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中国におけるサトウキビ作機械化の“のろし”

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最終更新日:2018年10月10日

中国におけるサトウキビ作機械化の“のろし”
〜2017年中国甘しゃ機械化博覧会に参加して〜

2018年10月

琉球大学農学部 寳川 拓生、上野 正実、川満 芳信
ミトポンサトウキビ研究所 渡邉 健太
中国蘇州市職業大学 孫麗亜
株式会社くみき 玉城 豊、玉城 忍

【要約】

 中国では深刻化する労働力不足を解消するために、植え付けから収穫までのサトウキビ作業体系の機械化による省力化を推進している。政府による強力な後押しもあり、機械化に関する研究や農機開発などが公的機関や民間企業により積極的に行われているが、技術水準や普及に関しては課題が残されている。そこで、甘しゃ機械化博覧会を通じて全世界に機械化の意思表明をするとともに、国内外の機械化専門家らと学術的な意見交換を行い、国際交流による現状打破を図る試みが2017年12月に開催された。著者はこれに参加し、サトウキビ生産の機械化が先行する隣国日本が中国の機械化推進に貢献できる役割は大きいと感じた一方、中国における産学官一体の取り組みから学ぶべきこともまた多かったので、ここに報告する。

はじめに

 中国のサトウキビ作は、沿岸都市部への農村労働力の流出を背景に、収穫を中心とした作業工程の機械化を中国政府が政策的に推進するようになっている。これに伴って、関連行政機関、大学、民間企業などが一体となって研究開発と普及にあたり、商業的な大規模導入に備えている状況である。そのような中、2017年1月の中国調査時1)に交流したサトウキビ関係者からの招待を受け、著者らは、サトウキビ作機械化に関する情報交換を目的として、2017年12月9〜12日にかけて中国広西チワン族自治区(以下「広西自治区」とする)来賓(ライビン)市にて開催された中国甘しゃ機械化博覧会(China Sugarcane Mechanization Expo)に参加した(写真1)。

写真1 博覧会会場となった、来賓市の中央に位置するホテルエントランスでの歓迎の様子

 本博覧会は、中国農業機械化委員会、中国農業大学農業機械開発研究センター、広西自治区農業機械部、広西自治区製糖業開発部をスポンサーとして開催された。広西自治区は、中国のサトウキビ生産量の約7割を占める中国の一大サトウキビ産地である2)。来賓市は、市が誕生してから15年ほどしか経過しておらず、観光資源も乏しいため、地域振興を目的とした本国際会議の開催に関し、市当局からの強い要望があったようである。その証拠に街の至る所に博覧会の広告が掲示され、開催ムードを盛り上げていた(図1)。

図1 街の至る所で見られた博覧会の広告掲示

 本博覧会は、国際サトウキビ機械化会議(International Conference of Sugarcane Mechanization 2017)▽優良生産者()(じょう)による機械化作業実演会▽国内外の企業による農業機械展示会−の三部で構成されていた。以下にその詳細を示す。

1.国際サトウキビ機械化会議

 国内外のサトウキビ機械化に関する研究者や開発者、生産者を招待し、講演会を行った。11議題の講演の後、意見交換の場が設けられ、講演者や政府関係者、一般参加者らによる活発な議論が行われた。

(1)中国におけるサトウキビ作の現状および機械化への模索

 中国農業情報工学技術研究センター長の趙博士は今後の農業におけるデジタル化の重要性を説き、EUや米国での事例を基に中国で農業機械化を進める上での問題について主に講演した。具体的には、中国ではもともと農業の収益性が低いことから機械を使用するための費用を捻出できないこと、高齢者や女性、また十分な教育を受けていないなど労働力の質が低いこと、機械が生産者のニーズと合致していないことなどが挙げられた。また、中国では日本同様、比較的小規模な土地(2畝〈ムー〉=13.3アール)を家族単位で経営し生産性を高める、いわゆる労働集約型農業を行ってきた。そのため、小規模な農地に対して機械を使用するのが難しく、機械化が生産性の向上になかなか結び付かないようだ。このような背景もあり、趙博士は、農地の規模に合わせて機械化を進めることが大切であり、小規模農家にはインフォメーションサービスなどを駆使したスマート農業が適していると述べた。ドイツを中心に展開されているインダストリ4.0(第4次産業革命)をもじって「ファーミング4.0」と提唱しているのが印象的であった。

 華南農業大学の教授で、前任の区名誉教授とともにサトウキビ用機械開発の第一人者である1)劉教授は、中国のサトウキビの特徴として、傾斜地が多く、雲南省は直立茎であるが、広西自治区および広東省では台風や雨季が長いため倒伏茎が多くなるなど地域によって異なるので、収穫機械化に関しては、それに適合するハーベスタサイズの導入が必要であると強調した。

(2)他国のサトウキビ産業の紹介

ア.豪州
 クイーンズランド大学の Wegener博士からは、機械化先進国豪州におけるサトウキビ収穫機械化の歴史がレビューされ、1957年に商業的な導入が成功して以降、機械化が急速に進展し、1978年以降手刈り収穫はなくなり大規模化したこと、現在は環境配慮型の持続可能なサトウキビ生産を目指していることが紹介された。

イ.ブラジル
 世界最大のサトウキビ生産国であるブラジルからは生産者の立場からPaulo氏がサトウキビおよびその関連産業に関する講演を行った。ブラジルでは消費エネルギーの40%以上が再生可能エネルギーに分類されるが、その中で最も大きな役割を担っているのがサトウキビである。バイオ燃料生産の先駆けでもある同国は砂糖のみを生産する製糖工場はわずか1.4%であり、残りは砂糖+エタノールまたはエタノールのみの生産を行っているという話が印象的であった。

ウ.インド
 インドからはインド農業研究所サトウキビ研究部門のSingh博士が発表を行い、主に同国で使用されている農業機械の紹介が、動画を交えて行われた。インドはブラジルに次ぐ生産国ながら、中国同様に巨大な人口ゆえに砂糖の輸入国に甘んじている。同国も経済発展が著しく、機械化に関しては同様の課題を抱えているようだ。

エ.タイ
 近年政府によるコメからの転作奨励もあり、サトウキビ産業が目覚ましく発展しているタイからは農務省農業機械研究所のSutthiwaree氏が発表を行った。タイは、中国同様、機械収穫率が約15%と低く、機械化がサトウキビ生産の大きな課題の一つとなっているようだ。発表では、整地、植え付け、肥培管理、収穫の各段階で使用される機械について詳しい説明があった。

オ.日本
 日本からは、著者グループから琉球大学名誉教授の上野正実により、「日本におけるサトウキビ作の機械化とシステム化」と題し、日本の小型ハーベスタの研究の歴史、ICT(情報通信技術)やIoT(Internet of Things)、AI(人工知能)やビッグデータなどの新技術のシステムへの導入例を紹介するとともに、導入機械の老朽化などを課題として挙げ、サトウキビやその生産者から学ぶことの大切さを説いた(図2)。同じく著者グループである琉球大学の川満教授は、「サトウキビの光合成とバガスの炭化」に関し発表し、余剰バガスの炭化による炭素貯留、機械化と大気二酸化炭素の増加および大気汚染などサトウキビ生産と環境問題の関係について論じ、PM2.5など工業地帯での大気汚染が世界的に話題となる中国の製糖業界に気付きを与える講演となった。

図2 著者グループによる講演の様子

2.展示圃場における機械化作業実演会

 来賓市の中心地からバスで1時間ほど移動したところにある優良生産者圃場「双高生産基地」において整地、植え付けから収穫までのサトウキビ作業体系に合わせて多種多様な作業機が取りそろえられて作業順に実演が行われた。この農場は国営として開発され、大規模生産を担うとともに、機械化などの実証農場としての役割も担っている。展示会場の規模や機種と内容の多さは、ISSCT(国際甘しゃ糖技術者会議)のプレ・コングレスツアーでの実演会にも引けを取らないものであった。初日は主に行政関係者、展示会参加業者、招待者などが参加したが、広大な会場を埋め尽くすほどの参加者であった。

 植え付けは2条植えの全茎式プランタが主で、作業員の配置がさまざまにデザインされており、低温発芽性の向上を目的としたビニールマルチャが付属しているものが多く見られた(図3)。広西自治区をはじめとする中国のサトウキビ生産地では、冬に低温による不発芽・不萌芽が発生するので、マルチによる地温の維持が重要である。なお、中国のマルチング技術の普及に関しては、鹿児島大学大学院連合農学研究科へ留学した経験のある研究者の研究成果がベースになっている。

図3 植え付け・ビニールマルチングを同時に行う2条植えプランタ

 ハーベスタおよび伴走車は国内外メーカの製品が実演されており、国内産の高い技術水準が示されていた。ただし、日本では排煙部のフィルタ設置が排ガス基準となっているが、中国製のハーベスタはフィルタがないまま黒煙が排出されており、大規模な導入による製糖期の大気汚染が懸念される。

 多くが裁断式ハーベスタであったが、中には全茎式のハーベスタを展示している会社も見受けられた(図4)。これらの大半はかつて沖縄や鹿児島で作られたものと類似するものであった。単純な刈り倒しのみを行う機械もその一つであったが、後処理作業に女性たちが持っていた剥葉用器具はドーナツ型で、中央に茎を通すことでピーラーのように剥葉が行えるという優れものであった。

図4 展示された全茎式ハーベスタ

3.農業機械展示会

 国内外から集まった133社が、刈り払い機から大型ハーベスタに至るまで、サトウキビ栽培に利用されるさまざまな農業機械や今後導入が期待される機械・設備などを展示し、ビジネス交渉を行っていた。特に、今後導入を促進する予定のハーベスタを扱う企業の展示が多く、クボタやヤンマーなどの日系企業の農機もいくつか見られた。その中でも、赤地ら(2017)1)の報告にもあるように、日本製の小型ハーベスタへの関心の高さがうかがえた。前日の機械化作業実演会でも感じたが、中国製の農業機械に対するイメージ、すなわち質素で洗練されていない機体のイメージを払拭(ふっしょく)するほどスマートな機種も少なくなく驚いた。中国の工業力が一定レベルを超えたとも感じられた。また、会場には家族連れの農家も多く、展示されている機械に見入り、熱心に質問する光景が見られた。

 また、中国が得意とするGPS(全地球測位システム)や無人航空機を扱う企業も多かった(図5)ことから、中国のサトウキビ生産の機械化一貫体系およびシステム化・ICT化の技術的な下地は整っているように思われた。今後は、これら農機を導入するための政府のバックアップ体制や、各企業による製品のメンテナンスなどアフターケアサービスの向上が求められるだろう。また、ユニークな展示機械としてビレットプランタ用の苗切断機があった。長い1本の茎を供給すると、コンベア移動中に、装着された多数の丸のこ(円形ののこ刃)で切断苗を製造するという機械で、中国人のユニークなアイデアを感じる機械であった。

 展示会の途中で、ユーカリの丸太を満載したトラックが乱入し、警備員に退去させられる面白い一幕があった。中国では、ユーカリは成長が早く手間をかけずに短期間で収入になるため、農家に好まれているとのことで、当局はこれを制限するとともにサトウキビ機械化に対する補助の強化を図っているようである。小さな出来事ながら中国の農業事情を垣間見る出来事であった。

図5 GPS、無人航空機関連企業によるさまざまな展示機材

4.サトウキビ生産におけるGPSの活用(Huace社の事例を中心に)

 前述のように無人航空機やGPSの関連企業が多く展示されており、ハーベスタやプランタなどを凌いで参加者の注目を引いていたが、その大半が中国の国内企業であった。そのような展示企業のうち、上海に本社を置くHuace社(2003年9月設立)を訪問し、サトウキビを中心とした作物生産の精密農業化オートパイロットへのGPSの応用に関して話を伺った(写真2)。

 Huace社をはじめとする情報通信関連企業は衛星企業「北斗」を中心に上海に集合して特区を形成している。中国政府はICT・AI産業の育成に巨額の予算を投入しており、このような巨大コンソーシアム(共同事業体)が上海、広州・深(せん)(=つちへんに川)地区を中心に展開されている。Huace社は、GPS機器の自主生産量が中国で一番多い企業であり、担当者や公式ホームページの説明によると、同社のGPSはアンテナを通常の1本ではなく2本取り付け、独自の計算式と計算システムを導入し、高精度の測位システムを構築しているようだ。研究開発は185の応用領域で行われており、その一つがGPSを用いた精密農業分野となっている。GPSをビニールマルチやかん水チューブの設置、整地、耕運、畝立て、植え付け、施肥や農薬散布、収穫など畑を走行して管理を行うトラクタなどの農機に装着し、以前の走行軌跡をたどって走行するようステアリングする。これにより、精密農業を実現するだけでなく、機械による土壌踏圧範囲を局限することによって作物の減収や土壌流亡の抑制に効果が期待できる。オペレーターの高齢化や低熟練度オペレーター対策としても有効である。他にも、無人航空機に取り付けて、病害虫のモニタリングや農薬の精密散布などに使われている。欧米製に比べてコントローラ本体が100万円程度と非常に安価でかつ高精度のパッケージが販売されており、農業分野において国内外で販売シェアを拡大しているようだが、現時点ではサトウキビ産業への導入はされておらず、商機をうかがっている状況である。

写真2 企業説明時の様子

図6 Huace社公式ホームページのトップ画面

 著者らの所属する琉球大学の研究グループでは、2000年代初頭より、サトウキビ生産へのGPSの応用を研究しており3)4)、野帳管理や農機のトレースシステムに活用されている。沖縄における導入の課題としては、GPSの低価格化、防風林などの障壁を考慮した測位精度の向上などが挙げられてきた。近年は、持ち運び式のアンテナ基地局を用いたRTK方式の高精度GPSシステムが開発されているが、依然として高価なシステムとなっており、中国製の安価で高精度のシステムが日本の農業分野でシェアを拡大する可能性もある。

おわりに

 中国のサトウキビ作はこれから大きな困難期に入るのではないかと感じる博覧会であった。この20年足らずで急速に工業化が進み、農業国から工業国へ転換した中国では、機械化が早いか衰退が早いか、時間を争う状況が出現している。テンポははるかにゆっくりであったが、日本がたどった経緯に類似するところがある。2017年1月の訪問時より開催された中国と日本(特に沖縄県)のサトウキビ関係者間の交流機会を活用し、講演会や談話、実演視察などを通して活発な議論を交わすことができた。また、機械展示会で好機を得て上海のHuace社にて懇切丁寧な企業説明、商品説明を受けたが、日本に帰国した現在も彼らとの交流は続いている。このような学術交流・技術交流を継続することによって、これまで近くて遠い存在であった隣国中国と日本、双方のサトウキビ産業の発展へとつながることが期待される。
引用文献
1)赤地徹、上野正実、東江広明、孫麗亜、大城学(2017)「中国におけるサトウキビ作機械化の現状と課題」『砂糖類・でん粉情報』(2017年10月号)独立行政法人農畜産業振興機構
2)陳光燕、司偉(2017)「広西チワン族自治区における甘しゃ糖産業の発展および中国砂糖産業に対する政策変更に関する提言」『砂糖類・でん粉情報』(2017年10月号)独立行政法人農畜産業振興機構
3)上野正実、松原淳、川満芳信、孫麗亜(2002)「GPSによるマッピング支援システムおよび作業支援システムの開発−低価格GPSによるトレースシステム−」『農業機械学会九州支部会誌』(51)pp.33-37.
4)上野正実、松原淳、川満芳信、吉原徹(2004)「低価格GPSを利用した簡易圃場面積計測システムの開発」 『農業機械学会九州支部誌』(53)pp.29-33.
5)Shanghai Huace Navigation Technology Ltd. 公式HP http://www.chcnav.com/
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
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