多量生産の実現によって地域の生産性向上に貢献
最終更新日:2018年3月9日
多量生産の実現によって地域の生産性向上に貢献
〜有限会社与那国農産の取り組み〜
2018年3月
【要約】
沖縄県与那国町の農業生産法人有限会社与那国農産は、さまざまな事情から耕作されなくなった農地を借り受け、植え付けから収穫までの機械化一貫体系によるさとうきび生産を実現しており、「第40回沖縄県さとうきび競作会」では、多量生産の部(さとうきび生産法人の部)第1位となった。
はじめに
沖縄県において、さとうきびは全耕地面積の約5割、農家の約7割が栽培しているとともに、製糖を通して雇用機会を確保するなど、農家経済はもとより、地域経済を支える基幹作物となっている。しかし、生産者の高齢化や担い手不足からさとうきびの生産農家は、約1万5000戸(平成28年)と、昭和40年のピーク時の約4分の1まで減少している。さとうきび農家数の減少や高齢化の中で生産量の維持・拡大をしていくためには、効率的かつ安定的なさとうきび生産を担う経営体が必要とされている。
本稿では、このような状況下において、さまざまな事情から耕作されなくなった農地を借り受け、機械化一貫体系によって多量生産を実現し、「第40回沖縄県さとうきび競作会」(注)において多量生産の部(さとうきび生産法人の部)第1位となった農業生産法人有限会社与那国農産(以下「与那国農産」という)の取り組みについて紹介する。
(注)沖縄県さとうきび競作会(主催:公益社団法人沖縄県糖業振興協会)は、農家の生産意欲を喚起して沖縄県の糖業発展につなげることを目的として毎年度開催されている。多量生産の部では、生産量、品質、工場搬入シェアの面から地域糖業への貢献度が大きい者として各製糖工場から推薦された農家と生産法人について、審査を行った上で、一般農家の部、生産法人の部における順位が決定される。
1.与那国町の概況
与那国町は、日本最西端の島、与那国島全体を指す(
図1)。与那国島は、面積29.0平方キロメートルと小さい島ながら、鳥獣特別保護区に指定されている地域もあり、貴重な動植物が生息する自然豊かな島である。
沖縄本島から南西約509キロメートルの位置にあり、西側にある台湾とは111キロメートルしか離れていない(
図2)。地理的に近いこともあり、台湾にある花蓮市とは姉妹都市として30年以上関係が続いている。特に、小中学生がホームステイで花蓮市を訪れるなど人的交流が盛んに行われている。
与那国町の気候は、冬季には大陸の高気圧、夏季には太平洋高気圧の影響を受ける。月平均気温は、5〜10月は25度を超え、1〜2月も18〜19度とそれ程低くならず、年間を通して温暖な気候である。年間の降水量は沖縄本島よりも300ミリメートル程度多い約2350ミリメートルで、主に冬季の季節風、梅雨および台風によりもたらされている。
このような気候の中で、さとうきびの他に畜産(肉用子牛)、水稲、長命草やコリアンダー(クシティ)などの生産が行われている。しかし、冬季には北から吹き付ける風が強く、最大風速10メートルを超える日が数日続くこともある沖縄県内でも有数の「風のまち」であることから潮害などが発生する可能性が極めて高く、露地栽培が可能な作物が限られる。特に野菜は、島内消費量を満たす生産量を確保することができず、石垣島からの船便輸送で調達している。
一方で、与那国島に自生する長命草は潮害にも強く、近年は島内で栽培され、大手化粧品メーカーによって粉末やドリンクなどといった形で商品化されている。これらの商品は町内でも購入できる他、インターネット販売もされており、今後の展開が期待されている。
2.与那国町のさとうきび生産
与那国町では、184の農業経営体のうち、半数近くに上る90の経営体でさとうきびが生産されている。さらに、さとうきびは、水稲、長命草と合わせて町の特産物として位置付けられ生産が振興されている。
生産量の推移を見ると、豊凶の変動が激しく、平成27年産は折損や潮害といった台風通過後の被害も少なかったことから6000トンを超える増産となった一方、28年産は前年産の豊作で収穫が遅れたことに伴う肥培管理の遅れから減産となった(
図3)。これは、台風の常襲地帯であることから気象条件に左右されやすい環境とも言えるが、かんがい整備率の低さによって干ばつの影響を受けやすいことも要因の一つと考えられる。
さらに、さとうきび生産者数は高齢化などによって減少している。高齢の生産者の中には、植え付けや肥培管理は自力で可能であっても収穫は委託する者が多く、1人当たりの収穫面積の拡大も相まって生産量全体の5〜6割がハーベスタ収穫となっており、収穫作業の機械化が進展している。
3.農業生産法人有限会社与那国農産の概要
(1)経営概況
与那国農産の代表者である
宮良正一氏(67)は、中学卒業後しばらく島外で働いていたが、与那国町に戻り、27歳で農業を始めた(
写真1)。就農当初は、稲作や和牛の繁殖、野菜のハウス栽培なども行っていたが、約20年前からさとうきび生産のみを行っており、町の生産量の1割を占めるまでになっている。地域から法人化の要望があり、平成14年1月に与那国農産を設立した。同社は町唯一のさとうきび生産法人で、現在の構成員は宮良氏本人と妻の2人で、収穫期や植え付け期などの繁忙期には臨時職員として2人を雇用している。知人などの依頼に応じられる場合には農作業の受託業務も行っているが、「法人として、さとうきび生産に責任がある」という考えの下、耕起・植え付けから収穫までの一貫した生産を重視した経営方針であることから、収入の9割は借地でのさとうきび生産によるものである。
さとうきびの作付面積は17ヘクタールで、平成27年産は、天候に恵まれたこともあり、前年産の倍以上となる700トンを達成し、近年で最も多い生産量となった(
表1)。
このように与那国農産は、町のさとうきび生産を支える中核的な担い手として活躍している。
(2)機械の保有状況
宮良氏は「機械がなければ農業はできない」と言うほど機械化を重視している。以前にもいくつか機械を保有していたが、法人化をきっかけにさとうきび生産に必要な機械を全て揃え、少ない人員でも生産が可能な環境を整えた(
表2)。小型ハーベスタのみ補助事業を利用し、それ以外は自己資金で導入している。小型ハーベスタは小回りも利いて踏圧も小さいため
圃場を荒らさずに済み、多少の雨であれば作業もでき、以前保有していた中型ハーベスタと比較しても使いやすいと感じている。
(3)借地でのさとうきび生産
与那国農産では、島外に居住する地主(不在地主)などから土地を借り、借地のみでさとうきび生産を行っている。その背景として、与那国町では休耕地が増加していることが挙げられる。例えば、高校や病院がないことから、子どもの進学や就職時に家族で島外へ転出したり、病気の親に付き添って島外へ転出したりするケースが増えている。その結果、農地名義人が自ら耕作できない場合が多い。
また、農地名義人が死亡している場合には、農地の賃貸借が円滑に進みにくいことから、耕作放棄地となるリスクが高まりやすい。
そうした状況の中で、不在地主などから高い技術力を有する宮良氏に土地を貸したい、生産を託したいという要望が多く、現在、10アール当たり年間3000円程度で土地を借りている。
農地を借りる際は、機械での作業に適した条件・状況であるか否かを判断基準としている。中でも、1筆の面積が50アール以上で、基盤整備された圃場であることを重視している。現在も土地を貸したいという周囲からの要望はあるが、作業量の増大や、必要経費の増加と、不作時の収入減少による経営面でのリスクを考慮すると、現状の17ヘクタールが経営に適した広さであると考えている。
4.さとうきび増産への取り組み
(1)良質な種苗の確保
町のかんがい整備率は4.3%(平成26年度現在)で、沖縄県平均46.7%(同)と比べ低く、干ばつリスクが高い地域である。このため、与那国農産では良質な種苗を確保することを第一として、干ばつ時には苗用圃場を優先してかん水している。さらに、植え付け後に乾燥で枯死することがないように降雨後に植え付けを実施している。これらの取り組みによって発芽率は90%を越えており、これまで補植作業の必要に迫られたことは一度もない。
(2)圃場の観察と適切な作業時期の見極め
与那国農産では、全ての圃場で株出し管理を行っている(
写真3)。1〜3月の収穫直後に株出し管理を行い、その後1カ月程度生育状況を観察してから作型を決定する。生育状況が良好な場合は株出しとしての栽培を継続し、悪ければ耕起して新植夏植えとしている。宮良氏は「手間に対してさとうきびは正直に応えてくれるのが分かる」と言い、作業の実施時期について栽培ごよみをそのまま踏襲するのではなく、圃場の状態を観察して必要な作業を適宜実施できるように心がけている。
(3)適切な品種の選定
与那国農産の圃場は大きく分けて島の東部・中部・西部の3カ所にある。同じ島内であっても地域によってさとうきびの生育状況には差異があり、宮良氏は地域の環境に合わせて品種を選定することが必要だと考えている。例えば、東部は、他の地域と比べて土地がやせており、潮害や干ばつ被害もあることから、干ばつにも強く葉の再生が早い農林25号を植え付けている(
表3)。さらに、新品種が出た場合には全ての圃場で試験的に植え付けることとしている。その後、従来種より生育状況のいい品種があった圃場では、新品種をその圃場の次期植え付け品種として採用しており、現状に満足せずより良い品種の追求に努めている。
おわりに
与那国町内においてもさとうきび生産者は減少しており、今後の担い手不足は否めない。しかし、町内唯一のさとうきび生産法人として意識を高く持つ与那国農産のように、多量生産を実現することで、町の地域農業をけん引している生産者もいる。そういった生産者の努力があって、平成27年産は生産量6000トンを突破したと考えられる。このことは、現在ある町内の人材や機械だけでも効率的に活用すれば増産が可能であることを示しており、生産意欲を高めるきっかけにもなる。
宮良氏は、生産法人が増えて活気づいている地域もあることから、町内に新たなさとうきび生産法人が設立されることを望んでいる。与那国農産の後継者はまだ不在だが、宮良氏が与那国町全体のさとうきび生産の振興を願っていることが伝わってきた。このような意識を持つ生産者が中心となり、与那国町、そして沖縄県におけるさとうきびが増産に向かうことが期待される。
最後に、本稿の執筆に当たりご協力いただいた農業生産法人有限会社与那国農産代表取締役宮良正一氏、JAおきなわ与那国支店の皆さまに厚く御礼申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272