収穫率が高まり、平成27年産サトウキビでは鹿児島県のサトウキビ収穫面積の88%で、沖縄県では67%で機械収穫が実施されている。台風などの影響により倒伏、湾曲した茎が多い日本では細断式ハーベスタが主流であり、また今後、機械収穫率がさらに上昇すると予想されることからも、最も重要な要因と言えるだろう。
火入れの有無および収穫茎の長さによって収穫方法を劣化程度の早い順に並べると、(1)バーンハーベスト・細断原料(2)グリーンハーベスト・細断原料(3)バーンハーベスト・全茎原料(4)グリーンハーベスト・全茎原料−の順となる。
(5)刈り置き、圧搾までの期間
Leuconostoc属乳酸菌を人為的に原料茎に接種した実験では、細菌の増殖は接種10〜15時間後に急激に高まり、それに伴って劣化成分が著しく増加することが報告されている。細菌が感染するまでの時間も考慮して、全茎原料は刈り取り後24時間以内の圧搾が推奨されているが、機械収穫された細断原料は切り口が多く、特に高温多湿条件下では劣化が著しく早まるため、状況に合わせて6〜14時間以内に圧搾するのが望ましい。
(6)その他
上記以外にも、病害虫や野ネズミなどの小動物によって生じた傷口から微生物が感染することでも当然ながら劣化が進行する。工場内が不衛生で、微生物が繁殖しやすい条件では劣化が早まることから、工場の衛生状態にも劣化は左右される。また、気温や湿度、降雨といった気象条件や品種の劣化に対する抵抗性などは全過程で影響を与え得る要因である(
図2)。