ホーム > 砂糖 > 海外現地調査報告 > ポーランドの砂糖産業の動向
最終更新日:2018年1月10日
コラム1〜砂糖製品の販売状況〜首都ワルシャワのスーパーマーケットでは、てん菜糖(1キログラム)は2.99〜3.29ズロチ (99〜109円)、ブラウンシュガー(500グラム)は4.99ズロチ(165円)で販売されていた(調査時点:2017年6月〈コラム1−写真1〉)。この他、特筆すべき点として、クッキーやババロアなどの菓子類の調理に利用できる砂糖を含むプレミックス製品が数多く販売されていたことがある。30種類以上の製品が並び、1袋(100グラム)1ズロチ(33円)前後と低価格帯のものが多く、風味もバニラやサクランボ、オレンジ、リンゴなどバリエーション豊かであることから、需要の高さがうかがえる。また、ホットチョコレートのように、お湯や水を注ぐだけで飲み物が出来る粉末飲料の品揃えも多い(コラム1−写真2)。砂糖の家庭での直接消費は減少傾向にあるものの、砂糖を含むプレミックス製品や菓子類の消費は堅調で、日常的な嗜好品であることが見て取れた。
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(3)任意カップル支払い
ポーランドは、CAP政策の下、加盟国の裁量に委ねられているてん菜生産への任意カップル支払いを採用している。この任意カップル支払いは、生産割当廃止後も継続され、2015〜2019年は年間約8100万〜8300万ユーロ(108億5400万〜111億2200万円)の予算がEU予算から割り当てられている。2016年には8160万ユーロ(109億3440万円)が生産割当用砂糖向けとして契約されたてん菜の栽培面積に応じて支払われた。1ヘクタール当たりの支払い額は480.8ユーロ(1952.25ズロチ〈6万4424円〉)であった。
しかし、生産割当廃止に伴い、1ヘクタール当たりの支払い額は減少が見込まれている。その理由は、従来の支払い単価は、生産割当用として契約されたてん菜栽培面積に基づき算出されていたが、廃止後は、実栽培面積(約22万ヘクタール)に基づき算出されるためである。任意カップル支払いには、生産者の収入保障という側面もあるため、生産者からは単価の減額を不安視する声もある。
(2)業界の動き
生産割当廃止後の増産を計画した製糖企業は、2013年ごろから生産の効率化を進めてきた。具体的には、貯蔵タンクなどへの設備投資による生産能力の増強▽契約圃場を工場近郊に集約させることによる輸送コストの削減─などである。こうした取り組みにより、2016年の工場従業員1人当たりの砂糖生産量は、630トンと前年比42%増加した。KSC社は、さらに、輸出拡大のため、北部に新たな輸出ターミナルの建設を計画しており、他のドイツ資本企業へも貸し出すことを検討している。
今後、製糖企業は、より多くの砂糖生産が可能となるよう、工場の操業期間を従来の100日程度から120日以上に長期化したり、各種データの活用により、製糖コストの削減を目指すとみられる。ポーランド製糖事業者協会は、今後は生産コストを削減した企業だけが生き残ることから、各企業のさらなる生産性向上は喫緊の課題であるとしている。
コラム2〜生産者によるてん菜生産性向上の取り組み〜全国てん菜生産者協会会長のクシシュトフ・ニキエル氏は、ワルシャワから西方へ約150キロメートル離れたウッチ県クトノ周辺のカシェビ・コロニャ地域で、てん菜(約20ヘクタール)、小麦(約15ヘクタール)およびトウモロコシ(約40ヘクタール)を輪作により生産している。てん菜の収穫作業は製糖企業へ委託しているが、それ以外の作業は全て自己所有の機械を用い、父と息子の3世代で行っている。播種は、6条仕様の播種機を用いて、畝幅約45センチメートル、株間約18センチメートルで行い、緑肥としてシロガラシを植え付けるなど土壌改良にも取り組んでいる。種子は、優良品種リスト(注1)から高収量で耐病性の高いKWS社(ドイツ)、SES Vander Have社(オランダ)、KHBC社(ポーランド)の品種を選んでいる。 例年、風害は見られないが、霜害や干ばつ(注2)の他、病害虫による被害が発生している。中でも、褐斑病や萎黄病の被害が多いため、毎年、薬剤の種類を変えて防除を行っている。 2017/18年度については、他作物に比べて価格が保証されているてん菜の栽培面積を拡大させたことから、増産の見通しである。しかし、生産割当廃止に伴い取引価格が下落する懸念があるため、生産割当の廃止を契機とした増産は計画していない。同氏のように、増産に慎重な生産者も少なくないという。同氏は、生産割当廃止によって砂糖生産量が増加し、輸出量も増加すると見込む政府の予測は教科書的であり、実際には、EU域内の主要生産国が競合することになるため、今まで守られてきたEUの砂糖市場の安定性が失われるとしている。また、任意カップル支払いを含む直接支払いは、生産者の経営安定に重要な役割を果たしており、生産割当廃止後、生産者の収入の頼みとなるとみている。 (注1)製糖企業が生産者と協議し、毎年、国の中央品種研究所の種子認定検査に合格した品種から優良品種リストを作成する。生産者は同リストの中から種子を選択し、製糖企業に注文して購入する。 (注2)ポーランドでは2カ月ほど降雨が無いこともあるが、かんがいは一般的に行われておらず、野菜を主に栽培する生産者が野菜圃場とともに併用する程度しか普及していない。 |