複合経営・作業受託による経営の安定化と地域の生産を支える取り組み
最終更新日:2017年12月11日
複合経営・作業受託による経営の安定化と地域の生産を支える取り組み
〜沖縄県宮古島市 川平 泰士氏〜
2017年12月
【要約】
宮古島で最年少の和牛繁殖農家として活躍する川平泰士氏は、サトウキビ生産との複合経営に加え、サ トウキビ収穫の作業受託により、自らの経営の安定化と地域の生産の維持に取り組んでいる。
はじめに
宮古島は、沖縄本島から南西約290キロメートルに位置し、面積は158.87平方キロメートル、八つの島から構成される宮古群島の中で最も大きく、また、沖縄県内で沖縄本島、西表島、石垣島に次いで4番目に大きい島である(
図1)。
周辺離島を含む宮古島市の農業従事者数は約4000人で、市全体の労働人口の約17%を占め、農業が中心的な産業となっている。中でも、サトウキビは、農業産出額に占める割合が高く、地域農業 や産業を支える作物として大きな役割を果たしている。
本稿では、サトウキビの主産地である宮古島において、サトウキビ生産と和牛の繁殖の複合経営による経営の安定化と地域の生産の維持に取り組む川平氏の事例について紹介する。
1.沖縄県と宮古地域のサトウキビ生産概況
沖縄県全体の平成28年産の収穫面積は1万 2938ヘクタール、生産量は93万7523トン、10アール当たり収量(以下「単収」という)は7.2トンであった。同年産は、天候に恵まれ台風や干ばつによる被害が少なかったため、収穫面積は前年比で 2.1%減少したものの、単収が向上したことから生産量は同24.2%増加し、17年ぶりに90万トンを超える豊作となった(
表1)。
このうち、宮古地域(宮古島、伊良部島、多良間島)は、収穫面積が5410ヘクタール(県全体の41.8%)、生産量は43万5564トン(同46.5%)といずれも県全体の半数に迫る値であり、単収では県平均をかなり大きく上回る8.1トンとなった。
同地域における作型別収穫割合は、株出しが全体の50%、次いで夏植えが45%、春植えが5%となっており、株出しと夏植えが全体の9割以上を占め、春植えが非常に少ないのが特徴である(
図2)。10年程前は、台風に強く安定した収量の見込める夏植えが9割を占め、台風や干ばつの影響を受けやすく、害虫による不萌芽被害も多かった春植え、株出しは1割程度であった。しかし、生産量を増やすためには単収の向上とともに、収穫面積の確保が重要であるため、2年1作の夏植えから1年1作の春植え、株出しへの転換が求められるようになり、効果の高い農薬や株出し管理機の普及などと相まって、株出しの割合が徐々に増加し、現在では夏植えを上回る割合となっている。
また、同地域は、年間を通じて温暖で、降水量が比較的多いものの(年平均2000ミリメートル前後)、おおむね平坦で低い台地状の地形が広がり、琉球石灰岩を母材とする透水性の良い土壌(島尻マージ)が分布するため、地表の水源が乏しい。そのため、かつて深刻な干ばつに見舞われ、サトウキビの単収が平年の5分の1程度まで落ち込み、製糖工場1社が操業休止に追い込まれたこともあった。これを教訓として、国営事業による地下ダム
(注)3基と地下水を農地へ送るためのかんがい施設が整備されている。これらの施設も、サトウキビの安定生産に大きく寄与している。
(注)地下ダムとは、地層に浸透した雨水の海への流出を抑制することで地下水位を上げ、揚水する施設。
2.川平氏のサトウキビ生産
(1)経営概況
川平泰士氏(30)は、7年前まで島外で働いていたが、川平氏の父親が体調を崩したことを機に、和牛の繁殖とサトウキビ生産を行う家業を継いだ(
写真1)。加えて、平成26年から本格的に作業受託も手掛けるようになった。これは、川平氏の住む上地地区はサトウキビの機械収穫率が9割を超えるほど機械化が進んでいる一方で、生産者の高齢化によって、オペレーターの確保が難しい状況になりつつあったことが背景にある。作業受託の開始に当たっては、補助事業を活用した機械の導入を考え、同年に法人化し、「農業生産法人 合同会社上地ファーム」 (以下「上地ファーム」という)を設立している。なお、構成員は川平氏本人と母親の2人で、サトウキビの収穫期のみハーベスタ収穫の補助員として2人を雇用している。
(2)生産実績
サトウキビの作付面積は2.4ヘクタールで、うち 0.4ヘクタールが所有地、2ヘクタールが借地となっている(
写真2)。
作型別収穫面積は、夏植え、株出しがそれぞれ1.2ヘクタールずつとなっている。4年前までは春植えが6割を超えていたが、家族労働力の範囲では繁殖経営との両立に支障を来たし始めたことから、省力化対策として夏植え、株出しに転換した。
平成28年産のサトウキビの生産量は104.3トン、収穫面積は1.4ヘクタール、単収は7.5トン(全作型平均)であった。単収は例年5〜6トンであるが、同年産は欠株の補植や培土作業などの肥培管理を徹底し、天候にも恵まれたことから、生産量は過去最高の100トンを上回った。
また、黒毛和種の母牛21頭、子牛10頭を飼養する繁殖経営においても、3ヘクタールの採草地を確保し、粗飼料はほぼ自給しているほか、28年12月に開催された宮古地区子牛共進会で優等賞に選ばれるなど、宮古島で最年少の繁殖農家でありながら高い評価を得ている(
写真3)。
(3)作業受託
上地ファームは、作業受託に関してはまだ経験が浅いため、利用者である生産者からの相談の一つ一つに耳を傾けるとともに、臨機応変かつ柔軟に対応することを心掛けている。同時に、「ボランティアではない」ということも意識しつつ、原価・経費をきちんと把握することが重要であると考えている。このことから、付き合いのある税理士からアドバイスを受けながら、堅実で安定的な運営の実現を目指している。
なお、平成28年産の収穫作業受託面積は約25ヘクタール、受託料は1トン当たり4500円としている。収穫作業は、製糖工場の搬入計画に合わせて、収穫する圃場の順番を調整する必要があるなどの苦労もあるが、利用者からの要望も多い枯葉や土砂などトラッシュの徹底した除去にも対応しつつ、ハーベスタの定期的なメンテナンスを欠かさずに行い、毎回安定した作業効率を維持している(
写真4)。このため、利用者の満足度・信頼度が高く、安定的な利用者の確保につながっている。
(4)複合経営
和牛の繁殖との複合経営は、サトウキビは天候、繁殖経営は相場による収入の損失やリスクを分散する効果が期待できるため、宮古島での経営の安定化には最適な組み合わせと言える。また、作業は、サトウキビ生産は日中、繁殖経営は朝夕に集中するため、同じ時間に競合する作業が少ないメリットもある。しかし、繁殖経営では母牛の出産や子牛の事故など突発的な場面も多いため、サトウキビ生産では生育状況をこまめに観察し、被害を最小限にとどめるとともに追加的な作業が発生しないよう心掛けている。例えば、平均培土2回、高培土1回の計3回の培土作業で雑草の発生を防ぎ、除草作業の手間を省いている。また、JA・生産者の集まりに積極的に参加して、より効果のある農薬の情報を収集し、自身の圃場で使用することで除草や害虫防除の作業時間の削減を図っている。
さらに、サトウキビの圃場は牛舎から車で2〜3 分の距離にある圃場に限定して借り受けるなど、移動に費やす時間・労力を最小限にすることも、互いの生産活動を両立させる工夫の一つとなっている。
(5)今後の見通し
川平氏は、今後の経営について、母親との2人体制ではサトウキビ生産も、作業受託も現在の規模が精一杯であると言う。作業受託も本格的に開始したばかりであるため、現在の規模を維持しながら経営の安定と地域の生産の維持につなげていきたいと考えている。
また、宮古島のサトウキビ生産について、60歳以上の生産者は島内で約7割を占めており、高齢化と後継者不足に危機感を抱いている。サトウキビは台風や干ばつなどの自然災害に強い作物ではあるものの、収量は天候の影響を受けやすいことから、担い手が育たないのが現状である。このことから、同氏は「今後は、他作物との複合経営により経営の安定化を図っていくことが重要である」と語る。
おわりに
沖縄県では平成28年産の生産量が17年ぶりに 90万トンを超え、産地の生産意欲は高まりを見せている。しかしながら、生産者の高齢化や後継者不足など長期的な生産性の維持、拡大には課題がある。
今後は、高齢化による生産者数の減少を背景に経営規模の拡大が進み、機械化がさらに進んでいくことが予想され、今回紹介した川平氏のようにオペレーターとして作業受託に取り組むなど、若い力で地域農業をけん引していく生産者の存在がますます重要になっていくものと思われる。
最後に、本稿の執筆に当たりご協力いただいた川平泰士氏、JAおきなわ宮古地区営農振興センターさとうきび対策室の皆様に厚く御礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272