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和菓子産業の強みと弱み

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最終更新日:2018年4月10日

和菓子産業の強みと弱み
〜輸出やインバウンドへの期待〜

2018年4月

全国和菓子協会 専務理事 藪 光生

1.和菓子需要の動向

 和菓子産業の実情について和菓子店などの声を聞き取ると、「後継者難による廃業が目立つ」「売り上げが伸びていない」など、厳しい声が少なくない。確かに、経営者の高齢化や後継者不在による廃業も増えているし、リーマンショック以来激減した贈答品や社用の需要は低迷から脱することができていない。しかし、これらは和菓子産業のみが抱えている問題ではない。

 2017年版中小企業白書によると、小規模企業の企業数は大幅に減少している。1999年に全国で423万社存在した小規模事業者の数は2016年には 325万社にまで約100万社減少している。その間、新たに起業した小規模事業者が約50万社あると推定すると、廃業事業者は実質約150万社にも及ぶ。小規模事業者の経営者年齢は高齢化しており、倒産件数は減少しているが、休廃業、解散企業数は過去最多で、そのうち、経営者が60歳以上、80歳以上の企業の割合は過去最高となっているなど、経営者の高齢化と後継者不在によるものが多数を占めているという。いわば、経営者の高齢化、後継者不在による廃業増は和菓子産業にのみ存在するのではなく、現在社会における日本全体の問題なのである。

 こうした中で、和菓子の需要推移はどのようになっているのであろうか。残念なことに、和菓子製造企業数約3万社(推定)といわれる中で小規模事業者が95%を占める和菓子産業においては、統計を取ることは不可能であり、他の資料により推定することしかできないが、総務省統計局「家計調査」によると、平成28年では平成18年と比較して97.2%であり、底堅い需要があることが明らかである。(表1

表1 和菓子の家計消費額の推移

 この統計は、自家消費の購入額によるもので、贈答品や手土産需要は「交際費支出」にカウントされていると考えられ、その辺りの需要がどのように推移しているのかは判然としない。

 一方、和菓子産業における主原料である小豆の動向を見てみよう。小豆は、煮豆などに使われることが少なく、大半が和菓子・餡の需要と考えられるので、和菓子の売上動向がそのまま小豆の消費動向と比例すると考えられる。その消費実績(農林水産省政策統括官付穀物課調べ)によると、この15年間その消費量はほとんど安定的に推移していることが分かる。(表2

表2

 こうしたものから類推すると、和菓子全体の売り上げはこの10年間ほぼ横ばいで安定的に推移していると考えて良い。このことは「アベノミクス」と称する経済成長戦略により、あらゆる指標が好景気を示す一方で依然として個人消費が低迷している近年の状況の中においては評価されてしかるべきである。

2.和菓子の強みと弱み

 和菓子がこのように底堅い需要傾向を保持することができているのには、商品特性に強みがある。和菓子の商品特性の一つに「季節感」があることが挙げられる。和菓子の季節感には二つの形態がある。

 その一つは、春夏秋冬それぞれの時期にならなけ れば販売されない商品で、草餅、桜餅、柏餅、焼鮎、水ようかん―などが挙げられるが、これらの商品はその時期が終わると店頭から姿を消してしまう。いわば季節の訪れと共にある商品である。

 一方、「(ねり)切り」のように同じ餡を素材としながらも、花鳥風月などを題材として季節を表現する菓子もあって、季節の移り変わりによって姿を変えていく商品である。日本には世界に誇り得る美しい四季があり、この季節感は日本人の深層心理に大きな影響を持っているものであるが、昨今の栽培技術や冷凍技術の進歩により「ほうれんそう」が夏に売られたり、「秋刀魚」が一年中販売されたりするような時代にあっては特に貴重といえるもので、いわば日本人の季節の移り変わりを待つ心に寄り添える商品となっているからである。これは和菓子が年中行事と強い関係を持つこととも関係してくる。日本人の生活文化である、正月、節分、ひな祭り、彼岸、花祭り、端午の節句などなど、伝統的に行われている年中行事のほとんどが和菓子と切っても切れない強い結び付きがある。また、人生儀礼というか、人の一生に関わる節目節目の祝いから葬に至るまで、例えば、七五三の千歳あめ、鶴の子餅のように和菓子が身近に存在している。こうしたことが和菓子の販売機会につながっているのである。

写真 春をイメージした煉切り

 昨今、洋菓子産業をはじめ、食に関わる産業が、 「ひな祭りケーキ」などの商品販売に力を入れて、こうした年中行事を販売機会として捉えていることがあるが、こうした事例を見ても日本の年中行事は大きな販売チャンスであることが明らかで、それらと強い結びつきがあることは和菓子産業の強みといえよう。商品の個性という点も強みになっていると考えられる。例えば「まんじゅう」を見ても、「焼きまんじゅう」と「蒸しまんじゅう」があり、まんじゅうの中の餡は、小豆こし餡、つぶし餡、小倉餡、えんどう餡、くり餡、ごま餡、ゆず餡、抹茶餡、みそ餡などさまざまであり、別にくりや梅の実などを使うものもある。また、種に黒砂糖、きな粉、みそを加えたもの、さらには上用粉(米粉)を使った「上用まんじゅう」、そば粉を使った「そばまんじゅう」、かるかん粉(米粉)を使った「かるかんまんじゅう」、麹で発酵膨張させる「酒まんじゅう」、葛粉を使った「葛まんじゅう」など同じまんじゅうでもさまざまに個性がある。そればかりでなく、「上用まんじゅう」であっても製造している店によって全て味は異なると言っても過言ではない。これはすなわち、ある店の「まんじゅう」を食べて不満足であったとしても異なる店の「まんじゅう」によって満足することがあるということであり、消費者の好みを反映してそれぞれの店にひいき客ができることを示しており、こうした各店ごとの個性が、小規模事業者の経営を支えている面も大きい。

写真 上用まんじゅう 写真 葛まんじゅう(左)と水ようかん(右)

 また、和菓子の持つ健康性も大きな強みといえよう。人間にとって大切な健康を求める意識の高まりはますます強くなってきている。和菓子の餡には、良質なタンパク質、豊富なビタミンB群、鉄、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン、亜鉛などのミネラルやサポニンなどの機能性成分はもとより、食物繊維やポリフェノール含有量も多い。「砂糖を食べると太る」という誤った理解も徐々に払拭され、人間の健康にとって砂糖も必要という意識の広がりもみえる。

 さらには現在、日本社会の課題といわれる「高齢化社会」の到来も和菓子にとっては悲観材料とはいえない要素がある。高齢者ほど和菓子を好むという傾向は、あらゆる嗜好調査で明らかになっている。中には「若い頃食べなかった和菓子は年をとっても食べない」という考えもあるようだが、それは表層を見た考えにしか過ぎないと思う。人間の加齢とともに変化する「嗜好の変化」は間違いなく存在する。年配の人なら、覚えがあるだろう。若いうちはハンバーグやトンカツなどを好んで食べる傾向が強いが、年を経るに従って豆腐のうまみが分かってくる。そばや季節のおひたしで一杯飲みたくなるというように嗜好は変化してくるのである。そうしたことから考えても、高齢化社会の到来は和菓子にとっては強みの一つとなるであろうと考えられる。

 このように強みといわれる面も多いが、それに寄りかかってばかりいては、それが弱みに転じる可能性も高い。年中行事日や記念日の売り上げは、堅調な中でも減少傾向にあることは否定できない。核家族化が原因の一つだが、家族と呼ばれるものの構成人員が縮小し、親族間の交流が薄れる傾向があることや、日本人の生活文化が若い世代に十分に伝承していないということもあって、徐々に低減の方向に向かうと考えなければならない。行事日などについても「敬老の日」の需要などを見ても明らかなとおり、個々の需要はあるものの、自治体などが75歳を超える方々に和菓子など、ささやかなお祝いを贈るなどという風習も自治体の予算不足などから廃止される地域が増えている。贈答品需要もリーマンショック以前に回復することはないと断言できる。なぜなら贈答を縮小することによって生じた営業上のマイナスが存在しないという現実があるからである。

 そうした弱みに加えて、和菓子産業の営業者のうち小規模事業者が95%を占めるという零細性が、新たな法律への対応を困難にしたり人手不足といわれる中での人材確保への大きな壁となっているなど課題は多く、これらは間違いなく弱みと言える部分である。そうした中で個々の和菓子店が生き抜いていくためには和菓子が嗜好品である以上は、何よりも低価格低品質の和菓子ではなく、消費者に選ばれる、あるいは消費者の期待に応えられる高品質で、「おいしい和菓子」の製造が大切であると考えられる。それが可能となれば、和菓子産業は、今後も堅実な実績を残すことが可能と考えている。

3.今後の課題

 現在、和菓子は「輸出」や訪日観光客による「インバウンド効果」などの新たなチャンネルによる販売が期待されている。近年、「和食」が世界無形文化遺産に登録されたこともあって、世界中で日本の食文化についての関心が高まっている。日本の食文化紹介などの一端として、フランスをはじめとしてヨーロッパ各国で和菓子の製造実演や試食のイベントなどを開催すると、文字通り黒山の人だかりとなるほどの盛況で、和菓子についての関心の高さが実感できる。一方、訪日観光客においても製造現場を見学したい、作ってみたい、食べてみたい、など和菓子に接することを求める方々も少なくない。

写真 和菓子文化啓発活動の様子(平成26年3月22日、フランス)

写真 桜餅誕生300周年記念イベントの様子(平成29年3月27日、東京都)

 しかし、現実は簡単ではない。その理由は、和菓子産業の構造にある。和菓子産業は、大きく分けて「製造小売」と「製造卸」とに分けられる。製造小売とは、その和菓子店自らが製造し、販売する形態のことで、和菓子専門店と呼ばれる店は全てこれに当てはまる。製造卸は、パンメーカーや観光地での土産専門の和菓子で菓子卸問屋などを通じて小売りの店頭で販売される形態だが、一般的に老舗やブランド性の高い和菓子店、地域と密着して強い営業基盤を持つ和菓子店は、そのほとんどが製造直売である。実は、これらの店は自社の商品を他に委ねる(問屋などを通じて売る)ことを良しとしない考え方が強い。従って、バイヤーや商社を通じて海外に商品を輸出するということには積極的になりにくいし、もし輸出する場合はよほど和菓子について熟知し、その店の商品について理解があって信頼できる海外のバイヤーなどが介在しなければ成り立たないと考えられる。むしろ、海外で自店の和菓子を販売しようとする場合は、商品を輸出するということより、海外へ進出(店を出すなど)することの方が実現性はあるが、現地での製造の可能性(商品の日持ちの問題など)や投資に要する資金、人材の確保などを考えると決して簡単なことではない。

 一方、訪日観光客によるインバウンド需要では、最近訪日観光客が店頭を訪れることが増えていることが報告されている。その場合、圧倒的に多いのは 「まず食べてみたい」という興味で、食べた結果、箱入りの商品を求めたり、後日帰国土産などとして買い求めたりする観光客もいる。しかし、土産の場合に問題になるのは、やはり商品の賞味期限など日持ちの短さと言えよう。和菓子店の販売する商品は、日持ちのしないものが多く、大方は鮮度というか、「なるべく早く召し上がって下さい」という考え方が基本であるため、状況によっては帰国土産として成り立たないこともある。

 さらに問題なのは、語学力というか、会話力というか、言葉の問題である。外国の人から見て、化粧品や薬、電化製品など、特別に説明を要しないものやビスケットのように誰が見ても分かるものと違い、和菓子の場合は、「このお菓子はどのようなものか」「なんで作られているのか」「どのような加工をしているのか」などなど聞いてみなければ分からないものが少なくない。店頭で、訪日観光客のこのような質問に正しく対応できる接客能力は残念ながら一部の店を除いてないと言わざるを得ない。こうした面もインバウンド需要を飛躍的に伸ばすことの壁となっているように思う。

 とはいえ、これらは今後期待される伸びしろがあるわけであり、和菓子店における対応が期待されるところだが、小規模事業者ゆえに対応が難しい現実も垣間見える。そのため、全国和菓子協会では遅ればせながら、英語・中国語・韓国語などによる和菓子の手引きとなる冊子やホームページ上での紹介を行うべく着手しているところである。
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