タイ政府は2016年10月、砂糖法の改正を含む「2016〜2021年のサトウキビおよび砂糖産業構造全体の再編計画」を閣議決定した。これを受け、執行機関であるOCSBは、サトウキビおよび砂糖関連政策の見直しを開始した。この背景には、2015年12月のASEAN経済共同体(AEC)の発足に伴い非関税障壁の撤廃を求められていたことや、一部の政策がWTO協定に違反しているとしてブラジル政府から提訴されたことがある
(注)。関係者によると、変更後の政策の完全施行は、2017/18年度のサトウキビ圧搾開始時期である2017年12月が予定されていたが、最終調整まで時間を要しているため、次年度まで持ち越される可能性もある。2018年2月中旬時点で明らかになっている変更の内容は、以下の通りである。
(注)ブラジルは2016年4月、国際砂糖価格の低迷時などに製糖企業を通じて生産者に支払われる補てん金や、砂糖の販売割当および国内価格の設定は、間接的な輸出補助金に当たりWTO協定に違反しているとして、WTOにタイを提訴した。これを受け、タイ政府は同年11月、ブラジルとの2国間協議の場に、砂糖政策の改革案を提出した。その後、改革案は、公聴会を実施してから再提出するよう差し戻された。OCSBは公聴会を実施し所要の見直しを行った後、再度改革案を閣議へ提出し、2017年12月上旬に承認された。
(1)サトウキビの用途拡大
政府は、サトウキビ産業をバイオ産業に転換するため、従来例外的に認めてきたサトウキビ圧搾汁からの直接的なバイオケミカル製品
(注1)の生産について、砂糖法を改正し、正式に承認するとしてい る
(注2)。
なお、エタノールの需要拡大を目的に、2017年末までに新たな代替エネルギー開発計画(AEDP2015)が施行される予定であったが、ここ2年間、エタノール生産量がサトウキビの減産により減少した一方、エタノール需要が高まり、供給が間に合わなかったため、施行が後ろ倒しとなっている。エネルギー省は、政権交代によって、同計画が見直される可能性もあるとしている。
(注1)バイオエタノールやバイオプラスチックなど、サトウキビ圧搾汁由来の化学製品。
(注2)サトウキビ由来のエタノール原料としては、従来、糖みつ▽粗糖(2014/15年度から)▽カドミウム汚染土壌地域で栽培されるサトウキビ圧搾汁▽実験的に直接エタノールを生産するための一般土壌のサトウキビ圧搾汁(OCSBに事前に承認された企業のみ)―が認められてきた。
(2)工場新増設の要件緩和など
現在、製糖工場の新設に当たっては、原料集荷の競合を避けるため、〔1〕既存工場と50キロメートル以上の距離を確保〔2〕圧搾能力の2分の1以上のサトウキビ生産を奨励(圃場整備や苗の配布など)〔3〕OCSBにより、〔1〕および〔2〕の要件について認定を受けてから5年以内に、環境アセスメントに関する報告書を作成し、天然資源環境省の承認を得る−などが求められている。OCSBは現在、〔1〕については、既存工場が新設を容認する場合や、新工場がバイオケミカル製品のみ製造する場合、既存工場がバイオケミカル製品の製造ラインを増設する場合は、対象外とするなどの一部緩和を検討している。
また、OCSBは、生産性向上のため、全ての製糖工場に対して、圧搾期間を通じたサトウキビ(基準糖度10CCS)1トン当たりの砂糖生産量の基準 値
(注)を設定し、基準値を下回った工場に対して罰則を科すとしている。関係者によると、同基準値の設定に当たっては、測定方法についての検討が必要であるため、実施は2018/19年度からに後ろ倒しとなる可能性が強まっている。
(注)製糖協会によると、標準的な製糖技術によって、基準糖度10CCSのサトウキビ1トン当たり97キログラムの砂糖を生産できるが、同90キログラムを基準値とすることが検討されている。
(3)収益分配方式における運用の一部見直し
砂糖や副産物から砂糖産業全体が得た収益を、生産者と製糖業者に7:3の割合で分配する現行の収益分配方式は、今後も砂糖産業の維持のため継続され、分配率も変更される予定はない。
ただし、収益分配の算定時に使用する砂糖価格については、後述の国内砂糖価格の自由化が反映される予定である。
(4)サトウキビの最低取引価格の算定基準の変更
サトウキビ最低取引価格についても、引き続き、サトウキビ砂糖委員会(TCSB)が、当該年度の砂糖産業の収益とサトウキビの生産量を推定し、圧搾前の11月ごろに期首価格を公表する(
表8)。そして、年度終了時の実績に基づき、翌10月ごろに期末価格を決定する。製糖企業は、期首価格に基づき、サトウキビ生産者に代金を支払った後、期末価格に基づき精算払いを行う。生産者と製糖企業間の契約によっては、上乗せ支払いが行われることもある。
サトウキビの取引価格は、現行ではCCSを基準としているが、サトウキビ圧搾汁からの直接的なバイオケミカル製品の生産が正式に認められる場合、ブラジルのようなバイオケミカル製品の生産に利用される分も含む糖分を反映させる方法に変更することが検討されている。