ホーム > 砂糖 > 調査報告 > 自動操舵システムを活用した作業受託の取り組み
最終更新日:2019年4月10日
沖縄県のさとうきび生産は、生産者の高齢化と担い手不足を背景に、長期的には減少傾向にある中で、ハーベスタの導入を中心とした機械化一貫体系の確立や作業受託組織の活動により生産量を維持する取り組みが続けられてきた。
近年では、ハーベスタによる機械収穫率の増加や植え付け機の普及の進展などにより、ハード面と同時に人員や組織体制を整えることが重要となってきており、特にオペレーターの確保や育成が課題となっている。
本稿では、機械化一貫体系によるさとうきび生産の先進的地域である南大東村において、オペレーター不足の中、増加する作業受託への対策として、ハンドル操作を自動化するシステム(以下「自動操舵システム」という)を搭載したトラクタによる植え付け補助技術を導入し、さとうきび生産を行っている「農業生産法人アグリサポート南大東株式会社」の取り組みを紹介する。
なお、同社は、第33回(平成20/21年期)および第41回(平成28/29年期)沖縄県さとうきび競作会のさとうきび生産法人の部において、沖縄県第1位に当たる独立行政法人農畜産業振興機構理事長賞を受賞している。
南大東村は、那覇市から東へ約 390キロメートルに位置している南大東島を行政区域としている(図1)。南大東島は、周囲20.8キロメートル、面積30.52平方キロメートルと沖縄県の島の中では6番目に面積が大きく、盆地状の地形をしており、黒潮が流れる暖かい海の影響を強く受け亜熱帯海洋性気候に属している。
年間降水量の平年値は約1592ミリであり、おおむね2000ミリ以上である県内他地域と比べると少ない。河川もない中、干ばつに強く、やせ地でも栽培できるさとうきびが村の基幹作物であり、他にかぼちゃ栽培も見られる。また、規模は小さいものの肉用牛の繁殖経営も新たに始まっている。
村の人口は1277人(平成29年3月1日現在)であり、27年国勢調査では853人の就業者のうち、農業従事者が216人で最も多く、次いで建設業が193人、公務が80人となっている。
村内の耕地面積のうち、さとうきび生産が9割以上を占めており、その収穫面積は1200ヘクタール前後で推移している。自然のため池が複数あるものの、農業用水として潤沢に使えるほどの水量ではないため、干ばつの影響を受けやすい。これに加え、台風の接近も多く、単収は気候により大きく変動する。
生産量の実績としても、平成29年産が5万9045トン、気象条件に恵まれた28年産は10万トン超、一方で25年産、26年産は5万トンを割り込むなど、豊凶の差が大きいものとなっている(図2)。
さとうきびの生産農家戸数は約240戸で、1戸当たりの収穫面積は約4.91ヘクタールと、県内平均の0.97ヘクタールの約5倍の大きさとなっている。1970年代後半に収穫期の労働力不足が深刻化したことからハーベスタの導入を推進し、歴史的にも機械化の先駆けとなった地域であり、近年の収穫の機械化率はほぼ100%となっている(図3)。
平成になって以降、頻発する干ばつや台風被害、生産者の高齢化など、南大東村のさとうきび生産は非常に厳しい状況が続き、中には、自らの農地を手放して借入金の返済に充てる農家が出るほど困窮するケースもあった。離農による収穫面積の減少は製糖会社の経営悪化に直結するため、南大東村で唯一の製糖会社である大東糖業株式会社(以下「大東糖業」という)も強い危機感を抱いていた。
そのような状況下で、平成11年頃から大東糖業が中心になり、高齢化による肥培管理の負担軽減、離農などにより荒蕪地化した農地の活用、流動化対策の検討を開始し、島内では生産法人や作業受託組織の必要性の機運が高まっていった。
大東糖業は、製糖業務だけでなく作業受託によって生産者の営農活動のサポートを行うことで、生産を維持することが自らの経営にも資するとの判断から、沖山龍嗣社長ら3人の個人出資により、従業員2人で17年3月「アグリサポート南大東株式会社」を設立し、20年9月に社名を「農業生産法人アグリサポート南大東株式会社」(以下「アグリサポート」という)に変更した。
法人の設立当初は、大東糖業と沖山社長が所有する農地18.05ヘクタールとトラクタ2台を貸借し、優良品種の増殖や品種選抜試験、作業受託などを行うことを念頭に置いていた。
現在の出資者は3人、従業員は8人(契約社員4人含む)で、収穫期はハーベスタのオペレーターやトラック運転手として23人を島外から期間雇用している。
主要事業は、農産物の生産・販売、農作業の受託、奨励品種決定調査(現適)、優良種苗の普及である。
ハーベスタは4台、トラクタは10台以上保有するなど、特に植え付けから収穫までに必要な作業機械を数多く保有し、機械化一貫体系によるさとうきび生産を行っている点やさまざまな作業受託に対応している点が特徴である。
アグリサポートが保有する圃場面積は、生産圃場、採苗圃場などを全て併せて約100ヘクタールとなっている。平成29年産の収穫面積は57.4ヘクタール、単収は6.15トン/10アールとなっており、作型は株出し40.6ヘクタール、春植え8.2ヘクタール、夏植え8.6ヘクタールとなっている。
法人設立当初、アグリサポートは村内の作業受託を事業の柱とし、自らが大規模なさとうきび生産を行うことは想定していなかった。しかし、法人設立から間もなく財団法人沖縄県農業開発公社(現:公益財団法人沖縄県農業振興公社)から貸借していた約24ヘクタールの農地について、そのままアグリサポートに購入してもらいたいとの申し出があり、放置すれば荒蕪地化する懸念もあったことから、検討の末、購入した。その後も、経営が厳しい農家などから賃貸や売買の申し出があり、法人設立当初の理念には沿わないものの、村内のさとうきび生産が低迷する中にあっては、荒蕪地を作らず、栽培面積を維持することも島の増産活動の一助になると考え、スーパーL資金などの制度資金も活用しながら自社の保有面積を拡大してきた(図4)。
アグリサポートが受託している作業は耕起から植え付け、収穫、株出し管理に至るまで多岐にわたり、作業受託の延べ面積は約470ヘクタールとなっている(自社保有面積を含まない)。
南大東村は生産者1戸当たりの栽培面積が広く、高齢の生産者には負担が大きいこともあり、作業受託の需要は年を追うごとに拡大している。
特に、収穫期はハーベスタによる収穫とビレットプランタ(植え付け機)による春植え、植え付け圃場の耕起・整地など、同時期に多くの作業を行うため、オペレーターには効率の良い作業が求められる。しかし、経験の浅いオペレーターにとって機械操作は難しく、作業速度や精度の面で苦労することもある。今後は、オペレーターの数を確保することはもちろんであるが、経験の浅いオペレーターであってもより精度の高い作業ができる体制を整えることが重要になっている。
アグリサポートでは、作業受託の増加によるオペレーター不足への対策として、自動操舵システムを搭載したトラクタによる植え付け補助技術を導入し、作業精度や効率の向上を図っている。
これは、自動操舵システムを搭載したトラクタに線引き機(写真2)を取り付け、植え付け前の圃場を走らせることで、植え付け位置の目印となる線を引き、その線に沿ってビレットプランタで植え付けをしていく手法である。トラクタにはGPSアンテナが搭載されており、衛星から移動基地局(GPS受信機)を介して受信した情報から自身の位置情報を割り出し、それを基に自動操舵システムがトラクタのハンドルを操作して圃場に等間隔の線を引いていく。このとき、ハンドル操作以外は手動で行うため、トラクタにはオペレーターが乗っている(図5)。
この技術は、約3年前に沖山社長が自動操舵で走行するトラクタのデモンストレーションを見たことがきっかけとなり、自動操舵システムの機器メーカーや農機具メーカーに相談しながら南大東村での導入が検討されてきたものである。
真っ直ぐな畝は、肥培管理や収穫、株出し管理などの作業負荷の軽減につながるため、植え付けが最も精度の求められる作業になることから、自動操舵システムを導入することを決めた。
はじめは、ビレットプランタを牽引するトラクタに自動操舵システムを搭載することを検討したが、プランタの数だけ自動操舵システムが必要になる。自動操舵システムの導入コストは、移動基地局(写真3)やGPSなど一式で約1000万円と高額であり、より費用対効果の高い方法として、既存のトラクタ1台を線引き専用とし、自動操舵システムと線引き機を取り付ける案を考案した。これにより島内全てのビレットプランタが線引きによる位置情報を利用できるようになった。
本格的に導入された平成29年産の春植えでは、植え付けの受託面積のほぼ全てに当たる150ヘクタールに線を引いた。
アグリサポートの宮平常務取締役によると、植え付けは、基準となる1列目の植え付け位置が特に重要で、オペレーターの技術が求められる。自動操舵システムを使えば、圃場の全面に正確な線が引かれているため、経験の浅いオペレーターでも精度の高い植え付けができ、作業スピードも1.5倍程度に向上しているように感じているという。また、植え付けも精密になり、必要な苗の量の計算が容易になるなど、導入のメリットは多いとしている(写真4、5)。
さとうきび生産については、植え付けや肥培管理に多くの人手を要するため、今の人員および体制では現在保有している約100ヘクタールがアグリサポートの管理可能な上限であるとし、今後は、担い手のいない圃場が出た場合には、他の生産法人や若い生産者が受け皿となって村の生産を維持していくことが望ましいとしている。また、受託作業の増加については、機械を保有している生産者(オペレーター)を紹介し、二者間で受委託のニーズを満たしてもらいたいとしている。
作業受託については、高齢化の影響から今後も需要の拡大が見込まれている。現在、自動操舵システムを導入している作業は植え付け前の線引きのみであるが、将来的には、植え付け位置や畝の位置の基となる線引きのデータを自動操舵システムを搭載した他の作業機械で活用することを検討している。例えば、農薬散布では、ブームスプレーヤーを搭載したトラクタを自動操舵させることで、目視が難しくとも、風の弱い夜間の散布と省力化が可能となり、また、収穫作業では、倒伏したさとうきびの下から畝の位置を探す手間が省けることで、オペレーターがベースカッター(注)を地表面から適度な高さに調整する作業のみに集中することができる。
なお、現在、線引き用の自動操舵システムを搭載したトラクタは1台のみであり、既に可能な限り稼働しているため、今後の需要増に対応するためにはシステムの増設が求められる。また、GPSにおいて衛星から電波を受ける基地局についても、現在は移動が必要な移動局であるため、村の大部分をカバーするためには固定局が必要であり、固定局ができれば圃場ごとに基地局を移動させる手間がなくなるため作業時間の短縮につながる。こうした機材は高価であり、費用対効果を鑑みながらの導入となるが、宮平氏が「熟練のオペレーターは貴重であり、確保するのは大変。人手が不足している状況には自動操舵システムで対応すべき」と話すように、生産の現場では自動操舵システムのさらなる普及に期待が寄せられている。
(注)ハーベスタの機体前方の下部に取り付けられ、さとうきびの株元を刈り取る装置。
アグリサポートは、同社の役割は設立当初から一貫して、南大東村の生産者が営農活動を意欲的、持続的に行えるよう、サポート役として労働負担軽減の面で寄与し続けることだという。とはいえ県内他地域の例に漏れず、南大東村でも生産者の高齢化は進行しており、作業委託の需要が年々高まっていることから、今後も同社がその中心的な役割を果たしていくことになるだろう。
今では県内でも主流となったハーベスタによる機械刈りであるが、南大東村は1970年代から導入しており、モデル地域としての役割を果たしていた。そして近年は、自動操舵システムによる機械作業の省力化・高精度化を実践しつつあり、この先端技術の活用が島内のさとうきび生産の助けになることはもちろんのこと、将来的に他地域でも活用される大きな手がかりとなるものと思われる。
最後にお忙しい中、今回の取材に当たりご協力いただいた農業生産法人アグリサポート南大東株式会社の宮平靖様、禰覇伸様、大東糖業株式会社の新垣好伸様、福澤康典様にそれぞれ感謝申し上げます。
[参考文献]
・南大東島地方気象台ホームページ「南大東島の気候と特徴」
・南大東村(2010)「村勢要覧」
・沖縄県農林水産部「さとうきび及び甘しゃ糖生産実績」