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品種の経年評価を通したサトウキビの長期的低収要因の検証

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最終更新日:2018年6月11日

品種の経年評価を通したサトウキビの長期的低収要因の検証

2018年6月

琉球大学農学部 寳川 拓生、平良 英三、上野 正実、川満 芳信

【要約】

 南西諸島でのサトウキビの長期的な低収要因を解明するため、登録・普及後の品種能力の経年変化を検証した。地理情報システム(GIS)を駆使し一筆の面積、作型、品種などが綿密に記録された野帳管理データを基に南北大東島の品種別生産実績を解析した。また、NiF8が栽培面積の7割を超える種子島の単収の推移も品種能力の評価に活用した。南北大東島での株出し栽培に関しては、近年育成・普及された品種の相対収量がF161に対して高く推移しており、育種の成果として数値化することができた。品種能力の長期的推移や大豊作であった平成28/29年期における南北大東島のF161、種子島のNiF8の単収データから長期使用による品種能力の変化は見られず、それが単収低下の主要因ではないことが示唆された。

はじめに

 近年の南西諸島のサトウキビ低収要因の一つに高齢化による粗放化が挙げられるが、「同じ品種を以前と同様に育てても収量が上がらない」という農家の声は無視できない。長期的に使用される優秀な品種が育成されてはいるものの、品種の登録・普及後の経年的な能力についての評価は行われていない。長期的な研究費の捻出が困難な中、育種試験で使用される標準品種や製糖工場へ搬入される品種など記録されている特定の品種については長期的なデータの蓄積がなされており、これらのデータを基に品種の経年変化を検証することは、品種評価および育種の観点からの低収要因の解明に気付きを与えるものであると考えられる。

 そこで、サトウキビの品種能力の維持に関し、特定品種の経年変化を調査し、以下の成果を得たので報告する。なお、本調査は独立行政法人農畜産業振興機構の平成29年度砂糖関係学術研究委託調査により実施したものである。

1.南北大東島のサトウキビ生産

(1)南北大東島の生産概要および品種利用実態

 南北大東島は機械化の進んだ大規模生産が行われている地域であり、大型ハーベスタやビレットプランタ(植え付け機)が使用されている。水資源に乏しいことから干ばつになりやすく、マリンタンクと点滴チューブを組み合わせたかんがい法が広く用いられ、こうした栽培環境を考慮した品種選抜が沖縄県を中心に行われてきた。南大東島は育種の指定試験地に指名されていることもあり、同地域の多様な品種選択に貢献している。2010年に奨励品種に登録されたNi28、Ni29は南大東島向けの品種であり、Ni28はF161に替わり同地域の主要な品種となっている(図1)。また、品種登録されていないRK96-6054やRK97-14(2016年に品種登録済み)の栽培面積も高い傾向にあるなどの特徴も見られる。

 一方、北大東島は育種指定試験地ではないものの、北大東島の品種構成は、Ni28やNi26など、気象、土壌、栽培方法が同じ南大東島と類似している点が多い(図1)。他方で、F161が依然として多い点や、最近では鹿児島県の奨励品種であるNiN30、Ni23が普及拡大するなど、南大東島とは異なる傾向も見られる。

図1 南北大東島のサトウキビ品種構成(平成28/29年期)

 NiN30(登録品種名:系統番号KN00-114)は、新植および株出しの両方で収量性が良く、茎が直立するので畝間管理をしやすいことなどから、3年前より北大東島において栽培面積が増加している。直立茎であることに加え、脱葉性が良く、日焼けした紫の茎にワックスが多く付き、白みがかっていることから他品種との識別が容易である(写真1写真2)。北大東島への本品種導入の経緯は次の通りである。まず、農務関係者が他の製糖工場より譲り受けた苗束を、4〜5本ずつに分けて3〜4人の優良農家に配布し、収量性や栽培管理のしやすさなど農家レベルでの評価を依頼した。そして、その内の一生産者の()(じょう)のサトウキビを買い取って種苗として配布したことにより栽培面積が増加したという。本品種の育成は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センターが中心となって行ったが、系統適応性試験で沖縄県農業研究センター石垣支所、宮古島支所での試験成績は悪く、奨励品種決定試験を行った名護支所でも成績が振るわなかったため、沖縄県の奨励品種とはならなかったという経緯がある。このように選抜から外れた品種が試験地以外で好成績を残し栽培面積を拡大することは、育種の在り方を考えるのに気付きを与える事例であり、品種の有効活用方法としても評価できる。その他にも、生産者により独自に持ち込まれた品種などが一部で増殖しているようである。このような奨励品種外の品種利用は、種苗管理センターの健全種苗の利用という観点からは思わしくはないが、育種プロセスもはっきりしており、品種選択を行う上で一考に値する。

写真1 NiN30(KN00-114)の茎

写真2 立毛状態

(2)品種の維持管理の現状

 品種の維持管理に関し、南大東島では生産法人(アグリサポート南大東株式会社〈沖縄県島尻郡南大東村〉)を立ち上げ、植え付けなどの受託作業の請け負い・育種試験(指定試験地事業)・原原種圃の管理および種苗提供を行っている。同生産法人は、平成29年度の競作会において多量生産部門(生産法人)で1位を獲得した。

 一方の北大東島でも、生産法人を立ち上げたが、受託作業が主な業務で、登録オペレーター方式で収穫や運搬など農協のカバーし切れない作業を生産者が一丸となって取り組む体制が構築されているものの、種苗圃の管理や種苗配布は行われていないのが現状である。そのため、北大東島では次作用種苗は基本的に原料圃や1年目の夏植え圃から自家採苗するとのことである。このように、育種の指定試験地で、かつ製糖工場に種苗増殖に関する生産法人が敷設される南大東島に比べ、北大東島では品種の選抜や種苗増殖に関し生産者への負担が比較的大きい現状が見られた。

 また、収穫期を考慮した品種構成の調整は行われていないが、晩生のF161だけでなく、多くの早期高糖性品種が育成・普及されたことにより収穫適期幅が広がったと言われる。その結果として、収穫の順序は基本的には次作の栽培スケジュールを考慮して決められ、次作更新畑から収穫を開始▽夏植え▽早期株出し▽春植え▽遅い株出し−の順で進められている。

(3)全地球測位システム(GPS)とGISによる野帳管理

 南北大東島では一筆圃場管理を掲げ、野帳管理を一筆ずつ行い毎年更新している。毎年の更新が必要な理由は、各筆で年度により作型が変わったり、休耕となったり、採苗圃と収穫圃の割合が変わるなど圃場の利用状況が変わるためである。野帳管理データは、工場内での収量(または搬入量)の予測に用いられるだけでなく、サトウキビ生産者圃場植え付け調査(OCR調査)データと併せて、役場が県庁に報告し、種苗管理センターの次年度用の種苗増殖量の裁量に活用される。南北大東島では、琉球大学チームによる研究成果(高度化事業「近赤外分光法〈NIR〉とGISを利用したサトウキビ営農支援情報システムの実用化・定着化」)もあり、平成10年代後半に導入された携帯式のGPS(Trimble社)を用いて野帳管理が行われている。「ArcPad」と呼ばれる有料のポータブルArcGISシステムを搭載し、地図上で地理情報(緯度経度など)や圃場情報(作型・生産者・品種など)を確認するとともに収穫面積(OCR調査により生産者から申告される栽培面積のうち採苗面積を除く)を測定することができる。ただし、圃場分布が複雑であるため、農務担当者が実際に圃場を訪問し、GPSを活用しながら面積などの情報を野帳に手書きした後、事業所でデータを打ち込み、地図を作成するという。このような綿密な野帳管理データと搬入実績から、奨励品種外の品種を含む品種別の生産実績を把握することが可能となっている。

2.南北大東島における品種経年評価

(1)南大東島の品種経年評価

 大東糖業株式会社の「年期別生産実績」のうち、作型別品種別生産実績を参照し、各品種の収穫面積・収穫量およびそれらを基に算出された単収の推移をまとめた。ここでは、南大東島の主要な作型で、品種別生産実績が5年以上連続しデータの充実した株出し栽培を中心に解析する(図2)。

 品種の生産能力の長期的な推移を見るときに、まずは全体としてどのような動態を示しているのかが重要になる。なぜならば、気象変動や栽培方法の変化などが収量の変動に影響を与えるからである。全体を見ると、従来、南大東島のサトウキビ生産を支えてきた品種であるF161の単収の推移は、栽培面積が減少傾向にある近年では一致しない年度もあるものの、島全体の単収とほぼ同様に推移しており、生産能力の低下は見られない(図2左上)。このことから、他品種との相対比較に本品種を標準値として利用することで、気象要因などの外的要因を排除した相対評価ができると考えた。同地域は株出しの構成割合が高く、F161を標準品種としたときの、F161に対する相対収量は、株出しの収量が全体の収量の変動とほぼ一致している(図2右上)。そのため、株出し栽培に着目してみると、近年育成されたNiTn20(平成28/29年期は栽培なし)、RK96-6054、Ni29、RK97-14などの品種・系統でF161に対する相対収量が高く、株出しに対する育種の成果が見られた(図2下段)。

図2 南大東島の品種別生産実績の経年評価

(2)北大東島の品種経年評価

 北大東製糖株式会社の「製糖終了報告書」のうち、作型別品種別生産実績を参照し、各品種の収穫面積・収穫量およびそれらを基に算出された単収の推移をまとめた。ここでは、北大東島の主要な作型で、品種別生産実績が5年以上連続しデータの充実した株出し栽培に関し解析する(図3)。

 北大東島の主要な品種であるF161の単収は、島全体の単収とほぼ同様の推移を示している。また、豊作年の平成28/29年期に高い単収を示すなど品種能力の低下も見られなかった(図3左上)。そこでF161を標準品種とし、F161に対する相対値で各品種の単収の推移を見た(図3左下)。これによると、平成20年前後より品種が多様化し、F161に対して高単収となる品種が増加している。このことは育成年代が進むにつれて(NiH25を除き)高単収となる傾向からも分かる(図3右下)。F161以外のすべての品種の相対単収を平均し、その推移を見ると、20年以降、株出し栽培の単収が高かった(図3右上)。これらのデータから近年の育種の成果が明確に示された。今後はこのようなデータを気象データと併せて解析し、品種構成最適化プログラムを作り、品種構成をシミュレーションしていく予定である。

 なお、非常に興味深いことに、これらの資料には県の統計資料で「その他」に分類されるような奨励品種外の品種・系統、構成面積が1%以下である品種についても記録されている。このような貴重なデータが蓄積されるのは南北大東島のサトウキビ圃場が野帳上で一筆圃場管理され、かつ面積や品種などの情報が農務担当者により正確に把握されているからに他ならない。
 


 

  製糖工場関係者は、「農家は品種に一番関心がある」と述べる一方で、篤農家は品種を変えても高単収を挙げるというのも事実である。品種別生産実績を眺める際にはこの点も考慮して生産現場に役立つデータになり得るか、生産現場へのアウトプットを考える必要がある。

3.種子島のサトウキビ生産と品種経年評価

(1)種子島のサトウキビ生産概要

 近年、種子島のサトウキビ生産量は減少傾向にあり、平成27年産は12万5000トンまで落ち込んだが、28年産は気象条件に恵まれ15万9000トンと平年並みであった(図4)。28年産の生産量が伸びなかった原因として、高齢化により栽培面積が2404ヘクタール、農家戸数が1914戸と、急速に減少したことが考えられる。ハーベスタ収穫率は84%を占め、省力化が図られるなか、大規模経営体や生産組織の育成拡大、機械化体系に対応した栽培技術および品種育成が大きな課題となっている。 

図4 種子島におけるサトウキビ生産の推移

(2)種子島の品種経年評価

 種子島では1品種の寡占状態が長期間続き、1992年まではNCo310、同年以降はNiF8への依存度が高く、同品種利用は現在でも74%を占めるなど沖縄地域には無い品種構成である(図5)。すなわち、種子島の単収は、概して1992年まではNCo310、それ以降はNiF8の単収と捉えることもできる。この観点でみると、1992年にかけて単収の低下傾向が見られるが、NCo310が黒穂病のまん延により徐々に生産能力が衰えたことと一致する。また、NiF8も近年単収が低下傾向にあるが、これは高齢化によるマルチ設置率の低下が原因とされる。こうした病気のまん延や蓄積、栽培方法の変化により、品種特性を最大限生かせていないことが単収低下の要因となり、品種能力が低下している様に見られるが、実際の品種劣化ではないと考えられる。

 NiF8は黒穂病など主要病害への抵抗性や新植での高収量性など欠点が少ない優良品種であるが、同島においては高齢化による粗放化(マルチ設置率の低下、多回株出しの要望)が見られ、低温発芽▽萌芽性の弱さ▽低()(よく)土壌および少雨地域における生育の弱さ▽多回株出しによる低収−などといった特性が問題となっている。そのような中、低温萌芽性に優れ、マルチが無くても栽培可能であり、かつ低肥沃土壌でも多収で多回株出しが可能なNiTn18が、2003年に種子島の奨励品種に登録されて以降は徐々に面積を増やし現在は全収穫面積の10%を占めている。ただし、倒伏に弱く生育が旺盛であるため、茎がクネクネと湾曲伸長し、収穫作業効率が悪いと言われている。また、Ni22も新植および株出しの多収性ならびに早期高糖性から2006年に奨励品種に採用され、現在は全収穫面積の15%程度を占めている。鹿児島県の「さとうきび増産計画」(2006年)では、2010年までの目標としてNiF8を50%、NiTn18を20%、Ni22を30%とする品種構成が設定されたが、いまだNiF8の寡占状態が続いている。かつてのNCo310が黒穂病のまん延により急速に面積を減らしたことからも分かるように、リスク軽減のためにはバランスの取れた品種構成を目指す必要がある。この他の品種も種子島向けに育成されたが、農家レベルでの品種の選択幅が狭いのが現状である。

図5 種子島における品種構成の変遷

まとめ

 サトウキビ生産が活発な離島地域を訪問し、島の経済を担う製糖工場の農務や試験機関の研究者らと交流し、同地域の生産実態と品種普及後の利用実態を調査した。南大東島は、育種の指定試験地になっているが、必ずしも採用地の奨励品種のみを活用するのではなく、RK96-6054やRK97-14といった多様な品種・系統を活用していた。特に、同地域では大型機械化と大規模化が進展しており、そのような状況に合った品種特性(機械化適応性)を育種目標に掲げる必要性を痛感した。一方、北大東島は育種の指定試験地ではなく、独創的な品種選択が行われている。同地域でも他地域と同様に新品種に対する期待は大きいものの、気象災害や粗放化など品種特性だけではどうにもならない現状もあり、概して品種への期待が大きい反面、生産現場における品種能力の評価や維持管理に関しては意識が低く、曖昧な点が多いことが判明した。本報告で述べたような品種の利用実態の丁寧な聞き取りや改善の指南などが、品種を長持ちさせる維持管理方法の確立・混植を含む既存品種の効率的な利用につながると確信している。

 品種生産能力の経年評価に関しては、南北大東島ではGPSを活用した野帳管理、一筆ごとの品種や作型・単収(面積と搬入量から算出)の記録が行われており、品種能力の経年評価に活用可能な品種別生産実績データを入手することができた。北大東島の品種別データを見ると、1年や数年で利用がなくなる品種も存在し、長く利用される品種でも突如利用されなくなる品種も見られた。そのため、新植のデータは解析結果の理解が難しく、北大東島の主要な作型で、単収の推移も全体(3作型の合計)とよく一致する株出しにより解析を行った。北大東島で長期間栽培されたF161の株出しの単収変動を見ると、全体の単収変動とほぼ一致し低下は見られなかった。このことは大豊作であった平成28/29年期のデータを見ても判断できる。F161を対照として各品種の相対収量を見ると、近年育成・普及された品種の相対収量が高く推移していた。これは、これまで示されることのなかった育種成果の数値化に成功したことを物語っている。このような株出しでの育種成果に関する傾向は、南大東島でも同様であった。また、種子島のNCo310、NiF8の単収低下から、病気や栽培方法の変化により品種特性が十分に発揮されず見かけ上で生産能力が低下(劣化)しているが、実際の品種特性は変化していないのではないかということも指摘できた。

 以上より、品種の持つ生産能力は経年変化せず、近年の単収低下に及ぼす影響は小さいことが示唆された。ただし、栽培方法の違いや目視しにくい病気の蓄積・まん延が制限要因となり品種特性が発揮されず、「見かけ上、品種の能力が低下する」可能性は否定できなかった。
謝辞
 品種別の生産実績は、各製糖工場の農務の方々により収集された綿密かつ貴重なデータである。データ提供に関しご協力いただいた大東糖業株式会社の福澤康典様、北大東製糖株式会社の吉原徹様をはじめとする関係者にこの場を借りて感謝申し上げる。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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