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平成29年度さとうきび・甘蔗糖関係検討会の概要

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最終更新日:2018年1月10日

平成29年度さとうきび・甘蔗糖関係検討会の概要〜さとうきび増産に向けた生産安定化の取り組み〜

2018年1月

鹿児島事務所、那覇事務所

【要約】

 平成29年度さとうきび・甘蔗糖関係検討会では、「さとうきび増産に向けた生産安定化の取り組み」をテーマに、鹿児島県および沖縄県の生産者代表や行政関係者などによる報告が行われた。生産者代表からは、地域の実情を踏まえた増産の取り組み事例が紹介された。

はじめに

 当機構では、鹿児島県および沖縄県の基幹作物の一つである、さとうきびの生産に関するさまざまな課題を両県の関係者が一丸となって解決していくことを目的として、毎年「さとうきび・甘蔗糖関係検討会」(以下「検討会」という)を開催している。
 16回目となる今回は、沖縄県の宮古島市において、10月26、27日の2日間にわたって開催した。

 検討会1日目は、農林水産省政策統括官付地域作物課課長補佐の荒井秀朗氏より砂糖をめぐる現状と課題について情報提供があった後、各関係機関および生産者代表が報告を行った。両県の取り組みとして、鹿児島県農政部農産園芸課糖業特産作物係長の指宿(いぶすき)浩氏と、沖縄県農林水産部糖業農産課さとうきび班長の喜納(きな)幹雄氏から発表があった。また、栽培に係る情報提供として、内閣府沖縄総合事務局農林水産部の(くり)()一浩氏から防風林の重要性について、また、沖縄県農業研究センターの比屋根真一氏から、かん水の重要性について発表があった。その後、両県各地域の生産者代表などによる報告、意見交換を行った。

 続いて、東京大学大学院総合文化研究科准教授の永田淳嗣氏と東京農工大学大学院農学研究院講師の新井(さち)()氏から、「農業構造論からみた沖縄のさとうきび農業」について講演が行われた。講演後は沖縄県農業研究センターの育種施設、生産者 代表の一人である川満(かわみつ)(ちょう)(えい)氏のさとうきびの()(じょう)や地下ダム関連施設を視察した。

 検討会2日目は、両県の研究者から、さとうきびの品種などに関する研究成果発表があり、各地域における品種の変遷や作型、収量などが示された。また、当機構調査情報部は、砂糖をめぐる最近の国際需給についての発表を行った。

 本稿では、本会議のテーマであるさとうきび増産に向けた生産安定化の取り組みについての4人の優良生産者による報告を紹介する。
写真1 開会の様子
写真2 会場の様子

1.生産者代表による報告

(1)宮古島の川満長英氏
〜緑肥で地力を増進〜

 川満長英氏は、平成18年から宮古島市の上野地区さとうきび生産組合の組合長を務めている。今回は川満氏が実践する具体的な栽培方法について発表を行った。

 同氏は、地力増進のため緑肥(()大豆(だいず)(注))を栽培している。4〜7月には圃場一面が下大豆に覆われるため雑草の抑制にもつながっている。その下大豆の種子は自ら採種しており、次年度に使用する種子用の下大豆は4月下旬に()(しゅ)し、12月に収穫している。一方、耕起・整地作業は外部に委託しており、大型トラクターでロータリをかけた後、プラソイラで深耕し、再度、ロータリを入れるなど細かく作業手順を指示している。

 「さとうきびは苗半作、栽培の半分は苗で決まる」という考えから、植え付け用の苗は新植から採苗しており、特に採苗圃の管理作業には注意を払っている。種苗の刈り取りは植え付け作業の前日に行い、芽をよく確かめながら2節苗を作り、一晩石灰水または水に漬けている。

 夏植えの植え付けは9月中旬以降に行い、10アール当たり1800〜2000本の苗を使用している。施肥は10アール当たり4袋(1袋20キログラム)が目安で、2回に分けて行っている。1回目は植え付けの30〜35日後、2回目は翌年の2〜3月に、同2袋ずつ投入している。植え付け時、土壌害虫防除のため農薬を入れる場合は必ず覆土しており、この時は施肥を行わないようにしている。最終培土は4月で、除草を兼ねて行い、この時も施肥は行わないようにしている。

 病害虫防除や除草作業についても、毎日圃場の状態を確認して適期を見逃さないこと、手間を惜しまないことが重要である。同氏は、高齢化に伴う労働力低下や地力減退に強い危機感を持っており、「引き続き行政関係機関と連携し、新品種の普及や栽培指導などに取り組んでいきたい」と締めくくった。

(注)下大豆は、沖縄県で古くから栽培されているマメ科作物で、大豆よりひと回り小さい。以前は、大豆と同じように豆腐原料や食用として利用され、茎葉は飼料としても利用されてきた。
写真3 川満長英氏の発表の様子

(2)徳之島の松林福光氏
〜さとうきび生産のICT技術の活用〜

 松林福光氏は、さとうきび生産と作業受託を行う有限会社南西サービスの取締役である。同氏からは、情報通信(ICT)技術の活用による同社の圃場管理作業のデータ化の取り組みについて紹介があった。

 ICT技術導入の背景には、社員の育成のため自作地でさとうきび生産を「見える化」し、圃場の情報や知識、技能を共有したいという目的があった。また、作業受託においても、今後は高齢化に伴う労働力不足に対応するために、データ化による効率化を図る目的もある。

 同社は平成28年7月にシステムを導入し、作業受託を含む全ての圃場情報の登録に向けて段階的に作業を進めてきた。現在の登録状況は約8割で、圃場数は約1200圃場、面積は約317ヘクタールである。

 このシステムにより、農家はパソコン上で委託する作業を指示し、オペレーターはスマートフォンなどモバイル端末で作業場所や指示された作業を確認することが可能にな ることから、農家が現場に立ち会う必要がなくなり、受託作業の効率化につながるなどの具体的なメリットを、システムの画面イメージを示しながら紹介された。

 自作についても、生産コストの管理にデータを活用することで、次年度以降の事業計画に役立てることが可能となった。同氏は、「ICT技術を積極的に活用し、引き続き、増産に寄与していきたい」と語った。
写真4 松林福光氏の発表の様子

(3)宮古島の辺土名忠志氏
〜作業の分業化により適期作業を実現〜

 (へん)()()忠志氏は、宮古島市の島尻地区で受託組織である農事組合法人豊農産を運営している。島尻地区はもともと湿地帯で、農業生産に不向きであったが、昭和56年ごろから土地改良整備事業を実施し、さとうきび栽培が可能になった。集落の団結した活動の歴史があり、集落営農を実現する組織が必要という思いから、受託組織である豊農産が平成13年に設立された。

 豊農産は、農家にとって重労働となっている作業を積極的に受託し、「一緒にさとうきびを生産する」という理念を持っている。同氏は、「さとうきび栽培の重作業は法人がサポートし、高齢であっても出来る作業は農家自身が行い、その健康と生きがいを守っていきたい」と語った。

 豊農産では、さとうきびの植え付けから収穫までのさまざまな作業の受託メニューを用意し、農家の実情に合わせて作業を受託している。豊農産の受託面積は年々増えており、現在、約40ヘクタールの受託を行っている。受託した作業の全てを行っていたが、適切な時期に作業を実施できない場面が増えてきたことが課題である。

 今後の取り組みとして、農家が望む適期を逃すことなく作業を行うため、機械作業の分業化による適期管理を目標としている。島尻地区では、さとうきび生産組合11人が活動しており、月1回の定例会を行い、役割分担をしながら作業受託しているが、将来的には受託窓口を一本化し、より効率的な仕組みづくりが必要である。分業化により、一人の受託者に作業が集中することがなくなるほか、これまで作業ごとに発生していた機械のアタッチメントの交換作業などが不要となり、作業の効率化が図られる。また、適期管理が可能になることから、収量の増加も期待できる。

 本発表では、具体的な作業委託料金を例示するなど現状を報告し、役割分担による効率的な作業がさとうきびの増産につながることを訴えた。
写真5 辺土名忠志氏の発表の様子

(4)奄美大島の上原司隆氏
〜植え付けから収穫まで作業を委託〜

 上原(つか)(たか)氏は、農事組合法人奄美市さとうきび受託組合の理事である。同組合では奄美市笠利地区の収穫面積の約3割に当たる151ヘクタールの収穫作業や、耕運・畝上げなどの管理作業を受託し、同市における中核的組合として高齢者などの作業負担軽減に貢献している。また、高齢化に伴い離農する生産者の農地を借り受け、所有する機械を活用した機械化一貫体系によるさとうきび生産を行う。

 同氏は、研究機関などに対し種苗の生産や実験圃場・調査圃場として積極的に圃場を提供したり、無病苗の原苗圃を設置したりして、優良品種の普及にも貢献しており、「今後は、植え付け作業を拡大するなど、農家のさらなる負担軽減に貢献したい。同時に、農家の生産意欲が高まるよう、受託した作業は丁寧かつ適期に行っていく」と意気込みを語った。

 島内の生産規模拡大には、機械を保有していない農家にあっても作業委託を行うことを前提とした植え付けや畝間の調整などが必要となる。植え付けから収穫までの機械化一貫体系の栽培方法を確立し、労力の軽減を図ることが今後のさとうきび生産の主流となることを改めて述べた。
写真6 上原司隆氏の発表の様子

2.まとめ

 高齢化による労働力不足を補うためのさとうきび生産の機械化・ICT技術の導入が期待されている。特に今回の発表では、緑肥により地力維持などの基本作業の励行や、農家の生産意欲を高めるようなサポート側の仕組みづくりの重要性が報告された。

 地域によって作型の違いや抱える問題点は異なっている。まずは、それぞれの地域の現状を見つめ、地域に合った体制を考えていくことが大切である。今回の発表からは、さとうきびの生産安定化およびさらなる増産に向けた強い意志が伝わってきた。

おわりに

 鹿児島県と沖縄県の各地域では、さとうきび生産の安定化に向け、多様な取り組みが展開されているところである。地理的な制約で日常的な交流が少ないさとうきび関係者が一堂に会し、各地域の取り組み事例の情報を共有することにより、さとうきびの増産に向けた生産安定化の新たな展開を期待したい。

 検討会の開催に当たって、御協力いただいた関係者の皆様には改めてお礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272