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サトウキビの生産から出荷まで幅広く手掛ける株式会社南種子精脱葉

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最終更新日:2017年12月11日

サトウキビの生産から出荷まで幅広く手掛ける株式会社南種子精脱葉
〜平成27年度サトウキビ生産改善共励会最優秀賞受賞〜

2017年12月

鹿児島事務所 長山 枝里香

【要約】

 株式会社南種子精脱葉(鹿児島県南種子町)は、精脱工場を稼働させ、サトウキビ収穫にかかる作業軽減を図った。一方で、工場稼動に必要な人員の確保という新たな問題に直面した。農業生産に乗り出すことでこれを解消し、生産性の向上と優れた人材の確保も実現した。

はじめに

 鹿児島県熊毛郡南種子町は、鹿児島本土の南の海の上にある種子島の南側に位置し(図1)、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の種子島宇宙センターがあることで有名である。平成29年は、日本版GPS衛星と呼ばれる「みちびき」の本格運用に向けたロケット打ち上げの”当たり年”であることから、例年以上に全国から多数の天文ファンが詰めかけ、大変なにぎわいになっている。

 また、隣接する中種子町には、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の種苗管理センターが置かれ、国内サトウキビ生産の最前線拠点となっている。

 同町の農業は、品目ごとの耕作面積を見ると、サトウキビが479ヘクタールと最も多く、次いで、でん粉原料用かんしょが326ヘクタール、米が100ヘクタールとなっている(表1)。中でも米は、年間通して温暖な気候を利用した早期米(早場米)の産地であり、3月から4月に植え付け、早ければ7月中旬ごろに収穫することができる。この他、安納地区で栽培されたのが始まりといわれる「安納いも」や子牛の生産が盛んで、南西諸島の中にあっても比較的多種多様な農業が展開されている地域である。

図1 南種子町の地図

表1 南種子町の園芸作物の生産品目

1.地域の課題

 南種子町では、60歳以上の生産者が農業従事者全体の約65%を占めており、高齢者の離農と担い手不足が課題となっている。この問題を解決するため、農地集積を進めてきた。

 その結果として、同町では、農地面積が全体で 2180ヘクタールあり、賃貸借契約を締結した土地面積は延べ1157ヘクタールに上る。

 また、平成26年度に新設された農地中間管理機構における農地中間管理事業では、毎年度50ヘクタールを集積目標として掲げている。27年度にモデル地区を設定し、その地区を中心に集積を行った結果、他の地区でもこの事業を利用する者が増え、集積面積を伸ばしている(表2)。この事業の参加要件を満たすため、同町で管理している農地地図システムで遊休化されている農地を確認し、改善するよう指導もしている。これにより、耕作放棄地の面積も徐々に減少しつつある。

表2 南種子町の農地中間管理事業の実績

 本稿では、同町で農地集積により経営規模を拡大 し、27年度にはサトウキビ生産改善共励会の最優秀賞を受賞した「株式会社南種子精脱葉」(以下「南種子精脱葉」という)を紹介する。借地のきめ細やかな管理が口コミで評判を呼び、農地を貸したいという要望が絶えない。規模拡大を単収や収益の向上にまでつなげる堅実な経営方法に着目したい。

2.株式会社南種子精脱葉の沿革と経営概況

(1)沿革

 従来、種子島では、生産者は梢頭部(サトウキビの先端部)を切り落としたサトウキビを製糖工場に出荷しなければならない。このため、収穫期には、梢頭部を切り落とす作業を行う補助員が5〜6人必要になり、その労働力のほとんどが女性であった。

 しかし、自分の身長より高い位置にある梢頭部を1本1本手で刈り取る作業は、大変な重労働であるため、高齢化や過疎化などにより人員確保が年々厳しくなっていた。また、人員の確保ができなかったり、自身で対応できなかったりする生産者は、離農や規模縮小せざるを得ず、地域の生産力低下の要因にもなっていた。

 そこで、平成14年4月、収穫期の作業負担の軽減を図ることなどを目的に南種子町内の9人の生産者が発起人となり、脱葉処理を専門に行う任意団体 「南種子精脱葉利用組合」を設立した。同時に、砂糖の原料になる部分と梢頭部を含むトラッシュ(夾雑物)を選別する工場(以下「精脱工場」という)を整備し、収穫されたサトウキビが製糖工場に搬入される間の中間処理施設として稼働を開始した(図2)。

 精脱工場の誕生により、()(じょう)での梢頭部の切り落とし作業が不要となったことから、生産者は収穫期の人員確保と重労働から解放された。

 同組合とは別組織として、同年10月、「有限会社南種子精脱葉」を設立し、圃場から精脱工場▽精脱工場から製糖工場−へのサトウキビの運搬業務も手掛けるようになった。

 組合発足から7年が経過し、継続して利益を上げていたことから、社会的信用の向上や、より強固な組織体制および運営を維持・確立していくため、法人格移行に向けた機運が高まった。これを受け、 21年、南種子精脱葉利用組合と有限会社南種子精脱葉を統合し、「農事組合法人 南種子さとうきび生産組合」を設立、それから3年後の24年、施設の利用を希望する生産者(組合員外)にも広く門戸を開くため、株式会社に移行し、現在、「株式会社南種子精脱葉」として事業を展開している(写真1)。

図2   精脱工程

写真1 左から砂坂工場長、日代表取締役、経営コンサルタントの寺田行政書士

(2)経営概況

 南種子精脱葉は、現在、精脱工場の運営、サトウキビの運搬のほか、サトウキビとかんしょの生産や収穫作業の受託にも乗り出し、サトウキビについては生産から出荷までを幅広く手掛けている。それぞれ収益構造が異なるため、事業部制を採用し、精脱工場の運営を担う精脱部門、サトウキビの原料運搬を担う運送部門(写真2)、農産物の生産と作業受託を担う農業部門の3部門で構成する組織体制となっている。常時雇用している従業員は7人で、繁忙期(12月から翌5月)のみ雇用する従業員が24 人となっている。

 精脱部門と運送部門は、前身の南種子精脱葉利用組合から構成員として関わってきた生産者が運営を担当するが、農業部門は、担当役員の指示の下、雇用した従業員に全ての農作業を任せている。従業員にも重要なポストへ登用する機会を与え、部門で得た収益は部門に属する従業員に賞与として還元される仕組みは、会社に活気を生み出し、会社の成長を支える大きな要素となっている。

 南種子精脱葉が管理する圃場の面積は26ヘクタールで、内訳は借地25ヘクタール、所有地1ヘクタールとなっている。この他に、サトウキビの収穫作業を受託している面積が7ヘクタールある。借地と所有地を合わせた26ヘクタールに作付けする品目のほとんどがサトウキビであるものの、輪作作物として「安納いも」(4.5ヘクタール)とでん粉原料用かんしょ(0.5ヘクタール)を作付けしている。

写真2 運送部門のトラック

3.南種子精脱葉の取り組み

(1)適期管理による生産向上

 種子島では、南西諸島の他の島と同様、ハーベスタの普及や区画整備事業により農地の大規模化を進めた結果、圃場における管理作業に手が回らず、必ずしも単収の向上につながっていないなどの課題も顕在化している。

 他方、南種子精脱葉は、単収の向上を実現している(表3)。その要因の一つとして、収穫する圃場全体を8分割し、それぞれに役員を管理責任者として置き、追肥・防虫・除草剤散布など適期・適量の肥培管理を徹底していることが挙げられる(写真3写真4)。また、異常を発見した場合は、管理責任者の指示の下、必要な人員を派遣し、迅速に対応できる体制を整えている。これらの実現には、先述した「働きがい」のある職場環境により、事業規模に見合った人材をきちんと確保できている点によるところが大きい。加えて、精脱工場で発生するハカマ(枯葉)を堆肥にして、圃場に還元するなど地力の維持に努めていることも単収向上につながっていると言える。

写真3 「安納いも」の圃場

写真4 管理作業が行き届いているサトウキビの圃場

表3 南種子精脱葉の収穫面積・生産量・単収

(2)原料の確保と安定供給
〜圃場から精脱工場、そして製糖工場へ〜

 南種子精脱葉の役員である生産者は、それぞれ周辺の生産者と共同で組織した小組合(作業受託組織)を形成し、ハーベスタを所有している。小組合の圃場(1組合当たり10〜20ヘクタール)で収穫された原料は、精脱工場に搬入される体制となっているため、南種子精脱葉が収穫した原料と合わせて南種子町全体の約6割を精脱工場で処理している(図3)。これは、構成員の利用が前提となる農事組合法人のままでは成しえなかった大きな成果である。

 同社の生産規模の拡大だけでなく、役員が独自に組織する作業受託組織の受託面積が増えれば、精脱工場の取扱量が自然と増えることとなることから、株式会社への移行は大きな契機・転機となったと言える。

図3 南種子精脱葉の組織図とサトウキビの集荷体制

 受託作業は、サトウキビが成熟する1〜2月に集中する。本来ならば、自作地の収穫も同時期に実施するのが望ましいが、会社全体の作業を平準化することを最優先に考えているため、自作地の収穫はあえて適期を避けている。前述の通り、町の約6割の原料が同社を経由して製糖工場に運ばれるため、同社が原料出荷を調整することで、製糖工場における荷役作業の平準化、混雑回避に大きく貢献している。

(3)顧客からの信頼の獲得

 農地の貸し借りは、借し手と貸り手の信頼関係の上に成り立っていることに変わりないことから、借り受けた後も、「地主よりお預かりしている大切な土地」という意識を常に持ち、自社の所有地以上に管理作業を徹底し、雑草が一本も生えないほどきれいに管理している。

 受託作業については、圃場の状態や、登熟度合いを見極め、収穫適期を逃さないよう努めるとともに、次年度に株出し栽培を予定する圃場で作業する場合は、極力、根株を痛めないよう細心の注意を払っている。

 このほか、精脱作業については、搬入した生産者のサトウキビが他の生産者のものと混ざらないよう、搬入時、ベルトコンベア投入時、処理後の3地点でチェックを行っている(写真5)。そのため、委託者は安心してサトウキビを持ち込むことができる。

 こうした企業努力の結果、きめ細やかな管理が口コミで評判を呼び、現在では数ヘクタール単位で「農地を貸したい」という相談や依頼が自然と舞い込むようになっている。

写真5 処理後の受け入れタンク

(4)事業の多角化による収益の分散と通年雇用の実現

 南種子精脱葉の各部門は、先述の通り独立採算制を採用し、それぞれの部門が達成すべき成果や目標を明確化することで全部門の黒字化を達成している。一方で、収益が発生する時期は部門によって異なるため、部門間での資金融通は柔軟に対応している。

 具体的には、農業部門は収穫期、精脱部門と運送部門は製糖工場が稼働する12月〜翌5月に収益が発生することから、各部門の閑散期に資材の購入や機械のメンテナンス費用などで一時的に多額の資金が必要になったときには、部門間で資金を融通することで、外部から調達する資金を可能な限り抑制している。

 南種子精脱葉の前身である任意組合のときは、精脱事業のみの経営であったため、12月〜翌5月の繁忙期のみ期間雇用し、次年度の操業開始時には再度、求人を開始し、再雇用するというサイクルを繰り返していた。作業員の安全面などを考慮すると、 30人程度の人員が必要であるため、毎年、この人数の期間雇用者を探すのは大変苦労したという。

 そこで、精脱事業の閑散期対策として、平成21 年の法人化に合わせて立ち上げたのが農業部門である(図4)。これまで精脱工場で従事していた人員の一部を農業部門で引き続き従事させることにより通年雇用が可能となり、期間雇用の人員確保に係る手間や労力が軽減された。

 また、通年雇用により、雇用環境が安定し、安心して働けるようになったことから、溶接、電気に関する基礎知識や仕事経験を持つ者を採用することができた。これにより、機械のメンテナンスは、そのほとんどを自社で対応できるようになり、会社全体の経費の節減および安定的な工場運営につながっている。

図4   年間の作業スケジュール

 従業員にとっても働きやすい職場となるよう、職場環境の改善に努めている。例えば、手で広げないと折り重なった部分のサトウキビが見えず効率が悪かった精脱工場のコンベアは、2年前、より幅の広いものを導入し、選別作業の省力化を図ったほか(写真6)、期間雇用者の大半を占める女性作業員のために女性専用の休憩所や水洗トイレを設置した。このほか、従業員の健康管理のため、繁忙期であっても毎週日曜日は必ず休業日としている。

 このように、快適な職場環境を実現し、工場稼働開始から現在に至るまで、重大事故は1件も発生していない。

写真6  サトウキビが重ならないよう幅を広げたベルトコンベア

おわりに

 本稿では、農地集積により規模を拡大するとともに、管理作業の徹底や通年雇用、快適な職場環境を実現することで、法人が成長していく事例を紹介した。種子島のサトウキビ産業を支えたいと願い、立ち上がった南種子町の生産者たちが精脱工場を設立し、大規模な直営農場の経営を始め、きちんと手入れすることで、南種子町の風景を今も守っている意義は大きい。

 しかしながら、種子島では、高齢や後継者がいないなどを理由に、近年、毎年離農する生産者が120戸程度、耕作されない農地がおよそ100ヘクタール発生している。規模拡大を考えている生産者にとってはチャンスと捉えることもできるが、離島ゆえに規模拡大に見合った人材の確保が難しい点が課題である。南種子精脱葉でも、農業を安定的かつ堅実に経営するためには人材を確保することが第一であると考え、外国人研修生の積極的な受け入れなども視野に入れ、宿泊施設の充実などを検討している。

 高齢化による離農は、全国各地で問題となっている。生まれ育った地域を守りたいと思う人々へ、本稿が問題解決の一助となればと願っている。

 最後に、お忙しい中、本取材にご協力いただいた株式会社南種子精脱葉日高健次郎代表取締役、砂坂純一工場長、寺田経理事務所行政書士寺田孝様、南種子町役場総合農政課西園浩郎様、雨田俊哉様、南種子町農業委員会河野彰子農地振興係長、種子屋久農業協同組合営農販売課河東浩二営農指導係長、坂口仁志営農企画係長に厚くお礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272