ホーム > 砂糖 > 海外現地調査報告 > 外部環境が激変する中で変革期を迎えた豪州の砂糖産業
最終更新日:2018年12月10日
コラム1 二極化する生産現場 〜高単収化 vs 低コスト化〜前述のとおり主産地のバーデキン地方では、かんがいや大型機械の導入などのコストを掛けて、200トン近い高単収を実現した農家もある(コラム1−表、写真1〜4)。今回訪問した、豪州最大手の製糖業者であるウィルマ―(Wilmar)社の直営農場は、7000ヘクタールの圃場で年間110万トン近くのサトウキビを生産している。同農場では、収穫量が多く、茎葉残渣も多くなることから、焼き畑収穫を実施している。収穫後、24時間以内にトラクターで施肥を行い、次作に備えている。新植から収穫まで12カ月を要し、その後、株出しによる収穫を3〜4回行う。休閑期には大豆やコメを栽培している。 機械化率は100%で、大型機械を保有しており、トラクターには全地球測位システム(GPS)を完備、畝間も大型機械に対応すべく、1.8メートルとなっている。 同農場の特徴は、100万豪ドル(8200万円)近くを投じて導入した湛水かんがいである。数百メートルごとに設けられた取水口を、穴のあいたビニールチューブ(直径30センチ程度)でつなぎ、水を通すことで、穴から畝間へと水を流している。レーザー光を用いた測量に基づき整地を行い、圃場に極めて緩やかな傾斜をつけることで、取水側と反対側から余剰な水分を地下の暗きょに集め、ポンプでくみ上げて再利用している。 農場担当者は、同地方では土壌や気候風土からサトウキビが最も適した作物なので、農地拡大やかんがいの導入によって収穫増を図る動きが他地域より顕著であるとしている。 一方、小規模農家の多い南部では、園芸作物や宅地開発との競合にさらされ、こうしたコストを掛けた大規模化は難しいとされる。こうした中、同地域(NSW州北部)で低コスト・省力化に取り組む農家を訪問した(写真5〜8)。圃場の総面積は100ヘクタールで、年間7000〜9000トンのサトウキビを生産していた。可製糖率(CCS)は11.75%と比較的低いが、単収は120トン程度と、地域内では群を抜いている。 株出しは4〜5回だが、登熟まで24カ月を要する南アフリカ原産の品種を用いているので、1回の作付けにつき10年程度栽培している。焼き畑収穫は行っていない。残渣による圃場被覆を行っており、収穫後24時間以内に尿素を散布(1ヘクタール当たり5キログラム)し、土壌中の微生物の活性化を図っている。この方法により、収穫残渣は数カ月で分解される。土壌中の有機炭素含有量は8%(有機物含有量も14%)と非常に高く、無施肥生産を実現している。これにより、1ヘクタール当たり16豪ドル(1312円)、1トン当たり13豪セント(11円)という低コスト化を達成している。 農業機械については、ハーベスタ1台、トラクター2台を所有している。小規模農家では、特に大型の機械については、周辺農家で協同組合を設立し、オペレーターの雇用まで含めて組合で一括管理するのが一般的とのことであった。 |
コラム2 「6次産業化」の取り組みサトウキビ生産地域の中でも最北のモスマン地域で、178ヘクタールのサトウキビ生産を行う農家を訪問した。単収は90トンと、同地域の平均(75トン程度)を上回っている。しかし、近年、砂糖価格の低迷を受け、サトウキビ取引価格が1トン当たり25豪ドル(2050円)前後に低迷する中、燃料代や肥料代、人件費が倍近くに上昇したことで、生産コストは同32豪ドル(2624円)程度となるなど、サトウキビの販売では赤字が続いている。こうした中、この農家は、気候風土の面で最適とされるサトウキビの栽培を続ける一方で、サトウキビの加工製品(ジュースなどの食品や、ちり紙やペットボトルなどへの2次利用)の販売、観光農園事業の実施など、収益源の多角化に努めている。また、カカオやバニラビーンズの栽培にも取り組んでおり、特に後者は、鞘1本当たり10豪ドル(820円)の高値で取引されるなど、収益改善に一役買っている。 |
コラム3 国内市場の動向 〜高付加価値化の動きも〜大手製糖業者は、国内市場について、移民による緩やかな人口増が見込まれているものの、需要は横ばいと見込んでいる。また、異性化糖や人工甘味料の製造量は極めて小さく、競合はほとんどない。白糖の小売価格について調査したところ、生産コスト差の割には日本と大差ない様子であった(コラム3−表)。また、粗糖や糖蜜なども販売されていた。なお、豪州では、糖度99.2%の粗糖をそのまま消費する文化が根付いており、小売店でも通常の白糖と同様に粗糖が陳列されている。 (注1)ウィルマ―社は2010年、植民地時代の1855年に創設されたコロニアル製糖社を買収し、現在も同社のブランドを継承している。 (注2)GIは、Glycemic Indexの略で、食後の血糖値上昇の度合いを表す指標。これが低い商品は、グルコースが血流中に穏やかに取り込まれることで血糖値上昇が緩やかになるとされ、健康食品の一つとして注目を集めている。 |