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耕作放棄地の解消と将来を見据えた担い手の育成による持続的な生産体制構築に向けて

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最終更新日:2018年12月10日

耕作放棄地の解消と将来を見据えた担い手の育成による持続的な生産体制構築に向けて
〜久米島 有限会社球美開発および與那嶺氏の奮闘〜

2018年12月

那覇事務所 山神 尭基

【要約】

 有限会社(きゅう)()開発は、沖縄県久米島町において、各生産者の収穫作業などを受託し、機械化による労働力の効率化を図るとともに、農地中間管理機構を通じて耕作放棄地を賃借し生産を行い、島内の持続的なサトウキビ生産の一翼を担っている。また、経営規模は異なるものの、個人経営者の中には、機械化を進めるべく、自己資金で農業機械などを購入し、基幹作業を請け負うとともに、久米島町役場と連携し担い手の育成にも力を入れるなどの活躍を見せている個人経営者がいるなど、両者が島の将来を見据えた生産体制の構築に取り組んでいる。

はじめに

 日本では高齢化に伴う労働人口の減少により、各産業においてその技術やノウハウを後世に継ぐ担い手の確保が大きな課題となっている。とりわけ農業の分野においては、技術やノウハウの伝承は経験によるものが大きく、担い手の育成には多くの時間と労力を要する。沖縄県のサトウキビ生産においては、平成19砂糖年度(10月〜翌9月)から29砂糖年度の間でサトウキビの農家戸数が18%減少し、農家戸数の減少に伴う耕作放棄地の解消も課題となっている。

 こうした状況の中、将来を見据えた離島での持続的なサトウキビ生産には、機械化による人手不足への対応や担い手の育成が重要な鍵となっている。

 有限会社球美開発(以下「球美開発」という)は、久米島製糖株式会社(以下「久米島製糖」という)の支援の下、サトウキビ生産の安定化や町内の機械収穫率向上を目的に22年に設立された。球美開発は、他の生産法人にとって収穫作業が難しいなど受託が困難な生産者の作業などを担当し、法人間で効率的に作業ができる体系の構築に寄与するとともに、耕作放棄地を農地中間管理機構(注)から賃借し、自社生産も行うことで島内の生産量の維持にも貢献し、関係者から期待を集めている。また、()()(みね)氏は、自己資金でビレットプランタやハーベスタを購入し、作業効率を高めている。

 本稿では、こうした球美開発や個人経営者の作業受託による機械化率の向上、耕作放棄地解消や担い手育成などの取り組みについて紹介する。

(注)農地中間管理機構とは、農地の出し手と受け手(担い手)の介在役として、受け手(担い手)への農地集積・集約化に取り組む「信頼できる農地の中間的受け皿」として農地中間管理事業を行う機関。沖縄県では、公益財団法人沖縄県農業振興公社が県知事により、農地中間管理機構として指定を受けている。

1.久米島の農業の概況

 久米島は、沖縄県那覇市の西方約100キロメートルに位置し、周囲約48キロメートル、面積6365ヘクタールで、久米島本島、奥武(おう)(じま)の有人島および硫黄鳥島などの無人島の計五つの島で構成されており、沖縄県における離島では5番目の面積を有している(図1)。

 気象は、亜熱帯性気候に属し、年平均気温23.0度、年間降水量2111.8ミリ(平年値)と温暖多湿にあるものの、夏季には台風や干ばつの影響を受けやすい土地柄にある。また、久米島はさまざまな土壌が分布している中で、最も多くを国頭(くにがみ)マージ(土色は明るい赤色や黄色でpHは酸性であるため、石灰やマグネシウムなどが乏しく養分保持力が小さいのが特徴)が占め、次いで島尻マージ(土色はやや暗い赤色や黄色で、pHは中性にあるものの、保水性に乏しいのが特徴)が占めている。そのため、こうした土壌性質により、久米島におけるサトウキビ生産は干ばつなどの影響を受けやすく、土壌に合った品種の選定が難しいものとなっている(図2)。

図1 久米島町の位置

図2 沖縄県の土壌分布図

写真1 大海原に面してサトウキビ畑が広がる久米島

 平成29年度の久米島の耕地面積1710ヘクタールのうち、サトウキビの作付面積は938ヘクタールと約55%を占めている。29年度の農業産出額で見ると、サトウキビ販売額が約9億2600万円と第1位、次いで畜産が約8億7000万円となっており、サトウキビ産業は島の農業において重要な位置付けとなっている(図3)。

図3 久米島町における作物生産販売実績(平成29年度)

 しかし、島の基幹産業であるサトウキビ生産における農家戸数は、高齢化による担い手不足などを背景に漸減しており、29砂糖年度は前年度比3.3%減の760戸と過去最低となった(図4)。また、経営規模別農家戸数を見ると、100アール(1ヘクタール)未満の農家戸数が全体の約63%を占めており、宮古島や南・北大東島のような大規模経営体が少なく、中・小規模経営体が多いことが分かる(図5)。

図4 さとうきび作農家戸数の推移(久米島)

図5 経営規模別農家割合の比較(29砂糖年度)

2.久米島におけるサトウキビ生産

 平成29砂糖年度における久米島の農家1戸当たりのサトウキビの平均収穫面積は約1.2ヘクタール(県平均約1.0ヘクタール)、単収は10アール当たり5.6トン(県平均同5.6トン)と、単収は県平均並みとなっている。これまでは、品種の偏りが大きく、台風などの襲来により単収に大きな影響を受けるなど単収が低迷した時期があった。これに対して、現在は品種の偏りを低減するとともに株出し管理機の利用を増やすなど、久米島町役場、JAおきなわ久米島支店、久米島製糖を中心とした関係者が連携して取り組んだ結果、単収(株出し)は安定して平均5トンを確保するまでに向上した(図6)。また、春・夏植え栽培についても24砂糖年度以降、品種や栽培管理に関して生産者や島内の関係者が一丸となって取り組んだ結果、単収はおおむね右肩上がりで推移している。 

 一方、生産者の高齢化による人手不足が進む中で生産量を維持・増産するためには、作付面積の増加と植え付けから収穫までの作業の効率化が不可欠となっている。しかしながら、作業の効率化を進めるに当たって、島内では植え付け機(以下「ビレットプランタ」という)、ハーベスタの数および作業に従事する人手が不足している状況にあり、この両面の課題に取り組むことが求められている。

 このような中、久米島では、生産法人として植え付け・収穫作業を受託する球美開発および自己資金によりビレットプランタなどを所有し、植え付け作業などを受託する個人経営者がこうした課題に取り組んでいる。

図6 久米島のサトウキビ生産量および10アール当たりの単収

3.有限会社球美開発の概要

(1)法人の設立の概要
 球美開発は、サトウキビの収穫作業を受託することを通し、島内のサトウキビ生産の安定化や機械化率の向上を目的として平成22年に設立された生産法人である。

 現在、法人運営に当たっては、会社の管理・統括を担当する役職員が3人、臨時雇用契約をしている職員6人がそれぞれ3人ずつ植え付け・収穫作業などのオペレーター、()(じょう)・育苗管理作業を担当し、ビレットプランタやハーベスタなどを所有しない他の生産法人の作業受託や自社のサトウキビ生産の管理などを担っている。作業を担当する職員は、島内のことを熟知している島内在住者を通年採用しており、これまでの作業で培ってきた知見や経験を他の生産法人にも共有することで島のサトウキビ生産の維持や増産技術の向上にも貢献している。

写真2 球美開発 代表取締役 吉永氏(右)、久米島製糖の友寄氏(左)

(2)機械の保有状況
 球美開発は、久米島製糖が25%を出資して立ち上げた会社であり、久米島町役場やJAおきなわ久米島支店などとも協力し、県の補助事業も活用しながら機械の導入を進め、現在ではビレットプランタ1台(写真3)、小型ハーベスタ(1日当たり20トン収穫可能なもの)1台(写真4)を所有している。その他ではトラクタ8台を関連会社である久米島製糖からリースしている(表1)。

 また、沖縄県農業研究センターとの合同研究で、ビレットプランタを利用することで作付け作業時間を従来(全茎式プランタ)よりも約4割削減できたことに加え、適切な時期(好天時)に一度に多く植え付けることができるため、結果として収量の増加を見込めるという結果を得た。こうした結果を受けて、現在では島内の生産者からの植え付け依頼は増加しており、今後さらに依頼が増えた場合は現在の従業員数では対応が難しいと懸念している。

表1 球美開発の保有機械一覧

写真3 ビレットプランタ(後方〈左〉・正面〈右〉)

写真4 ハーベスタ

(3)サトウキビ生産の概要
 平成29砂糖年度の収穫面積は、自社分が25.4ヘクタール、受託分が11.7ヘクタールと、合計すると島内でも大規模な面積を管理しており、島内の生産量の維持に大きく寄与している。一方、単収はここ数年間で他の生産法人などの受託作業が増え、自社の農地管理に多くの時間を割くことが困難な状況にあるため、29砂糖年度で約3.5トンと県の平均を下回っている(表2)。

表2 球美開発の収穫面積、収量、単収の推移

4.球美開発における受託作業と耕作放棄地の解消に向けた取り組み

(1)島内の生産者のための作業受託
 高齢化により多くの生産者にとって農作業が負担または困難になる中、現在、球美開発では主に収穫作業の受託を行い、平成30年度から植え付け作業の受託も行っている。その他の生産法人と作業の調整を行い、最も労力と費用を要するとされる生産者の作業を資金力のある球美開発が担うことで、他の生産法人が負担をかけず円滑に受託作業ができるようにしており、いわば島内のサトウキビ生産における縁の下の力持ちといえよう。また、島内の耕作放棄地が課題となる中で球美開発は、受託作業で多忙を極める中、24砂糖年度から農地中間管理機構を通じて農地を借地し自社でサトウキビの生産も手掛けている。24砂糖年度は2.5ヘクタールだったものの、年々栽培面積は拡大し、29砂糖年度は25ヘクタールと10倍となり、生産量は右肩上がりとなっている(図7)。

図7 球美開発自社の生産量の推移

(2)久米島に適した品種の選定
 台風が常襲する沖縄県において、久米島のようにさまざまな土質が入り混じる農地では収量を増やす上で品種の選定が重要な鍵となる。球美開発では、各地区に適した品種やビレットプランタに適した品種の選定の他、県農業試験場と協力し新品種の選抜試験にも積極的に取り組んでいる。同社ではこれまで久米島向けの奨励品種である農林21号を中心とした品種を採用していたが、台風による茎葉の欠損からの早期回復や糖度の維持が期待できる農林22号、27号などの栽培割合を高めることで収量や糖度の安定化を目指している(図8)。

図8 球美開発の作付け品種の割合

 球美開発代表取締役の吉永氏によると、高収量が見込まれる農林33号を使用したい意向はあるものの、33号は、現在、最も多くの割合を占める22号よりも茎が太く、刈り取り採苗が難しいことに加え、ビレットプランタに適する苗の長さの確保がしづらく、芽子を傷つけてしまう可能性があるという。そのため、こうしたリスクを考慮すると、22号は従来の品種よりも糖度が高いこともあり、現状では最適な品種であるとしている。

(3)耕作放棄地の解消と再活用
 球美開発では、農地の賃借に関して農地中間管理機構を通じたものと、顔なじみである近隣の離農生産者からのものによりサトウキビ生産を行っている。吉永氏は、「耕作を放棄してしまうと再び耕作地にするのには多大な労力と時間がかかる。このため、コストを度外視してでも遊休地化しそうな農地を賃借して土壌改良や維持を行うことで、新規就農者や土地の保有者の後継者など新たな借り手が現れた場合に、すぐにでもサトウキビ生産ができる環境を整備することが重要だ」と胸の内を語ってくれた。こうした取り組みの結果、これまでに5人ほどの後継者などが、一時期球美開発が借りていた農地を引き継ぎ、サトウキビ生産に従事している。

(4)現在の課題
ア.労働力不足
 最新の農業機械導入による省力化を図る上でも課題となるのは「人手不足」である。現在、先述したように3人の職員が収穫作業を担っているものの、年々、作業受託の依頼は増えており、今後、高齢化が進み受託依頼が増えた場合、現在の人数では対応できなくなることを懸念している。こうした現状に対して、球美開発では従業員の募集を呼びかけているものの、昨今の景気回復による沖縄本島での雇用の増加などにより島内の人材が思うように集まらない状況が続いている。

イ.代金精算の円滑化
 島内には球美開発のほか、作業受託を行う法人が20法人あるが、小規模生産者向けの作業受託については、生産者の資金繰りの関係から作業代金の回収が滞る可能性がある。そのため、受託を行う法人にとっては、ある程度の経営体力が必要とされることから、球美開発を含む限られた法人しか請け負うことができない状況にある。こうした現状に対して、久米島製糖が受託作業の代金を立替払いするなど、生産者と受託法人がともに円滑に経営ができる環境をサポートしている。

(5)今後の展望
○ハーベスタの導入による機械化率の向上と機械士の育成
 球美開発を含め、久米島町の課題とされる機械化率の向上については、収穫機械化率が県の平均を下回る状況にあったものの、今年度は国などの事業を活用し、新たに8台のハーベスタの導入が決まっており、これにより島内の機械化率はさらに向上すると吉永氏は見ている。また、今回のハーベスタの導入から、久米島町役場、JAおきなわ久米島支店、久米島製糖などが協議し、島内を8地区に分けてそれぞれにハーベスタを導入することで、より効率的な収穫作業体系の確立を目指している。加えて、15年ぶりに農業機械士(注)養成研修会を開催し、農業機械の利用組織などにおける受託作業員の養成に力を入れている。こうした取り組みにより、機械の導入と並行して、機械の取り扱いについての知識・技術を有する人材の養成を行うことでハーベスタなどの機械の普及が着実に進み、生産者の作業効率がより高まっていくものと見込まれる。

(注)農業機械士とは、各都道府県が農業機械の運転、操作や、安全管理などについて、優れた知識と技能を有する農業者や農業指導者に与える資格。

5.與那嶺勉氏の取り組み

(1)作業受託の経緯
 次に、個人経営者としてサトウキビ栽培を行う傍ら、他の生産者の作業受託も行う與那嶺勉氏(42歳)の取り組みを紹介したい。同氏は、サトウキビ作農家の2代目で、妻と従業員の3人でサトウキビ生産を行っている。作業受託を行うきっかけは、高齢化によりサトウキビの植え付けや収穫ができなくなる生産者が増え、このままでは島のサトウキビ生産が衰退するという危機感から、自らが植え付けから収穫までを請け負うことで島のサトウキビ生産に貢献しようと決意したことであった。同氏は当時を振り返り、「自分のサトウキビ畑は後回しにしてでも、島の将来を見据えたらこの現状を放っておくことができず、自分がやるしかないと思った」と語ってくれた。なお、現在保有している機械は全て自己資金により購入したものである(表3)。

表3 與那嶺氏の保有機械一覧

写真5 島のために奮闘する與那嶺氏

(2)ビレットプランタにより作業の省力化を実現
 作業受託を始めた当時は、植え付け機として人手と労力を要する全茎式プランタ(写真6)を使用していたものの、5年ほど前に農機具会社を介して植え付けの省力化を図ることができる最新式のビレットプランタ(写真7)をリースして導入した。

写真6 全茎式プランタ(一本ずつ苗を投入)

写真7 ビレットプランタ(一度に多量の苗を投入)

 当時は、全茎式プランタよりも苗量が2倍以上も必要となる点などから、その価値を疑問視する生産者もいたものの、同氏は高品質な苗の選定(写真8)で発芽率を高め苗量の低減を図り、さらに植え付け作業時間を従来の3分の1程度に短縮し、作業の省力化を実現した。このことが広まり作業受託の依頼が増加した結果、周りの生産者の要望や島の将来を思い自己資金でビレットプランタ購入に踏み切った。また、現在では確かな経験による植え付け技術により絶大な信頼を得ており、20戸の生産者(うち法人は5者)から約30ヘクタールを受託している。実際に筆者が取材時にビレットプランタに同乗させてもらった際には、その植え付け速度と傾斜のある圃場にもかかわらず真っ直ぐに植え付ける技術に驚くばかりであった。

 なお、作業受託代金については、本人や従業員が生産者から直接、回収しており普段からさまざまな相談を受ける中で互いに固い信頼関係ができていることから、代金回収に係る不安は無いとのことであった。

表4 與那嶺氏の年間スケジュール

写真8 苗の選定における、健全芽子(発芽率高〈左〉)と硬化芽子(発芽率低〈右〉)の比較

図9 ビレットプランタによる作業工程(一例)

(3)現在の課題
○労働力の確保と人材の育成

 サトウキビ生産者の高齢化が進む中、年々、作業受託の依頼は増えているものの、これ以上、現在の体制では受託を増やすことは困難な状況にある。また、仮に人手を増やしたとしても、ハーベスタなどを扱うには技術と経験が必要とされ、すぐには人材を確保できないことから、與那嶺氏は島内の若い人で大型特殊免許を取得している人やこれらの業務に関心がある人に積極的に声掛けする他、島内の農業機械士会の会長なども務めるなど島内の人材育成にも力を入れている。また、島内に限らず他の離島などでビレットプランタやハーベスタなどの導入を検討している生産者や法人からの要望を聞き、自ら現地に赴き久米島以外の生産者にも講習会を行うなど積極的に自らの経験や知識を共有している。

写真9 昨年度を上回る生育状況にあるサトウキビ(平成30年9月中旬撮影)

(4)今後の目標
 與那嶺氏は、「島内の自分よりも歳上の先輩方が暑い中でも作業をする後ろ姿を見て、自分も引き続き島のサトウキビ生産のために尽力したい」と語ってくれた。また、「今後、サトウキビの生産のみを行う生産法人数を増やしたとしても、全ての法人が自分たちの圃場を終始管理できるわけではないことから、これら法人が自分たちではできない植え付けや収穫作業を受託するオペレーターの育成が必須となる。なんとしてもこうした課題を解決して島内の生産が縮小する状況を解消しなければならない」と強く語ってくれた。夏の日差しが照りつける青空の下、そう語る與那嶺氏の視線は島のサトウキビ生産の未来をしっかりと見据えていた。

 同氏は、こうした島内の課題を少しでも解決させるために今後も自らが機械士会の会長として担い手の育成を主導するとともに、さらなる機械の導入を予定している。具体的には、「現在のビレットプランタをけん引するトラクタの馬力が弱く、ビレットプランタの能力を十分に活かすことができないため、より馬力のある(100馬力)のトラクタの導入の検討を進めており、導入された場合は、現在の2倍のペースで植え付け作業ができるとみている。また、その他ではサトウキビの植え付けや生育を促進するために二連培土機、施肥機などの導入も検討しており、島内のサトウキビ生産環境のために今後も尽力したい」と語ってくれた。

 今回の調査に当たり島内サトウキビ生産の事情について教えていただいた久米島町役場の産業振興課の佐久田課長も、島内の担い手のモデルケースとして與那嶺氏のような方々の活躍を期待しており、「町としても農業機械の利用組合を立ち上げて、生産者が機械を導入しやすい環境整備を行うとともに、サトウキビの農事懇談会や夏植え推進大会などで、與那嶺氏のように作業受託をしている方々の情報なども共有して、島内一丸となって生産環境の整備を進めていきたい」と話す。

写真10 今後の会議などに向けた打ち合わせの様子(久米島町役場)

写真11 農事懇談会の様子(仲里地区)

おわりに

 久米島に限らず沖縄県や鹿児島県の離島においては、労働力不足、後継者の育成に加え、耕作放棄地の解消というさまざまな課題を抱えている。こうした問題は、急速な改善は難しいものの、担い手については、行政、製糖会社、関係者が連携して地域に潜在する担い手を掘り起こし後継者の育成を行うことや、耕作放棄地については、農地中間管理機構を通して農地を集積し、引き続き農地利用を希望する方々の利用を促すことが大切であると思われる。また、今回のように生産法人と個人経営者がともに島のサトウキビ生産の維持・増産を目指し、これらの課題に取り組んでいる熱い思いは必ず島内の生産者をより動かす原動力になり、島のサトウキビ生産を支えていくだろう。また、目まぐるしく進む貿易交渉などにより将来の経営を不安視する離島の生産者にとって、久米島のように島が一丸となってサトウキビ生産をより良い環境にしようとする姿に勇気や活力をもらえるのではないだろうか。

 IT技術の革新により情報の取得や連絡がたやすくなった現代においても、農業に関わる関係者と生産者が実際に顔を合わせ、議論を尽くし着実に一歩一歩、課題に取り組むことがサトウキビ生産を含め今の農業が目指す持続的な生産体制の構築につながっていくだろう。

 最後に、お忙しい中、今回の取材に当たりご協力いただいた有限会社球美開発代表取締役吉永氏、與那嶺勉氏、久米島町役場、JAおきなわ久米島支店他関係者の皆さまに感謝申し上げます。

 また、今回台風24・25号の影響により、多大な被害を受けた生産者の皆様の一日も早い生産回復を心よりお祈り申し上げます。
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272