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北海道で発生したてん菜・ばれいしょ病害の耐性菌とその対策

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最終更新日:2018年8月10日

北海道で発生したてん菜・ばれいしょ病害の耐性菌とその対策

2018年8月

地方独立行政法人北海道立総合研究機構 中央農業試験場
病虫部 部長 堀田 治邦

【要約】

 近年、北海道においてテンサイ褐斑病にQoI、DMIの薬剤で耐性菌の発生が認められた。また、ヘキソピラノシル抗生物質(カスガマイシン)剤耐性菌も増加している。これらに対してQoI剤では使用の中止、DMI剤およびカスガマイシン剤では可能な限り使用を低減することを指導している。上記以外ではマンゼブ剤および銅剤などの指導農薬に限られるため、これらの使用と耕種的な対策を組み合わせた防除対策を実施することが肝要である。

はじめに

 作物に使用する殺菌剤は病害に対する効果やその安全性に基づいて農薬登録制度が設けられ、使用や販売がなされている。しかし、歴年の使用によってその効果が緩慢となり、ある時、全く効果が発揮されない事例が認められる。これは病原菌が薬剤に対する耐性を獲得したことに他ならない。この事例は突然発生し、予測もできないことから、発生した場合は大きな被害となってしまう。

 北海道においてもさまざまな作物の病害で耐性菌の発生が疑わしい場合は、緊急的な調査を実施し、対応すべき対策を提示してきた。本稿では近年テンサイ褐斑病に発生した耐性菌の事例を紹介し、解説する。

1.北海道における耐性菌事情

 表1は、今までに北海道で発生が確認された耐性菌をまとめたものである。かつてMBC殺菌剤(ベンゾイミダゾール系)の耐性菌が広く発生した時代があり、てん菜でも1974年に褐斑病で耐性菌が報告されている。その後、ジカルボキシイミド系薬剤の耐性菌(灰色かび病菌など)やDMI剤、さらに近年ではQoI剤(トリフロキシストロビン水和剤F)で耐性菌の発生事例が増えている。薬剤によって耐性菌が発生しやすいもの、あるいは病原菌によって耐性を獲得しやすいものがあり、これら特性についてはJapan FRAC(注)が薬剤を作用点ごとに分類してコード表を作成し、分類ごとに耐性菌リスクを記載している。さらにこのリスクを高〜低に分け、加えて、病原菌の耐性菌発生リスク、栽培リスクも高〜低で示し、これらに基づく複合的なリスクの換算表を提供している。個々の作物における複合的リスクはこの表から判定できるが、特定の作物に限らず、殺菌剤の耐性菌発生リスクを十分認識した薬剤散布の”考え方”も浸透させていく必要がある。

(注)病原菌の耐性リスクを低減して殺菌剤の防除効果を安定化することを目的に、耐性菌の発生情報や耐性菌の発生遅延化のための使用ガイドラインなどを提供する組織。

表1 北海道で確認された殺菌剤の耐性菌

2.テンサイ褐斑病の耐性菌

表1を見るとテンサイ褐斑病では、ベンゾイミダゾール系、ヘキソピラノシル抗生物質(カスガマイシン)、DMI、QoIの各薬剤で耐性菌の発生が認められている。ベンゾイミダゾール系薬剤は耐性菌の発生年が古く、現在では北海道において本病に対する指導はされていない。QoI剤は2015年に耐性菌が発生したが、薬剤添加培地を用いた試験で1,000ppmを添加しても生育が認められ、高度な耐性であることがわかる(表2)。また、これら耐性菌に対する防除効果を見ても、防除価は25と極端に低く、感受性菌では防除価が99〜100であることを考えると効果は期待できない。道内から平成26年に採取した131菌株について培地検定で耐性菌の割合を調査したところ、43.5%が耐性菌で、その発生()(じょう)割合は56.4%と高かった1)。この結果を基に、現在北海道では本剤を使用しないことを指導している。

表2 現地圃場分離褐斑病菌における培地検定と生物検定の結果(注1)

 一方、DMI剤の耐性菌は当初感受性低下菌として報告された(表1)。薬剤の効果が全く認められないレベルではないものの、薬剤濃度に対する感受性レベルは上昇していた。その対策として、作用機作の異なる薬剤とのローテーションを推奨していた。しかし、近年、試験データより薬剤の残効期間が短くなっていることが明らかとなり、29年に分離菌の圃場接種で薬剤試験を実施したところ、防除効果が全く認められない菌株が明らかとなった (表3)。これは、低感受性菌のレベルではなく、明らかに耐性菌と呼べる結果であった。道内から分離した310菌株について耐性菌と判断された菌株はジフェノコナゾールに対して69.7%、フェンブコナゾールでは41.3%、テトラコナゾールでは65.5%、テブコナゾールでは64.8%と高く、かつ、北海道の各地から分離されていることが明らかとなっ た2)

 さらに同一菌株を用いて、カスガマイシンに対する感受性も調査したところ、耐性菌の割合は約55%に達していた3)。築尾ら(1984)は褐斑病菌のカスガマイシン耐性菌を初めて報告したが、その発生割合は0.2%とごくわずかの発生であった。しかし、近年の菌株では半分以上が耐性菌であり、実際の防除効果は期待できないと考えられる(表4)。

表3 褐斑病菌接種による各薬剤の防除効果(圃場検定、最終散布7日後)

表4 カスガマイシン耐性菌の変遷

 以上のことから、褐斑病に効果が期待できる主な薬剤はマンゼブ剤および銅剤などと考えられた。対策として、これらを基幹薬剤とした防除を実施し、DMI剤およびカスガマイシン剤(混合剤を含む)の使用回数を可能な限り低減する指導を行っている。また、基幹防除剤の散布に当たっては初発直後までに初回防除を実施することや散布間隔を14日以下とし、高温多湿条件では間隔を10日以下にする必要がある。褐斑病に対して薬剤防除のみの対策では今後対応できないと考え、連作の回避や褐斑病に対する抵抗性が”強”の品種の作付けなど耕種的な対策も積極的に組み合わせることを指導している。

3.ジャガイモ疫病などの耐性菌

 北海道のばれいしょにおける耐性菌の発生はフェニルアミド系薬剤における疫病菌で報告されている(表1)。耐性菌発生からすでに30年弱の年月が経過しているが、発生直後から同系薬剤を基幹薬剤から外して他系統の薬剤を中心とした防除体系を指導したことや現在までに効果の高い他系統の薬剤の登録が進み、豊富な薬剤のバリエーションとなったため、本剤の使用は減少し、耐性菌の問題は無くなっている。

 また、ばれいしょではカルボン酸(オキソリニック酸)アミド(CAA)剤に対して軟腐病菌の感受性が低下した菌が分離されたが、それ以降モニタリングは行われておらず、感受性低下菌が現在も分布しているのか、あるいはどの程度の感受性低下レベルであるのかは不明である。

おわりに

 てん菜およびばれいしょにおける耐性菌の現状と対策をまとめてみるとテンサイ褐斑病における耐性菌は大きな問題で、指導薬剤が少ない状況にあるため、新規農薬の登録促進が待たれるところである。本病は薬剤散布のみで発生を抑えることは困難であると考えられ、発生予察や抵抗性品種の利用などを組み合わせた対策を構築する必要があるだろう。ばれいしょでは、主要病害の疫病において耐性菌の問題は生じていないものの、CAA剤では実験室レベルで耐性菌の報告があり、防除効果の低下事例が認められないか注視していく必要がある。

【参考文献】
1)北海道病害虫防除所(平成27年)「病害虫発生予察情報 第21号 特殊報第1号」
2)北海道病害虫防除所(平成29年)「病害虫発生予察情報 第17号 特殊報第1号」
3)北海道農政部通知(平成29年11月) 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272