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北大東島のサトウキビ生産性に影響する主な土壌要因

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最終更新日:2017年12月11日

北大東島のサトウキビ生産性に影響する主な土壌要因

2017年12月

沖縄農業技術開発株式会社 吉田 晃一
株式会社沖縄環境分析センター 川中 岳志
国立大学法人東京農工大学大学院 生物システム応用科学府 豊田 剛己

【要約】

 サトウキビ収量が低迷している沖縄県北大東島において、サトウキビ生産性に影響する主な土壌要因を検証する目的で実態調査を行った。その結果、北大東島のサトウキビ生産性に影響する主な土壌要因として、収量は可給態窒素および作土深、糖度は交換性マグネシウムおよび土壌pHであることが明らかとなった。従って、北大東島のサトウキビ生産性を向上させるためにはこれらを優先的に改良することが重要である。

はじめに

 北大東島は沖縄本島より東に約360キロメートルに位置する、サンゴ礁が隆起して形成された島である(図1)。北大東島の主要な作物はサトウキビであり、同島農業産出額の7割を占める。北大東島における過去30年間(1986-2016年)のサトウキビ平均収量は10アール当たり4.2トンであり、沖縄県の平均収量同6.3トンより30%ほど低く推移している。そのため、北大東島ではサトウキビ生産性の向上が強く求められている。

 土壌改良によりサトウキビ収量が向上する知見は、これまでの試験研究で明らかになっている。しかし、各地のサトウキビ畑土壌にはさまざまな問題があり、それらの問題のうち「何」がその地域のサトウキビ生産性に強く影響しているのかは、過去のデータから一概に決められない。

 そこで本稿では、北大東島における土壌理化学性のうち「何」がサトウキビ生産性に強く影響しているのか実態調査によって明らかにし、同島の低肥沃土壌に対する抜本的な対策につなげるための知見を得たので概説する。

図1 北大東島の位置図

1.調査方法

(1)土壌および栽培管理調査

 沖縄県北大東島サトウキビ春植え()(じょう)50筆について、土壌理化学性および栽培管理(植え付け月、施肥量など)について実態調査を行った。調査圃場は北大東島全域を網羅するよう、2013年に春植え圃場から選定した。栽培管理状況については、農家と直接面談して聞き取り調査を行った。サトウキビ収量および甘蔗(かんしゃ)糖度のデータは北大東製糖株式会社から提供いただいた。

(2)統計解析方法

 2項目間の相関は、ピアソンの相関係数と単回帰分析で解析した。複数項目間の多重比較検定には、Tukey-Kramer法を用いた。また、本調査では複数の調査項目からサトウキビ生産性に影響する主な要因と、定量的な条件を明らかにするために多変量解析の一種である分類回帰木(Classification and regression trees。以下「CART」という)を用いた。CARTの解析結果は、枝状に2進分岐していき、上位の分岐ほど目的変数に対して強く影響している。つまり、CARTによってサトウキビ生産性に影響する主要な土壌要因を明らかにすることができる。

2.調査結果

(1)北大東島の土壌実態とサトウキビ生産性との関係

 サトウキビ圃場の作土深(根が容易に伸長できる層の深さ)は、平均22.1 センチメートル であった。これは沖縄県の土壌診断基準値(40センチメートル)を下回っている。土壌pH(H2O)は3.9から8.0まで幅広く分布し、平均は5.4であった。可給態窒素は100グラム当たり0.8〜2.5ミリグラムで、平均同1.4ミリグラムを示した。

 肥培管理状況について、平均窒素施用量は10アール当たり22.8キログラムであり、沖縄県の基準施用量同20.0キログラム(大東マージ(注)、熟畑、春植え)と同程度であった。一方、堆肥を施用した圃場は調査圃場全体の16%にとどまり、堆肥の施用量も同1.8トンと春植え栽培における標準施用量(同3.0トン)を下回っていた。このように、化学肥料の施用量は十分であるものの、有機物の施用は不十分であることが明らかとなった。サトウキビの植え付け月は3月(調査圃場全体の54%)が最も多く、2月(同34%)、4月(同10%)、5月(同2%)と続いた。

 本調査におけるサトウキビ収量は10アール当たり平均3.8トン(最小同1.3トン、最大同7.0トン)で、甘蔗糖度は平均16.1度(最小14.5度、最大18.1度)であった。サトウキビ収量は、可給態窒素、可給態リン酸、腐植、EC(電気伝導度)および作土深と有意な正の相関があり、これらの項目が高い値を示す圃場では高収量であった。また、有意な負の相関があった項目は、植え付け月であった。これは、植え付け月が遅くなるほど収量が低下したことを示している。甘蔗糖度と有意な正の相関があった項目は、交換性マグネシウムと土壌pH(H2O)であった。

(注)南北大東島の石灰岩上に分布する赤黄色土。

(2)サトウキビ生産性に強く影響する土壌要因

ア.収量に影響する主な土壌要因
 上述の結果から、サトウキビ収量に影響する土壌・栽培要因が明らかになった。しかし、これらのうち「何が」最も強く影響しているかについては、さらに解析が必要となる。そこで、サトウキビ収量を目的変数とし、サトウキビ収量と有意な相関があった6項目(可給態窒素、可給態リン酸、腐植、EC、植え付け月および作土深)を説明変数としてCARTで解析した。その結果、まず可給態窒素(100グラム当たり1.7ミリグラム)で分岐し、次いで作土深(29センチメートル)で分かれた(図2)。これは、サトウキビ収量 に最も強く影響する土壌要因は可給態窒素であり、次いで作土深であったことを示している。また、収量が高い圃場の土壌条件は可給態窒素が100グラム当たり1.7ミリグラム以上であり、収量の低い圃場では可給態窒素が同1.7ミリグラム未満かつ作土深29センチメートル未満であったことも明らかとなった。サトウキビ収量と可給態窒素および作土深の関係は図3および図4の通りである。これらのことから、サトウキビ収量を向上させるためには可給態窒素と作土深の改善が重要であることが示唆された。

図2 サトウキビ収量に影響する土壌要因のCART解析結果

図3 サトウキビ収量と可給態窒素の関係

図4 サトウキビ収量と作土深の関係

イ.糖度に影響する主な土壌要因
 甘蔗糖度を目的変数とし、甘蔗糖度と有意な相関があった交換性マグネシウムと土壌pHを説明変数としてCARTで解析したところ、まず交換性マグネシウム(100グラム当たり3.8me〈ミリグラム当量〉)で分岐し、次いで土壌pH(7.2)で分かれた(図5)。これは、甘蔗糖度に最も強く影響する土壌要因は交換性マグネシウムであり、次いで土壌pHであったことを示している。また、交換性マグネシウムが100グラム当たり3.8me以上かつ土壌pHが7.2未満の圃場の平均甘蔗糖度は16.7度であったが、交換性マグネシウムが同3.8me未満の圃場の平均甘蔗糖度は15.8度であった。

図5 甘蔗糖度に影響する土壌要因のCART解析結果

 以上のことから、北大東島のサトウキビ生産性に影響する主な土壌要因は、収量については可給態窒素と作土深、甘蔗糖度については交換性マグネシウムと土壌pHであることが判明した。

3.北大東島におけるサトウキビ生産性向上のための対策

(1)可給態窒素を改善する対策

 土壌の可給態窒素とは、ごく簡単に述べると土壌そのものから作物に供給される窒素のことであり、地力窒素とも言われている。具体的には、土壌の微生物活動(有機物分解や菌体の繁殖など)に伴って発生する窒素であり、サトウキビが吸収する窒素のおよそ半分を占める1)

 土壌の可給態窒素は、有機物施用により増加する2)、3)。本調査でも、土壌中の有機物量を示す腐植が高いほど可給態窒素も高いことが明らかとなった。このことから、サトウキビ収量に強く影響する可給態窒素を向上させるためには、堆肥施用や緑肥栽培などにより土壌の有機物含量を増やすことが重要である。

(2)作土深を改善する対策

 作土深とは、耕運により膨軟化した土壌上部の作土層の深さを示している。土壌が硬いと根の伸長は抑制されることから、作土層の深さはサトウキビの根の伸長に影響する。

 本調査の結果、作土深がサトウキビ収量に影響することが明らかとなった。作土深を改善する対策として心土破砕が有効である。今回の調査において、心土破砕を実施していない圃場に比べ、植え付け前に心土破砕を1回実施した圃場や心土破砕を2回(植え付け前と栽培期間中)実施した圃場では作土深が有意に深くなった(図6)。これは、作土深の改善には心土破砕が有効であり、複数回の心土破砕がより効果的であったことを示している。

 沖縄県の土壌診断基準におけるサトウキビ畑の作土深は40センチメートルが基準とされている。図4からも、サトウキビ収量は作土深が40センチメートルに至るまで増収することが示されている。このことから、サトウキビ収量を増加させるために、作土深を深くすることが重要であり、その対策として、心土破砕を複数回行うことが効果的であることが明らかとなった。

図6 心土破砕の回数と作土深

おわりに

 杉本らは、南西諸島におけるサトウキビ低収要因は、台風などの強風、干ばつ、低肥沃土壌であることを指摘している4)。北大東島ではこれまで耐倒伏性品種の導入や防風林の設置、かんがい施設整備など、強風や干ばつに対する抜本的な対策が取られてきた。しかし、低肥沃土壌改善のための対策は、農家個々の土づくりに任されており、抜本的な対策は行われてこなかった。これは、北大東島の土壌において「何が」主要な低収要因なのか明らかにされておらず、具体的な対策が取られてこなかったことが背景にある。本調査により、北大東島のサトウキビ生産性に影響している土壌要因が判明したことから、今後、サトウキビ生産性向上のための効果的な土壌管理が可能となる。

 北大東島では、2017年度から心土破砕、酸度矯正、有機物施用を同時に行う土層改良事業がスタートした。これにより、サトウキビの低収要因である可給態窒素と作土深および交換性マグネシウムと土壌pHの改良が期待される。また、製糖工場から発生した糖蜜を圃場へ施用する体制も確立され、サトウキビ圃場への有機物施用が効率的に行えるようになった。これらの対策が推進されることにより、北大東島の低肥沃土壌に対する抜本的な改善が行われ、サトウキビ生産性向上につながると考えられる。
[参考文献]
Yoshida K, Miyamaru N, Kawanaka T, Hashimoto Y, Toyota K. (2016)「Low nitrogen availability and shallow plow layer decrease sugarcane (Saccharum officinarum L.) productivity in Kitadaito Island, Japan」 『Soil Science and Plant Nutrition 』(62)pp.504-510.

[引用文献]
1)草場敬、郡司掛則昭、藤富真一、猪部巌、古江浩治、井出勉、山本富三、山田一郎(2009)「九州沖縄各県試験データに基づく土壌・施肥管理の現状解析と適正化に向けた課題」『九州沖縄農業研究センター研究資料』(92)pp.1-89.
2)片峯美幸、亀和田國彦、鈴木康夫、伊藤良治、中山喜一、内田文雄(2000)「黒ボク土畑における各種有機物の20年間連用が作物生育ならびに土壌理化学性に及ぼす影響」『栃木県農業試験場研究報告』(50)pp.25-32.
3)宮丸直子、伊波聡、儀間靖、亀谷茂、豊田剛己(2012)「緑肥と堆肥の連用がジャーガルの各種性質に及ぼす影響」『土肥誌』(83)pp.280-287.
4)杉本明、寺島義文(2006)「台風・干ばつ・低肥沃度土壌での作物生産」 『農業機械学会誌』(6)pp.3-8.
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