以上のように、わが国と中国の育種の機械化適応性を分析すると、具体的に数値化できるものが少なく、抽象的な(定性的な)表現にとどまる(
表)。また、一部の項目については、品種特性による形態の違いと栽培方法や環境の違いによる形態の変化との区別が不明瞭であることも、機械化適応性を不明瞭にしているかもしれない。今後、機械化適応性に係るサトウキビの形態的・生態的特性を数値化して定量評価を行うことが、効率的な育種の展開に貢献すると考える。ここでは、機械化適応性に関する基本的な検討項目を次のように整理しておく。
(1)作業性能(作業能率、作業精度)の確保:機械作業がスムーズで、トラッシュやロスが少ないこと
(2)収量の確保:機械作業による植物体の損傷が少なく、発芽・萌芽性が良く、収穫時の株の引き抜きや踏み荒らし、土壌踏圧などによる減収が少ないこと
(3)機械化一貫体系への配慮:収穫だけでなく、植え付けなどその他の機械作業にも適用できること
(4)機械サイズおよび機械の種類への配慮:小型体系と大型体系に歴然と見られる作業性能の差に対応できること
(5)経営的視点:機械化に伴う規模拡大や省力化による経営環境の変化に対応できること
これらのうち、従来検討されてきた(1)と(2)以外は比較的新しい項目と言える。わが国の収穫機械化を大きく前進させたのは、小型ハーベスタの実用化である。狭小な
圃場においても収穫できるので利用可能な範囲が広く、短期間の内に普及が進んだ。ほとんどの圃場で問題なく使用されてきたが、最近まれにみる豊作となった平成27/28年期の高単収圃場では苦戦を強いられた。このことから、大型ハーベスタに比べて刈り取り能力の低い小型機種の特徴を想定した育種が求められる(項目(4))。(3)との関連では、今後の普及が予想されるビレットプランタ(植え付け機)は、手植えに比べて多量の苗を必要とする。それを節減するには発芽性および発根性の良い品種が望まれる。(5)に関しては、100%の機械化率を達成し、なおかつ、単収が微増または維持している豪州の事例にヒントがあるかもしれない。