てん菜の生産地である北海道の販売農家1戸当たりの平均経営耕地面積は、2015年時点で23.7ヘクタールであったが、2030年には同32.4ヘクタール(対2015年比137%)に規模拡大することが予測されている
1)。一方、平成27年に閣議決定された「新たな食料・農業・農村基本計画」では、37年度の生産努力目標として、てん菜では62万トン(精糖換算量)が掲げられ、生産努力目標を達成するための克服すべき課題として「
直播栽培の収量の向上および安定化」が示されており、生産量の確保および規模拡大に向けて現状からなおいっそうのコスト削減を図ることが必要とされている。
近年のてん菜栽培の歴史をひも解くと、1970年代から生育の安定および収量の向上が期待できる紙筒移植栽培が普及し、1995年には全体の97.7%を占めるに至った
2)。その後は、農家人口が減少に向かうことに伴い、省力化が可能な直播栽培が増加した。北海道立農業試験場(現:北海道立総合研究機構 農業研究本部)は、1998年から直播栽培の安定化を目的とした試験に取り組み、2003年に試験結果を取りまとめ、播種や収穫に関する技術および
狭畦栽培など新たな知見を加え、「てん菜直播栽培技術体系」を示した。また、十勝農業試験場は、てん菜直播栽培における初期生育障害の原因と対策を2001年に、慣行の全量作条施肥に替わる全層施肥法と分施法の有効性を2003年に示し、これらを取りまとめた「てん菜直播栽培マニュアル2004」を北海道てん菜協会が2004年に発刊した。このマニュアルを基にした普及活動の結果、2015年の全栽培面積に占める直播栽培面積(直播率)はほぼ2割に達し、現在も増加傾向にある(
図1)。ただし、地域によっては1割以下のところもあり、初期生育の不安定性を理由に直播導入をちゅうちょする生産者が多い。この原因は出芽率が不安定なこと、本葉展開前の風害や霜害、ソイルクラスト(土壌の硬化)などの自然災害に弱いことが挙げられる。このうち、霜害については今のところ解決策がない。ソイルクラストは降雨後に晴天が続くことで発生し、土壌が硬化して出芽率が低下する。北海道立農業試験場はソイルクラスト形成時の出芽障害の軽減対策(2007年)と風害の発生要因と軽減対策(2010年)を取りまとめた。ここでは、これらの試験成果に加え、これまでに得られた知見や海外の栽培技術について紹介する。