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北海道大規模畑作地帯における情報・自動化技術の利用の現状と展望

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最終更新日:2018年5月10日

北海道大規模畑作地帯における情報・自動化技術の利用の現状と展望

2018年5月

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター
大規模畑作研究領域 領域長 村上 則幸

【要約】

 農家人口の減少により規模拡大が進む北海道の畑作地帯では、急激な規模拡大により省力的な作物に偏る輪作のバランス悪化が懸念される。それを解決する一助として、トラクター自動操舵装置などの情報・自動化技術に大きな期待が寄せられている。今後は、それら技術の普及とそれらを活用した新たな生産体制の構築を両輪で進めることが重要である。

はじめに

 十勝やオホーツク総合振興局管内は、北海道内でも屈指の大規模畑作地帯である。例えば、日本の小麦の生産量の7割を占める北海道において、十勝とオホーツク総合振興局管内が、それぞれそのうちの約3割を占める。

 これらの地域においても、北海道農業の直面する急激な農家人口の減少という問題への対応は急務である。例えば十勝の例では、2006年からの10年間で、農協の組合員数・農家戸数ともに13%減少し、2015年からの5年間では農家戸数は約300戸減少すると予想されている。農家人口が減少する一方で、農家の経営面積は拡大を続け、2010年の平均経営面積が37ヘクタールであったのに対して、2015年には40ヘクタールを超えた1)

 今後も農家の規模拡大は進むことが予想されるが、これにより、危惧されるのが小麦、ばれいしょ、てん菜、豆類の畑作4品目による輪作の維持である。

 つまり、規模拡大による労力不足から省力的な小麦や豆類が過作となり、省力面でそれら作物より劣るものの実需からのニーズの高い、ばれいしょやてん菜の作付けが敬遠される。

 このことによって、製糖工場の稼働日数の減少などによる地域経済の悪影響はもとより、輪作のバランスも崩れ、病害などの発生リスクも高まる。そのため、健全な輪作の維持と作業の省力化をいかに両立させるかが畑作地帯において重要である。

 この問題の解決のカギとして、情報通信技術(ICT)や自動化・ロボット化技術(RT)に期待が寄せられている。以下に北海道畑作地帯でのこれら技術の普及の現状と今後の展望について、北海道農業研究センター(以下「北農研」という)の取り組みを交えて紹介する。

1.情報・自動化技術の利用の現状

(1)トラクターのガイダンス・自動操舵装置

 GPSなどの全球測位衛星システム(GNSS)により得られる位置情報を利用したトラクター版のカーナビであるガイダンスシステム、さらにハンドル操作まで自動で行う自動操舵装置が北海道で広がり始めている。北海道庁の調べ2)によると、北海道でのトラクターガイダンスと自動操舵装置の平成20年度から28年度までの累計出荷台数は、それぞれ7000台と2840台で、全国の出荷台数のうち、81%と94%を占めている。これら技術の導入でカギとなるのが、数センチ程度の高精度な衛星測位技術の利用であり、この技術を利用した自動操舵装置の導入には、数百万円の投資が必要となる。さらには、補正信号のサービスも必要となるためランニングコストも発生する。今後、低価格化は進むと考えられるとはいえ、現状ではまだ高価であるにもかかわらず普及が進んだ背景には、熟練オペレータの不足や規模拡大による長時間のトラクター作業での作業負荷軽減効果が大きいことが挙げられる。さらに、補助事業などを利用した高精度な衛星測位を利用するための補正信号を提供する基地局を地域で整備する動きが25年以降活発になり、補正信号のサービス料の負担が軽減されたことなどが大きい。装置の低コスト化やトラクターの新機種では、カーナビ同様に購入時から搭載されているものもあり、一層の普及が見込まれる。また、これら装置にて収集した農作業データの利活用などの応用も将来は期待される。

(2)センシングとそれに基づく肥培管理

ア.衛星画像の活用
 収穫計画の策定支援を目的に平成16年、衛星画像から小麦生育の早晩を推定するシステムが開発され3)、十勝にて運用されている。本システムにより、小麦収穫作業順を最適化、コンバインの効率的な利用や乾燥調製施設の燃料代節約などにつながっている。今日では、より安価な衛星画像サービスも始まりつつあり、生産者が衛星画像により自身の()(じょう)の状況を把握することも手軽になりつつある。

イ.可変施肥・収量センシング技術
 北海道から平成23年、小麦の葉色に応じて追肥量を調整する可変施肥技術が発表された4)。システムは、前述のガイダンスシステムに接続するレーザ式の葉色センサーと施肥量を外部信号で調節できる肥料散布機(ブロードキャスタ)で構成される。このシステムによる小麦の増収や品質安定化効果が報告されており、生産現場に導入が進みつつある。今後は、水田作地帯での利用や豆類やばれいしょ、てん菜などの作物への利用拡大が期待できる。

 これらの新しい栽培管理技術の評価に欠かせない収量の計測についても、例えば、写真1に示すような収量センサーを装着したばれいしょ収穫機により収量を自動計測し、地理情報システム(GIS)を利用して収量マップが生成できるシステムの導入実証が進められている。

写真1 収量センサーを取り付けた国産ばれいしょ収穫機

2.今後の展開

 前述の情報・自動化技術について、低コスト化や使いやすさの改善などにより今後一層の普及が期待される。また、衛星画像や気象情報、土壌や収量などの情報の融合した栽培支援技術についても発展が期待されている。これらの技術による省力化面での貢献が期待できる一方で、地域としては、人口減少の進む中でいかに現在の生産を維持、そして地域社会を維持するかが重要であり、高性能農業機械を基軸とした生産体制の再構築が注目されている。

 農林水産省の委託プロジェクト(革新的技術開発・緊急展開事業〈うち経営体強化プロジェクト〉)にて、北農研が研究代表を務める「寒地畑作を担う多様な経営体を支援する省力技術およびICTを活用した精密農業の実証」では、新たな生産システムの構築との両輪で新技術の現地実証を進めている。

 例えば圃場作業効率の向上を目的に、複数の生産者の圃場をあたかも一つの圃場として管理するトランスボーダーファーミング(仮想的農地集約)5)の現地導入では、GISや収量センサーを活用して取得した、各生産者の圃場部分の情報から適正な利益配分ができる手法が不可欠である。

 その他、津別町では、ドイツ製の大型てん菜収穫機を国内の栽培に適合するよう改良して導入し(写真2)、ロボット移植機の開発なども進める一方で、それらの高性能機械を地域で効率的に利用するための農作業支援組織を周辺地域の農作業受委託組織(コントラクター)やドイツの農作業仲介組織(マシーネンリング)などを参考に設立、運営を進めようとしている。

写真2 てん菜多畝(6条)収穫機(ドイツ ホルマー社製)

 このような地域システムの構築は、それぞれの地域の実情に合わせてのオーダーメイドであり、多くの関係者の利害を調整して、設立そして運営にこぎ着けるまでの労力は並大抵ではない。しかし、地域全体で農業生産を支える仕組みづくりは、今後の農業生産と地域の維持には不可欠である。情報・自動化された高性能農業機械の利活用のメリットを地域で捉えることが、その仕組みづくりの一助となることに期待している。
【引用文献】
1)JAネットワーク十勝、十勝農業協同組合(2017) 『十勝農業ビジョン2021』pp.5-6.
2)北海道農政部生産振興局技術普及課 「農業用GPSガイダンスシステムの出荷台数の推移(平成29年 6月)」 http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ns/gjf/jisedai/syukka.htm
3)奥野林太郎(2005)「衛星リモートセンシングを用いた小麦適期収穫支援システム」『農業機械学会誌』 (67巻5号)、pp.17-19.
4)原圭祐(2011)「小麦の可変施肥技術」『農業機械学会誌』(73巻6号)、pp.340-343.
5)鈴木剛(2014)『規模拡大と農業機械−トランスボーダーファーミングとは−仮想的農地集約に取組む』機械化農業(3152号)pp.21-26.
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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