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労働力確保のためのJA連携の取り組み

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最終更新日:2019年5月14日

労働力確保のためのJA連携の取り組み

2019年5月

調査情報部 伴 加奈子、坂上 大樹

【要約】

 農業就業人口が減少する中で、雇用者は日本の農業を支える貴重な戦力となっている。産地では、雇用者の通年作業の確保や、農繁期における一時的な労働力の確保などの課題に対して、農繁期の異なるJAが協力体制を築く動きが見られる。外国人材も含め多様な人材の活用による労働力の確保に向け、各産地では努力が続く。

はじめに

  2016年の農家世帯員の農業就業人口は、農家の離農が進んだことで192万人と初めて200万人を下回り、20年前と比べると半分近くに減少した(図1)。他方、雇用者(常雇い)のいる販売農家の戸数は、10年前と比べ1.9倍に増加しており、農家における労働力の構成が世帯員から雇用者に切り替わっている状況がうかがえる。また、農事組合法人などの農業事業体が年々増加していることもあり、農業全体の雇用者の人数は、この10年で1.7倍に増加し、2015年には20万人を超えた(図2)。昨今の農業は機械化が進んでいるものの、いわゆる農業者だけでは農業生産を維持することが難しくなってきており、雇用者は日本の農業を支える貴重な戦力・担い手となっている。

 しかし、人口減少や少子高齢化の影響で、人材の確保が年々厳しさを増しており、農業分野における有効求人倍率は全産業平均を上回って推移している(図3)。こうした影響を反映するように2017年の雇用者の人数は、近年の伸び率に反して前年を下回るという現象が起きた(図2)。つまり、必要な人材を確保できていない農業の実態を浮き彫りにした。こうした現状を打破するため、農業団体や自治体などが安定的な人材確保に向けて知恵を絞っている。

 そこで、本稿では、多様な人材の確保、定着に取り組む北海道の小清水町農業協同組合(以下「JA
こしみず」という)および愛媛県の西宇和農業協同組合(以下「JAにしうわ」という)の事例を紹介する。

 

 

 

 

1.JAこしみずにおける多様な担い手確保の取り組み

(1)直面する課題

 人口約5000人の農村地帯である小清水町(図4)は、就業人口の約3人に1人が農業に従事し(図5)、農業産出額が北海道179市町村中31位に位置するなど、農業を核として地域経済や地域社会が形成されている。しかし、約20年前には430戸以上あった農家戸数が、2005年に400戸を下回り、2015年では342戸と生産者の減少が続いている(図6)。他方、1戸当たりの経営面積を見ると、一貫して増加しており、離農した生産者の跡地を既存の農家が受け皿となって耕作している実態が見て取れる。JAこしみずの推計によると、2030年までにさらに100戸近くの生産者が離農し、1戸当たりの経営面積は40ヘクタールを超えることが予想され、家族経営の下での規模拡大の限界に達するとみられる。

 生産者の高齢化が叫ばれる中、小清水町では農作業補助者の家族やパート従業員も高齢化が進んでいることから(図7)、10
年後も同じ人員を確保できるとは限らない。こうした現状を踏まえると、作付け体系が粗放化したり、休耕地が発生したりすることは避けられない。また、労働集約的であるてん菜やばれいしょ、野菜などの作付けが敬遠され、小麦などの省力的な作物の作付けが増えることで地域の労働市場はますます縮小し、結果として若者の雇用機会が失われ、地域の活力や経済が衰退するとの懸念もある。

 

 

 

 

(2)新たな担い手対策

 そこで、小清水町では主として就農希望者の確保・育成に主眼が置かれていたこれまでの担い手対策を抜本的に見直し、JAこしみずとの連携の下、田舎暮らしを志向する移住者や、働く意思のある障がい者なども広く受け入れ、定住・定着の支援を図りながら、地域農業の新たな担い手として育成する「農業担い手育成プロジェクト」を2015年からスタートさせた。
 

 このプロジェクトでは、「町にヒトを呼び込み、農業の担い手を育成すること」を戦略の中心に据え、農業の道を選ぶことに対する心理的ハードルを下げるための入り口対策に重点が置かれている。一例として、農業体験などと組み合わせた観光を推進し、町内を広く周遊してもらう取り組みを進めている。また、移住を希望する者に働く場と住まいを保障するため、JAこしみずの職員として受け入れ、廃校により使われなくなった教員住宅を貸し出す仕組みを整えた。
 

 こうした取り組みにより、道内外からの移住者を含む6人が地域農業の新たな担い手として活躍している。現在、3月から10月までは生産者からの依頼に応じた農作業を行い、それ以外の期間はJAの施設での仕事に従事しているが、将来的には彼らに座学研修や農業技術の実践教育を行い、新規就農や農業法人への転職など次のステップに向けた支援も行う計画である。

  

(3)働きやすい環境の整備

 JAこしみずは20171214日、全国有数のみかんの出荷高を誇るJAにしうわと農繁期の労働力確保対策などで相互に協力する協定を結んだ。協定には、互いの産地の労働力を融通し合う仕組みを構築することをはじめ、農業後継者やJA職員の交流の場を提供することなどが盛り込まれた。
 

 JAこしみずでは、作物の植え付け期や収穫期に雇う農作業補助者の不足が顕在化しつつあることを背景に、多くの生産者からサポートを求める声が上がっていたことを受け、既存の枠組みや産地の垣根を超えてヒトを呼び込む仕組みが必要と判断した。
 

 具体的な計画では、農繁期の中で最も人手を要する期間(JAこしみずの場合は作物の植え付け期の4〜5月ごろ、JAにしうわの場合はみかんの収穫期の1112月ごろ)に、それぞれの産地から人材を送り、受入れ先の生産者宅でホームステイしたり、シェアハウスに宿泊したりしながら農作業を手伝う。送り出される生産者などに対しては、産地までの移動に係る交通費や働いた日数分の賃金を支給し、経済的な支援を行う。初年度となる2018年は、JAこしみずからは、生産者のほか、JA職員や「農業担い手育成プロジェクト」で採用したスタッフなどの中から15人程度を送り出した。
 

 JAこしみずの担当者は、今回の協定ですぐに農繁期の人手不足が解消されるとは考えていない。それでも、「労働力を補うため互いの生産者を交流させるという画期的かつ挑戦的な内容であり、あらゆる可能性を探りたい」と期待を込める。JAこしみずに限らず北海道の農業は、これまで生産者の農作業を手伝ってきた親族や近所の人々が高齢を理由に現場から次々と引退する中、経営規模がさらに拡大すると見込まれる状況下にあり、外国人を含めた外部の労働者を積極的に受け入れていかなければ農業経営は立ち行かなくなると予想される。このため、生産者は今以上に雇用主(事業主)としての自覚を持ち、適切な労務管理や労働災害防止対策などを講じながら、労働環境をさらに向上させていくことが求められる。
 

 そういう意味で、JAこしみずの取り組みは、生産者自身が雇われる側の1人として農作業を行うという体験を通じて、労働者受入れの心構えや考え方を見つめ直す良い機会となっており、労働者の目線で働きやすい環境や風土を構築していくことにつながると考えられる。

 

2.JAにしうわにおける複数の産地が連携した援農者確保に向けた取り組み

 JAにしうわでは、前述したJAこしみずとの提携のほか、労働力確保の取り組みの一つとして、農繁期の異なる2つの産地(ふらの農業協同組合〈以下「JAふらの」という〉、沖縄県農業協同組合〈以下「JAおきなわ」という〉)と連携し、援農者(アルバイター・ヘルパー・作業工員)の相互紹介、情報共有などの取り組みを行っている。産地にとっては作業スキルや意識の高い人材の安定確保につながり、援農者にとっては次の仕事を探す労力や採用に係る負担の軽減になるなど双方にメリットのある取り組みとなっている。援農者の受入れにあたっては、宿舎の確保などハード面と、援農者とのコミュニケーションを基本とした受入れ体制の充実というソフト面による労働環境の整備がリピーターの確保につながっており、以下にその概要を紹介したい。

 

(1)他産地との連携による援農者の確保

〜多くの人手を要するみかんの収穫作業と生産者の高齢化〜
 
JAにしうわは愛媛県伊方町、八幡浜市、西予市の一部を管内とし、総面積26キロ平方メートルのうち、耕作率は約20.2%で、全耕作地の95.8%で温州みかん、中晩柑を中心とした果樹が栽培されている(図8、9)。
 

 

 

 

 管内は西宇和みかん、真穴みかんなど全国有数の温州みかんのブランドを擁し、愛媛県全体の温州みかんの約半数を生産するなど柑橘王国愛媛県を牽引(けんいん)する存在である。
 

 柑橘部門のウエイトが極めて高いことから、管内の農作業の繁忙期は温州みかんの収穫が始まる1112月にピークを迎え、中晩柑の収穫が終わる4月初めごろまで続く。同JAによると、これら柑橘類の栽培の中でも、管理作業についてはスプリンクラーなどによる省力化が進んでいるものの、収穫については収穫適期の見極めや果実の丁寧な取り扱いが必要なことから人力に頼らざるを得ず、規模拡大のボトルネックにもなる部分だという。
 

 管内農業者の年齢構成は2014年度時点で65歳以上が6割を超えており、農家戸数は2006年から2015年の間に579戸、年平均60戸超のペースで減少している(図1011)。

 

 

 さらに、収穫の手伝いに来てくれていた親戚や地域の知り合いも同じく高齢化し、収穫期における労働力の確保はさらに難しいものとなってきている。

 

〜アルバイターを求めて他産地へ〜

 同JAでは、このまま労働力の減少が続けば産地の維持が困難であるとの危機感から、早くから農繁期の労働力確保に向け動き出す。1994年からは全国からみかんアルバイターを募集し、農繁期の4050日程度の収穫作業に従事してもらう「みかんアルバイター募集事業」を行っている(図12)。さらに、2014年には県、市町村、農業委員会、同JAで構成される「西宇和みかん支援隊」を立ち上げ、希望者に対して情報提供や援農・就農までの総合的なサポートを行うなど、「農繁期の労働力確保」「担い手の確保・育成・定着」に向けて関係者が一体となって取り組みを進めている。また、2015年には、宿泊施設「マンダリン」を整備している。

 

 上記のみかんアルバイター事業による雇用人数は1994年の32人から年々増加し、2018年には287人と拡大しているが、まだ生産者の要望人数には達していない。より多くのアルバイターの確保のため、全国から集まるアルバイターから「以前はどこで働いていたか」「この後はどこに行くのか」などの聞き取りを行い、2012年ごろから、名前の挙がった北海道の富良野市などに直接出向いてチラシの配布・掲示や募集説明会を行うなど、他産地でも積極的に募集活動を行ってきた。
 

〜JAふらの、JAおきなわとの連携、協議会の設立〜

 このように他産地を回る中で、同じように農繁期の集中、人手不足という悩みを抱えるJAふらの(北海道)、JAおきなわ(沖縄県)との親交を深めていく。JAにしうわは1112月のみかん収穫期、JAおきなわは1〜3月のサトウキビの収穫や製糖工場の稼働時期、JAふらのは4〜10月のメロンやミニトマトの定植や収穫と、それぞれ繁忙期のピークが重ならないことから、任期が終わるアルバイターに、次の仕事先として相互に紹介し合うなど、募集活動を通して協力体制を築いていった。募集の段階では、互いの産地へ赴いての募集活動(チラシの配布や説明会の開催など)、アルバイターの相互紹介▽東京などで行う募集説明会の共同開催▽ホームページの相互リンク、人材募集サイトへの共同掲載−など、採用の段階では、面接などの負担軽減のためのアルバイター情報の共有▽連携先からのアルバイターへの優遇策(任期を満了した者への手当支給など)−などを行い、産地側にとっては、募集・採用に係る労力およびコストの軽減、アルバイターにとっては次の仕事先を探す労力や面接などの採用に係る負担の軽減、また手当の支給などのメリットがある取り組みとなっている。
 

 さらに、3JAでは2019年2月、この連携を一過性のものとすることなく、より強固な、継続的な取り組みとすることを目的に「農業労働力確保産地間連携協議会」を設立した。同協議会では、相互募集協力▽連携ボーナス(赴任手当)支給▽共同募集活動―などの活動を計画として定めており、設立式典では、同様の課題を抱える全国の産地の試金石となるよう、強い決意を持って3地域が連携した援農者募集活動を展開すると設立趣旨が述べられた(写真4)。

 

(2)援農者の受入れ体制づくり

〜宿舎の整備に伴い受入れ人数も拡大〜

 雇用環境の厳しい中、年々アルバイターの受入れ人数を拡大しているJAにしうわであるが、援農者の安定確保のためには何より宿泊場所の確保が課題となるという。
 

 受入れの基本はホームステイで、アルバイターを希望する農家はまずホームステイが可能かどうかを検討し、難しい場合は受入れを断念することもある。少しでも多くの人を受け入れるため、八幡浜市では廃校となった小学校を改修し、2015年に宿泊施設「マンダリン」を整備した(写真5)。

 

 収容人数は88人で、同施設の整備と同じ頃から空き家を利用したシェアハウスの活用も増え、2015年から現在に至るまで、アルバイターの受入れ人数は100人以上拡大した。シェアハウスは、生産者数人で空き家を改修し、複数のアルバイターでシェアしてもらうという仕組みで、生産者の発案で自然発生的に始まり、宿泊施設の拡大の一端を担っている。この他、ホームステイの負担軽減のため、JAによる各地域への夕食の配達(共同炊飯と言う。繁忙期の炊事負担の軽減につながる)も行っている。
 

〜賃金だけではない、リピーターが訪れる魅力〜

 前述のシェアハウスの例のみならず、アルバイター確保はあくまでも農家が主導となって実施しており、JAなど関係者は農家の取り組みを支える存在であるという。先に述べた通り、農繁期の人手不足は生産者にとって死活問題となることから、生産者一人一人が労働力確保に向けた意識が非常に高く、自ら前年のアルバイターに電話をかけるなど、援農者の確保に努めている。競合する他産地と比べて決して時給が高いわけではないというが、アルバイターのうち、半数以上がリピーターや、リピーターの紹介による人が占めるという。賃金など労働条件だけでは見えてこない仕事先としての産地の魅力について、今回生産者の山田氏ご夫妻とアルバイターのマモルさんとナナミさんにお話を聞く機会を得た。
 

 山田氏ご夫妻は温州みかんと中晩柑、一部柿など合わせて約3ヘクタールの園地で果樹生産を行っている。訪問した11月は収穫の最盛期であったことから、夫妻のほかに常時4人のアルバイターを雇用し、週末は松山市からの有償ボランティアの受入れも行っている(有償ボランティアの取り組みについては後述する)。以前は近くに住む親戚が手伝いに来てくれていたが、80代と高齢になったことから難しくなり、3年前からアルバイターを受け入れ始めた。マモルさんはリピーターとして今回2回目の援農で、それ以前は神奈川県でのみかんの収穫作業や、沖縄県でのサトウキビ収穫、製糖工場などでの勤務経験があるという。ナナミさんはマモルさんの紹介で今回が初めての援農だが、以前から果樹の収穫作業に興味があったという。それぞれ、収穫作業の他にマモルさんはコンテナの運搬、ナナミさんが選果や伝票作成などの事務補助などをしており、2人で入ってくれてとても助かっていると山田氏は語る(写真6)。

 

 マモルさん、ナナミさん共に夫妻からは自分の息子、娘のように良くしてもらっているという。宿泊は山田氏が所有する空き家を利用しているが、宿泊施設マンダリンでの他のアルバイターとの交流などもあり、現地での生活を楽しんでいるようだ。マモルさんは昨年に引き続き訪れた理由として「賃金は他の所の方が良いかもしれないが、人とのつながりや、宿泊や食事の面での体制も整っていることも大きかった。1年目より2年目の方が来やすいという面もある」とし、来年もし自分が来ることができなくても、知り合いを紹介したいと語る。宿泊費がかからず、食事代についても支給があるなど、生活面での負担が無いことに加え、日々のコミュニケーションの中で培われた山田氏夫妻との信頼関係が再び愛媛で援農を行う動機の一つとなったようだ。
 

 JAにしうわでは、アルバイターを単なる労働力として捉えるのではなく、生産者や地域との交流により地域の活性化につなげてもらうこと、愛媛の魅力を知ってもらい、西宇和みかんのファンになってもらうことが当初からの目的だったとしている。受入れ側の生産者一人一人にもこのような姿勢が浸透していることが、アルバイターにとっての現地での生活の充実につながり、賃金以外の魅力の一つとなっているのではないだろうか。

 

(3)労働力の安定確保に向けて

 JAにしうわでは、前述したJAこしみずとの提携、JAふらの、JAおきなわとのアルバイター募集の連携に加え、地元の潜在的な労働力の掘り起こしにも力を入れており、その一つが有償ボランティアである「八幡浜お手伝いプロジェクト」への協力である。これは、比較的人口の多い松山市から個人や企業などの「お手伝いワーカー」を募集し、有償ボランティアの受入れを希望する生産者とマッチングする仕組みである。生産者は労働対価を同プロジェクト実行委員会に支払い、お手伝いワーカーには管内でガソリン代や食事代などに利用できるクーポン券が支給される。こうした取り組みが援農者の安定的・継続的な参加につながっており、新しい形での地域貢献活動・都市農村交流のモデルケースとなることも期待されている。同プロジェクトでは、送迎など交通手段の確保において前述の「西宇和みかん支援隊」が支援を行っている。
 

 同JAではこの他にも外国人労働力の活用の検討や担い手の育成に向けたさまざまな取り組みを展開しており、労働人口の減少が続き援農者確保がますます難しくなる中で、可能性がある新たな取り組みを模索し続けたいとしている。

3.外国人材の活用に向けて

 JAこしみずでは、2017年から外国人技能実習生(以下「実習生」という)を受け入れている。当時の法制度の下では、生産者が個別に実習生を受け入れる仕組みとなっていたため、農作業が無くなる冬に生産者の責任で作業機会を創出することが難しい状況にあった。受け入れたとしても、ほとんどの実習生がその年の農作業が終わるとすぐに帰国してしまうため、翌春には新たな人材を確保する必要があることなども生産者にとって大きな負担となっていた。
 

 そこで、関係省庁などと協議し、実習生が生産者の圃場で作業を行う際はJAの職員が指揮・監督することを条件に、JAこしみずが実習実施者(実習生の受入れ先)となることが認められた。これにより、圃場での農作業ができない冬はJAの選果場などで作業をしてもらうことで年間を通じて実習を行う体制が整い、2017年3月にベトナムから4人の実習生を受け入れた。当時は、全国初の試みとして注目を集め、外国人技能実習制度の新たな可能性を示すものとなった。
 

 2019年4月からは、外国人材の活用をめぐる動きは大きな転換期を迎えた。出入国管理法の改正により、人手不足が深刻化する14の産業分野で外国人の新たな在留資格が創設され、労働者として外国人を受け入れることが可能となった。そのうち農業分野では、政府は5年間に最大3万6000人余りの受入れを見込んでいる。この制度の下では、1事業所当たりの受入れ人数に制限がなく、従事させることができる業務の幅が広がり、派遣形態での雇用も認められる。また、転職することも可能で、雇われる外国人にとっても技能実習制度と比べ働き方の自由度が高い。今回調査したJAの中には、前年から受入れを検討しているところもあり、早ければ年内に受入れを開始するとみられる。

おわりに

 統計データが存在しないため正確な数字は分からないが、各地の農村や観光地などを転々としながら働く者は、日本全国で数万人に上るともいわれている。男女問わず若者が多いが、定年退職後の第二の人生として働いている60代以上の者も一定数いるとみられる。今回の調査で出会ったアルバイターの2人も、季節ごとにさまざまな地域でアルバイトをしながら生計を立てている。彼らのような働き手は、総じてさまざまな現場でさまざまな経験を積んでいることから、コミュニケーション能力が高く、仕事を覚えるのも早い。即戦力としての働きが期待できる人材であることから、繁閑がはっきりしている産地が連携して人材を交流させようとする今回の事例は、優秀な人材を安定的に呼び込み、確保するために非常な有効な取り組みだと言える。また、働き手にとっても切れ目なく働き続けることができるため、収入の安定につながり、WIN-WINの関係が築けるだろう。
 

 外国人材の受入れに目を向けると、今回の法改正により、技能実習制度を利用すると最長で通算10年、日本に在留することができるようになる。このことから、日本に来ることが今以上に彼らの人生にとって大きな決断になることは間違いないだろう。今やインターネットの普及により、海外にいながら日本のさまざまな情報を収集できる時代である。それゆえ、就労が認められた農業を含む14の産業分野に関するさまざまな情報や話題について、事前に収集・分析することは彼らにとって容易なことである。各人が発した現場の評価や働いた感想は、一瞬にして多くの者が共有できる環境下にあり、ネガティブな評判が広がれば、日本で働きたいと思う者が減り、政府が見込んだ受入れ人数が下振れする可能性も十分ある。そのため、外国人材を受け入れる前から安心して働ける労働環境を整え、外国人観光客を誘致するときと同様、温かく迎えようという気持ちを示すことが肝要である。
 

 農林水産省の担当者は、「新制度により農業の現場に就労できる特定技能外国人は、日常生活や業務に支障がない程度の日本語能力を有し、農業技能に関して即戦力となるスキルと経験を持つ優れた人材である。さまざまな能力を持つ外国人を画一的に働く単純作業だけにとどめておくのは非常にもったいない」と語る。その言葉が示す通り、外国人ならではの発想を現場で生かしたり、適材適所に配置したりすることで労働時間の削減や生産性の向上につなげてほしい。
 

 最後に、今回の調査にご協力いただいた小清水町農業協同組合の皆さま、西宇和農業協同組合の皆さま、ふらの農業協同組合の皆さま、沖縄県農業協同組合の皆さまに、改めてお礼申し上げます。

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:企画情報グループ)
Tel:03-3583-9272