ホーム > 砂糖 > 各国の糖業事情報告 > フィリピンにおける砂糖の生産動向
最終更新日:2018年6月11日
なお、サトウキビの競合作物は、バナナやパイナップルで、いずれも輸出用作物として増産傾向にあり作付面積も直近7年で1割程度増加している。サトウキビ生産者に対する生産振興やインフラ支援がこれまで比較的手薄だったこともあり、SRAは競合作物への転換を懸念している。
(3)政府による生産振興策
SRAは2015年、製糖業界や農業省、通商産業省と連携し、2019年度までのロードマップ(ロードマップ2020)を策定し、生産目標とその達成のための課題などを示した(表6)。サトウキビ生産量の目標は、年換算で2%台と控えめな設定となっているが、これは、増産に伴う粗糖価格下落による農家の収益低下を懸念したためとされる。
なお、現地関係者によると、サトウキビ栽培面積については、バイオエタノールの自給率向上へ向けた仕向け先変更などを受け、減少が見込まれている。
SRAは、政府から年間20億ペソ(45億2000万円)の支援を受け、ロードマップ2020の達成に向けてさまざまなプログラムを実施している。政府は2015年、サトウキビ産業開発法(SIDA:The Sugarcane Industry Development Act)を制定し、ロードマップ2020の実現に向けた支援に対する法的枠組みを示した(表7)。
SIDAの中心は、生産性向上プログラムである。生産性が比較的低く、経営規模の小さなサトウキビ農家を30ヘクタール以上に集約し、共同経営化(ブロックファーミング)を進めるほか、機械の無償貸与や技術指導を行うなどして、生産効率の改善を図るというものである。これは、農地改革法に基づく小規模農家への農地の分配とは真逆の動きで、注目を集めている。
2016年は62のブロックファーミングが認定されたが、SRAは、2020年までに6割超の農家をブロックファーミングとし、小規模サトウキビ農地の35%を統合したいとしている。
インフラ整備については、年間予算の半分に相当する10億ペソ(22億6000万円)を投じて、大型トラックが走行可能な農道を整備し、製糖工場へのサトウキビの運搬効率を向上したり、生産者向けの低利融資によって機械導入を後押ししたりするなどの支援を図りたいとしている。これまで、サトウキビ生産者に対する政府による支援プログラムは比較的少なかったが、ロードマップ2020やSIDAからは、生産性向上に対する包括的な支援の拡充を図る姿勢がうかがえる。
包括的な支援策がこの時期に取りまとめられたのは、アセアン経済共同体(AEC:ASEAN Economic Community)の発足が背景にあるとみられる。ASEAN域内のヒト、モノ、サービスなどの自由化を促進すべく2015年に発足したAECは、センシティブ品目の一つである砂糖の関税を、5%に引き下げることを決定した。
政府は安価なタイ産の流入を懸念しており、これに対抗できる国産砂糖の競争力強化の必要に迫られたとみられる。輸入管理政策(注)は継続しているものの、AECは加盟国の非関税障壁の撤廃を掲げており、今後の動向が注目される。
(注)砂糖の輸入については、SRAによる許認可制となっている。また、輸入された砂糖は、一度備蓄されたのち、安い価格で市場に売り渡される仕組みとなっていることから、輸入業者にとってインセンティブが働かないとされる。
フィリピンには、29の製糖工場(2工場は現在操業停止中)があり、このうち14は精製糖工場を併設している。それらの多くは、サトウキビの主産地であるネグロス島に立地している(図5)。
粗糖と精製糖の生産量の推移は、図6の通りである。粗糖の生産量は、おおむね200万トン強であるが、2014、15年度は減少している。
サトウキビ生産者は、年度当初に製糖工場との間で納入数量を取り決めるが、口頭契約のため、拘束力は弱い。生産者は通常、収穫初期のサトウキビを複数の製糖工場に納入し、納入先を比較検討する。
サトウキビ生産量が伸び悩む中、製糖業者は、生産者に収穫機械を貸し出したり、納入時に現金を給付したりと、生産者に対してさまざまなインセンティブを提示している。製糖業者の中には、運搬中継地を設け、運搬用のトラックを製糖業者が手配するなどして集荷エリアの拡大を図る者もあるという。
生産者は、工場から通知された稼働日の範囲内で、自らの収穫作業の進捗に応じてサトウキビを納入する(製糖工場は、搬入スケジュールを事前に把握できない)。このため、ピーク時には、製糖工場の入口に搬入のトラックが行列をなして待機するといった光景が見られることもある(写真7,8,9)。
多くの製糖工場は、インセンティブの提供や非効率な集荷システムによる生産コストの上昇を受け、機器更新による製糖効率の向上や、ハラール認証の取得、オーガニック製品の生産といった高付加価値製品の製造、副産物による発電・売電などにより、収益性の向上を図ることが求められている。
なお、サトウキビの製糖工程で得られる糖蜜やバガスといった副産物は、さまざまな用途に用いられている。バイオ燃料法(2006年成立)や再生可能エネルギー法(2008年成立)といった法整備の進展による後押しもあり、利用は拡大基調にある(表9)。
コラム1 エタノールの需給動向フィリピンで生産されたサトウキビの大半は砂糖へ仕向けられており、バイオエタノール向けサトウキビの生産量は2〜3%程度にとどまっている。2017年末現在、10のエタノール工場が稼働しているが、このうちサトウキビを原料としているのは1工場だけである(他の工場では糖蜜を原料として利用)。2006年、フィリピンでは、東南アジアで初となるバイオ燃料法が成立し、車両用ガソリンへの燃料用エタノールの混合を義務付けた(混合率は、導入当初は5%、2011年に10%に引き上げ)。エタノールの生産量は増加しているものの、サトウキビ生産の伸び悩みもあり、需要をすべて国産で賄うには至っておらず、過半を輸入に依存している(コラム1−図)。
|
輸出先国別の内訳を見ると、米国向けが多くの年で過半を占めている。生産量が伸び悩んでいる近年は、その他の国向け輸出は、積極的には行われていない。
米国向けは、輸入関税割当制度(注)により低税率で有利に輸出できるため、フィリピンにとって非常に重要な市場であり、今後も同国向けを優先的に輸出すると見込まれている。
日本向けは、2011年に9万トン、2013年に19万トンの輸出実績があるが、2016年はわずか276トンにとどまっている。対日輸出向けに一定量を確保するといったことは、特に行われていないものとみられる。今後の見通しとしては、サトウキビ生産が頭打ちであることや、低税率で有利に輸出できる米国向けが優先されていることもあり、安定的な対日輸出は難しいと見込まれている。
なお、精製糖の輸出量は、近年1000トン前後で推移してきたが、2007年には7000トン余り、2016年はわずか21トンと、国内の需給動向に大きく左右される。
(注)フィリピンをはじめとした40カ国に対し、1ポンド当たり0.625セント(1キログラム当たり1.5円〈1ポンドは約453.6グラム、セントは1米ドルの100分の1〉)という低税率が適用される。低税率適用枠の総量は、140万トン程度。各国向けの輸入割当量は米国が配分しており、ドミニカ共和国(17%)、ブラジル(14%)、フィリピン(13%)とフィリピンは3番目に大きいシェアを占めている。
イ.輸入
砂糖の輸入は、エルニーニョ現象などの天候要因によって国内生産が減少し、供給不足が生じた際に、SRAが限定的に許可する仕組みとなっている。
精製糖の輸入先国を見ると、タイ産が主で、マレーシアなどの近隣国がこれに続く(図8)。
粗糖は、通常、ほとんど輸入されないが、2016年は、国内で供給不足が生じる中、米国への輸出量を確保するため、米国向け輸出1トンにつき1.25トンの輸入が、SRAにより例外的に認められた。
(3)国内消費動向
フィリピンはここ数年、年率2%程度で人口が増加しており、それに伴って国内の砂糖需要も増加している。フィリピン製糖協会によると、国内で消費される砂糖の74%が精製糖、14%がブラウンシュガー(未精製の砂糖)、12%が洗糖(Washed Sugar、精製度合いが低い砂糖)である(写真10)。用途別に見ると、7割が業務用で、過半がソーダやジュース、キャンディーなどの飲料や菓子類に仕向けられている。ブラウンシュガーや洗糖は、テーブルシュガー(家庭用)として消費されている。フィリピンにおける砂糖の規格は、表10の通りである。
(4)価格動向
国内小売価格は、粗糖の工場渡し価格、卸売価格と連動しており、2011年度以降は緩やかな上昇が続いている(図9)。
2010年度は、国際価格の上昇に加え、製糖開始時期の遅れからサトウキビの工場引き渡し価格が上昇したことで、小売価格は最高値を記録した。
(5)異性化糖の需給動向
異性化糖は、国内では製造されていない。輸入量は、この10年で7倍程度増加している(図10、表11)。大半が中国産であるが、近年はHSコード1702.90(日本で清涼飲料水に用いられている異性化糖と同区分)の輸入が急増しており、2016年は約36万トンが輸入された。
砂糖価格が、サトウキビ生産の伸び悩みに伴って高騰したことにより、飲料業界の間では、原料調達を安価な異性化糖に切り替える動きが見られる。飲料業界は、フィリピンにおける最大の砂糖の需要者で、過去には国内産糖量の約7割を消費したともいわれるが、現地報道によると、近年は、甘味料の約8割について、異性化糖や他の人工甘味料を用いているとされる。
異性化糖の輸入に対する製糖業界からの批判の声を受け、SRAは2016年、異性化糖輸入について、SRAによる認可と業者登録を義務付けた。また、一部の大手飲料メーカーは、国産糖の購入を倍増する(年間10万トン程度)と発表した。2018年1月には、糖類を含む飲料に対して物品税が導入されたが、中でも異性化糖を使用した飲料の税率が高く設定されているため、今後、異性化糖の需要は減少するとみられる。
コラム2 糖類を含む飲料への課税フィリピンでは、ドゥテルテ政権の包括的税制改革の一環で2018年1月、税制改革法が施行され、個人所得税を減額する一方、自動車やガソリンなどに対する「物品税」を新設・増額した。糖類を含む飲料も課税対象となり、天然・人工甘味料や砂糖を使用した飲料には1リットル当たり6ペソ(13.6円)、異性化糖を使用した飲料には同12ペソ(27.1円)の物品税が課せられることになった(コラム2−表1および表2)。
|