ホーム > 砂糖 > 各国の糖業事情報告 > 中国におけるサトウキビ作機械化の現状と課題
最終更新日:2017年10月10日
学科の建物の一階は実験室で、雑然と各種の機械類とその残骸が残っていて歴史の重みを感じる。その中央には20メートルほどの土槽実験装置のレールが敷設され、ハーベスタのベースカッターからチョッパーまでを模した実験装置が設置されていた(写真10)。この装置がレール上を移動しながら土槽に固定された茎を刈り取る構造である。各部の諸元を自在に変えて、刈取メカニズムを解明して、最適な設計値を模索できるので、実機ではできない基礎研究が可能となる。
ここでは、中国における全茎式収穫機および細断式収穫機の研究をそれぞれ3段階に分けて説明し、続いて華南農業大学独自の研究について述べる。
ア.全茎式収穫機の研究開発
(ア)第1(早期)ステージ(1959〜2009年):文明農機の歩行型刈取機と脱葉機を模した収穫機械を製作し、さらに、トラクタ装着型を開発したが、倒伏茎の収穫はできなかった。
(イ)第2(中間)ステージ(2000〜2013年):刈倒し、脱葉、積み込みと搬出(もしくは排出)を1台の機械で行う全茎式コンバイン収穫機で、倒伏茎にも適応できたが、性能が低かった。
(ウ)第3(現)ステージ(2014年〜現在):少数のメーカーによって全茎式コンバイン収穫機の改良を行っている。
イ.細断式収穫機の研究開発
(ア)第1(早期)ステージ(1982〜1999年):広西農業機械研究院がパイオニアとして、AUSTOFT4000をモデルとする細断式収穫機4GZ-90を開発した。
(イ)第2(中間)ステージ(2000〜2007年):広西農業機械研究院でCASE7000とCASE4000をモデルとして、4GZ250と4GZ-180を開発した。
(ウ)第3(現)ステージ(2008年〜):いくつかの機関でCASE7000とCASE4000をモデルとする大型収穫機、HC50-NN(文明)をモデルに小型収穫機、CLASS 3300をモデルとする中型収穫機を開発している。広西農業機械研究院は収穫機などの本格的な製造・販売を行うために、本格的な製造ラインを建設中とのことであった。
ウ.華南農業大学における独自イノベーション研究
(ア)チョッパー位置の検討:通常は引き込み・送りローラトレインの末端に装着され、細断された茎は風選部に放出される。これに対して、ベースカッターの直後、および、ローラトレインの中央部にチョッパーを設置した3通りについて実験を行った。
(イ)トラッシュ選別装置:ローラトレイン、第1ファン、第2ファンおよび両ファン間の送りコンベアにトラッシュ選別を改善する仕組みを設けた。
(ウ)小型ハーベスタの開発:これらの結果を踏まえて、2機種の小型ハーベスタを開発し、性能試験を行っている。
(エ)1芽苗プランタ開発:2〜3節に切断した苗を植え付けるビレットプランタをベースに、5センチメートル程度の1芽苗用に改造したプランタの開発を行っている。ビレットプランタでは苗を均一に繰り出すのが難しいが、球形に近い苗にして均一化を図るものである。コンピュータシミュレーションおよび高速度カメラを用いて苗ホッパ内の苗の基本的な動きの解析を行っている。2017年1月時点ではまだ開発の最中とのことであった。
イ.広西柳工農業機械装備有限公司
この会社は、広西自治区の南寧市と桂林市の中間にある柳州市に設立され、上記の科利亜に勝るとも劣らない規模の新設大型工場である。2016年2月に、広西柳工集団有限公司と柳州市汎森機械製造有限公司の合弁で設立されたばかりである。それ以前は柳工集団で農業機械の製造を行っていた。われわれの到着時間は終業時に近かったが、唐社長はじめ、若い幹部陣に工場内を案内・説明してもらった。
ここは畦幅調整可能な作溝機、2条植3トン積みビレットプランタ、防除機、株出管理機、ハーベスタなどサトウキビ用機械全般を製造している。ハーベスタは、350PSの大型機械(CASEモデル)および180PSの中型機械を製造し、2016年3月までに25台を販売している(写真12)。広西農業機械研究院とは独自に機械開発を行っており、国内の企業や研究機関およびキューバなど海外企業との共同研究を行っており、多くの成果を上げている。中型ハーベスタ16台をキューバに輸出する計画であるが、合弁による工場移転後は、機械化要求の高まりを受けて国内販売に重点が移っている。時間が差し迫っていたため、詳細な話は聞けなかったが、研究開発、製造、品質管理、マーケティング、国際競争力の向上に高度な技術を駆使し、機械化が求められている今後の状況を見据えた企業活動を行っているとの印象を受けた。
ウ.広西農業機械研究院
ここは純粋な民間企業ではないが、試験研究で開発した機械の販売も行っている。ハーベスタの製造も行っており、見学した国立金光農場に2台導入されていた。本来は研究機関だけに、華南農業大学などとの共同研究も行っている。1956年設立と歴史は古く、農林業の機械化を先導してきた。2000年には、わが国の独立法人化に相当する民営化が行われ、それに伴って業務が拡大し、研究に加えて設計・製造・販売および不動産業務を行っている。現在、本格的な製造ラインの設置を計画中とのことであった(写真13)。
広東省農業機械化技術普及センターでは、省の検定を通った農業機械について本体およびパネルなどを展示し、生産者への紹介・普及に努めている(写真15)。収穫機や大型トラクタなどは農家にとって高価であり、個人よりグループ(農業機械合作社(注7)など)による購入・利用を主に想定しているとのことであった。
また、国内メーカーの機械を購入する場合、政府より3〜4割の助成があるとのことであった(注8)。
(注7)農民専業合作社法(2007年7月より実施)に基づく、機械による作業受託コントラクター的協同組合7))。
(注8)広西柳工農業機械での聞き取り。
訪問前に機械化に関する多くの断片的な情報を得ていたが、その信ぴょう性や関連性など不明な点も多かった。特に日本企業が開発に関わった収穫機のモデルについては、訪問してみて初めて理解できた部分が多い。「百聞は一見にしかず」を身を持って実感した次第である。
今回訪問した公設の大学や研究機関では、外国の研究者との交流を非常に重視しており、われわれの訪問への対応もそれぞれが持つ国際交流事業の一環として位置付け、いずれの訪問先でも手厚い歓迎を受けた。特に、航空機の遅れによる深夜(24時前後)の出迎えや数百キロメートルにも及ぶ視察先への案内など、丁寧な対応には頭が下がる思いがした。おかげで4カ所で行った交流セミナーでも、中味の濃い議論ができたと確信している。今回の訪問によってできた中国の関係機関、関係者とのコネクションを大切にし、今後も継続した情報交換を行うことが重要であると考えている。